2020年03月12日

生産緑地への農業法人参入の可能性

社会研究部 都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任 塩澤 誠一郎

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1――はじめに

都市農地の貸借の円滑化に関する法律(都市農地貸借法)の施行(2018年9月)により、それまで実質的に困難であった生産緑地の貸借が可能になった。以降、新規就農者、民間企業、NPO法人などがこの法律を活用して、生産緑地を貸借する事例が徐々に聞こえてくるようになっている1

生産緑地とは、市街化区域内農地のうち、生産緑地法に基づき要件が規定され、都市計画で指定された地区の農地である。30年間営農以外の行為が制限される代わりに、固定資産税の宅地並み課税や相続税納税猶予制度が適用される。

以前のレポート2でも指摘したとおり、そもそも都市農地貸借法制定の前に、都市農業振興基本計画3の中で農地の貸借を通じて、新たな担い手となる主体を想定しておいる。同レポートでは、この記載と認定事業計画に基づく貸付4の認定要件に照らして、農業法人が6次産業化や研究開発の目的で都市農地貸借法を活用するであろうと想定した。

実際のところ農業法人の需要はどの程度あるだろうか?ニッセイ基礎研究所では、2018年に、「公益社団法人 日本農業法人協会」(以下、協会)5の協力を得て、同協会会員法人を対象にアンケート調査を実施した。ここではその結果を紹介し、生産緑地を活用した都市農業への農業法人参入の可能性を考察したい。

調査結果を紹介する前に、農業法人とは何かを確認しよう。農林水産省の解説では、農業法人とは、農業を営む法人の総称とある6。つまり、法人の形態を問わず、水稲、園芸、畜産などの農業を営んでいる法人を農業法人と呼称していることになる。

その上で、農業法人は、一般法人と「農事組合法人」とに分けられる。「農事組合法人」とは、農業協同組合法(農協法)に基づき、組合員の農業生産についての協業を図ることによりその共同の利益を増進することを目的に設立される法人である7。組合員とは原則として農家であることから、農家同士が協業して農業生産を行うための法人になる。

農林水産省の調べによると、農事組合法人は、2018年時点で、9,416あり8、農業を営む一般法人は、3,286ある。一般法人の内、株式会社が約64%、NPO法人等が約24%、特例有限会社が約12%となっている。
 
1 例えば、メディアの報道では次のようなものがある。「都市農地に新規就農者 新法後押し、借りやすく付加価値⾼い⻘果を供給2018/10/16 ⽇本経済新聞」、「TOKAIホールディングス---菜園サポート付き都市農園サービス「みんなのはたけ」を開園2018/11/21 FISCO」、「⺠間企業初、農地を借りて農園運営 アグリメディア、新法施⾏で開設2018.12.3 SankeiBiz」、「はたけんぼ農園拡大の見込み2019.1.31 NPO法人くにたち農園の会理事長 株式会社農天気代表取締役 小野淳氏FB」
2生産緑地を借りるのは誰?都市農地の貸借円滑化法施行の効果と課題(その2)」2019-02-27
3 都市農業振興基本法に基づき、都市農業の振興に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るために政府が定める計画。2016年閣議決定。都市農地貸借法も、計画に基づき整備された。
4 都市農地貸借法による2つの生産緑地貸借スキームのうちの一つ。生産緑地を借りて自ら耕作事業を行おうとする場合に用いるもので、賃借人が事業計画を作成し、当該市区町村がそれを認定することで貸借が成立する。認定には6つの要件をすべて満たすことが求められる。詳しくは(2)を参照。
5 東京都千代田区
6 農林水産省ウェブサイト https://www.maff.go.jp/j/kobetu_ninaite/n_seido/seido_houzin.html
7 農業協同組合法第72条の4
8 「平成30年度農業協同組合等現在数統計」農林水産省 2018年3月末時点。
 

2――調査結果

2――調査結果

1|調査概要
アンケート調査は、調査時点で協会に加盟する1,822の全会員法人に、協会からファックスで調査票を送付し、ニッセイ基礎研究所宛にファックスもしくはメールで返送する方式で実施した。その結果、145件の回答を得た。回収率は約8%である。(図表1)
図表1 調査概要
2|回答法人属性
回答した145の法人が所在する都道府県を見ると、上位3県が熊本県、宮城県、新潟県で、それぞれ、11件、10件、9件となっている。地域的にみると、関東から北に多い。また、生産緑地が多く存在する三大都市圏は少なく、回答なしの都県もある。(図表2)
図表2 回答法人の都道府県別件数
図表3 回答法人の基本属性 法人の基本属性を見ると、法人形態では、「株式会社」が39.3%、「特例有限会社」が33.8%、「農事組合法人」が21.4%の順で割合が高い。

従業員数では、「1~4人」が41.4%、「5~9人」が17.2%、「10~19人」が11.7%で、1~20人未満が全体の7割を占める。

直近決算における売上高では、「1~3億円未満」が29.7%、「5,000~1億円未満」が27.6%、「5,000万円未満」が15.2%と、3億円未満が7割以上となっている。

主たる事業内容では、「生産・直売・加工」が33.8%、「生産・直売」が32.4%、「生産のみ」が23.4%、「生産・直売・加工・観光」が7.6%の順で割合が高い。(以上図表3)







 

3――生産緑地の農業経営に関する意向

3――生産緑地の農業経営に関する意向

次に、生産緑地に関する調査結果を見てみたい。設問は次の2点である9

問1-1 生産緑地地区の農地を借りた農業経営についての意向
問1-2 意向ありの法人に対し、経営内容についての意向
 
9 アンケート調査は、事業承継に関する設問が主で、その中に当該設問を設けて実施している。
1|生産緑地を借りた農業経営についての意向
<全体の約17%が関心あり>
生産緑地地区の農地を借りた農地経営について、「既に貸借を検討している」法人が5.5%(8件)、「今後貸借の可能性を検討する予定」が11.0%(16件)で、全体の約17%(24件)が生産緑地の貸借による農業経営に関心を持っている。

これに対し、「貸借するつもりはない」は42.1%(61件)、「わからない」は35.2%(51件)である。(図表4)
図表4 生産緑地を借りた農業経営についての意向(問1-1)
<比較的小規模法人の関心が高い>
「既に貸借を検討している」、「今後貸借の可能性を検討する予定」と回答した法人を属性別に見ると、法人形態では株式会社が16件で最も多くなっている。正社員数では、「1~4人」が13件、「5~9人」が8件の順で多く、売上高では、「5,000~1億円未満」が9件でもっと多い。比較的事業規模の小さい農業法人が、生産緑地での経営に関心を示していることが読み取れる。(図表5-1、5-2、5-3)
図表5-1 法人形態別意向/図表5-2 正社員数別意向
主たる事業内容では、「生産・直売・加工」が10件で最も多く、「生産・直売・加工・観光」の3件を含めて見ると、生産と直売だけでなく、加工製品販売までを手がける法人の注目度が高いと感じられる。(図表5-4)
図表5-3 売上高別意向/図表5-4 主たる事業内容別意向
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社会研究部   都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任

塩澤 誠一郎 (しおざわ せいいちろう)

研究・専門分野
都市・地域計画、土地・住宅政策、文化施設開発

経歴
  • 【職歴】
     1994年 (株)住宅・都市問題研究所入社
     2004年 ニッセイ基礎研究所
     2020年より現職
     ・技術士(建設部門、都市及び地方計画)

    【加入団体等】
     ・我孫子市都市計画審議会委員
     ・日本建築学会
     ・日本都市計画学会

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