2020年04月20日

新型コロナウイルス感染・経済対策-経済対策に金融・財政政策をフル稼働も追加対策は必至

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.はじめに

20年3月に入り、米国内で新型コロナウイルス感染者数や死亡者数が急増している(前掲図表1)。本稿執筆(4月17日)時点では、感染者数が67万人、死亡者数が3万人を超えており、ともに世界最多となっている。

トランプ大統領は3月上旬まで感染拡大を楽観視し、感染対策が後手に回ったことで感染拡大を加速させた可能性が指摘されている。もっとも、3月中旬以降は国家非常事態を宣言したほか、3月16日には感染対策のガイドラインを提示し、在宅勤務や在宅学習、外食の禁止などを求めて感染対策の強化を行った。

一方、一連の感染対策に伴い外食や宿泊、小売業を中心に失業者が増加しており、3月中旬から4週間の新規失業保険申請者数は累計2,200万人と労働力人口の1割を超えた。このため、失業率が金融危機時の10%を超えることが確実な状況となっている。

このような経済への影響を軽減するため、米国ではこれまで実施されたことがない異例の金融政策、財政政策対応を実施している。

本稿では、米国で実施されている感染対策を概観した後、これまで実施された金融政策、財政政策について整理した。新型コロナウイルスの感染終息が見通せない中、現在の金融政策、財政政策では景気の下支えに不十分との認識は強い。実際に財政政策では第4弾となる追加対策も検討されており、今後も感染対策と経済対策のバランスを見ながら難しい舵取りを迫られるだろう。
 

2.新型コロナウイルスの感染対策

2.新型コロナウイルスの感染対策

(水際対策):欧州などからの入国禁止
トランプ政権は、20年2月に14日以内に中国への渡航歴がある外国人(米国国民などを除く)の入国を禁止したほか、2月末にイラン、3月中旬にはシェンゲン協定26ヵ国1に英国、アイルランドを加えた欧州28ヵ国も入国禁止国に追加した。

なお、入国禁止措置は米国国民には適用されないほか、米国から入国禁止国への移動も制限されない2。もっとも、米国務省は3月下旬から米国民への渡航情報を全世界に対して最も高いレベル43の「渡航中止」に引き上げており、実質的に海外への移動は困難となっている。

なお、入国禁止措置は空運や海運などの貨物には適用されない。
 
1 オーストリア、ベルギー、チェコ、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイスランド、イタリア、ラトビア、リヒテンシュタイン、リトアニア、ルクセンブルグ、マルタ、オランダ、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、スロバキア、スロベニア、スペイン、スウェーデン、スイス
2 https://www.dhs.gov/sites/default/files/images/opa/20_0317_opa_coronavirus-update-restrictions.jpg
3 https://travel.state.gov/content/travel/en/traveladvisories/ea/travel-advisory-alert-global-level-4-health-advisory-issue.html
(国内対策):ソーシャル・ディスタンシング(対人距離の確保)が基本
トランプ大統領は、米国内での新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、3月13日に「国家非常事態法」などに基づく国家非常事態を宣言した。同宣言により、各州や地方自治体向けに感染対策などで最大500億ドルの予算を充当することが可能となった。また、これまで規制されていた遠隔医療なども提供できるように規制を緩和できるほか、民間企業と協力して新型コロナウイルスの検査能力を全米で拡大することも宣言に盛り込まれた。

また、トランプ政権は3月16日に「米国のためのコロナウイルスガイドライン」を発表し、州や地方自治体の指示に従うように示した上で、病気の自覚症状のある人、家族の誰かがコロナウイルス陽性、高齢者や持病がある人は自宅に待機すること、子供が病気の場合には通学させない、などの指針を示した。

さらに、コロナウイルスの拡大を遅らせる役割を果たすべきとして、ソーシャル・ディスタンシング(対人距離の確保)のために、可能な限りの在宅勤務、10人以上の集会禁止、バー、レストランなどでの飲食自粛などの要請を盛り込んだ(図表2)。
(図表2)「米国のためのコロナウイルスガイドライン」(4月末まで)
なお、州政府レベルではワシントンDCを含む全ての州で非常事態が宣言されているほか、一部で年齢制限などが付いているものの、ワシントンDCを含む全米48州で自宅待機命令・指針がでている4。また、

