- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 医療・介護・健康・ヘルスケア >
- 医療 >
- 新型コロナ 急がれる医薬品開発ー抗ウイルス薬やワクチンが、なかなかできないのはなぜ?
新型コロナ 急がれる医薬品開発ー抗ウイルス薬やワクチンが、なかなかできないのはなぜ?
基礎研REPORT(冊子版)5月号[vol.278]
![](https://www.nli-research.co.jp/files/topics/30_ext_01_0.jpeg?v=1710402342)
保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
転用薬の臨床試験が本格化するが…
そこで、すでにある医薬品を、このウイルスの医薬品として転用できないか、という検討が進められている。既存薬から別の病気の薬効を見つけ出す手法は、「ドラッグ・リポジショニング」といわれ、新薬開発でよく見られるものだ。
たとえば、解熱薬や頭痛薬として知られている「アスピリン」は、血液をさらさらにする作用を持っており、これを生かして、脳梗塞や心筋梗塞などの治療に用いられている。ほかにも、血管を拡張する作用を持つ狭心症の治療薬が、男性のED治療に転用されて、「バイアグラ」として実用化された例が有名だ。
今回の感染拡大に対しては、新型インフルエンザ薬、抗HIV薬(いずれも国内承認済)、エボラ出血熱治療薬(国内未承認)などの臨床試験が予定されている。
ただし、こうして作られた医薬品の効果を見極めることは簡単ではない。仮に医薬品を投与された患者の病状が軽快したとしても、それが医薬品によるものなのか、それとも医薬品とは別に安静に療養していたことで快方に向かったものなのか、よくわからないためだ。臨床試験の結果は、効果と副作用の有無について、慎重に判断していく必要がある。
ワクチンの開発も容易ではない
ウイルス性の感染症では、予防のためにワクチンを接種することが有効となる。
ワクチンには、予防接種で免疫を獲得すれば二度とかからないようにできるものもあるが、インフルエンザのように予防接種をしても感染してしまうものもある。ただ、その場合でも、感染後に重症化しないで済むといった効果が期待できるため、ワクチンとしての有効性はある。
ワクチンのタイプには、生きた微生物を発症しない程度に弱毒化して使用する「生ワクチン」と、微生物の全体または一部を感染しないように無毒化して免疫を獲得する「不活化ワクチン」がある。生ワクチンは、弱毒化したとはいってもわずかに発症のリスクが残るため、免疫不全者や妊婦には使用できない。
一方、不活化ワクチンは、発症のリスクはなく免疫不全者や妊婦にも使用できるが、獲得できる免疫が限られていて、その持続期間も生ワクチンに比べて短い。
どちらのワクチンにしても、発症のリスクを減らす、もしくは無くす一方で、免疫を獲得できることが求められる。ワクチン開発においても、臨床試験での有効性と安全性の確認が必要となる。ワクチンの専門家からは、ワクチン候補ができても、実用化するまでには、何年もかかるとの声があがっている。
実際に、SARSやMERSのワクチンも未開発だ。医薬品メーカーの担当者によると、SARSの場合は、臨床試験の前に感染自体が終息してしまったという。MERSの場合は、「ワクチン開発に、すぐに多くの時間と資金を費やすのは合理的でない」との声が、研究者からあがっていた模様だ。
さらに、ワクチンの安全性に対する危惧も、開発に時間がかかる理由の1つとなっている。そもそもワクチンは、健康な人が病気を予防するためのものである。もし、ワクチンを打つことで、健康な人が病気になってしまえば、大問題となりかねない。ワクチン開発では、接種によるリスクが、得られる利益よりも圧倒的に小さいことを証明する必要があるのだ。
医薬品が開発されるまでは…
現在、世界中の研究者が医薬品開発に取り組んでいる。早期の実用化に期待したい。それまでは、手洗い・咳エチケットの励行、密閉・密集・密接の3つの「密」を避けるなどの感染防止策をとる必要があるだろう。
(2020年05月12日「基礎研マンスリー」)
![](https://www.nli-research.co.jp/files/topics/30_ext_01_0.jpeg?v=1710402342)
保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
篠原 拓也のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2024/07/23 | 区間が重なる確率の問題-ある区間が他のすべての区間と重なっている確率は? | 篠原 拓也 | 研究員の眼 |
2024/07/16 | IPCC第7次評価サイクルの注目点-PM2.5や対流圏オゾンが引き起こす気候変動に注目が集まる!? | 篠原 拓也 | 基礎研レター |
2024/07/10 | 気候変動と死亡数の関係-2022年データで回帰式を更新し、併せて改良を図ってみると… | 篠原 拓也 | ニッセイ基礎研所報 |
2024/07/08 | サマージャンボ2024の狙い目-ジャンボにもミニにも3年ぶりとなる高額の当せん金が設定された | 篠原 拓也 | 研究員の眼 |
公式SNSアカウント
新着レポートを随時お届け!日々の情報収集にぜひご活用ください。
新着記事
-
2024年07月26日
職場における温度、匂い、音等は、どういう人がシンドイと思っているのか -
2024年07月26日
米GDP(24年4-6月期)-前期比年率+2.8%と前期から大幅上昇、市場予想の+2.0%も大幅に上回る -
2024年07月26日
お金の流れでみる日本経済 -
2024年07月25日
消えた580兆円~住宅投資をしても残高の増加は限定的~日本の住宅投資はなぜ「資産化」しないのか~ -
2024年07月24日
中国経済の現状と注目点-好調は持続せず、不動産不況と貿易摩擦で弱り目に祟り目の中国経済
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年07月01日
News Release
-
2024年04月02日
News Release
-
2024年02月19日
News Release
【新型コロナ 急がれる医薬品開発ー抗ウイルス薬やワクチンが、なかなかできないのはなぜ?】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
新型コロナ 急がれる医薬品開発ー抗ウイルス薬やワクチンが、なかなかできないのはなぜ?のレポート Topへ