2016年08月22日

学歴別に見た若年労働者の雇用形態と年収~年収差を生むのは「学歴」か「雇用形態(正規・非正規)」か

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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■要旨
  • 本稿では、若年労働者の雇用形態や年収の状況について、学歴別に詳しく見る中で、特に、「大学卒」や「大学院修了」の非正規雇用者に注目する。
     
  • 1990年代より大学進学率が上昇し、現在、男女約半数が大学へ進学するが、同時期に非正規雇用者も増え、大学卒の2割、大学院修了の約1割が不本意な理由で非正規雇用者として働いている。
     
  • 平均年収は、性・年代・雇用形態が同じであれば高学歴ほど多い。また、同じ学歴であれば非正規雇用者より正規雇用者の方が年収は多い。年収300万円という区切りで見ると、非正規雇用者の男性は中学卒や高校卒の全ての年代、高専・短大卒の40~44歳まで、大学・大学院卒の25~29歳までは300万円を下回る。
     
  • 非正規雇用者の男性で大学・大学院卒では、30~34歳以上で年収300万円、40~44歳以上でおおむね400万円を上回るが、同年代の中学卒や高校卒の正規雇用者の男性の年収を下回る。非正規雇用者の男性で大学・大学院卒の30代以上では年収の平均値は300万円を超えるが、300万円未満層は約4割で、決して少なくない。
     
  • 現在の労働者の年収は、学歴よりも、正規雇用者か非正規雇用者かの影響の方が大きく、その状況は男性で顕著。近年の日本社会では、学校卒業時の就職環境に恵まれるか否かが、将来の経済状況や家族形成の可能性に大きな影響を与え、大学を卒業しても必ずしも安定した仕事に就ける時代ではない。
     
  • 将来を担う世代における学校卒業時の労働環境に起因する不公平感は是正されるべきであり、「同一労働同一賃金」の実現や「最低賃金の引き上げ」などの議論を通じて、若年非正規雇用者の待遇改善が進み、受けてきた教育を十分に活かせるような労働環境を望みたい。

■目次

1――はじめに
2――学歴別に見た若年労働者の状況
  1|大学等進学の状況
   ~大学進学率は2015年で男性55.4%、女性47.4%。男性は頭打ち。
  2|若年労働者に占める正社員以外の割合
   ~高学歴ほど低いが大学卒20.4%、大学院修了12.3%
  3|正社員以外の若年労働者の働き方選択理由
   ~大学卒や大学院修了では約6割が「不本意」
  4|正社員以外の若年労働者の今後の希望
   ~大学卒の54.4%、大学院修了の70.7%が「正社員」希望
3――学歴別に見た平均年収~大学・大学院卒の非正規雇用者の男性は30歳以上で
   年収300万円を越えるが、同年代の中学・高校卒などの正規雇用者の男性の年収を下回る

4――大学・大学院卒の年収300万円未満層の推計~30歳以上の非正規雇用男性で4割前後
5――おわりに~学歴よりも正規雇用者か非正規雇用者かが年収に影響、若年非正規の待遇改善を

1――はじめに

1――はじめに

先日、拙稿「若年層の経済格差と家族形成格差~増加する非正規雇用者、雇用形態が生む年収と既婚率の違い」(基礎研レポート、2016/7/14)にて、正規雇用者と非正規雇用者では年収差があることや、男性では年収と既婚率が比例関係にあり、年収300万円あたりに家族形成の壁があることを示し、年収300万円未満の雇用者人口を推計した。

本稿では、若年労働者の状況について、さらに学歴別に詳しく見る中で、特に、「大学卒」や「大学院修了」の非正規雇用者に注目する。1990年代以降、大学進学率が上昇する一方、非正規雇用者も増えている。大学を卒業しても、必ずしも安定した仕事に就けるわけではない。現在、大学卒や大学院修了の非正規雇用者はどれくらい存在し、当該層の年収の状況はどうなっているのだろうか。
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

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