2020年03月24日

金融・経済危機に強い資産運用を考える-連動性の強まる金融市場でのオルタナティブ資産の活用

金融研究部 准主任研究員・ESG推進室兼任 原田 哲志

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1――連動性の強まる金融市場

新型コロナウイルスなどによる不透明な市場環境を受けて、2020年初来の各国の株式市場は軒並み下落した。2月末時点で、TOPIXは▲12.2%、FTSE100(英)は▲12.8%、NYダウ(米)は▲11.0%、DAX(独)は▲10.3%、ボベスパ指数(伯)は▲9.9%、KOSPI(韓)は▲9.6%、香港ハンセン指数(香港)は▲7.3%、SENSEX(印)は▲7.2%、上海/シンセンCSI300(中)は▲3.8%、ASX200(豪)は▲3.6%下落している(図表1)。また、図表2は国内株式と外国株式のリターンの相関の推移を示している。これを見ると、2008年のリーマンショック以前は両者の相関係数は概ね0.5以下で推移していたが、リーマンショック以降は両者の相関係数は0.6~0.9程度と強く連動していることが分かる。

現在の金融市場は、経済や投資資金の結びつきが強まったことによって、国・地域間の連動性が強まっている。国・地域の分散によって、金融・経済危機から自身の資産の価値を守るのは難しいと言えそうだ。

それでは、どのようにして自身の資産を守り、形成していけばよいだろうか。これには、先物やオプションの活用、キャッシュ(現金)の保有など様々な方法が考えられるが、本稿では、資産運用の基本となる分散投資効果の活用について、改めて検証したい。
図表1 主要国株式市場の2020年初来騰落率(2020年2月末時点 現地通貨ベース)/図表2 国内株式と外国株式のリターンの相関の推移

2――分散投資の類型

2――分散投資の類型

分散投資効果はいくつかの側面に大きく分けることができる。上述の(1)国・地域の分散に加えて、(2)時間の分散、(3)資産の性質の分散が挙げられる。

国・地域の分散は、異なる国・地域の資産を組み合わせることで得られる分散投資効果である。異なる国・地域の経済や金融の状況は異なっており、複数の国・地域の資産を保有することでリスクを軽減できる。しかしながら、上述の通り現在では国・地域間の経済、金融市場の連動性が強まっており、国・地域の分散投資効果は弱まっている。

時間的な分散は、一度に多額の投資を行うのではなく、時間をずらして少しずつ少額を投資する方法である。投資期間中は対象資産の価格が高い時と低い時があるが、時間的な分散を行うことで、取得価格を平準化できる。定期的に一定金額を投資していく手法を「ドルコスト平均法」という。

資産の性質による分散は、株式や債券など異なる性質を持つ資産に投資することで得られる分散投資効果である。これらの資産は、同じ状況下でも異なる値動きをする。これにより、特定の資産の値下がりを、他の資産の値上がりで補完できる場合がある。本稿では、主に③資産の性質の分散について見ていきたい。

図表3は国内株式と各資産のリターンの相関の推移を示している。これを見ると、国内株式と外国株式、国内株式と外国債券のリターンの相関は2008年のリーマンショック以降0.5~0.9程度の高い水準で推移している。外国債券のリターンには為替相場の変動が大きく影響する。一般的に、リスクオフの局面では、円は米ドルなどに対して高くなる傾向がある。このため、リスクオフ局面では、外国債券は円ベースでは、下落する傾向がある。

一方で、国内株式と国内債券のリターンの相関は▲0.7~0程度と、概ね負の相関が続いている。国内株式と金のリターンの相関は▲0.5~0.5程度、国内株式とJREITのリターンの相関は▲0.2~0.8程度で推移している。

国内株式と外国株式といった国・地域の分散効果が薄い一方で、株式と債券、金といった資産の性質の分散は概ね効果的な状況が継続している。このため、現在の金融市場においては、資産の性質の分散を効果的に活用することが重要となっていると言えそうだ。
図表3 国内株式と各種資産間のリターンの相関の推移

