2020年03月31日

「健康経営」はどう広められてきたか~全国紙に対する計量テキスト分析によるアプローチ

保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任 中嶋 邦夫

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子

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(2) 結びつきが強い単語
次に、それぞれの単語がどの単語と結びつきが強いか、すなわち、記事内でどの単語と同時に出現(共起)していたかを確認する。図表6の円の大きさは各単語の出現回数を示し、同一記事内で使われる回数が多い単語同士ほど、太い線で結ばれている。

その結果、健康経営に関する記事の話題が、いくつかに分類できる可能性が観察された。例えば、「健康」「社員」「会社」「取り組む」「取り組み」「始める」等が同時に使われる傾向があり、それらの記事では健康経営の推進が話題となっていた可能性が高い。また、「健康診断」「生活習慣」「結果」等が同時に使われる傾向もあり、生活習慣の見直しによる健診結果の向上が話題となっていた可能性がある。さらに、前述したように「本部長」「執行役員」「担当」「事業部」等の単語は、人事異動の記事を通じて、各社の健康経営推進体制を示す内容になっていたと思われる。その他、「健保」「医療費」では健保の取り組みと医療費の適正化が、「長時間」「労働」では働き方の見直しが、話題になっていると思われる。
図表6 単語どうしの関係(共起ネットワーク)
(3) 単語と出現時期の結びつき
続いて、それぞれの単語と記事の時期(年)との関係の強さを図表7に示す。

「健康」「会社」「社員」「健康経営」「人」などの出現回数が多かった単語は、2015年と2017~2019年にかけての複数年で多く使われていた。それら以外の、各年に特有の単語をみると、2014~2016年には「健保」「健康診断」「医療費」が多く使われており、2016年頃までは健康診断や健保の取り組み、それを通じた医療費適正化等が話題となっていた可能性がある。また、2016~2018年は「生産性」が、2019年には「働き方改革」が多く使われており、取り上げられた話題が健康の維持・向上から企業経営での活用法へと移った可能性がある。

また、2015年には「経産省」が多く使われており、「健康経営銘柄」の公表等の経産省の動きが取り上げられたことがうかがわれる。さらに、2019年には「データ」が多く使われており、2015年から始まったデータヘルス計画に関連した、健診結果やレセプト等の分析や、活動ログ等のデータを活用するサービス開発が取り上げられた可能性がある。
図表7 単語と時期(年)の関係(共起ネットワーク)
(4) 単語と新聞との結びつき
最後に、それぞれの単語と掲載された新聞との関係の強さを、図表8に示した。

日経新聞、読売新聞、朝日新聞、産経新聞は、多くの単語を共通して使っていた。4紙のいずれとも結びつきが強かった単語は「健康」「社員」「会社」であり、「健康経営」と結びつきが強かったのは朝日と日経であった。

各紙に特徴的な結びつきが強い単語を見ると、朝日は「中小企業」など、産経は「経産省」など、日経は「生産性」「時間」など、読売は「健康診断」など、であった。毎日新聞はこれら4紙と共通する単語が少なく、「労働」「長時間」「仕事」などの働き方に関する単語との結びつきが強かった。
図表8 単語と新聞の関係(共起ネットワーク)

5 ―― まとめ

5 ―― まとめ

前節の分析結果から、「健康経営」に関する全国紙の記事には、(1)2013年頃から各紙が取り上げ始め、2015年の「健康経営銘柄」の選定を契機に件数が増えた、(2) 2016年頃までは健康診断や医療費など健康に関係する記事が多かったが、近年は生産性や働き方など経営に関係する記事が多くなっている、(3) 2018年以降は「健康経営」に関する記事数が頭打ちになっている、(4) 日経新聞では年間30件ほど扱われているが、他紙では10~20件程度にとどまる、という傾向が見られた。

近年はやや減少傾向にあるものの、2014年までと比べれば「健康経営」に関する記事は一定程度掲載されている状態にある。今後の継続的な掲載で、企業が従業員の健康を重視していることが従業員やその家族に広まり、健康状態の維持・向上に繋がることを期待したい。
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保険研究部

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

保険研究部

村松 容子 (むらまつ ようこ)

(2020年03月31日「基礎研レポート」)

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