2020年01月14日

EIOPAがソルベンシーIIの2020年レビューに関するCPを公表(8)-技術的準備金-

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課題4:将来保険料の予想利益(EPIFP
課題4.1.EPIFPの計算
以下の3つのオプションが検討されている。

・オプション1:変更なし (現在の表現を維持)
・オプション2:EPIFPに全ての将来の損失及び再保険の影響を含める。
・オプション3:将来の全ての損失、再保険の影響及び課税の影響をEPIFPに含める。

EIOPAは、将来の利益に課税することを考慮しても、必ずしも自己資本への影響をより正確に見積もることにはならないと考えている。その上、それは多分もっと複雑な計算と比較できる数値が少なくなるはずである。したがって、EIOPAの推奨オプションはオプション2としている。

課題4.2.その他の期待利益
以下の2つのオプションが検討されている。

・オプション1:変更なし
・オプション2:委任規則に将来の運用報酬における期待利益を加える。

将来の資金のサービス及び運用手数料の期待利益を計算することは、現在利用可能なEPIFPを完成させるための貴重な情報を提供することになるため、EIOPAの望ましいオプションはオプション2である。

(4)助言内容

課題1:払込済保険料
EIOPAは、委任規則第18条第3項第1段落を次のように修正するよう勧告する。

「既に支払われた保険料に関係しない義務であって、次のいずれかの日の後に会社によって提供された保険又は再保険の補償に関係するものは、会社が保険契約者にこれらの義務の保険料を支払うことを強制することができる場合を除き、契約に属しない。 (..。) 」

課題3-1:第18条第3項のドラフト
EIOPAは、委任規則第18条第3項の第3段落を次のように修正するよう勧告する。

「しかしながら、契約の開始時に契約の被保険者に係る債務の個別のリスク評価が行われ、その評価が保険料又は給付を修正するまで繰り返すことができない生命保険債務の場合には、保険及び再保険会社は、保険料が (c) の目的上のリスクを完全に反映しているか否かを契約のレベルで評価する権利のみを考慮するものとする。」

課題3-2:第18条第3項の削除
EIOPAは、委任規則第18条第3項の第3段落を次のように修正するよう勧告する。

「しかし、契約の被保険者に関連する義務の個々のリスク評価が契約の開始時に実行され、その評価を会社が 保険料又は給付金を修正する前の評価を撤回する権利を有しない繰り返すことができない生命保険の義務の場合、保険及び再保険会社は、保険料がポイント(c)の目的のためのリスクを完全に反映しているかどうかを契約のレベルで評価するものとする。」

課題4.1.ERIFPの計算
EIOPAは委任規則第260条第2項を次のように修正するよう勧告している。

「将来の保険料に含まれる予想総利益又は損失は、その指令の第77条に従って計算されたリスクマージンのない技術的準備金と、将来に受領することが想定される既存保険及び再保険契約に係る保険料が、保険契約者が保険契約を解除する法的権利又は契約上の権利に関係なく、保険事故が発生したこと以外の理由で受領できないという前提の下でのリスクマージンのない技術的準備金の計算との差として計算されるべきである。」

EIOPAは、委任規則第260条第4項を次のように置き換えることを勧告する。

「損失を生じさせる契約は、均一なリスクグループ内の利益を生み出す契約に対してのみ相殺できる。 利益を生む均一リスクグループを使用して将来の保険料の総期待利益を計算し、損失を生む均一リスクグループを使用して将来の保険料の総期待損失を計算する。」
EIOPAは、委任規則第260条に次の2つの新しい段落を追加することを勧告する。

「5.将来保険料に含まれる総期待損益対する再保険契約及び特別目的ビークルの影響は、指令2009/138 / EC第81条に従って計算された再保険契約及び特別目的ビークルから回収可能な金額と、将来受領すると予想される既存の保険及び再保険契約に関連する保険料が、保険契約を中止する保険契約者の法的権利又は契約上の権利に関係なく、被保険事象が発生した以外の理由で受け取られないという前提の下で、再保険契約及び特別目的ビークルから回収可能な金額の計算の差として計算されるべきである。」