3――オルタナティブ資産の活用

3――オルタナティブ資産の活用

このような、伝統的資産とリターンの相関が低い資産としては、金や不動産といった「オルタナティブ資産」が存在する。オルタナティブ資産とは、上場株式や債券といった伝統的資産と呼ばれるもの以外の投資対象を指す。オルタナティブ(alternative)は直訳すると「代替の」「代わりの」という意味を表す。

オルタナティブ資産には金や原油などのコモディティ、不動産、優先証券、ヘッジファンドなど様々な資産や投資手法が存在する。オルタナティブ資産は、株式などが下落する局面でも収益を獲得できる機会を得られる、伝統的資産との分散投資効果を得られるといったメリットがある。その一方で、ヘッジファンドなどのように運用内容が複雑で分かりづらいものや流動性が低いものもある。

オルタナティブ資産の中で、個人が投資しやすいものとしては、金投資信託やREIT(英: real estate investment trust、リート 不動産投資信託)が挙げられる1。これらは、株式などと同様に証券会社などで買い付けることができ、購入後も株式などと同様に、証券口座で保有資産を管理することができる。
 
1 金への投資には、金投資信託や金地金などいくつかの方法がある。詳細については下記を参照されたい。
原田 哲志 『金への各種投資方法と注意点-基本的な仕組みについて
ニッセイ基礎研究所、研究員の眼、2020年3月6日
 

4――オルタナティブ資産の組み入れによるパフォーマンス改善の試算

4――オルタナティブ資産の組み入れによるパフォーマンス改善の試算

それでは、オルタナティブ資産をポートフォリオに組み入れた場合、どの程度パフォーマンスを改善できるだろうか。伝統的四資産(内外株式・債券)に金やJREITを組み合わせた場合のパフォーマンスを検証する。

図表4は内外株式・債券と金、JREITを均等に組み入れたポートフォリオ(六資産均等配分)のリターンの推移を示している。これを見ると、六資産均等配分のリターン(年率換算)は+4.4%、リスクは10.4%、最大ドローダウン2は▲36.3%、シャープレシオは0.41、分散投資効果3は0.28となっている。

参考に、内外株式・債券を均等に組み入れたポートフォリオ(四資産均等配分)のリターンは+3.3%、リスクは10.8%、最大ドローダウンは▲36.9%、シャープレシオは0.29、分散投資効果は0.13となっている。

六資産均等配分は、四資産均等配分と比べて、リターンが1.1%、シャープレシオは0.12、分散投資効果は0.15改善した。しかし、六資産均等配分のリスクや最大ドローダウンは四資産均等配分と同程度となっている。これは、六資産均等配分では、リスクの低い国内債券の比率が減少し、比較的リスクの高い金、JREITが加わり、組入資産のリスクが全体的に上昇したことによる。
図表4 オルタナティブ資産を組み入れたポートフォリオのパフォーマンス試算(2006年12月末=100)
次に、均等配分よりも、リスクを抑えた資産配分および運用について試算したい。筆者は『分散投資効果の計測とパフォーマンス改善の検証』ニッセイ基礎研究所、基礎研レター、2020年2月14日にて、分散投資効果を最大化する資産配分について述べた。分散投資効果の最大化による資産配分は、簡単にいうと、毎月、各時点での各資産の月次リターンのリスクと相関のデータをもとに、機械的な最適化により、分散投資効果指標(3ページ脚注参照)を最大化する資産配分を求め、翌月の資産配分に適用している。分散投資効果を高めることは、ポートフォリオのリスクを抑制し、投資効率性を高めることにつながる。