一方、トランプ大統領は4月16日に経済活動の再開に向けたガイドラインを発表した。同ガイドラインでは、再開は3段階からなり、各段階の移行は過去2週間の感染者数が減少したか、その後、増加に転じていないかなどのデータを基準にしている。同大統領は、各段階への移行は州知事が判断するとしており、州によって経済活動の再開時期に違いがでるとみられり。

経済活動再開の第一段階では、引き続き在宅勤務が推奨されるほか、10人以上の集会を避けることや、不要不急の旅行を避ける、休校継続が推奨されている。次の第2段階では集会の禁止が50人以上に拡大されるほか、不要不急の旅行や学校の再開指針が示されている。最後の第3段階では在宅勤務からオフィス勤務が解禁されることなどが示されている。  

3.金融政策の動向

3.金融政策の動向

(政策金利・量的緩和策等):実質ゼロ金利、量的緩和政策を復活
FRBは、3月3日に臨時のFOMC会合を開き、政策金利を1.5%~1.75%から1.0%~1.25%に▲0.50%ポイント引き下げたほか、3月15日にも臨時会合を開き、政策金利をさらに▲1.0%ポイント引き下げて0.0%~0.25%とし、08年の金融危機以来となる実質ゼロ金利政策を復活させた。

また、15日の会合では米国債と住宅ローン担保証券(MBS)を合計7,000億ドル買い入れることを発表し、量的緩和政策を復活させた。その後、23日には買い入れ額を無制限とすることが発表された。
(流動性対策):様々な資金供給ファシリティを創設
FRBは、預金金融機関に対する流動性対策として、15日の会合で連銀貸出(Discount Window)金利について▲1.5%ポイント引き下げて0.25%にし、貸出期間を従前の翌日物から90日まで利用できるようにした。また、預金準備率も10%から0%に引き下げるなど預金金融機関に対する流動性対策を実施した。

さらに、FRBに預金口座をもたない金融機関への資金供給や金融市場の流動性低下に対応するために、金融危機時に立ち上げたプライマリーディーラーに対して直接貸し出しを行うプライマリーディーラー・クレジット・ファシリティ(PDCF)や、資産担保証券(ABS)を買い入れるターム物資産担保融資ファシリティ―(TALF)を復活させるとともに、以下のように様々な資金供給ファシリティ―を創設した(図表3)。
(図表3)資金供給ファシリティ一覧
貸し出しでは、現金需要の高まりから、マネーマーケット・ミューチュアルファンド(MMF)の解約が増加することに備え、解約金手当の支援のために、MMFから購入した米国債などを担保に最長1年の貸し出しを行う。

流動性支援では、連邦準備法13条3項に基づき、FRBが特別目的事業体(SPV)を設立し、発行市場、流通市場で社債を買い入れるほか、地方債も買い入れる。買い入れで発生する損失は財務省の為替安定化基金から拠出された担保金で賄われる。後述するCARES法により、財務省に対して5,000億ドルが拠出されており、FRBが提供する資金供給ファシリティに対して総額2,150億ドル拠出するが、為替安定化基金には未だ2,000億ドル超の余力を残している。

一方、(図表3)の資金供給ファシリティ以外にも、FRBは世界的なドル需要の高まりに対して、カナダ、英国、ユーロ圏、日本、スイス中銀と米ドルを提供するためのスワップ協定を結んだほか、オーストラリア中銀など9ヵ国5の中銀にスワップ協定を拡大した。

さらに、スワップ協定を結んでいない中央銀行に対しても、中央銀行が保有する米国債を担保に翌日物のレポを提供するための新たなFIMA(Foreign and International Monetary Authorities)レポ・ファシリティを立ち上げた。
 
5 オーストラリア、ブラジル、デンマーク、韓国、メキシコ、ニュージーランド、ノルウェー、シンガポール、スウェーデン
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

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