「6.将来の保険料に含まれる純期待純損益は、(a)同種のリスクグループについて計算された将来の保険料に含まれる総期待純損益の合計と (b)将来の保険料に含まれる総期待損益対する再保険契約及び特別目的ビークルの影響の差として計算されるべきである。」

課題4.2.その他の期待利益
「EIOPAは、委任規則第1条に次の定義を追加することを勧告する。「「ファンドのサービス及び管理からの総期待損益」は、インデックスリンク及びユニットリンクの保険に対して、指令2009/138 / EC第77条に従って計算される リスクマージンのない技術的準備金と将来の受領が予想されるファンドのサービス及び管理からの将来の利益は、保険契約を解除する保険契約者の法的権利又は契約上の権利に関係なく、被保険事象が発生した以外の理由で受け取られないという前提の下でのリスクマージンのない技術的準備金の差を意味している。」

6|将来の経営行動
(1)関連法規
委任規則2015/35の第23条は、ソルベンシーIIにおける技術的準備金の計算の場合の将来の経営行動に関する前提条件の設定に関する規則を定めている。

(2)課題の特定
将来の経営行動の定義の欠如は、保険又は再保険会社の運営、管理又は監督機関によって承認される包括的計画の範囲を含む委任規則第23条の適用とその要件について異なる解釈を引き起こしている。

(3)分析とその結果
以下の2つのオプションが検討されている。

・オプション1:変更なし
・オプション2:委任規則第1条に将来の経営行動の定義を追加する。

EIOPAは、例えば事業計画に含まれるような将来の措置を検討することは、そのような措置の性質に影響を与えないと考えており、したがって、第23条に記載されているような将来の経営行動とみなすべきかどうかを判断するための基準とはならない。したがって、事業計画を参照せずに将来の経営行動の法的定義を委任規則に追加することは、技術的準備金の計算に実質的な変更をもたらすことなく、第23条に掲げる要件に従う将来の経営行動の範囲を明確にするのに役立つ可能性がある。したがって、EIOPAの推奨オプションはオプション2である。

(4)助言内容

EIOPAは、委任規則第1条に以下の定義を含めるよう勧告する。
「「将来の経営行動」とは、保険又は再保険会社の運営、管理又は監督機関が将来の特定の状況下で行うと予想されるあらゆる行為を意味する。」

7|事業費
(1)関連法規
ソルベンシーII指令第78条は、技術的準備金を計算する際に考慮されるべき費用を定めている。

委任規則第31条は、ソルベンシーIIにおける最良推定値の計算において考慮すべき費用をさらに明確にしている。

委任規則第7条は継続企業原則を規定している。

(2)課題の特定
EIOPAは、以下の課題を特定している。

課題1:新契約
EIOPAは、キャッシュ・フロー予測における費用配分について、新契約の前提条件に著しい相違があることを指摘している。委任規則第31条第4項によれば、新契約が獲得されることを前提として、費用を予測しなければならない。しかし、会社が新契約を獲得していない場合など、この前提が適切でないと考えられる場合もある。このようなケースでは、新契約についての現実的な前提が経費の配分に用いられることがある。

課題2:修正案の作成
現在、委任規則第31条第1項第2段落には次のように書かれている。

「(a) から (d) までに規定する費用は、保険及び再保険義務において発生した間接費を考慮するものとする。」

ここで、「発生した」という単語は過去形であるため、一部の加盟国は、これは予測が過去の経験のみに基づくものでなければならない、すなわち、将来の費用の予想される変化を考慮した予測を許容してはならないと解釈されるのではないかという懸念を提起している。

(3)分析とその結果
それぞれの課題に対する分析とその結果は、以下の通りとなっている。

課題1:新契約
以下の2つのオプションが検討されている。

・オプション1:ハードなゴーイング・コンサーンの原則(変更無し):委任規則第31条第4項に沿って解釈されたゴーイング・コンサーンの原則、すなわち、全ての場合において新契約が想定されるべきである。この場合、修正は必要ない。

