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一律10万円給付の家計へのインパクト-新型コロナ緊急経済対策の効果は?

生活研究部 上席研究員 久我 尚子
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1――はじめに~緊急経済対策として一人あたり一律10万円給付、5月中に開始か
一方で、一人あたり10万円という金額は、そもそも家計にとって、どれくらいのインパクトがあるのだろうか。また、そのインパクトは居住地域や世帯年収、子育て世帯か高齢者世帯かといった世帯属性によっても異なるだろう。本稿では、総務省「家計調査」を用いて、それらの状況を捉える。
2――二人以上世帯へのインパクト~一人分の約1カ月分の消費額、高年収世帯でも必需的消費分に
総務省「家計調査」によると、2019年の二人以上世帯の平均世帯人員数は2.97人、世帯あたりの月平均消費額は293,379円である。よって、一人あたりの月平均消費額は98,781円となる。つまり、一人あたり10万円の給付は、二人以上世帯では一人分の約1カ月分の消費額に相当する。
都市規模や地域別に見ても、おおむね1カ月分の消費額に相当するが、「大都市」(一人あたり103,407円)や「関東」(一人あたり106,082円)では、10万円では1カ月分の消費額を数千円下回る(図表1)。
ただし、2019年の二人以上世帯の月平均消費額は、2018年(世帯合計287,315円、一人あたり96,414円)よりも増えている(全体で+6,064円、一人あたり+2,367円)。よって、2018年のデータで見れば、10万円との差は、大都市では2019年の3分の1程度、関東では2分の1程度にとどまる。
これらのうち「教養娯楽」は生活必需性の低い選択的消費だが、「食料」や「住居」は必需的消費だ。また、「住居」や「教育」は固定費であり、急な収入の変化には対応しにくい。よって、物価の高い都市部に住む世帯では、新型コロナによる減収や解雇という経済的打撃を受けた場合、他と比べて厳しい状況になりやすい。
これらの傾向は、二人以上勤労者世帯についても同様である。なお、二人以上勤労者世帯では、全国で見ると、二人以上世帯と比べて10万円に対する余剰額がやや多い。これは、二人以上勤労者世帯では、二人以上世帯と比べて平均世帯人員数が多いために(二人以上世帯2.97人に対して、二人以上勤労者世帯3.31人、二人以上無職世帯2.38人)、「食料」や「光熱・水道」、「住居」などの生活必需性の高い支出を家族と折半することで、家計の合理化が図りやすいためである。
次に、二人以上勤労者世帯について、世帯年収別に一人あたりの月平均消費額から10万円を差し引いた値を見ると、世帯年収800万円以上ではマイナスとなり、高年収世帯ほどマイナス幅が大きくなる(図表3)。
高年収世帯の消費の内訳を見ると、勤労者世帯全体と比べて、旅費などの教養娯楽サービス費を含む「教養娯楽」や交際費・仕送り金などを含む「その他の消費支出」、「教育(特に授業料等)」、「被服及び履物」、「食料」のうち外食などが多い傾向がある。これらのうち「教育」を除けば、いずれも嗜好性の高い選択的消費で緊急時には調整可能な支出と言える。
なお、世帯年収1,500万円以上の世帯では、一人あたりの月平均消費額は152,579円である。このうち、交際費などの「その他の消費支出」(34,688円)や「教養娯楽」(18,845円)、「外食」(9,083円)などの選択的消費をあわせると62,616円となる。この選択的消費の値を月平均消費額から差し引くと10万円を下回るため、高年収世帯にとっても、10万円という金額は必需的消費分を上回る額と言える。
3――単身世帯へのインパクト~家計の合理化が図りにくいため1カ月分の消費額の約6割にとどまる
4――属性別に見たインパクト~家族の人数が少ない世帯や消費額の多い共働き・妻フルタイム世帯では一人分の1カ月分の消費額を下回る
よって、これまでに述べた通り、家族の人数が少ない世帯では家計の合理化が図りにくいために支出がかさみ、世帯収入が多く消費額も多い世帯では選択的消費が多いために支出がかさむ傾向がある。
なお、子のいる世帯では、緊急経済対策として、一律10万円の給付に加えて、「児童手当」に児童一人あたり1万円が上乗せされる予定だ(高年収世帯を除く)。
5――おわりに~減収・解雇などの生活困窮世帯には追加的な支援策を
また、10万円の給付は一度きりの予定であり、新型コロナによる減収や解雇といった経済的打撃を受けた世帯では、およそ1カ月分の消費額相当では不足感があるだろう。一方で、今、求められるのは、まずは給付のスピード感であり、生活困窮世帯に対しては、本稿で見た観点なども考慮するなどして、あわせて追加的な支援策が実施されることを望みたい。
なお、「家計調査」の枠組みでは公表データの制約から分析ができなかったが、追加的な支援策の実施においては、貧困問題などが指摘されている母子世帯など、特に生活困窮世帯の多い属性を配慮する必要もある。
(2020年04月27日「基礎研レター」)

03-3512-1878
- プロフィール
【職歴】
2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
2021年7月より現職
・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)
【加入団体等】
日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society
久我 尚子のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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