2020年01月31日

良好な環境が継続するとの見方が増加~価格のピークは今年が最多。データセンターや海外不動産にも期待~第16回不動産市況アンケート結果

金融研究部 主任研究員 吉田 資

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アンケートの概要

株式会社ニッセイ基礎研究所では、不動産市況の現状および今後の方向性を把握すべく、2004年より不動産分野の実務家・専門家を対象に「不動産市況アンケート」を実施している。本アンケートは、今回で16回目となり126名から回答を得た。

- 調査対象;不動産・建設、商社、金融・保険、不動産仲介、不動産管理、不動産鑑定、不動産ファンド運用、不動産投資顧問・コンサルタント、不動産調査・研究・出版、不動産に関連する格付、などに携わる実務家および専門家。
- アンケート送付数;200名
- 回答者数;126名(回収率;63.0%)
- 調査時期;2020年1月15日から1月24日
- 調査方法;Eメールによる調査票の送付・回収

アンケート回答者の属性(所属先内訳)は、「不動産・建設・商社」(24.6%)が最も多く、次いで「不動産ファンド運用・不動産投資顧問」(23.0%)、「不動産仲介・管理・鑑定」(20.6%)、「その他不動産関連サービス(不動産調査・研究・出版、不動産に関する格付など)」(19.8%)、「金融・保険」(11.9%)であった。
[アンケート回答者の属性(所属先内訳)]

アンケートの結果

アンケートの結果

1. 不動産投資市場の景況感
(1) 現在の景況感
「不動産投資市場全体(物件売買、新規開発、ファンド組成)の現在の景況感」について質問したところ、「良い」との回答が約5割、「やや良い」との回答が3割強を占めた。一方、「悪い」との回答は6年連続でゼロだった(図表-1)。

第10回調査(2013年末)以降、プラスの回答(「良い」と「やや良い」の合計)が7割以上を占めてた一方、マイナスの回答(「悪い」と「やや悪い」の合計)は1割未満に留まっており、長期にわたり、好調な市況が継続している。
図表-1 不動産投資市場全体の現在の景況感
(2) 6ヵ月後の景況見通し
「不動産投資市場全体の6ヵ月後の景況見通し」について質問したところ、「変わらない」との回答が8割を占めた(図表-2)。多くの実務家・専門家は、現在の好調な市況が継続すると見込んでいる。

好転との回答(「良くなる」と「やや良くなる」の合計)は、前回調査と同水準(9.6%)であったが、悪化との回答(「悪くなる」と「やや悪くなる」の合計)は減少し、「景況見通しDI1」は0.0%となった(図表-3)。好調な市況が悪化するとの見方が後退したことで、「景況見通しDI」は前年調査のマイナスからゼロへと回復した。

CBRE「インベストメントマーケットビュー」(2019年第3四半期)によれば、2019年の不動産投資額(第3四半期までの累計)は前年比6.7%増加の2.5兆円となった。同調査では、「良好な資金調達環境に変化はみられず、海外投資家による日本の不動産への関心も弱まる気配はない」としている。足もとの良好な投資環境を受けて、悲観的な見方をする実務家・専門家は減少した。
図表-2 不動産投資市場全体の6ヶ月後の景況見通し
図表-3 「景況見通しDI」(6ヶ月後)
 
1 「景況見通しDI」の算出式;(「やや良くなる」+「良くなる」)-(「やや悪くなる」+「悪くなる」)[単位は回答割合(%)]
2. 投資セクター選好
(1) 概況
「今後、価格上昇や市場拡大が期待できる投資セクター(証券化商品含む)」について質問したところ、「物流施設」(56%)との回答が最も多く、次いで「オフィスビル」(53%)、「産業関係施設(データセンターなど)」(24%)、「海外不動産)」(24%)との回答が多かった(図表-4)。

「物流施設」に関して、前回調査時点では、2019年に過去最高水準の大量供給が予定され、需給緩和が懸念されていた。2019年は計画通りに多くの大規模施設が竣工したが、eコマース企業を中心としてテナント需要も旺盛で、首都圏の大型マルチテナント型物流施設の空室率は2.4%となり、2004年の調査開始以来の最低値を更新した(2019年第3四半期・CBRE調べ)。賃料も緩やかに上昇しており、実務家・専門家の期待が高まっていると考えられる。

また、「オフィスビル」との回答は、前回調査から増加し、半数以上を占めた。三鬼商事によれば、東京都心5区の空室率(2019年12月)は1.55%となり、2002年1月(月次調査開始)以降で最低水準となった。逼迫した需給環境を反映し、平均賃料も72ヶ月連続で上昇している。2020年には多くの大規模オフィスの竣工が予定されているが、既に8割を超える床が内定している。このような好調な市況を受けてオフィス投資への期待は引き続き高い。

「産業関連施設」に含まれるデータセンターは、動画等のコンテンツ配信サービスの提供・配信基盤になるものであり、コンテンツやクラウドサービスの成長に伴い、社会インフラとしての重要度が増している。総務省「情報通信白書」によれば、世界のデータセンターの市場規模は年率10%前後のペースで拡大している。日本でもデータセンター市場の成長期待が高まっている。

「海外不動産」について、2018年の日本からの海外不動産投資額は62.1億米ドルと、2007年以降で最大であった2。国内不動産の価格上昇に伴う高値警戒感や、グローバル分散投資ニーズの高まり等を背景に、海外不動産投資を検討する投資家が増加していると思われる。

一方、「アウトレットモール」(2%)、「郊外型ショッピングセンター」(0%)を期待する回答は、引き続き下位に留まった。
図表-4 今後、価格上昇や市場拡大が期待できるセクター(上位3つまで回答)
 
2 安田明宏「日本企業による海外不動産投資の広がり」(三井住友トラスト基礎研究所、海外不動産レポート、2019年10月4日)
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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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