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新型コロナ終息前の決算発表 業績「悪化」よりも「未定」に厳しい評価

金融研究部 主席研究員 チーフ株式ストラテジスト 井出 真吾
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1――はじめに
タイミングが悪いことに4月~5月は多くの日本企業が本決算を発表する時期だ。決算発表を延期する企業も頻発しているが、より深刻なのは2020年度(2021年3月期)の業績見通しを公表できない企業が7割近くにのぼっていることだ。株価にはどう影響するのか、そして投資家は何を重視しているのだろうか。
2――4月~5月は決算発表のピーク
3――業績予想を「未定」とする企業が急増
企業業績は株価形成の根幹ともいえる。前期の実績値も大事だが、経済や企業の動向を先取りする株式市場にとって、今後の予想はより重要な意味を持つ。端的に言えば、業績拡大が見込める企業は株価が上昇、業績が悪化しそうな企業は株価が下がる。
ところが、純利益の予想を「未定」と発表した企業が126社で、全体の約7割にものぼっている。昨年までも鉄鋼業など一部の企業が予想純利益を開示しないケースはあったが、7割もの企業が公表できないという、異例の事態となっている。
原因はもちろんコロナウイルスの感染拡大で企業側の決算作業に例年よりも時間を要しているほか、そもそも経済の再開時期や回復ペースが読みきれず、今後の業績への影響が定まらないという根本的な理由がある。
致し方ない面もあるが、そんな中でも増益見通しを発表したのは情報通信、電気精密などの30社、一方、減益見通しを発表したのは景気敏感業種や輸出関連の27社となっている。
4――業績予想「未定」の企業は厳しく評価された
各社が本決算を発表した日の前営業日を基準として、3営業日後までの株価の推移を示したのが図表3だ。今期の純利益を「増益予想」と発表した企業は平均で11%以上値上がりした。「減益予想」とした企業であっても平均2%強値上がりしている。
一方、「未定」とした企業の株価はほぼ横ばいで、株式市場の評価は一番低い。コロナウイルスの終息時期、経済の回復見込みなど先行き不透明感が強い中、投資家としては何らかの手掛りが欲しい。それにもかかわらず企業自身が業績の見通しを開示しなかったため、「減益予想」よりも低く評価された格好だ。
5――「減益予想」でも株価が上昇するのはなぜか
株式市場の大きな特徴として、先行きが見えないことを最も嫌う。いわゆる不透明感だ。新型コロナにせよ米中貿易摩擦にせよ背景が何であれ、業績がどのくらい悪化しそうかを見通せない状況では株を買う投資家が極めて限られる。
しかし、現在のように世界的な景気悪化で企業業績も打撃を受けることが確実視される状況で、たとえ減益予想であっても見通しを示してくれると、投資家は「最悪そのくらいの悪化を覚悟しておけば良さそうだ」と解釈することもできる。
たとえるなら、バンジージャンプの高さを全く知らされないまま飛ぶことができるのは命知らずのスタントマンくらいだろう。しかし、どのくらいの高さか分かれば、あとは本人の意思次第だ。
いくつか事例を紹介しよう。業務用ソフトウエアのオービックビジネスコンサルタントは、21年3月期の純利益が8%ほどの減益になりそうだと発表した。それにもかかわらず株価は翌日に急上昇し、その後も堅調さを保っている。直近の高値となった5月12日の終値は5,080円で、決算発表前日の終値(4,480円)から13.4%も値上がりした。
そもそも人手不足なうえ、コロナウイルスの終息後もリモートワークの普及が続き同社製ソフトウエアの需要が拡大するといった期待もあるが、市場では減益率が1桁%で済みそうなことが評価されたようだ。まさに業績の“谷の深さ”が見えたことで安心感に繋がった事例といえるだろう。
従来予想を公表したのは2月6日であり、中国・武漢での感染拡大や日本ではクルーズ船が話題の中心だった頃だ。つまり新型コロナの世界的な感染拡大が本格化する前に策定した計画であり、業績に与える影響を見直すこと自体は適切といえる。
しかし、それでも株式市場は“売り”で応じるしかなかった。翌朝、同社株には機関投資家などから売り注文が殺到し、一時7%を超える急落となった。先が見通せなくなったことへの失望売りだ。
45日ルールの期限である5月15日までに大方の企業が決算を発表したが、ミネベアミツミのように幅を持たせたり、「夏までにコロナウイルスが終息する場合」などの一定の条件付きであっても、何らかの形で業績予想を公表した企業に投資資金が向かいそうだ。新型コロナは上場企業と市場の対話の重要性にも影響を及ぼしている。
(2020年05月18日「基礎研レポート」)

03-3512-1852
- 【職歴】
1993年 日本生命保険相互会社入社
1999年 (株)ニッセイ基礎研究所へ
2023年より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会認定アナリスト
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