2020年05月14日

「新型コロナ」「在宅勤務」に関するSNS投稿データの分析-新型コロナによる自粛生活で人々が最近感じていること

金融研究部 准主任研究員・ESG推進室兼任 原田 哲志

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1――はじめに

現在、日本では新型コロナウイルス感染拡大防止のため、店舗営業や外出の自粛、PCR検査、入国規制といった様々な取り組みが行われている。こうした感染拡大防止策は人々の生活や経済に大きな影響を与えている。このような中で、感染への不安、あるいは自粛解除への期待など、人々の感じ方は様々だろう。

また、政府の緊急事態宣言により、多くの企業で時差通勤や在宅勤務といった取り組みが開始された。在宅勤務によって、通勤などのストレスから解放されたと感じる人がいる一方で、不慣れな環境で不便を感じる人も多いだろう。在宅勤務で、人々がどのようなことを感じているかは、今後のITCを活用したテレワークの普及や課題点を考える上でも、参考となるだろう。

このような中で、本稿では「新型コロナウイルス」や「在宅勤務」について人々がどのように感じているかを、短期間のデータでの簡単な分析ではあるが、SNS投稿データから調べてみた。
 

2――SNSデータの分析

2――SNSデータの分析

従来、こうした人々の考えを調べるには、個々人へのアンケートなどによる調査が用いられてきた。しかしながら、近年では、SNS上の投稿情報を収集・分析することで、人々の考えを調べることが一般的に行われている。

SNSとはSocial Networking Service(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の略称であり、社会的な(ソーシャル)繋がり(ネットワーキング)を提供するサービスという意味になる。利用者は、電子掲示板などのプラットフォームに文章を投稿することで、「情報の発信・共有・拡散」を行う。日本で利用されている主なSNSとしては、Facebook, Twitterなどが挙げられる。

従来のアンケート調査では、企業などが質問を用意する場合、回答の内容が制限もしくは誘導されてしまうという欠点がある。また、企業アンケートに回答者が回答しない、マイナスな意見を書くのは気が引け本音を書かないという難しさもあるだろう。
 
一方で、SNSへの投稿は自由に行われており、率直な意見や本音を収集しやすいという利点がある。しかし、SNSへの投稿は必ずしも正確でないものも含まれている、SNSを利用しているのは比較的若い世代が多いなど利用者の属性に偏りがあるといった点にも注意が必要である。

SNSの情報は人々の自由な投稿の集合であるので、その活用には必要な情報の抽出、情報の集約、分析といった処理が不可欠である。
SNSデータの活用例

・マーケティング: SNSに投稿されている消費者の声を収集し、商品、購買行動を分析
・世論調査   : 社会問題・政治などに対する率直な意見をリアルタイムで把握
・リスク検知  : SNS上の投稿から風評被害のリスクを検知、予防に活用

 

3――新型コロナウイルスに関する投稿の分析

3――新型コロナウイルスに関する投稿の分析

(1) 分析方法
本稿では、前述のTwitterでの「新型コロナウイルス」や「在宅勤務」といったトピックに関する投稿を収集・分析し、人々の考えを調べてみた。分析の概略を説明する。
 
・対象データ
Twitterの投稿のうち、2020年5月8日10時時点において、「新型コロナウイルス」に関連する新着1万件の投稿、「在宅勤務」に関連する新着1万件の投稿を抽出し、それぞれ下記の方法で分析した。

・分析方法
抽出した投稿文を単語に分解し、投稿に含まれる単語と出現回数を調べた。また、一つの投稿文中でどの単語が同時に出現(共起)していたかを調べた。これにより、単語間の結びつきの関係(共起ネットワーク)を調べた(図表1)。これにより、「新型コロナウイルス」、「在宅勤務」に関してどのようなことが話題になっているのか、どのように関連しているかを調べた。
図表1 単語の共起関係の分析のイメージ
(2) 「新型コロナウイルス」に関する投稿の傾向
実際に、新型コロナウイルスに関連して、どのようなことが投稿されているのか見ていきたい。図表2は、「新型コロナウイルス」に関連する投稿に含まれる主要な単語とその関係を示している。単語を囲む円の大きさは出現回数の多さを示し、単語と単語を結ぶ線は、太いほど結びつきが強いことを示す。単語を囲む円の色は、結びつきの強い単語のグループを示すようにした。

これを見ると、投稿はいくつかのトピックに大きく分かれている様子が見られる。人々の生活に関する投稿が多く(黄色の単語群)、政府のコロナウイルス対応といった「政治・経済」(緑色の単語群)、治療薬やマスクといった「医療」に関すること(薄紫色の単語群)が話題となっている状況が分かる。これらの投稿を図表を元に詳細に見てみると、下記の特徴が見られるように思われる。
 
