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- 若者の現在と10年後の未来~働き方編-「働き方改革」の理想と現実のギャップ、アフターコロナに期待
2020年04月20日
1――はじめに~「働き方改革」、新型コロナの影響で業種の垣根を超えて加速度的に波及
4月8日に政府の新型コロナウィルス感染症対策本部が東京や埼玉、大阪などの7都府県へ向けて緊急事態宣言を発令したことで、今、企業では在宅勤務への切り替えなどの対応が急速に進んでいる。
テレワークやサテライトオフィスなどの柔軟な就労環境の整備は、これまでも「働き方改革」で取り組まれてきたものだ。IT関連業種など「働き方改革」が比較的進んでいた企業では、すでに2月下旬頃から本社機能を全面的にテレワークへと舵を切る動きが出ているが、ここにきて業種の垣根を超えて加速度的に進めざるを得なくなっている。
「若者の現在と10年後の未来~消費行動編」では、若者の消費行動や価値観の実態を捉えた。近年、生じていた「消費のデジタル化」をはじめとした変化は、新型コロナの影響で、予期せずして加速していると述べたが、働き方においても同様の状況が進んでいるだろう。
本稿では、あらためて、若者の働き方についての価値観や現在の職場環境の実態について捉えるとともに、若者が予想する10年後、すなわち2030年の未来の状況についても見ていく。分析には、前稿と同様、ニッセイ基礎研究所が2020年3月に生活者約6千名を対象に実施した「暮らしに関する調査1」を用いる。また、若者の定義も同様に20~34歳の未婚者とする。
1 ニッセイ基礎研究所「暮らしに関する調査」、調査時期は2020年3月、調査対象は全国に住む20~59 歳の男女、インターネット調査、株式会社マクロミルのモニターを利用、有効回答6,183、うち本稿の分析対象である35歳未満の若者は1,382(男性784、女性598)。
テレワークやサテライトオフィスなどの柔軟な就労環境の整備は、これまでも「働き方改革」で取り組まれてきたものだ。IT関連業種など「働き方改革」が比較的進んでいた企業では、すでに2月下旬頃から本社機能を全面的にテレワークへと舵を切る動きが出ているが、ここにきて業種の垣根を超えて加速度的に進めざるを得なくなっている。
「若者の現在と10年後の未来~消費行動編」では、若者の消費行動や価値観の実態を捉えた。近年、生じていた「消費のデジタル化」をはじめとした変化は、新型コロナの影響で、予期せずして加速していると述べたが、働き方においても同様の状況が進んでいるだろう。
本稿では、あらためて、若者の働き方についての価値観や現在の職場環境の実態について捉えるとともに、若者が予想する10年後、すなわち2030年の未来の状況についても見ていく。分析には、前稿と同様、ニッセイ基礎研究所が2020年3月に生活者約6千名を対象に実施した「暮らしに関する調査1」を用いる。また、若者の定義も同様に20~34歳の未婚者とする。
1 ニッセイ基礎研究所「暮らしに関する調査」、調査時期は2020年3月、調査対象は全国に住む20~59 歳の男女、インターネット調査、株式会社マクロミルのモニターを利用、有効回答6,183、うち本稿の分析対象である35歳未満の若者は1,382(男性784、女性598)。
2――働き方についての価値観~若者は自分の「キャリア重視」志向が高く、「勤務先忠誠」志向が弱い
各因子を構成する変数から、『業績重視』志向は、性別や年齢によらず、能力や成果に応じて評価されるべき、また、女性だけでなく男性も育児休業等を取るべきという意味合いを持つ。また、『キャリア重視』志向はキャリアップのためなら転職や海外赴任も厭わない、『割り切り』志向は仕事はお金を稼ぐ手段に過ぎない・できればあまり働きたくない、『家族帯同』志向は転勤の際は家族も一緒に行くべき、『勤務先忠誠』志向はできれば同じ会社でずっと働きたい、『生涯就労』志向は高齢期も含めて少しでも働ていたい、『やりがい重視』志向はお金よりもやりがいを重視するという意味合いを持つ。
これらの就労志向の強さを若者について見ると、若者全体では『キャリア重視』志向が高く、『勤務先忠誠』志向が低い(図表2(a))。
すでにバブル崩壊後に大企業神話は崩れており、大企業に就職したからといって生涯安泰ではない。また、グローバル化が進んだことで、今回の新型コロナの事態のように、世界で連鎖的に深刻な状況が生じやすくなっている。様々なリスクが常に潜むビジネス環境となっている。さらに、人生100年時代では就労期は長期化している。このような中で、今の若者は、新卒で就職した企業に一生世話になれるとは考えにくいのだろう。よって、勤務先への忠誠を誓うよりも、自分の能力を磨くことでキャリアを切りひらくという意識が高まっているのではないか。そして、自分のキャリアに軸を置くという考え方はリスク軽減にもつながる。
