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新型コロナ 急がれる医薬品開発ー抗ウイルス薬やワクチンが、なかなかできないのはなぜ?
基礎研REPORT(冊子版)5月号[vol.278]
保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
転用薬の臨床試験が本格化するが…
そこで、すでにある医薬品を、このウイルスの医薬品として転用できないか、という検討が進められている。既存薬から別の病気の薬効を見つけ出す手法は、「ドラッグ・リポジショニング」といわれ、新薬開発でよく見られるものだ。
たとえば、解熱薬や頭痛薬として知られている「アスピリン」は、血液をさらさらにする作用を持っており、これを生かして、脳梗塞や心筋梗塞などの治療に用いられている。ほかにも、血管を拡張する作用を持つ狭心症の治療薬が、男性のED治療に転用されて、「バイアグラ」として実用化された例が有名だ。
今回の感染拡大に対しては、新型インフルエンザ薬、抗HIV薬(いずれも国内承認済)、エボラ出血熱治療薬(国内未承認)などの臨床試験が予定されている。
ただし、こうして作られた医薬品の効果を見極めることは簡単ではない。仮に医薬品を投与された患者の病状が軽快したとしても、それが医薬品によるものなのか、それとも医薬品とは別に安静に療養していたことで快方に向かったものなのか、よくわからないためだ。臨床試験の結果は、効果と副作用の有無について、慎重に判断していく必要がある。
ワクチンの開発も容易ではない
ウイルス性の感染症では、予防のためにワクチンを接種することが有効となる。
ワクチンには、予防接種で免疫を獲得すれば二度とかからないようにできるものもあるが、インフルエンザのように予防接種をしても感染してしまうものもある。ただ、その場合でも、感染後に重症化しないで済むといった効果が期待できるため、ワクチンとしての有効性はある。
ワクチンのタイプには、生きた微生物を発症しない程度に弱毒化して使用する「生ワクチン」と、微生物の全体または一部を感染しないように無毒化して免疫を獲得する「不活化ワクチン」がある。生ワクチンは、弱毒化したとはいってもわずかに発症のリスクが残るため、免疫不全者や妊婦には使用できない。
一方、不活化ワクチンは、発症のリスクはなく免疫不全者や妊婦にも使用できるが、獲得できる免疫が限られていて、その持続期間も生ワクチンに比べて短い。
どちらのワクチンにしても、発症のリスクを減らす、もしくは無くす一方で、免疫を獲得できることが求められる。ワクチン開発においても、臨床試験での有効性と安全性の確認が必要となる。ワクチンの専門家からは、ワクチン候補ができても、実用化するまでには、何年もかかるとの声があがっている。
実際に、SARSやMERSのワクチンも未開発だ。医薬品メーカーの担当者によると、SARSの場合は、臨床試験の前に感染自体が終息してしまったという。MERSの場合は、「ワクチン開発に、すぐに多くの時間と資金を費やすのは合理的でない」との声が、研究者からあがっていた模様だ。
さらに、ワクチンの安全性に対する危惧も、開発に時間がかかる理由の1つとなっている。そもそもワクチンは、健康な人が病気を予防するためのものである。もし、ワクチンを打つことで、健康な人が病気になってしまえば、大問題となりかねない。ワクチン開発では、接種によるリスクが、得られる利益よりも圧倒的に小さいことを証明する必要があるのだ。
医薬品が開発されるまでは…
現在、世界中の研究者が医薬品開発に取り組んでいる。早期の実用化に期待したい。それまでは、手洗い・咳エチケットの励行、密閉・密集・密接の3つの「密」を避けるなどの感染防止策をとる必要があるだろう。
保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
(2020年05月12日「基礎研マンスリー」)
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