2020年04月10日

2020・2021年度経済見通し-新型コロナウィルスの感染拡大を受けて2020年度の成長率見通しを大幅下方修正

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1. 2020年度の成長率見通しを大幅下方修正

当研究所では、2019年10-12月期のGDP2次速報を受けて3/9に2020・2021年度の経済見通しを発表した。しかし、3月中旬以降、欧米を中心にロックダウン(都市封鎖)などの動きが広がり、日本でも4/7に緊急事態宣言が発令されるなど、新型コロナウィルス感染症を巡る情勢が一段と深刻化したことを受け、経済見通しの改定を行った。

実質GDP成長率は2019年度が▲0.1%、2020年度が▲4.1%、2021年度が2.3%と予想する(3/9時点の見通しは2019年度:▲0.1%、2020年度:0.1%、2021年度:1.0%)。成長率の修正幅は2019年度が▲4.2%、2012年度が+1.3%ポイントである。

なお、この間に東京オリンピック・パラリンピックの開催が2020年から2021年に延期されることが決まったが、開催延期に伴う2020年度の実質GDPの押し下げ幅は▲0.1%程度(2021年度は+0.1%程度の押し上げ)で、新型コロナウィルスの感染拡大による影響に比べると小さい。
実質GDP成長率の推移(四半期)/実質GDP成長率の推移(年度)
現時点で公表されている2020年2月までの経済指標ではインバウンド関連(訪日外国人、百貨店売上高)を除き、新型コロナウィルスの影響があまり見られないが、2月末の政府の自粛要請を受けて経済活動が大幅に落ち込んでいることを反映し、3月のマインド関連指標(消費動向調査、景気ウォッチャー調査)は急速に悪化した。3月の消費関連指標は外食、旅行、その他の娯楽などサービス消費を中心に大きく減少することが見込まれ、緊急事態宣言が発令された4月には落ち込み幅がさらに拡大することは避けられないだろう。
(緊急経済対策は雇用維持、事業継続が中心)
政府は、緊急事態宣言と同時に、事業規模108.2兆円の経済対策(新型コロナウイルス感染症緊急経済対策)を閣議決定した。事業規模は過去最大であるが、財政支出はその4割弱の39.5兆円にとどまる。また、財政支出の中には、2019年12月の経済対策のうち今後効果の発現が見込まれるもの(9.8兆円)、緊急対応策第1弾・2弾(0.5兆円)、財政投融資(10.1兆円)が含まれており、2020年度補正予算(案)の規模は18.6兆円(うち一般会計16.7兆円、特別会計1.9兆円)にとどまる。
新型コロナウイルス感染症緊急経済対策の概要 経済対策の内訳をみると、中小・小規模事業者等の資金繰り対策(3.8兆円)、中小・小規模事業者等に対する給付金(2.3兆円)、減収世帯への給付金(4.0兆円)など、一般会計補正予算案の6割以上を占める10.6兆円が「雇用の維持と事業の継続」に充てられていることが特徴となっている。これらの施策による経済の押し上げ効果は限定的となるが、通常の景気悪化時とは異なり、現状は新型コロナウィルスの感染拡大防止を目的として経済活動を制限する中での経済対策であり、需要喚起策は適切とは言えない。セーフティーネットの強化に重点を置いたことは一定の評価ができるだろう。ただし、その規模については今後予想される需要の落ち込みに対して十分ではない可能性がある。経済の悪化が想定を上回るような場合には、迅速かつ大胆な追加対策を講じることが望まれる。
(2020年4-6月期は年率▲10%を超える大幅マイナス成長へ)
実質GDPは、消費税率引き上げの影響などから2019年10-12月期に前期比▲1.8%(年率▲7.1%)の大幅マイナス成長となった後、2020年1-3月期も前期比▲1.0%(年率▲4.1%)と2四半期連続のマイナス成長となることが予想される。需要項目別には、民間消費が10-12月期の前期比▲2.8%に続き同▲1.3%となり、マイナス成長の主因となるだろう。2020年1、2月の消費関連指標は消費増税後の反動減からの持ち直しを示すものが多かったが、3月の急激な落ち込みにより1-3月期が前期比でマイナスとなることは避けられないだろう。

緊急事態宣言の発令を受けて4-6月期の民間消費は前期比▲5.6%と減少ペースが大きく加速し、現行のGDP統計(1994年~)で最大の落ち込み幅となろう。当然のことながら人の移動制限は住宅投資、設備投資、輸出入にも悪影響を及ぼす。2020年4-6月期は内外需総崩れとなり、実質GDPは前期比年率▲15.3%とリーマン・ショック後の2009年1-3月期(前期比年率▲17.8%)以来の大幅マイナス成長になると予想する。

