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IFRSはのれんの償却を求めるのか?‐コロナ禍の中で出てきたディスカッションペーパー
経済研究部 専務取締役 部長 兼 ジェロントロジー推進室長 宮垣 淳一
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のれんの会計上の取扱い
一方で、日本でも、国際的な会計基準と同様に非償却とすべきかどうかについて議論が行われてきたが、現在も日本の会計基準では、20 年以内のその効果の及ぶ期間にわたって償却することとされている。
ディスカッションペーパー発表にいたった経緯
「投資家は買収とその後のパフォーマンスについて十分な情報を得ていない」
「減損テストは企業にとって複雑でコストがかかる」
「のれんの減損損失の認識は遅すぎる」
「のれんは定期償却されるべきだ。支払ったものはいずれ損益に影響が出るのだから」
こうした懸念点に対してどう対処するかを「のれんと減損」というプロジェクトにおいて検討が行われ、その検討結果をもとにIASBが予備的見解を示したものが今回のディスカッションペーパーである。
予備的見解(1)-のれんの償却について
そして、償却再導入派と減損のみ派の意見をそれぞれ紹介している。
【償却の再導入を支持する人々の意見】
- バランスシートに計上されているのれんの額は過大評価されている。結果として企業の経営陣はアカウンタビリティーを果たしていない。定期償却は、買収ののれんを直接減額していくメカニズムを持つ。減損テストはのれんを直接テストできない。
- 適用後レビューにおけるフィードバックは、減損テストがIASBの意図通りには機能していないことを示しており、のれんが価値を失っていても必ずしも減損損失が計上されていない。
- のれんは耐用年数に限りのある消耗性資産であり、償却の再導入はのれんが消費されていることを示す唯一の方法である。
【減損のみのアプローチを維持することに賛成する人々の意見】
- 減損テストはのれんを直接テストするものではないが、減損損失を認識することは、たとえ遅延していたとしても、それらの損失が発生したということを確認する重要な情報を投資家に提供する。
- のれんの耐用年数は見積ることができないため、定期償却費用の金額は恣意的なものとなる。したがって、投資家はそれを無視するだろう。
- 減損テストが厳格に適用されていない、あるいは単にのれんの帳簿価額を減額する目的でのみ償却を再開すべきではない。
このように双方の意見を示したうえで、IASBは「これまでの議論を単に繰り返すだけでは、議論を前進させることはできない。新たな実際的又は概念的な議論を提供するフィードバックを歓迎する。」と述べている。
日本の会計基準が指摘する減損のみのアプローチの問題点「競争の進展によって通常はのれんの価値は減価する」や「のれんを償却しないことは、追加投資による自己創設のれんを計上することと実質的に等しくなる」に対しても一定の目配りは行われているが、古い議論を繰り返すよりは、新しい議論をしようと呼び掛けている。しかし、この呼びかけは定期償却再導入派にとっては、2004年に渡ってしまった川をもう一度渡って戻ることをIASBが躊躇しているだけに見えるのではないだろうか。
IASBはのれんの定期償却を再導入しない代わりに、買収に関する情報開示の改善を提案している。それを見てみよう。
予備的見解(2)-買収に関する開示の改善
このような情報を投資家が求めていることは確かだろう。しかし、会計基準がその情報の開示を求めたときに、投資家が求めているような情報が期待通りに企業によって開示されるかは別の問題である。企業買収にあたって、その目的・理由が外部から見ても明らかなものもあるだろう。しかし、その表面的な理由の他に隠された意図があることもあるだろう。また何らかの理由で買収の理由を開示したくないこともあるだろう。開示される情報は非常に表面的な情報にとどまる可能性が高いのではないだろうか。
さらに、買収の背景にある事情は各企業において大きく異なる。IASBも認めているが、開示される情報が企業ごとに大きく異なる可能性が高い。財務諸表の有用性の大きな要素である企業間の比較可能性を放棄して良いのだろうか。
まとめ
しかし、企業買収の真の目的やそのパフォーマンス計測と言った企業経営にとって非常にセンシティブな内部情報が容易に開示されるとは考えにくい。またそのようなものが競争相手に知られることとなれば、企業の競争力を削ぐことにもなりかねない。
結果的には、形式的で表面的な情報開示にとどまることとなり、投資家への情報開示の改善につながることは期待しにくい。今後の議論に注目していきたい。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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(2020年04月28日「研究員の眼」)
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