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企業価値評価を高める「株主との対話」
金融研究部 上席研究員 チーフ株式ストラテジスト 井出 真吾
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日本の上場企業の多くは投資家向け説明会を実施しているが、そこで経営者が語るのは「明るい将来ビジョン」、「積極的な投資計画」、「増収増益見通し」、「健全な財務」など耳障りの良い内容がほとんどで、リスクに関する情報は少ない。これでは「IR(投資家との対話)」ではなく「PR(会社の宣伝)」だ。
投資家(特に、年金など中長期スタンスの投資家)は、企業の収益性や成長性だけでなく、リスク要因を精査したうえで投資可否を決める。この意味において企業のディスクロージャーやIRは極めて重要だ。
企業が公表しなければ、どのような潜在リスクがあり、そのリスクをどう管理しているのかを投資家が判断するのは難しい。「きちんとリスクを管理しているのだから公表する必要はない」では通らない。そのような企業に対して投資家はむしろ「公表できないようなリスクが隠れているのではないか」と懐疑的に考え、株式購入に慎重になる(安心して株を買えない)。
これは当該企業の資本コスト(割引率)が高いことと同義だ。たとえ収益力や成長期待が高くても、資本コストが高いほど企業価値評価(時価総額)を引き下げてしまう。逆にIRが優れた企業は投資家が安心して株式を買いやすい。つまりIRを重視した経営は資本コストの低減を通じて、高い時価総額をもたらすと考えられる。
注目すべきは、図表2の横軸が業種相対ROE(業種内の中央値との差)ということだ。業種によってもROEの絶対水準は異なるが、ROEが同業他社と同程度でもIR優良企業の方がPBRが高い傾向があることを示唆している。
もちろんROEやIRだけでPBRが決まるわけではない。たとえば過剰な現金の保有など企業の財務構造もPBRに影響するが、「IR優良企業」はおしなべて自己資本簿価に対して時価総額が大きい。すなわち、IRが優れた企業を株式市場がポジティブに評価している(資本コストが相対的に低い)わけだ。
ESGについても同様のことが言える。たとえば環境対策が不十分であったり社会通念に反する可能性がある企業ほど、投資家は株式購入に慎重になる。ガバナンスが脆弱で、いつ不祥事が発覚するかわからない企業も同様だ。
グローバルな経済情勢の不透明感が強く、有望な(リスクに見合う採算が望める)投資案件が限られる中、収益性改善だけで企業価値を高めることは容易ではない。上場企業には非財務面への積極的な取り組みと情報開示が求められ、投資家はそれらを見極める眼力が一層重要となるだろう。
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(2019年12月04日「ニッセイ年金ストラテジー」)
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