2020年03月02日

医師偏在是正に向けた2つの計画はどこまで有効か(下)-外来機能で初の計画導入、開業規制との批判、問われる実効性

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任   三原 岳

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1――はじめに~外来医療計画はどこまで有効か~

医師偏在の解消に向けて、都道府県による「医師確保計画」「外来医療計画」の策定が進んでいる。2つの計画を考察する2回シリーズのうち、(下)では外来医療計画を取り上げる。この計画はデータを通じて医師の偏在を巡る現状を可視化するとともに、民間医療機関など関係者との合意形成を図りつつ、外来機能の偏在是正を目指している。具体的には、医師が多い地域で開業を目指す医師に対し、在宅医療など不足している外来機能を担うように「自主的な行動変容」を促すとともに、MRIなど医療機器の共同利用を図ることも盛り込んでいる。

(下)では厚生労働省が各都道府県に示したガイドラインを基に、外来医療計画の基本的な考え方を考察する。その上で、外来機能や医療機器に関して計画行政が初めて採用された点に触れる。しかし、民間中心の提供体制の下、合意形成や自主的な対応を期待せざるを得ない点で、実効性が問われる可能性を論じる。
 

2――外来医療計画とは何か

2――外来医療計画とは何か

1計画の目的
まず、外来医療計画の目的や概要を考える。医師の偏在を是正するため、2018年の通常国会では表1の通り、医療法など関連法が改正されており、(上)で述べた医師確保計画は(1)~(3)、今回のテーマである外来医療計画は(4)に該当する。外来医療計画の詳細については、厚生労働省は2019年3月に「外来医療に係る医療提供体制の確保に関するガイドライン」(以下、ガイドライン)を計画策定主体である各都道府県に通知しており、以下はガイドラインを基に議論を進める。

ガイドラインは外来医療計画の目的として、「地域で中心的に外来医療を担う無床診療所の開設状況が都市部に偏っている」「診療所における診療科の専門分化が進んでいる」「救急医療提供体制の構築、グループ診療の実施、放射線装置の共同利用等の医療機関の連携の取組が、地域で個々の医療機関の自主的な取組に委ねられている」と指摘した。その上で、地域ごとに外来医療機能に関する現状の可視化を通じて、「個々の医師の行動変容」を促すことで、偏在是正に繋げていくとしている。
表1:医師偏在是正に関して、2018年通常国会で成立した関連法の内容
2外来医療計画を理解する2つのキーワード
外来医療計画を理解する上では、「外来医師偏在指標」「外来医師多数区域」の2つがキーワードとなる。

このうち、「外来医師偏在指標」は外来の偏在を可視化するのが目的であり、表2のような数式で計算される。具体的には、(上)で述べた医師確保計画と同様、(1)医療需要、人口・人口構成と変化、(2)患者の流出入、(3)へき地などの地理的条件、(4)医師の性別・年齢分布、(5)医師偏在の種別(区域、入院/外来)――の5つを考慮する。なお、(3)の地理的条件について、ガイドラインは地理的条件を考慮せず、「へき地等における外来医療に係る医療提供体制の確保については医師確保計画の中で対応する」と定めている。さらに(5)については、「外来医療機能の多くは診療所で提供されていることから、外来医師偏在指標は診療所の医師数をベースとする」としている。

その上で、こうした指標をベースに、都道府県は人口20~30万人を基本とする2次医療圏の現状を可視化し、上位33.3%に該当する2次医療圏を「外来医師多数区域」に指定する。この外来医師多数区域が外来医療計画を進める上でのターゲットとなる。
表2:外来医師偏在指標の計算式の概要
3外来医療計画で想定されている施策
では、外来医師多数区域をターゲットにして、どのような施策が想定されているのだろうか。日本は民間中心の提供体制であり、国や都道府県が民間医療機関に対して、ダイレクトに命令することは想定されていない。