これらの就労志向の強さを若者について見ると、若者全体では『キャリア重視』志向が高く、『勤務先忠誠』志向が低い(図表2(a))。
すでにバブル崩壊後に大企業神話は崩れており、大企業に就職したからといって生涯安泰ではない。また、グローバル化が進んだことで、今回の新型コロナの事態のように、世界で連鎖的に深刻な状況が生じやすくなっている。様々なリスクが常に潜むビジネス環境となっている。さらに、人生100年時代では就労期は長期化している。このような中で、今の若者は、新卒で就職した企業に一生世話になれるとは考えにくいのだろう。よって、勤務先への忠誠を誓うよりも、自分の能力を磨くことでキャリアを切りひらくという意識が高まっているのではないか。そして、自分のキャリアに軸を置くという考え方はリスク軽減にもつながる。
一方で、性別に見ると、男女で逆の傾向を示す志向がある(図表2(b))。
『業績重視』志向は、女性や年下の上司でも気にしない、男性も育休を取るべきという意味合いを持つが、男性で低く、女性で高い。また、『割り切り』志向は、仕事はお金を稼ぐ手段、できれば働きたくないという意味合いだが、男性で低く、女性で高い。
これらより、今の若い男性でも、依然として「女性は男性を立てるべき」という旧来型の価値観が根強く残っている様子がうかがえる。
一方で、女性では『業績重視』志向が高いが、『割り切り』志向も高い。男性同様に働く女性が増えたことで、職場での男女平等を求める女性が増える一方で、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべき」という旧来型の価値観を持ち、結婚・出産後は家庭を重視したい考える女性も少なくないのだろう。以前に、女性のライフコースの希望を分析した際2、20歳代では、結婚・出産後も仕事と家庭を両立したいという希望が最も多かったが(36.9%)、一旦退職して再就職(19.0%)や結婚後は退職(16.0%)、出産後に退職(12.1%)という希望も一定の割合で確認できた。
2 久我尚子「女性のライフコースの理想と現実」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2018/11/27)
『業績重視』志向は、女性や年下の上司でも気にしない、男性も育休を取るべきという意味合いを持つが、男性で低く、女性で高い。また、『割り切り』志向は、仕事はお金を稼ぐ手段、できれば働きたくないという意味合いだが、男性で低く、女性で高い。
これらより、今の若い男性でも、依然として「女性は男性を立てるべき」という旧来型の価値観が根強く残っている様子がうかがえる。
一方で、女性では『業績重視』志向が高いが、『割り切り』志向も高い。男性同様に働く女性が増えたことで、職場での男女平等を求める女性が増える一方で、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべき」という旧来型の価値観を持ち、結婚・出産後は家庭を重視したい考える女性も少なくないのだろう。以前に、女性のライフコースの希望を分析した際2、20歳代では、結婚・出産後も仕事と家庭を両立したいという希望が最も多かったが(36.9%)、一旦退職して再就職(19.0%)や結婚後は退職(16.0%)、出産後に退職(12.1%)という希望も一定の割合で確認できた。
2 久我尚子「女性のライフコースの理想と現実」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2018/11/27)
3――現在の職場環境~若者は「働き方改革」の理想と現実のギャップをやや強く感じている
1|20~50歳代全体の状況~「働き方改革」で制度の整備は進むものの、実態は追いついていない面も
次に、現在の職場環境について捉える。調査では、学生や専業主婦・主夫、無職を除く就業者に対して、「女性の活躍推進」や「長時間労働の是正」、「両立環境の支援」、「テレワーク等の柔軟な就労環境の整備」といった近年、働き方改革で進められている項目をあげ、「あてはまる」「ややあてはまる」「どちらともいえない」「あまりあてはまらない」「あてはまらない」の5段階でたずねている。
「あてはまる」「ややあてはまる」を合わせた「あてはまる割合」を見ると、20~50歳代の就業者全体では、いずれの項目でも、あてはまる割合は3割台以下である(図表3)。つまり、2020年3月上旬の調査時点では、就業者の6割程度の環境は「働き方改革」が進んでいるとは言えないようだ。
