2020年04月13日

貸出・マネタリー統計(20年3月)~預金へのシフトが進行、銀行貸出は4月以降加速か

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

文字サイズ

1. 貸出動向:実質的には若干加速か

(貸出残高)
4月10日に発表された貸出・預金動向(速報)によると、3月の銀行貸出(平均残高)の伸び率は前月(前年比2.22%)からほぼ横ばいの前年比2.21%となった(図表1)。ただし、3月は円高が進行したことで外貨建て貸出の円換算残高が押し下げられているため、こうした特殊要因を除いた実質的な伸び率は前月から0.1%ポイント程度上昇したと推測される(図表3)。

業態別では、都銀等の伸び率が前年比1.97%(前月は2.06%)とやや低下する一方、地銀(第2地銀を含む)の伸び率は前年比2.41%(前月は2.36%)とやや上昇した(図表2)。
(図表1) 銀行貸出残高の増減率/(図表2) 業態別の貸出残高増減率/(図表3) ドル円レートの前年比(月次平均)/(図表4)リーマンショック・東日本大震災後の銀行貸出
新型コロナウィルスの感染拡大に伴う景気の急減速、企業の資金繰り悪化を受けて、政府は銀行に対して企業の資金繰りを支援するよう要請しているが、3月の段階では貸出動向に殆ど変化はみられない。

ただし、過去の経済危機時を振り返ると、2009年のリーマンショックや2011年の東日本大震災の後も資金繰り支援等によって銀行貸出が伸び率を拡大した経緯がある(図表4)。現在、銀行は貸付先等から多くの支援要請を受けているとみられることから、4月以降は貸出増加ペースの加速が予想される。
(図表5)国内銀行の新規貸出平均金利 (貸出金利)
なお、直近2月の新規貸出平均金利は、短期貸出(一年未満)が0.571%(前月は0.467%)と前月から持ち直す一方、長期貸出(1年以上)は0.690%(前月は0.732%)とやや低下した。振れを均すために3カ月移動平均で見た場合(図表5)、低下基調にあった短期貸出の利率は下げ止まったものの、長短貸出金利ともに低迷が続いている。

日銀は3月に新型コロナ拡大に伴い、資金繰りに苦しむ企業に融資する原資として銀行にゼロ金利で供給する新たな資金供給制度を導入した。今後は、銀行貸出への金利低下圧力が強まると見込まれる。

2.マネタリーベース: 特殊要因で減少も、実質的には増勢加速

4月2日に発表された3月のマネタリーベースによると、日銀による通貨供給量(日銀当座預金+市中に流通する紙幣・貨幣)を示すマネタリーベースの前年比伸び率(平残)は2.8%と、前月(同3.6%)をかなり下回った(図表6)。日銀券(紙幣)発行高、貨幣流通高の伸びがやや低下した影響もあるが、何よりマネタリーベース全体の約8割を占める日銀当座預金の伸び率が前年比3.0%(前月は4.0%)と大きく低下したことが影響した(図表7)。

また、3月末時点のマネタリーベース残高は510兆円と前月末比で6.1兆円減少した。季節性を除外した季節調整済み系列(平残)で見ても前月比3.4兆円減と2011年12月以来の減少幅を記録している(図表8)。日銀は新型コロナ拡大に伴う市場の混乱への対応として長期国債の買い入れを活発化した(7.7兆円、前年比2.2兆円)。しかし、一方でレポ市場の安定化のために国債売現先を実施したほか、大規模なドル資金供給オペ実施に伴う担保用の国債供給を行ったため、結果的にそれぞれ4.0兆円、19.2兆円の資金が吸収された。こうした特殊要因を除けば、マネタリーベースの増勢は加速していたと思われる。
(図表6) マネタリーベース伸び率(平残)/(図表7) 日銀当座預金残高(平残)と伸び率
(図表8)マネタリーベース残高と前月比の推移/(図表9)日銀国債保有残高の前年比増減

3.マネーストック: 預金へのシフトが進行、投資信託は急減速

4月13日に発表された3月のマネーストック統計によると、金融部門から市中に供給された通貨総量の代表的指標であるM2(現金、国内銀行などの預金)平均残高の伸び率は前年比3.31%(前月は2.96%)、M3(M2にゆうちょ銀など全預金取扱金融機関の預貯金を含む)の伸び率は同2.72%(前月は2.44%)とともに大きく上昇した。伸び率の上昇はともに5ヵ月連続となる(図表10)。最近では銀行貸出の伸びが底入れしているほか、経常収支の黒字(前年比)が拡大しており、マネーストックの伸びに繋がっていると考えられる。
 
M3の内訳では、現金通貨(前月1.90%→当月1.75%)の伸び率はやや低下したが、普通預金等の預金通貨(前月6.64%→当月6.94%)の伸び率が上昇し、全体の伸びをけん引した(図表11)。また、CD(譲渡性預金・前月▲0.03%→当月2.16%)の伸びもプラスに転じたほか、定期預金などの準通貨(前月▲2.55%→当月▲2.43%)のマイナス幅もやや縮小した。
(図表10) M2、M3、広義流動性の伸び率/(図表11) 現金・預金の伸び率
(図表12)投資信託・金銭の信託・準通貨の伸び率 一方、広義流動性(M3に投信や外債といったリスク性資産等を加算した概念)の伸び率は前年比2.72%(前月は2.80%)と低下した(図表10)。

内訳では、既述の通り、M3の伸び率が大きく上昇したものの、投資信託(私募やREITなども含む元本ベース前月10.4%→当月4.5%)の伸びが急減速し、金銭の信託(前月3.0%→当月2.9%)、金融債(前月▲6.6%→当月▲8.0%)、国債(前月▲2.4%→当月▲2.7%)の伸び率も低下したことで相殺された(図表12)。
 
マネーストック全体では、リスク性資産への資金流入が鈍化し、普通預金へのシフトが進んだ形になっている。新型コロナウィルスの感染拡大とそれに伴う経済活動の大幅な減速を受けて、企業や家計の間で流動性と安全性の高い預金に対する選好が強まった可能性が高い。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
Xでシェアする Facebookでシェアする

経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2020年04月13日「経済・金融フラッシュ」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【貸出・マネタリー統計(20年3月)~預金へのシフトが進行、銀行貸出は4月以降加速か】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

貸出・マネタリー統計(20年3月)~預金へのシフトが進行、銀行貸出は4月以降加速かのレポート Topへ