2020年02月07日

ケアマネジャーは何を担う職種なのか-地域共生社会とリンクさせて再考する

基礎研REPORT(冊子版)2月号[vol.275]

保険研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 三原 岳

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1―はじめに~ケアマネとは何を担う職種か~

2000年に介護保険制度がスタートして今年で20年になる。当時、制度の中核になると見られていたのがケアマネジャー(介護支援専門員)だった。ここでは昨秋に公表された調査を基に、ケアマネジャーという専門職の役割を再考する。

2―期待されるソーシャルワーク

最初に「ケアマネジャーとは、何を担う職種なのか?」という問いを発すると、どう答えるだろうか、恐らく多くの人が「要介護認定を受けた高齢者に介護保険サービスを仲介する専門職」と答えるだろう。実際、ケアマネジャーが担うケアマネジメントでは、利用者の状態を把握するアセスメントなどと並んで、ケアプラン(介護サービス計画)の作成が中核業務の一つとなっており、介護保険サービスの仲介は重要な業務だ。
 
ただ、この答えは間違いと言えなくもない。ケアプランに盛り込まれる支援は本来、介護保険サービスに限定されていないためだ。例えば、認知症の高齢者に対するケアプランの場合、訪問介護などのサービス仲介は重要な仕事だが、その高齢者が若かった頃、民謡を趣味としていたのであれば、民謡を歌えるサークルを紹介すれば、その高齢者にとっては楽しく外出できる機会になり、生活の満足度が高まるかもしれない。さらに、その分だけ介護保険サービスを使わずに済めば、給付抑制にも繋がる。
 
つまり、自治体の福祉サービスや公民館や図書館、老人クラブなど幅広い選択肢研究員の眼を射程に入れつつ、支援策を考えることが求められる。これはいわゆる「ソーシャルワーク」と呼ばれる手法である。

3―無駄と分かりつつ、介護保険サービスを入れている実態

ただ、こうした視点は現在の介護保険制度で十分、反映されていない。むしろ、1つでも介護保険サービスをケアプランに組み込まないと、ケアマネジャーは介護報酬を受け取れない。その結果、ケアマネジメントも、ケアマネジャーも介護保険制度の枠内に事実上、囚われていると言える。
 
先の認知症になった高齢者の例で言えば、民謡サークルの日程を入れつつ、社会福祉協議会のボランティアや民間企業の配食サービスなどをケアプランに組み込んでも、ケアマネジャーは対価を受け取れない。現行制度は「1つでも介護保険サービスをケアプランに入れる」という行動を生みやすくなっている。
不要なサービスをケアプランに入れた占率
こうした実態が昨秋に公表された医療経済研究機構の「ケアマネジメントの公正中立性を確保するための取組や質に関する指標のあり方に関する調査研究事業」調査で明らかになった。調査では「本来であればフォーマルサービスは不要と考えていたが、介護報酬算定のため、必要のない福祉用具貸与等によりプランを作成した」という経験の有無を尋ねる設問があり、表の通り、回答者本人に経験ありと答えた人は3.1%、周囲のケアマネジャーが同様の経験をしたという話を耳にした人は16.8%に及んだ(「よくある」「ときどきある」の合計)。
 

4―地域共生社会での期待

こうした制度の不備は「地域共生社会」に逆行する。地域共生社会は高齢者、障害者など制度の縦割りを超えた支援を目指しており、2019年12月公表の検討会報告書では「包括的支援」「多様な参加」「地域づくり」などがキーワードとなっている。ここで求められるのはソーシャルワークの発想である。
 
ただ、介護保険に限らず、日本の社会保障制度はソーシャルワークを十分に制度化できていない。2021年度の介護保険制度改正に向けた昨年末までの論議でケアプラン有料化の是非が取り沙汰された時も、こうした視点は考慮されなかった。結局、ケアプラン有料化は見送られたが、ソーシャルワークの機能を有するケアマネジャーの活用を視野に入れつつ、地域共生社会の議論と整合させる必要がある。
 
 
※本稿は2019年11月25日掲載のコラムを再構成している。
 https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=63066?site=nli
※紙幅の都合上、筆者が考える制度改正の方向性には触れられないため、詳細は拙稿2019年9月6日「ケアプランの有料化で質は向上するのか」を参照。
 https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=62450?site=nli
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保険研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

三原 岳 (みはら たかし)

研究・専門分野
医療・介護・福祉、政策過程論

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     1995年4月~ 時事通信社
     2011年4月~ 東京財団研究員
     2017年10月~ ニッセイ基礎研究所
     2023年7月から現職

    【加入団体等】
    ・社会政策学会
    ・日本財政学会
    ・日本地方財政学会
    ・自治体学会
    ・日本ケアマネジメント学会

    【講演等】
    ・経団連、経済同友会、日本商工会議所、財政制度等審議会、日本医師会、連合など多数
    ・藤田医科大学を中心とする厚生労働省の市町村人材育成プログラムの講師(2020年度~)

    【主な著書・寄稿など】
    ・『必携自治体職員ハンドブック』公職研(2021年5月、共著)
    ・『地域医療は再生するか』医薬経済社(2020年11月)
    ・『医薬経済』に『現場が望む社会保障制度』を連載中(毎月)
    ・「障害者政策の変容と差別解消法の意義」「合理的配慮の考え方と決定過程」日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク編『トピック別 聴覚障害学生支援ガイド』(2017年3月、共著)
    ・「介護報酬複雑化の過程と問題点」『社会政策』(通巻第20号、2015年7月)ほか多数

(2020年02月07日「基礎研マンスリー」)

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