具体的には、ガイドラインでは外来医療の提供体制について、全ての2次医療圏で偏在が進まないように、「新規開業希望者の自主的な行動変容が求められる」「外来医師多数区域においては、新規開業者に対して、地域で不足する外来医療機能を求める」としており、「地域で不足する外来医療機能」の一例として、(1)夜間や休日における地域の初期救急医療、(2)在宅医療、(3)産業医、学校医、予防接種などの公衆衛生――を示している。

つまり、外来医師多数区域を対象に、新規開業者に対して情報を提供し、不足する外来医療機能を提供しない新規開業者については、自主的な行動変容を求めるとしている。さらにガイドラインでは、都道府県が以下のような場面で自主的な対応を促すとしている。
 
  • 事前相談の機会や新規開業者が届出様式を入手する機会など、開業する前の段階で、開業する場所が外来医師多数区域に属することを情報提供する。
  • 新規開業者の届出様式には地域で不足する外来医療機能を担うことに合意する旨の記載欄を設け、協議の場において合意の状況を確認する。
  • 新規開業者が地域で不足する外来医療機能を担うことを拒否する場合などには、臨時に協議の場を開催し、出席要請を行う。
  • 合意に至らない場合、臨時の協議の場を開催し、主な構成員と出席要請を受けた新規開業者などの間で協議を行い、その結果を公表する。
 
ここで言う協議の場とは、都道府県や地元医師会などの関係者で構成する場を指しており、ガイドラインでは地域医療構想調整会議を活用することが可能であると注記している。地域医療構想や地域医療構想調整会議の詳細については、地域医療構想と外来医療計画を比較する際に後述する。

こうした内容を盛り込んだ外来医療計画を各都道府県は医療計画1 の一部として2019年度中に策定し、2023年度まで施策を進める。2024年度以降については、次期医療計画の中で外来の医師偏在是正に努めることとなる。
 
1 病床過剰地域における病床数の上限設定などを目的に創設された制度。都道府県が6年に一回、改定する。2017年3月までに出揃った地域医療構想も、(上)で述べた医師確保計画も医療計画の一部として作られた。
 

3――外来医師偏在指標に基づく外来医師多数区域の状況

3――外来医師偏在指標に基づく外来医師多数区域の状況

では、実際に外来医師偏在指標を基に、どのような形で外来医師多数区域が設定されるのだろうか。厚生労働省は2019年3月、2次医療圏ごとに暫定的な数値を公表2しており、イメージを掴むために都道府県別の状況を模索してみよう。
図1:都道府県別で見た外来医師多数区域数 暫定値によると、外来医師多数区域は335区域に及ぶ2次医療圏のうち112区域になり、都道府県別では東京都が9区域と最多となった。2位以下は福岡県の8区域、大阪府と和歌山県の6区域、群馬県と広島県が5区域という順だった。

一方、青森県、岩手県、秋田県、茨城県、新潟県の5県がゼロであり、全体として「西高東低」の傾向が見て取れた。

しかし、外来偏在指標は相対的かつ機械的な線引きであり、へき地などにおける外来医療機能の確保は医師確保計画の中で対応する分、外来医師偏在指標の算定に当たっては考慮しないとしている。このため、個別に見ると、東京都では島しょ区域が、人口減少が進んでいる鳥取県では3つに区分される2次医療圏の全てが外来医師多数区域に該当するなど、実際の感覚とは違う結果も示されている。
 
2 2019年3月22日、第7回医療従事者の需給に関する検討会第30回医師需給分科会資料。
 

4――医療機器の効率的な利用に向けた計画

4――医療機器の効率的な利用に向けた計画

ガイドラインでは、MRIやCTといった高額な医療機器の効率的な利用について計画を策定する方針も定められている。具体的には、「人口減少が見込まれ、効率的な医療提供体制を構築する必要がある中、医療機器についても効率的に活用できるよう対応を行う必要がある」と強調。さらにMRIやCTなど高額医療機器の配置状況を示す指標を作成・公表する必要性を示すとともに、これらの機器を有する医療機関を地図情報に落とし込むことで、地域の現状を可視化するとした。
表3:医療機器の配置状況に関する指標の計算方法 こうした指標の計算方法は表3の通りである。つまり、地域ごとの性・年齢別人口を加味した標準的な検査率と医療機器の台数を比較することで、医療機器の過剰または過小ぶりを可視化することに主眼を置いており、計算方法の考え方や構造は医師確保計画、外来医療計画と同じである。計画の対象となる医療機器としては、MRI、CT、放射線治療、PET(陽電子放出断層撮影)、マンモグラフィの5種類を挙げている。

