2020年01月15日

幸福度が高まると労働者の生産性は上がるのか?-大規模実験を用いた因果関係の検証:プログレスレポート-

保険研究部 准主任研究員 岩﨑 敬子

文字サイズ

2幸福度が下がると生産性も下がるのか
お笑い動画でポジティブな感情が大きくなると、生産性が上がることが確認されたが、ネガティブな感情は生産性にどのような影響を与えるのか。今回の調査には、幸福度10と1年以内の配偶者の死亡の有無や、配偶者の療養状態が調査項目に含まれていることから、1年間以内の配偶者の死亡を経験する、又は配偶者が療養中の人は幸福度が下がる傾向があるか、また、1年以内の配偶者の死亡を経験する、又は配偶者が療養中の人は生産性が下がる傾向があるか、を確認した。未婚の場合は既婚と異なる傾向がみられる可能性があることから、分析の対象は、現在婚姻状態にある人(2,543人; 事実婚等を含む)と、1年以内に配偶者を亡くした人(10人)とした(計2,553人)。この分析は前述のお笑い動画視聴のようなRCTではないが、配偶者の死亡や療養は、本人の健康状態や経済状況をコントロールした上ではある程度外生的な変数であると考えられる。 

まず、図6aのように、1年以内の配偶者の死亡や配偶者の療養を経験した人(256人)は、そうした経験をしていない人(2,297人)にくらべて、幸福度が低いことが確認された。さらに、1年以内の配偶者の死亡や配偶者の療養の経験がある人は図6bのように、足し算の正答数も少なかった。また、これらの傾向は図7のように男女別に見ても、男女ともに同様の傾向であった。
図6. 1年以内の配偶者の死亡や配偶者の療養の有無と幸福度/生産性
図7. 1年以内の配偶者の死亡や配偶者の療養の有無と幸福度/生産性(男女別)
また、表2のように、OLSによる推計でも、1年以内の配偶者の死亡や療養を経験した人は、統計的に有意に足し算の正答数が少ないことが確認された。そして、表2の列2にあるように、本人の健康状態や経済状況をコントロールした上でも同様の傾向が確認された。さらに、幸福度を内生変数として、1年以内の配偶者の死亡や配偶者の療養経験の有無を操作変数としたTSLSによる推計でも、1年以内の配偶者の死亡や配偶者の療養は、幸福度の低下を通して生産性を下げる傾向があることが確認された。
表2. 配偶者の死/療養と生産性:最小二乗法(OLS)二段階最小二乗法 (TSLS)による推計
 
10 「現在、あなたはどの程度幸せですか。「とても幸せ」を10点、「とても不幸」を0点とすると、何点くらいになると思いますか。」という質問を用いて、11件法で尋ねた。
 

4――おわりに

4――おわりに

本稿では、ニッセイ基礎研究所が独自に実施した大規模WEB実験のデータを用い、幸福度が労働者の生産性を高めるという因果関係の存在を実証的に示した分析結果を紹介した。私たちの調査で、ポジティブな感情を高めることを期待していたお笑い動画は東京都の住民にしか効果がみられなかったことからも分かるように、どんな取り組みがどの程度幸福度を高めるのかは、地域や文化、人によっても異なるだろう。今後、どんな取り組みがどんな人の感情に、ポジティブ/ネガティブな影響を与えるのか、といった実証研究の積み重ねや、実際に幸福度を高めるプログラムを行ってみた結果の効果検証の積み重ねが進むことで、企業による従業員の幸福への取り組みが充実したものになっていくことが期待される。

(2020年01月15日「基礎研レポート」)

Xでシェアする Facebookでシェアする

保険研究部   准主任研究員

岩﨑 敬子 (いわさき けいこ)

研究・専門分野
応用ミクロ計量経済学・行動経済学 

経歴
  • 【職歴】
     2010年 株式会社 三井住友銀行
     2015年 独立行政法人日本学術振興会 特別研究員
     2018年 ニッセイ基礎研究所 研究員
     2021年7月より現職

    【加入団体等】
     日本経済学会、行動経済学会、人間の安全保障学会
     博士(国際貢献、東京大学)
     2022年 東北学院大学非常勤講師
     2020年 茨城大学非常勤講師

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【幸福度が高まると労働者の生産性は上がるのか?-大規模実験を用いた因果関係の検証:プログレスレポート-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

幸福度が高まると労働者の生産性は上がるのか?-大規模実験を用いた因果関係の検証:プログレスレポート-のレポート Topへ