  • 外出などの自粛が続く中、「頑張る」、「コロナに負けるな」といった励ましや、早期の流行収束に期待する声があった。
     
  • コロナウイルスの流行が収束したら、知人に早く会いに行きたいという投稿も多かった。流行終息後は、帰省などの長距離の移動の増加、航空、鉄道の旅客増加につながるかもしれない。
     
  • 投稿データを抽出した前日の5月7日 厚生労働省が 抗ウイルス薬「レムデシビル」を新型コロナウイルス感染症の治療薬として承認したことが報道された。こうした「治療薬」や、「抗体」、「マスク」といった医療関係のトピックが話題となっていた。ただし、「PCR」、「検査」については、緑色の単語群に含まれており、政治・政府対応に関連する話題として語られているようだ。

SNSの投稿からは、概ね、自粛解除に向けた期待や政府対応、医療について関心が強い様子がみられたと言えよう。
図表2 「新型コロナウイルス」に関連する単語の関係(共起ネットワーク)
(3) 「在宅勤務」に関する投稿の傾向
次に、「在宅勤務」に関連する投稿について見てみたい。図表2と同様な手法を使用した図表3は、「在宅勤務」に関連する投稿に含まれる主要な単語とその関係を示している。

これを見ると、「通勤」や「時間」など在宅勤務が生活に与える影響(青色の単語群) 、「出勤」、「久しぶり」など在宅勤務が終わり出勤する様子(緑色の単語群)などがトピックとなっていた。これらの投稿の詳細を図表を元に見てみると、下記の特徴が見られると考えられる。
 
  • 「通勤」にかかる時間がなくなったことで、時間に余裕ができた。これにより、自己研鑽の勉強やトレーニングを始めた。また、時間に余裕ができたことで、朝食を作る、食べることができるようになったといった投稿が見られた。
     
  • 家族と一緒に過ごす時間が増えた。一方で、子供など家族の世話が大変という意見もあった。
     
  • 就寝・起床といった生活のリズムが乱れた。こうしたことから、朝、散歩をする人も多いようだ。
     
  • 在宅勤務が行われ始めてから1、2か月が経過し、在宅勤務に慣れてきた。
     
  • 在宅勤務は、人と会わないことで気持ちが楽に過ごせるといった意見もあった。
     
  • 自粛要請の緩和により久しぶりに出勤した人もいた。

SNSの投稿からは、家族と過ごす時間的余裕ができた、1、2か月が経過して在宅勤務にも慣れたといった意見も多かった。一方で、家族の世話が大変という投稿も見られた。
図表3 「在宅勤務」に関連する単語の関係(共起ネットワーク)

4――まとめ

4――まとめ

SNS上の投稿データを分析することで、「新型コロナウイルス」や「在宅勤務」について人々がどのように感じているかを調べてみた。

新型コロナウイルスについて人々は早期の収束を期待し、一部では終息後の帰省・旅行への関心がある様子が見られた。在宅勤務については、家族と過ごす時間的余裕ができた、1、2か月が経過して在宅勤務に慣れたといった意見も多かった。一方で、家族の世話が大変という投稿も見られた。こうしたSNS上の投稿から、人々が実際に感じていることやリアルな行動を単純な方法ではあるが、比較的リアルタイムに近い時点で探ることができた。

人々が感じたことは、今後、消費動向の変化やテレワークの普及といった働き方の変化として現れてくるかもしれない。

経済指標や株価指標など、数値で示されている情報は、発表までの時間的な遅れや関係する要素が多く複雑なこともあり、背景の解釈が難しい場合もある。SNSの投稿から人々の意見や感情を調べることはリアルタイムに近い情報を得ることができるため、経済・社会動向の背景を考える上での一つの重要な参考情報となるかもしれない。

今後は、従来の金融市場や経済指標等のデータに、SNSでの投稿のリアルタイムのデータや中長期の傾向分析を加えることにより、現状の背景や今後の動向等について何等かの有益な情報を生み出すことができるのかどうかについて、引き続き調査・研究を重ねていきたい。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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金融研究部   准主任研究員・ESG推進室兼任

原田 哲志 (はらだ さとし)

研究・専門分野
資産運用、オルタナティブ投資

経歴
  • 【職歴】
    2008年 大和証券SMBC(現大和証券)入社
         大和証券投資信託委託株式会社、株式会社大和ファンド・コンサルティングを経て
    2019年 ニッセイ基礎研究所(現職)

    【加入団体等】
     ・公益社団法人 日本証券アナリスト協会 検定会員
     ・修士(工学)

(2020年05月14日「基礎研レター」)

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