さらに、既存の医療機器に関する共同利用と効率的な利用を促すため、医療機器の購入を検討している医療機関に対し、こうした指標をベースにしつつ、共同利用に向けた協議を求めるとしている。さらに、ガイドラインは医療機器の共同利用を行わない場合、外来医療に関する協議の場などを開催し、医療機器の購入希望者に対して共同利用しない理由も確認するとしている。

その意味では、医師確保計画や外来医療計画と同様に、偏在指標をベースにした合意形成に力点を置く進め方は共通している。ただ、医師確保計画の場合は「医師多数区域」、外来医療計画の場合は「外来医師多数区域」といった形で、過剰な地域を明示する方法を採用しているのに対し、医療機器については偏在指標を基にした「多数区域」を設定することは想定されていない。

では、こうしたガイドラインをベースにして、どういった外来医療計画が作られようとしているのだろうか。暫定値の時点で最も外来医師多数区域が多い東京都の計画素案(2020年1月時点)を基に考えてみよう。
 

5――外来医療計画のイメージ~東京都の素案~

5――外来医療計画のイメージ~東京都の素案~

東京都の計画素案では、2次医療圏と同じ13区域を設定した上で、国が示している外来医師偏在指標に基づき、9つの2次医療圏を外来医師多数区域に指定した。

この結果、ガイドラインに基づくと、外来偏在是正の対策は外来医師多数区域で実施されることになるが、東京都の計画素案は全ての2次医療圏を対象に、偏在是正の取り組みと規定。新たに開業する医師に対し、「地域の外来医療機能の状況を理解し、必要に応じて地域医療へ協力していくこと」を求めるとしている。

その上で、診療所の新規開業に関する手続きに合わせて、(1)診療所開設届の様式を掲載するホームページや窓口などで本計画について情報提供し、診療所の新規開業希望者が地域の外来医療機能の情報を得られるようにする、(2)診療所の新規開業手続きに合わせて、「地域の外来医療機能の状況を理解し、必要に応じて地域医療へ協力していくこと」についての合意を確認する様式により、合意の有無を確認する――という手続きを取ると定めている。

さらに、こうした合意形成のプロセスについては、地域医療構想調整会議を使うと規定しつつ、「外来医療機能の不足・偏在への対応に関する事項について協議を行い、その結果を取りまとめて公表する」「外来医師多数区域では、合意がない新規開業者に対し、地域医療構想調整会議への出席要請を行い、協議を行う」と定めた。こうしたプロセスはガイドラインをほぼ踏襲している形だ。

なお、島しょ区域が外来医師多数区域に含まれた点に関しては、「本数値はあくまで機械的に算出された相対的な数値」「必ずしも実態を反映しない」である点を付記している。
表4:東京都の2次医療圏ごとに見た調整人口当たりの台数の状況 一方、医療機器の共同利用に関しては、現在の配備状況について、国の示した指標の計算式に基づいて表4のような数値を掲載した。その上で、全ての2次医療圏で医療機器に関する「共同利用方針」を定めるとし、ガイドラインで挙げた5種類の医療機器について、連携する医療機関との共同利用を促すとしている。さらに、共同利用を行わない場合、その理由を調整会議で確認するとしている。

では、こうした外来医療計画の仕組みはどう評価されるべきだろうか。以下、(1)医師確保計画、地域医療構想との比較、(2)医療行政の都道府県化との関係、(3)医療機器に関して計画行政を採用した意義――の3点について、その意味合いを考察してみる。
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

三原 岳 (みはら たかし)

研究・専門分野
医療・介護・福祉、政策過程論

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