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幸福度が高まると労働者の生産性は上がるのか?-大規模実験を用いた因果関係の検証:プログレスレポート-

保険研究部 准主任研究員 岩﨑 敬子
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1――はじめに
では、従業員の幸福度を高めることは企業の生産性の向上につながるのか?これまでの相関関係を中心にした研究では、幸福度と生産性の正の相関関係が確認されてきた。参考に、図2のように、OECD各国の幸福度と1時間あたりの労働生産性の関係をプロットしてみると、正の相関関係が確認できる。図の中で、赤点にあたるのが日本で、日本はOECD諸国の中では、幸福度も生産性も低い位置にあることが確認できる。
こうした課題意識から幸福度と生産性の因果関係を検証した研究にOswald et al. (2015)3がある。Oswaldらは英国の大学の学生を対象にいくつかの経済実験を実施し、幸福度と生産性の間に因果関係があることを実証した。ニッセイ基礎研究所では、この研究を参考にして、日本の成人を対象に、独自の大規模WEB実験調査を実施した。本稿では、この独自の大規模実験調査のデータを用いて、幸福度を高めることが労働者の生産性をあげる可能性がある、という因果関係の存在を示した分析結果を紹介する。
1 詳細な分布は、水野友理那「健康経営は株価に影響を与えるのか?」基礎研レター (https://www.nli-research.co.jp/files/topics/61103_ext_18_0.pdf?site=nli)参照
2 東京新聞 2019年10月24日、https://www.tokyo-np.co.jp/article/tokyo/list/201910/CK2019102402000124.htmlアクセス)
3 Oswald, J., E. Proto, and D. Sgroi. (2015) Happiness and productivity. Journal of Labor Economics, 33 (4). pp. 789-822.
2――調査データについて
全国の20~69歳の男女4を対象に、全国11地区の性別、年齢の分布を国勢調査の分布に合わせて回答を収集した5。回答数の合計は6,201件。そのうち、一定の基準に基いて不正確と考えられる回答を除いた、5,309件を用いて分析を行った。
4 株式会社クロス・マーケティングのモニター会員
5 「被用者の働き方と健康に関する調査」
調査にはランダム化比較試験(RCT)を含めた。RCTとは、対象を無作為に複数のグループに分け、あるグループ(トリートメントグループ)には、何等かの介入を行い、他のグループ(コントロールグループ)にはその介入を行わないことで、トリートメントグループに行った介入の効果を測定する手法である。もともと医学分野で、あるグループには新薬を与え、他のグループには従来の薬もしくはプラシーボ薬を処方することで新薬の効果を確認するという目的で用いられていた手法である。しかし、2019年のノーベル経済学賞受賞者達がこのRCTを開発経済学の分野に取り入れた研究の功績が評価されて受賞したことにも見られるように、近年RCTは様々な分野で因果関係を解明する手法として取り入れられている。
動画視聴前後の感情の状態の計測には、黒川ら(2014)6,の研究に従って、簡易気分調査票日本語版(BMC-J)7,8,9を用いた。また、3分間の足し算の作業は、生産性を図るためのもので、回答者へのインセンティブとして、上位800人に100ポイント(100円相当)を付与することを事前に告知した。
6 黒川 博文、犬飼 佳吾、大竹 文雄、2014 「感情の変化が時間選好に及ぼす影響:プログレス・レポート」行動経済学 7 p. 45-49
7 田中健吾、2008.「簡易気分調査票日本語版 (BMC-J) の信頼性および妥当性の検討」大阪経大論集58 p 271‒27
8 Thomas, D. L., and E. Diener, 1990. Memory accuracy in the recall of emotions. Journal of Personality and Social Psychology 59, 291.
9 この尺度は、4種類のポジティブな感情に関する語句 (うれしい/心地よい/幸福である/楽しい・面白い)と、5種類のネガティブな感情に関する語句(イライラしている/不愉快だ/怒り・敵意を感じる/気分が沈んでいる・憂鬱である/何となく心配だ・不安だ)が含まれている。そして、それぞれの質問について回答したその時の気持ちで、7件法(0=全く当てはまらない; 6=非常に当てはまる)で回答頂くものである。このうち、ポジティブな感情を聞く設問4問を利用し、その4つの回答を足し合わせて、ポジティブな感情の変数と定義した。
3――分析結果
(2020年01月15日「基礎研レポート」)

03-3512-1882
- 【職歴】
2010年 株式会社 三井住友銀行
2015年 独立行政法人日本学術振興会 特別研究員
2018年 ニッセイ基礎研究所 研究員
2021年7月より現職
【加入団体等】
日本経済学会、行動経済学会、人間の安全保障学会
博士(国際貢献、東京大学)
2022年 東北学院大学非常勤講師
2020年 茨城大学非常勤講師
岩﨑 敬子のレポート
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