次に、現在の職場環境について捉える。調査では、学生や専業主婦・主夫、無職を除く就業者に対して、「女性の活躍推進」や「長時間労働の是正」、「両立環境の支援」、「テレワーク等の柔軟な就労環境の整備」といった近年、働き方改革で進められている項目をあげ、「あてはまる」「ややあてはまる」「どちらともいえない」「あまりあてはまらない」「あてはまらない」の5段階でたずねている。
「あてはまる」「ややあてはまる」を合わせた「あてはまる割合」を見ると、20~50歳代の就業者全体では、いずれの項目でも、あてはまる割合は3割台以下である(図表3)。つまり、2020年3月上旬の調査時点では、就業者の6割程度の環境は「働き方改革」が進んでいるとは言えないようだ。
図表3より、女性の活躍推進をはじめとした性年齢による「不公平感の是正」については、あてはまる割合が3割程度である一方、「結局、長時間働ける人が評価されやすい」も3割程度であり、同程度だ。組織で女性の管理職登用などが進む一方で、依然として、会社に長時間残って仕事をする者ほど評価がつきやすい評価制度や慣習が残っているということなのだろう。
「長時間労働の是正」の面でも、効率化が進められている一方、休暇が取りにくい、あるいは終業直後は帰りにくいといった状況が同程度に確認できる。「就労環境の整備」の面でも同様に、仕事と家庭の両立支援制度が整っている一方で、実際には利用しにくいという状況がある。
つまり、「働き方改革」の各面において、制度や仕組みの整備など進むべき方向へ動いている一方で、実態が追いついていない状況があるようだ。これは、変化の過渡期にあるためであり、今後、「働き方改革」として進むべき方向と実態のギャップが是正されていくとも考えられる。
一方で、3月上旬の調査時点では、テレワーク環境が進んでいる割合は2割にも満たなかったが、緊急事態宣言の影響で、現在、在宅勤務に舵を切らざるを得ない状況が広がっている。そうなると、自ずと評価制度や慣習も変えざるを得ないようになるであろう。
新型コロナ終息後のアフターコロナは、テレワークをはじめ「働き方改革」が大きく前進した状況から始まるだろう。今回の事態を通して、デジタルで案外スムーズにできた、むしろ効率が上がったという業務領域がある一方で、やはりデジタルでは難しい領域もあるだろう。今回の事態を通して、自社にとってのデジタルと非デジタルのバランスが見えてくるのかもしれない。
「長時間労働の是正」の面でも、効率化が進められている一方、休暇が取りにくい、あるいは終業直後は帰りにくいといった状況が同程度に確認できる。「就労環境の整備」の面でも同様に、仕事と家庭の両立支援制度が整っている一方で、実際には利用しにくいという状況がある。
つまり、「働き方改革」の各面において、制度や仕組みの整備など進むべき方向へ動いている一方で、実態が追いついていない状況があるようだ。これは、変化の過渡期にあるためであり、今後、「働き方改革」として進むべき方向と実態のギャップが是正されていくとも考えられる。
一方で、3月上旬の調査時点では、テレワーク環境が進んでいる割合は2割にも満たなかったが、緊急事態宣言の影響で、現在、在宅勤務に舵を切らざるを得ない状況が広がっている。そうなると、自ずと評価制度や慣習も変えざるを得ないようになるであろう。
新型コロナ終息後のアフターコロナは、テレワークをはじめ「働き方改革」が大きく前進した状況から始まるだろう。今回の事態を通して、デジタルで案外スムーズにできた、むしろ効率が上がったという業務領域がある一方で、やはりデジタルでは難しい領域もあるだろう。今回の事態を通して、自社にとってのデジタルと非デジタルのバランスが見えてくるのかもしれない。
(2020年04月20日「基礎研レポート」)
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03-3512-1878
経歴
- プロフィール
【職歴】
2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
2021年7月より現職
・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)
【加入団体等】
日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society
久我 尚子のレポート
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