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- 英国金融政策(5月MPC)-情報収集のため様子見姿勢
2020年05月08日
1.結果の概要:追加策はなし
5月7日、英中央銀行のイングランド銀行(BOE:Bank of England)は金融政策委員会(MPC:Monetary Policy Committee)を開催し、金融政策について決定した。概要は以下の通り。
【金融政策決定内容】
・政策金利を0.1%で維持
・国債および投資適格級社債の購入を総額6450億ポンドまで実施する
【記者会見での発言(趣旨)】
・枠を増額しなかったのは、今後の情報収集のためであり、必要になれば実施する
・2020年の成長率は▲14%、失業率は8%となる(見通しではなく、シナリオ)
・中核銀行の資本力は強く、シナリオに沿った推計では、今回のショックへの耐性がある
2.金融政策の評価:情報取集の姿勢
金融政策の決定では、追加策は打ち出さなかったが、会見では7月初めに購入枠の上限に達する点に触れ、現時点で追加策を実施しないのは、より一層の情報収集をすべきと判断したから、との考えを示した。実際、このままのペースでの購入が続き、上限に到達する前には6月のMPCが開催されることにも言及しており、状況に大きな変化がなければ、次回に追加策を講じると見られる。
また、BOEは金融政策報告書(MPR)を公表し、今後の経済シナリオを提示した。シナリオでは成長率は2020年に▲14%(4-6月期は▲25%)、失業率は2020年に8%(4-6月期は9%)まで悪化するとしている。他主要機関の予測よりも谷が深いシナリオと言えるが、回復スピードも速く、2021年で成長率は+15%、失業率は7%となるとしている。記者会見では、第二波や恒久的な影響(BOEは「後遺症効果(scarring effects)」として言及)に触れられたが、このメインシナリオも2021年後半まではGDPの水準が以前の状態に戻らず、決して楽観的ではないとの見解を示すとともに、今後の状況によって、シナリオを見直していく用意があることにも触れた。
合わせて、金融安定報告書(FSR)を公表し、銀行の安定性について触れている。今回のショックによる損失推計は2019年のストレステストよりも小さく、中核銀行は資本力を有しているとの推計結果を示した。これに関連し、MPCは銀行を通じた非金融機関への信用供与ルートを通じた民間支援への期待を見せている。
今回のMPCでは金融政策の追加はなかったが、次回の追加策を暗示するとともに、メインシナリオが例示されたことで、追加策の規模等を判断するためのメルクマールが与えられたと言える。
また、BOEは金融政策報告書(MPR)を公表し、今後の経済シナリオを提示した。シナリオでは成長率は2020年に▲14%(4-6月期は▲25%)、失業率は2020年に8%(4-6月期は9%)まで悪化するとしている。他主要機関の予測よりも谷が深いシナリオと言えるが、回復スピードも速く、2021年で成長率は+15%、失業率は7%となるとしている。記者会見では、第二波や恒久的な影響(BOEは「後遺症効果(scarring effects)」として言及)に触れられたが、このメインシナリオも2021年後半まではGDPの水準が以前の状態に戻らず、決して楽観的ではないとの見解を示すとともに、今後の状況によって、シナリオを見直していく用意があることにも触れた。
合わせて、金融安定報告書(FSR)を公表し、銀行の安定性について触れている。今回のショックによる損失推計は2019年のストレステストよりも小さく、中核銀行は資本力を有しているとの推計結果を示した。これに関連し、MPCは銀行を通じた非金融機関への信用供与ルートを通じた民間支援への期待を見せている。
今回のMPCでは金融政策の追加はなかったが、次回の追加策を暗示するとともに、メインシナリオが例示されたことで、追加策の規模等を判断するためのメルクマールが与えられたと言える。
3.声明および報告書の概要(金融政策の方針)
今回は、MPCに先んじて金融安定委員会(FPC:Financial Policy Committee)も開催さ、また5月の金融政策報告書(MPR)および、中間の金融安定報告書(FSR)が公表されている。5月7日のMPCで発表された声明および、両報告書の内容についての概要は以下の通り1。
1 報告書内容は会見の冒頭陳述で述べられた点を中心に太字にて記載
1 報告書内容は会見の冒頭陳述で述べられた点を中心に太字にて記載
- 各国当局はコロナウィルス(Covid-19)の拡大防止と経済支援策を打ち出している
- MPCは、金融政策を2%のインフレ目標として設定し、経済成長と雇用を支援する
- Covid-19の拡大による経済・金融の混乱にどのように反応するかが課題
