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フードデザート問題をSDGsでとらえる-日本の企業も住民の健康を守る意志を持って欲しい
経済研究部 専務取締役 部長 宮垣 淳一
ミシシッピ州のチュニカは、豊かな土壌に囲まれているものの、1万人の住民の30%は食料が不十分な家庭に暮らしています。 街の中心部には食料品店が1つしかありません。町の外に住む人々が店に行くのは不可能です。チュニカは本当のフードデザートです。 しかしそうした苦労を乗り越え、地域のリーダーと組織は、より良い食糧アクセスを提供し、地域社会全体の健康を改善するために協力しています。
みなさんは、フードデザート(食料品砂漠)という言葉をお聞きになったことはあるだろうか。英米では、20年前からフードデザートという問題が指摘されてきた。当時英国では、食品スーパーの都市郊外への進出により、都市中心部の食料品店が廃業に追い込まれ、郊外のスーパーマーケットへの移動手段を持たない都市中心部に住む貧困層が良質の生鮮食料品へのアクセスを失い、健康問題が発生した。また、米国においても同様の問題が都市中心部で起き、特に貧困層のファーストフード店利用増加が肥満問題等の健康問題を引き起こしたとされている。
米国農務省はフードデザートを次のように定義している。「フードデザートとは新鮮な果物、野菜、健康的な自然食品が不足している地域であり、貧困地域に多い。多くの場合、食料品店、ファーマーズマーケット、健康食品店などの不在が原因となっている。」これを国連のSDGsにあてはめれば、「SDGs3の保健=すべての人に健康と福祉を」に反する状況が起こっていることになり、SDGs1の貧困にも強く関連している。
米国の小売業界は、このフードデザート問題に正面から取り組んでいる。冒頭のようなホームページでもフードデザート問題を取り上げながら、ウォルマート自身も、2012年以来米国内のフードデザート地域に224の店舗を新しくオープンし、健康的な食料品へのアクセスを大きく改善したことを、Responsibility Reportで報告している。
日本ではどうだろうか。日本においても「買い物弱者」「買い物難民」対策として小売業が数多くの取組みを行っている。ネットスーパー、自宅への配達、移動スーパーなどで、新鮮な生鮮食料品へのアクセスの改善に貢献している。また最近の都市型小型食料品スーパーの大規模な展開は、都市部の高齢者の生鮮食料品へのアクセスを大きく改善している。
しかしながら、SDGsやCSRといった観点では、小売業は食品に関しては「安心・安全な食品を消費者に届ける」という社会的責任に力点が置かれており、「住民の健康を守る」という視点が出てきていない。一企業が住民の健康に責任を持つようなことはなかなか言えないというのは、日本企業に共通する奥ゆかしさかもしれない。
しかしながら、肥満の原因と直接指摘されてきたコーラなどの炭酸飲料を製造販売する企業が「砂糖を減らした飲料を開発・販売」していることを「全世界の人々の健康に貢献」しているとSustainability Reportに記述しているのを見ると、SDGsへの取組みにおいては奥ゆかしさよりも積極性が求められており、自ら宣言することで毎年の前進につながっていくという好循環が期待されているのであろう。日本の小売業も、より高い視点(例えばSDGs3の保健=すべての人に健康と福祉を)から、都市、地方を問わず「地域住民の健康を守る」という意志を是非持って、フードデザート問題に取り組んでもらえることを期待する。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

03-3512-1793
(2018年10月31日「研究員の眼」)
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