・オプション2:ソフトなゴーイング・コンサーンの原則。「通常業務」と解釈されるゴーイング・コンサーンの原則、すなわち、必ずしも全ての場合において、現実的な仮定に基づいて、新契約を想定すべきではない。この場合、委任規則第31条を改正する。

ポートフォリオ移転の際には、譲渡会社はおそらく評価のための自己の費用を考慮する。結局のところ、本当の移転価格は譲渡会社自体のビジネスモデルに依存しており、その中の新契約部分の期待である。したがって、理論上新契約の引受けがないと仮定することは、移転価格から逸脱する可能性はあるが、実際には、おそらくそのようなことはないであろうし、少なくとも、費用に関する他の前提と同様の差異の余地がある。つまり、EIOPAの推奨オプションはオプション2である。

課題2:修正案の作成
EIOPAは、ソルベンシーIIの原則の下では、予測は前提の予想される進展を考慮に入れるべきであると考える。したがって、委任規則第31条第1項第2段落は、過去の支出のみならず将来の支出の見込みに関する前提を考慮して解釈されるべきである。しかし、原案を修正すれば、解釈はより明快になる。

(4)助言内容

課題1:新契約
EIOPAは委任規則第31第4項を次のように改正するよう勧告する。

「4.費用は、新契約の引き受けに関する会社の運営、管理又は監督機関の決定を考慮して、予測される。」

課題2:修正案の作成
EIOPAは、委任規則第31条第1項第2段落を次のように改正するよう勧告する。

「(a) から (d) までに掲げる費用は、保険及び再保険義務において発生する(英語でincurredからto be incurredに変更)間接費を考慮する。」

8|オプションと保証の評価
(1)関連法規
委任規則のRecital(15)は、オプションと保証の評価にシミュレーションを使用する原則を定めている。委任規則のRecital(16)は、オプションと保証の評価について確率論的性質を規定している。委任規則第26条は、保険契約者の行動のモデル化に関する要件を定めている。委任規則第30条は、キャッシュ・フロー予測が考慮しなければならない不確実性を規定している。委任規則第32条は、オプション及び保証の評価に関する追加的な要件を定めている。委任規則第34条は最良推定値計算方法に関する要件を定めている。

(2)課題の特定
課題1:動的な保険契約者の行動モデル
委任規則第26条によれば、保険契約者が契約上のオプションを行使する可能性を決定する際には、会社は、経済的条件のような異なる状況の影響を考慮しなければならない。このような保険契約者行動のモデル化を動的な保険契約者行動と呼ぶが、静的な保険契約者行動という用語は、性別、年齢、保険契約年齢などの保険契約者/保険契約の特性の一部を考慮しても、このような状況の変化を考慮しない保険契約者行動のモデル化に言及するものである。委任規則第26条もまた、経験的証拠によって正当化できる場合には、静的なアプローチに従うことを認めている。

EIOPAは、動的な保険契約者行動の利用は管轄区域に大きく依存すると指摘している。いくつかの加盟国では、確率的評価が主要オプション(例えば解約オプション)のデフォルトのアプローチであるが、他の加盟国では、静的な要素のみを用いたモデル化が通常行われる。しかし、主に極端なシナリオに関するデータが不足しているため、いくつかのケースでは、静的アプローチを使用することは、実証的証拠を提供する代わりに、データが不足していることによって正当化される。

(3)分析とその結果
次の3つのオプションが検討されている。

・オプション1:委任規則の変更なし
・オプション2:簡素化された動的解約モデルを含むように委任規則を改正する。
・オプション3:極端なシナリオに関するデータが不足している場合に、静的な保険契約者行動モデルを受け入れるよう、委任規則を修正する。

EIOPAは、一般的な簡素化や、動的な保険契約者の行動をモデル化するための要件を免除するのではなく、EIOPAが提供する動的モデルの較正に関する追加ガイダンスを伴う委任規則の現行規定の下で、同じレベルの調和が達成できると考える。このガイダンスを通じて、極端なシナリオのためのデータの欠如は、それ自体が動的な保険契約者の行動をモデル化しない理由ではないことを明確にすべきである。したがって、EIOPAの推奨オプションはオプション1である
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中村 亮一

研究・専門分野

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