- 政策金利(バンクレート)を0.1%で維持する(全会一致で決定)
- 2000億ポンドの国債および投資適格級の非金融機関社債の購入を続け、総額で6450億ポンドとする(7対2で決定2)
- 2名は購入総額を1000億ポンドの追加した方が良いとして反対した
2 反対票はハスケル委員およびソーンダース委員
- Covid-19の拡大と封じ込め政策は英国を含む各国に大きな影響を与えた
- 経済活動は年初から急激に鈍化、失業率は著しく上昇した
- 経済活動は年初から急激に鈍化、失業率は著しく上昇した
- 経済統計は、世界各国での急激な経済活動低迷を示している
- 原油価格は不安定
- 中国は内需に回復の兆し、他国でも経済活動への制限緩和が見られる
- 金融市場はここ数週間で回復、リスク性資産価格は3月中旬の安値から上昇
- これは部分的には英国や各国当局の各種政策を反映している
- しかしながら、Covid-19の流行によって金融情勢は緊迫した状態にある
- 最新の英国の指標は、3月下旬から4月上旬に前例のない落ち込みを示し、低迷している
- 支出データは個人消費の約30%の落ち込みを示している
- 消費者信頼感は著しき低下、住宅市場の活動は実質的に停止している
- 2020年4-6月期対比で、企業の売上高は45%減少、投資は50%減少と予測されている
- 従業員雇用維持制度は広く利用されている
- しかしながら、失業保険申請件数は失業率の顕著な上昇を示している
- CPIインフレ率は3月に1.5%まで低下した
- 今後数か月はエネルギー価格の低迷を反映して、1%を下回る可能性が高い
- 今後数か月はエネルギー価格の低迷を反映して、1%を下回る可能性が高い
- 前例のない状況は英国および世界経済の動向が非常に不確実であることを意味する
- 見通しは、パンデミックの状況と政府・家計・企業の反応に大きく依存する
- 不確実性を認識したうえで、MPCは5月のMPRでシナリオを描いた
- シナリオは条件付きだが、Covid-19の影響と経路を把握する役に立つだろう
- 報告書はまた、主要変数に対する感応度も推計している
- シナリオでは、2020年上半期のGDPの急激な落ち込みおよび一時休業者を含む失業率の上昇に言及されている
- 社会的距離(ソーシャルディスタンス)政策は6月初めまで、7-9月には段階的に緩和
- この仮定によれば、GDPの低下は一時的で、経済活動は比較的早く回復する
- ただし、家計や企業の予防的な行動が持続すると仮定した場合、これまでの成長軌道に戻るまでには時間を要する
- CPIインフレ率は、需要低迷を反映して、今年は2%目標を下回る推移となる見通し
- GDP成長率見通しは、2020年▲14%(4-6月期は▲25%)、2021年+15%、2022年+3%
- 失業率見通しは、2020年8%(4-6月期は9%)、2021年:7%、2022年4%
- CPIインフレ率見通しは、2020年0.6%、2021年0.5%、2022年2.0%
- 感応度は社会的距離政策の2週間の延長でGDPに▲1.25%、失業率に0.75%の影響
- 家計貯蓄率の2%ポイントの上昇でGDPに▲1%(3年後でも▲0.25%の影響)、失業率に1.75%の影響、インフレ率に▲1%の影響
- 長期均衡失業率の2%ポイントの上昇でGDPに▲0.25%(3年後では▲1.75%の影響)、インフレ率に+0.25%の影響
- FSRでは、FPCが英国における金融安定性と金融システムの対応力を評価した
- 金融危機以前と比較してTire1比率は3倍以上高い
- MPCのシナリオに基づいた今回の想定損失は800億ポンドであり、2019年のストレステストの1200億ポンドの損失よりも小さい
- ストレステストより損失が低いのは景気回復ペースの速さ、雇用維持制度等の政策効果、低金利による住宅ローン貸出の減損抑制等による
- FPCは中核銀行が損失を吸収し、また、政府保証やBOEの貸出支援を受けつつ信用供給するだけの資本力があると評価した
- MPCは物価の安定を維持し、その範囲で、成長や雇用の目標を含む、政府の経済政策を支援することを目的とする。
- 現在の状況において、MPCの使命に沿って、危機の間、企業と家計を支援し、経済に恒久的な被害が及ばないよう行動する
- 現在の状況において、MPCの使命に沿って、危機の間、企業と家計を支援し、経済に恒久的な被害が及ばないよう行動する
- Covid-19によるショック以降、MPCは、他のBOEの政策や政府の政策を補完し、使命を達成するために、様々な行動をとってきた
- 政策金利の0.1%への引き下げ
- 中小企業向け追加インセンティブ付ターム調達スキーム(TFSME)の導入
- 英国債および投資適格級の非金融社債購入の2000億ポンドの増額
- 現在のペースでは、資産購入規模は7月初めまでに6450億ポンドとなる