新型コロナウィルスの終息時期は不明だが、今回の見通しでは4-6月期には最悪期を脱し、7-9月期にはほぼ終息することを想定している。このため、2020年7-9月期(前期比年率5.4%)、10-12月期(同4.1%)は高めの成長となるが、4-6月期の落ち込みを取り戻すには至らないだろう。

3月の経済見通し策定時にも、新型コロナウィルス感染拡大の影響は一定程度織り込んでいたが、自粛要請が解除されれば短期間で経済活動は元の水準に戻ることを想定していた。しかし、自粛要請、緊急事態宣言に伴う経済活動の収縮が一定期間継続したことで、今回の景気悪化が不可逆的なものとなる可能性が高くなった。すなわち、東日本大震災時のような生産設備の毀損、原子力発電所事故に伴う電力不足といった供給制約はないものの、倒産、失業の大幅増加、企業収益、雇用者所得の大幅な落ち込みが不可避となったことで経済活動の基盤が損なわれ、新型コロナウィルスの終息後も経済活動が元の水準に戻ることは難しくなった。また、人々が3密(密閉空間、密集場所、密接場面)を避ける姿勢が従来よりも強くなったことで、たとえば通常のインフルエンザ流行時にも飲み会、コンサート、各種イベントが敬遠され、レジャー関連の需要が恒常的に抑制されるリスクもある。
新型コロナウィルスによる実質GDPへの影響 今回の経済見通しにおける実質GDPの水準を新型コロナウィルスの影響が限定的とみていた2/18時点の経済見通し1と比較すると、2019年度が▲1.9兆円(うち民間消費が▲0.8兆円)、2020年度が▲25.2兆円(うち民間消費が▲15.9兆円)、2021年度が▲18.4兆円(うち民間消費が▲11.4兆円)低くなっている。このほとんどが新型コロナウィルス感染拡大による影響である。
 
1 この時点では、新型コロナウィルスによる実質GDPの押し下げ幅は2020年1-3月期が▲5,640億円、4-6月期が▲560億円と試算していた
(失業率は4%近くまで上昇、失業者数は100万人以上増加)
今回の緊急経済対策は「雇用の維持と事業の継続」に重点を置いたものとなっているが、今後見込まれる経済活動の急速な落ち込みに対して十分な規模とは言えず、失業率が大幅に上昇することは避けられないだろう。

1980年以降のデータを用いて実質GDPと失業率の関係(オークンの法則)を計測すると、GDPギャップ((現実のGDP-潜在GDP)/潜在GDP)が1%拡大すると失業率ギャップ(失業率-構造失業率)が0.2%強上昇する傾向があることが確認できる。今回の見通しでは、実質GDPは2019年7-9月期から2020年4-6月期までに▲6.8%落ち込むことを想定している。実質GDPの急速な落ち込みを受けて、失業率は2019年10-12月期の2.3%から2020年10-12月期には3.9%まで上昇し、失業者数は2019年10-12月期の156万人(季節調整値)から2020年10-12月期には272万人へと100万人以上増加すると予想する。
実質GDPと失業率の関係/失業率と失業者数の見通し
雇用者報酬の予測 消費税率引き上げに新型コロナウィルス感染拡大の影響が加わったことで、2020年の春闘賃上げ率が前年を大きく下回ることが確実となったが、業績との連動性が高いボーナス(賞与)は基本給以上に厳しいものとなろう。企業収益は、海外経済の減速、消費税率引き上げの影響ですでに悪化しているが、新型コロナウィルスの影響が顕在化する2020年入り後にはリーマン・ショック時並みの落ち込みとなることが見込まれる。2019年の賞与は夏冬ともに小幅な減少にとどまったが、2020年には減少幅が大きく拡大することが予想される。

失業率の上昇に伴う雇用者数の減少、一人当たり賃金の減少から、2020年度の雇用者報酬は前年比▲1.6%と8年ぶりの減少となるだろう。緊急事態宣言、自粛要請が解除されたとしても、雇用所得環境の悪化がその後の消費の抑制要因となる可能性が高い。
(物価の見通し)
消費者物価(生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は、2020年2月時点で前年比0.6%となっているが、新型コロナウィルス感染拡大に伴う需要の急速な落ち込み、原油価格の急落を受けて、上昇率が縮小し、2020年度入り後には前年比でマイナスとなる可能性が高い。
消費者物価(生鮮食品を除く総合)の予測 その後は原油価格の動向に左右される展開が続くことが見込まれるが、今回の見通しで示したように経済活動の水準が元に戻るまでには時間がかかること、賃金の下落がサービス価格の下押し圧力となることから、基調的な物価は当面弱い状態が続くだろう。

コアCPI上昇率は2019年度が前年比0.6%(0.4%)、2020年度が同▲0.2%(▲0.3%)、2021年度が同0.5%と予想する(括弧内は、消費税率引き上げ・教育無償化の影響を除くベース)。

 
日本経済の見通し(2020/4/10 時点)
 
 

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(2020年04月10日「Weekly エコノミスト・レター」)

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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