2020年05月07日

新型コロナウイルスの感染拡大を受けての監督報告と公衆開示の締切りに関するEIOPAの対応-四半期報告やSFCR等-

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1―はじめに

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、欧州のEIOPA(欧州保険年金監督局)が各種の対応を行ってきたことは、保険年金フォーカス「新型コロナウイルスの感染拡大を受けての保険監督当局等の対応 -欧州の EIOPA 等のケース-」(2020.5.1)で報告した。

EIOPAは3月17日に「コロナウイルス/COVID-19 のEU 保険部門への影響を緩和するための行動に関するEIOPA声明」を公表1したが、その中で「2019年末に関する監督報告と公衆開示のタイミングについて柔軟である必要がある。EIOPA はアプローチの詳細を調整する。」と述べていた。  

これを受けて、EIOPAは3月20日に「監督報告と公衆開示の締切りに関する監督の柔軟性に関する勧告-コロナウイルス/COVID-19」(以下、「今回の勧告」という)を公表2した。

例年であれば、5月に入って、2020年の第1四半期の報告が行われ、さらにはSFCR(ソルベンシー及び財務状況報告書)が公表されていくスケジュールになっているが、今回の勧告により、その報告期限の延期が認められる形になっている。
ここでは、この勧告の内容を報告する。  

2―EIOPAによる勧告の内容

2―EIOPAによる勧告の内容

1|今回の勧告の位置付け等
今回の勧告は、規制(EU)No 1094/20101(EIOPA規制)第16条に従って、EIOPAがコロナウイルス/COVID-19の状況に関して保険セクターに勧告事項を発行したものである。

これらの勧告事項は、指令2009/138 / EC2(ソルベンシーII指令)、EIOPAのガイドライン及びその他の関連するEIOPA手段に基づいており、監督当局に向けられている。

EIOPAは、保険及び再保険会社が、チャレンジングな市場状況を乗り切ることに関して、近い将来にますます困難な状況に直面する可能性を考慮して、コロナウイルス/COVID-19の状況の影響の監視と評価や事業継続性を確保することに集中する必要があると考えている。この文脈で、2020年第1四半期に監督当局に情報を提出することは、保険及び再保険会社と監督当局の両方にとって非常に重要だとしている。

一部の監督当局は既にコロナウイルス/COVID19の影響に対処するための措置を講じているため、一貫した監督アプローチのフレームワークを早急に提供することが最も重要となっている。このため、これらの勧告の一般的な目的は、保険及び再保険会社の監督報告と公衆開示に柔軟性を提供する場合、加盟国全体でのコンバージェンスと一貫した監督アプローチを促進することにあると述べている。

今回の勧告事項は、運用上の救済を提供し、保険及び再保険会社の事業継続性をサポートすることを目的としている。

なお、保険及び再保険会社は、以下に示す最短の延期が発生する前であればいつでも、完全な報告パッケージを提出することを選択できる。このオプションは、特定の状況(例えば、報告パッケージを2つのセットに分割する場合)で提案された救済策によって意図しない負担が発生する場合にも選択できる。

具体的には、以下に掲げる内容を各国の保険監督当局に勧告している。
2|20191231日から2020年4月1日より前までに事業年度末を有する会社の年次報告
(1) 次のグループ及び単体の報告の提出に対する締切りの8週間の延期
a)RSR(定期監督報告)
b)次を除く、年次QRT(定量的報告テンプレート)
提出内容(S.01.01)、基本情報(S.01.02)、貸借対照表(S.02.01)
生命保険事業のキャッシュフロー予測(S.13.01)(単体のみ)、LTG(長期保証)(S.22.01)
自己資本(S. 23.01)、SCR計算(S.25.01からS.25.03)

(2) (1)b)で除外されたQRTの提出は2週間の延期

(3) 四半期報告の免除があり、2019年第4四半期を報告していない会社については、2週間の延期で年次提出における以下の追加のテンプレート(単体)の提出の要求
資産リスト(S.06.02)、ルックスルー情報(S.06.03)、生命保険技術的準備金(S.12.01)
損害保険技術的準備金(S.17.01)

(4) 国別の特定の報告(ORSA、監査等)に対しても同様に柔軟なアプローチを採用

(5) 受領した情報は、受領後4週間以内にEIOPAに提出
3|2020331日から2020630日より前までの四半期末の四半期報告
(1) 単体及びグループの四半期QRT(QRTのデリバティブ取引(S.08.02)を除く)及び四半期金融安定性報告の提出の1週間の延期

(2) 四半期の提出については、早期の提出が推奨され、提出物の全体的な正確性に努力を集中することの重要性を認識しつつ、必要に応じて、会社は計算の重要性の低い側面への比例アプローチを検討できる。

(3) QRTのデリバティブ取引(S.08.02)については、4週間の延期

(4) 自己資本テンプレート(S.23.01)で、指示に示されている最後に計算されたものではなく、四半期参照日末のSCRの推定値を報告することが期待される。

(5) 受領した情報は、受領後4週間以内にEIOPAに提出
4|20191231日から202041日より前までの年末を含むSFCR
(1) 単体及びグループの次を除くSFCRの提出の8週間の延期
 貸借対照表(S.02.01)、LTG(S.22.01)、自己資本(S.23.01)、SCR計算(S.25.01)

(2) (1)で除かれたテンプレートについては、2週間の延期

(3) 現在のCOVID-19の状況はソルベンシーIIの下での「主要な進展」であるとして、会社はCOVID-19の影響を説明するために規制報告とともに適切な情報を公開する必要がある。
 

3―まとめ

3―まとめ

以上、今回のレポートでは、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、EIOPAが3月20日に発出した「監督報告と公衆開示の締切りに関する監督の柔軟性に関する勧告-コロナウイルス/COVID-19」について報告した。

欧州の保険会社の場合、多くが12月末決算ということもあり、2019年の決算報告については、2月から3月にかけて行われており、Annual Report等の作成や報告期限への影響は限定的であったものと思われる。

ただし、第1四半期の報告は、その作成スケジュールがまさに新型コロナウイルスの影響を直接的に受けるスケジュールの中で行われることになっている。EUは加盟国によっては、必ずしも四半期報告が求められているわけではないが、多くの大手保険グループは、四半期毎の開示を行ってきている。監督当局の立場からは、できる限り早期に保険会社の実態等を把握する必要性があることもあり、四半期報告の延期は、この緊急事態下でも1週間に留められている。ただし、比例アプローチの使用が推奨された形になっている。

一方で、2019年のSFCRについては、ただでさえその作成負担の軽減が保険会社サイドから求められている中にあって、その内容の充実や見直し等が叫ばれてきている。こうした中での今回の新型コロナウイルスの感染拡大は、その作成等のスケジュールにかなりの影響があることが想定されることになる。さらには、今回はSFCRの中では、新型コロナウイルスの影響に関する記述や報告も求められてくることになっている。こうした点を勘案して、SFCRの提出については、今回8週間の締切りの延期が認められた形になっている。

いずれにしても、今後、大手の保険グループを中心に、どのようなスケジュールでSFCRの公表が行われ、SFCRや第四半期報告において、新型コロナウイルスの感染拡大による影響等に関してどのような記述や報告が行われていくのかが注目されていくことになる。

今回のEIOPAによる対応及びそれに対する欧州保険会社の対応は、日本の保険業界関係者にとっても関心が高い事項であると思われることから、これらの動きについて引き続き注視していくことと したい。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2020年05月07日「保険・年金フォーカス」)

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