2020年01月31日

良好な環境が継続するとの見方が増加~価格のピークは今年が最多。データセンターや海外不動産にも期待~第16回不動産市況アンケート結果

金融研究部 主任研究員 吉田 資

文字サイズ

(2) 回調査との比較 [期待が高まった(後退した)投資セクター]
前回調査から回答割合が10%以上増加した投資セクター(期待が高まった投資セクター)は、「物流施設」(39%→56%)、「オフィスビル」(36%→53%)、「賃貸マンション」(10%→22%)であった(図表-5)。

「賃貸マンション」に関して、東京23区のマンション賃料は上昇基調を維持している。アットホーム・三井住友トラスト基礎研究所「マンション賃料インデックス」によれば、2019年第3四半期の東京23区のマンション賃料は前年比でシングルタイプが4.3%、コンパクトタイプが5.4%、ファミリータイプが2.5%上昇した。継続的な人口流入を背景に東京の賃貸マンション需要は底堅く推移していることから、投資家の関心が高まっていると推察される。

一方、前回調査から回答割合が10%以上減少した投資セクター(期待が後退した投資セクター)は、「ホテル」(50%→17%)と「インフラ施設(空港、上下水道施設など)」(29%→15%)であった(図表-5)。

「ホテル」は、前回調査で価格上昇等が期待されるセクターの第1位であった。日本政府観光局によれば、2019年の年間訪日外国人数は3,188万人(前年比2.2%)となり、8年連続で増加した。一方で、多くのホテル開発が進行中であり、供給過剰を懸念する見方も出ている。CBREによれば、今後3年間で主要9都市のホテル客室数は24%増加し、供給が需要を上回る見通しを示している3
図表-5 今後、価格上昇や市場拡大が期待できるセクター(前回調査との比較)
 
3 CBRE「2021年のホテルマーケット展望」(BZ空間誌 2019年秋季号、2019年9月17日)
3. 不動産投資市場のリスク要因
(1) 概況
「不動産投資市場への影響が懸念されるリスク」について質問したところ、「国内景気」(49%)との回答が最も多く、次いで「米国政治・外交」(44%)との回答が多かった (図表-6)。一方、「為替」(1%)、「欧州政治・外交」(1%)、「新興国経済」(1%)との回答は少なかった。
図表-6 不動産投資市場のリスク要因(上位3つまで回答)
(2) 前回調査との比較 [懸念が高まった(後退した)リスク要因]
前回調査から回答割合が10%以上増加したリスク要因は、「地政学リスク」(11%→34%)と「自然災害」(11%→23%)であった(図表-7)。

「地政学リスク」は、前回調査では米朝首脳会談の開催に伴いリスク懸念が後退し11%に留まった。しかし、今回調査では、米軍とイラン革命軍の動向を中心に、中東情勢を巡る地政学リスクへの懸念が高まったと考えられる。

また、2019年は、9月の台風15号や10月の台風19号をはじめとして、自然災害が多発した年であった。ロンドンの国際援助団体「クリスチャンエイド」によれば、推定被害額は台風15号で50~90億ドル、台風19号では150億ドルに及び4、不動産投資における「自然災害」のリスクが強く認識されたものと考えられる。

一方、前回調査から回答割合が10%以上減少したリスク要因は「中国経済」(65%→40%)と「米国政治・外交」(54%→44%)であった(図表-7)。

「中国経済」は、米中貿易摩擦等の悪影響が広がり、景気減速が続いていた。しかし、2019年8月以降の消費拡大策や金融緩和等を受けて、2019 年第4四半期の実質成長率は前年比+6.0%となり、6 四半期ぶりに減速に歯止めが掛かった5

さらに、米中両国政府は、2019年12月に、米中貿易交渉で「第1段階の合意」に達し、緊張緩和に向かっている。このような情勢を受け、前回調査時よりも実務家・専門家の懸念が後退したものと思われる。

ただし、「中国経済」と「米国政治・外交」をリスク要因に挙げる回答は4割を超えており、不動産投資市場への影響が懸念される上位リスクであることを留意したい。
図表-7 不動産投資市場のリスク要因(前回調査との比較) 
 
4 日本経済新聞「被害1千億円超の災害15件 19年、日本の台風も」2019年12月29日
5 三尾幸吉郎「中国経済の現状と今後の注目点~新型ウイルス肺炎の影響など4 つの注目点」(ニッセイ基礎研究所、Weeklyエコノミスト・レター、2020年1月27日)
4. 不動産価格のピーク時期
「東京の不動産価格のピーク時期」について、「2020年」(37%)との回答が最も多く、次いで「2021年」(27%)との回答が多かった(図表-8)。

前回調査では、不動産価格の上昇が東京五輪後まで続くと考える実務家・専門家は少なく、2020年までに不動産価格のピークがくるとの回答は約9割を占めた。しかし、今回調査では、2021年以降との回答が5割弱を占めており、不動産価格のピーク時期が東京五輪後にずれ込むと考える実務家・専門家が増えている。
図表-8 東京の不動産価格のピーク時期
 
 

(ご注意)本稿記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本稿は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものでもありません。
Xでシェアする Facebookでシェアする

金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

(2020年01月31日「不動産投資レポート」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【良好な環境が継続するとの見方が増加~価格のピークは今年が最多。データセンターや海外不動産にも期待~第16回不動産市況アンケート結果】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

良好な環境が継続するとの見方が増加~価格のピークは今年が最多。データセンターや海外不動産にも期待~第16回不動産市況アンケート結果のレポート Topへ