図表5、6は分散投資効果を最大化する手法を用いて、ポートフォリオのリスクを仮に4%とする制約の下でポートフォリオを構築、パフォーマンスを試算したものである。

これを見ると、六資産(内外株式・債券、金、JREIT)分散投資効果最大化配分のリターン(年率換算)は+3.3%、リスクは4.0%、最大ドローダウンは▲12.9%、シャープレシオ0.78は、分散投資効果は0.44となっている。
 
図表5 六資産(内外株式・債券、金、JREIT)分散投資効果最大化配分のパフォーマンス試算(2006年12月末=100)
図表6 分散投資効果を最大化する資産配分比率の推移
図表7は各資産のリターンの推移を示している。これを見ると、リーマンショックの際、内外株式やJREITは大きく下落したが、金は小幅な下落にとどまった。

国内債券は、2016年までは、プラスのリターンが続いていたが、それ以降は横ばいとなっている。これは、日本の10年国債の利回りは2016年2月にゼロを下回り、その後はゼロ近辺での推移が続いているためである。金利低下の余地が少なくなった現在では、国内債券は以前のような収益獲得は見込みづらい可能性がある。国内債券を別の資産に置き換えることも考えられるが、これについては、別の機会に検討したい。

その後2019年には、国内株式が伸び悩む一方で、JREITは+25.6%と大きく上昇し、ポートフォリオのリターンにプラス寄与した。

このように過去のリターンによる試算では、六資産分散投資効果最大化配分は、四資産均等配分と同等のリターンを獲得しつつ、リスクを抑制することができた。最大ドローダウンは四資産均等配分の▲36.9%から、▲12.9%に縮小しており、リーマンショックのような金融・経済危機時においても、損失を抑制できた。

オルタナティブ資産の組入による分散投資効果を活用して、最大ドローダウンを抑制しつつ、より安定して収益を獲得できる可能性が示された。
図表7 内外株式・債券、金、JREITのリターン推移(2006年12月末=100)
 
2 ドローダウンとは、累積リターンが過去最大の時点からの下落率を表す。対象とする期間中の最も大きなドローダウンを最大ドローダウンという。
3 分散投資効果とは、値動きの異なる複数の資産に投資することで、ポートフォリオ全体のリターンの変動を低減する効果を言う。本稿では、下記の指標を用いて分散投資効果を計測する。
 

5――まとめ

5――まとめ

現在の金融市場では、国・地域間の連動性が強まり、国内株式と外国株式といった国・地域の分散投資効果は弱まっている。

各資産の過去のリターンを用いた試算では、伝統的四資産均等配分では分散投資効果を効果的に得ることはできなかった。株式や債券といった伝統的資産のみで、資産を守り、形成していくことは難しいかもしれない。

このような状況の中で、オルタナティブ資産をポートフォリオに組み入れることで、分散投資効果を高め、金融・経済危機の影響を抑制できる可能性がある。各資産の過去のリターンを用いた試算では分散投資効果の向上や、リーマンショック時の損失を大幅に低減することができた。

オルタナティブ資産は多岐にわたり、内容が複雑なものもある。このため、投資対象の性質を十分に理解し、流動性や透明性にも注意する必要がある。しかしながら、効果的にポートフォリオに組み入れることで、金融・経済危機の影響を低減することができる可能性がある。オルタナティブ資産を効果的に活用することで、自身の資産を金融・経済危機から守り、長期的により安全に形成していくことも検討に値すると思われる。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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金融研究部   准主任研究員・ESG推進室兼任

原田 哲志 (はらだ さとし)

研究・専門分野
資産運用、オルタナティブ投資

経歴
  • 【職歴】
    2008年 大和証券SMBC(現大和証券)入社
         大和証券投資信託委託株式会社、株式会社大和ファンド・コンサルティングを経て
    2019年 ニッセイ基礎研究所(現職)

    【加入団体等】
     ・公益社団法人 日本証券アナリスト協会 検定会員
     ・修士(工学)

(2020年03月24日「基礎研レポート」)

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