- 委員会は幅広い市場機能について注視する
- 金融政策は家計が被る収入減を防ぐことはできないが、景気回復促進、支援の役割を担い、いわゆる供給サイドの「後遺症効果(scarring effects)」を含む長期にわたるダメージを和らげる
- 非金融機関への銀行貸し出しは335億ポンドとなり8倍に増えた
- 180億ポンドはCovid企業調達ファシリティ(CCFF)により大企業に流れた
- 政府のコロナ事業中断貸出スキーム(CBILS)は40億ポンド以上の承認がされた
- 政府のバウンスバック貸出(BBLS)は初日に11.5万人の応募を集めた
- シナリオによれば、経済活動の回復は比較的早くインフレ率は2%近くまで上昇する
- これは、金融・財政政策の支援および、社会的距離政策の段階的な緩和を仮定している
- GDPは2021年後半には以前の水準まで回復する
- 見通しに関連して、委員会はリスクバランスが下方にあると評価している
- 委員会は今回の会合で金融政策が適切であると判断した
- MPCは引き続き状況を注視し、権限に従い、経済を支援し、インフレ率が2%の目標に持続的に回帰するために必要ならば、さらなる行動を実施する準備がある
- MPCは引き続き状況を注視し、権限に従い、経済を支援し、インフレ率が2%の目標に持続的に回帰するために必要ならば、さらなる行動を実施する準備がある
- BOEは、長期繁栄と国民の要望に応えるために必要な金融政策、安定化政策を実施していく
4.記者会見(質疑応答)の概要
記者会見(質疑応答)において注目した内容(趣旨)は以下の通り。
- FRBやECBがイールドカーブコントロールをしているのに、BOEがしない理由は
- 他の中央銀行もイールドカーブコントールをしているとは思っていない
- 他の中央銀行も本質的には使命を追求するという点でBOEと同じことをしている
- イールドカーブに影響を及ぼす政策ではあるものの、それが目標ではない
- 提示されたシナリオには「後遺症」が少ないように思われる
- 社会的距離政策が終わっても自発的に同等の行動をとると考えている
- 18か月は経済がもとの状態に戻らないという点で「後遺症」と言える
- 下方リスクはあるが、シナリオが楽観的だとは考えていない
- 6月後半か7月初めに購入枠を超えてしまうと考えられるが、6月には追加行動を起こすのか
将来、QEを無期限(open-end)とする計画はあるか- さらなる行動を起こす必要があれば、そうする。明確にコミットする
- QEに関する議論は様々している。今後の計画の前に情報収集と確認作業をしたい
- 増額なしの判断は、情報をより集めるべきという意味で、今後もしないということではい
- 我々のしていることと、「無期限」とすることの違いにこだわりすぎてはいけない
- ベースラインシナリオは恒久的な損害や第二波がない点でかなり楽観的といえる
- 予測ではなくシナリオであるという点をはっきりさせておきたい。不確実性は多分にある
- 政府・科学界と協力して、必要があれば仮定を変更しシナリオを修正する準備もある
- 政府が債務調達で問題を抱えた場合、どうするのか。発行市場での債券購入を考えているか
- W&Mファシリティは実際には政府のBOEへの当座貸越枠だが、使われていない
- 首相と書簡を交わしたことで、存在が思い出されたのだと思う
- ただし、これは債務管理ではなく資金管理のための手段である
- 債務調達は速やかに市場から調達されており、これが短期であっても利用されていないのは良いことである。我々のスタンスもかわらない
- 第二波と二度目のロックダウンがあった場合、どのような金融政策を実施するか
- MPCは政策策定に多くの時間を費やしている。金融政策が足りないとは思わない
- MPCは政策策定に多くの時間を費やしている。金融政策が足りないとは思わない
- 失業率に、一時休業者も加えた場合の見通しはどうなるか
- 2020年4-6月期で600万人程度の一時休業者を予測している
- 休業者であり、失業者でない。失業していないという点が重要だと考えている
- ブレグジットの移行期間の延長期限が6月30日だが、どう織り込まれているか。
- 政府の延長しない、という方針に従い、再延長はないと仮定している
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2020年05月08日「経済・金融フラッシュ」)
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経歴
- 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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