2020年01月14日

EIOPAがソルベンシーIIの2020年レビューに関するCPを公表(8)-技術的準備金-

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1―はじめに

ソルベンシーIIに関しては、レビューの第2段階として、ソルベンシーIIの枠組みの見直しが2021年までに行われる予定となっており、その検討が既にスタートしている。欧州委員会は、EIOPA(欧州保険年金監督局)に対して、2019年2月11日に指令2009/138/EC2(ソルベンシーII)のレビューに関する助言要請1を行った。これを受けて、EIOPAが検討を進めていたが、2019年10月15日に、ソルベンシーIIの2020年レビューにおける技術的助言に関するコンサルテーション・ペーパー(以下、「今回のCP」という)を公表2した。

これまで5回のレポートで、今回のCPの具体的内容について報告してきており、前回までのレポートでLTG(長期保証)措置及び株式リスク措置に関する内容を報告してきた。
今回のレポートでは、「技術的準備金」に関する項目について報告する。  

2―「技術的準備金の最良推定値」について

2―「技術的準備金の最良推定値」について

ここでは、「技術的準備金の最良推定値」についての検討内容及びその助言内容について、報告する。

1|欧州委員会からの助言要請
欧州委員会からの助言要請は、以下の通りとなっている。

3.17.最良推定値
EIOPAは、最良推定値の算出に関して異なる監督実務について報告するとともに、その影響、特に以下の項目に関して定量的な情報を提供するように求められている。

・生命債務の最良推定値を計算するための経済的シナリオ生成プログラムの使用
・契約境界の定義の適用
・収益性の高いシナリオや「失効/解約」に連動した将来の経営行動の適用
・費用、投資費用及びオプションと保証の評価の処理と評価

この分析が欠陥又は監督上の重大な相違の特定を指摘するものである場合には、EIOPAはこれらをどのように是正するかについて助言を求められる。

2|以前の助言内容
CEIOPS(欧州保険年金監督委員会)は、ソルベンシーIIレベル2実施措置に関する第3次勧告の一環として、技術準備金に関して欧州委員会に助言を提出した。技術的準備金に関する助言には、特に、技術的準備金の計算のための区分、将来の保険料の取扱い、将来の経営行動に関する前提、最良推定値を算出するための保険数理的及び統計的方法論、データの質に関する基準が含まれていた。

3|一般的な考察事項
一般的な考察事項として、「IFRS第17号(保険契約)との関係」が述べられている。

オムニバス II指令によって修正されたソルベンシーII指令 のRecital(15)では、国際会計上の進展との調和が図られるべきであり、一方、Recital(46)によれば、評価は市場と整合的で会計上の国際的な進展に沿ったものであるべきであるとしている。

そこで、EIOPAは、IFRS第17号の計算と技術的準備金の計算との整合性を検討した。しかし、EIOPAは、とりわけいくつかの理由により、この調整は不可能であると結論付けている。

両方のフレームワークの目的が異なるため、ある程度の合理的な違いが生じる。例えば、利益を異なる期間に配分するIFRS第17号の技術的準備金の構成要素である契約上のサービスマージンが挙げられる。ソルベンシーIIにおいては、契約期間内の全ての利益は認識日より自己資本で認識されるため、契約上のサービスマージンと同等の概念は存在しない。

ソルベンシーII指令第76条第2項に従い、技術的準備金は移転価格で評価されなければならない。しかし、IFRS第17号では、包括的原則は履行価格である。

計算の粒度には、IFRS第17号の年次コホートのようないくつかの違いがあるる。また、アンバンドリング要件が大きく異なる場合もある。ソルベンシーIIは、少なくとも商品区分によって保険契約を分割することを要求するリスク主導型であるが、IFRS第17号は契約に基づいており、契約の異なる保険構成要素のアンバンドリングはデフォルトのアプローチではない。

IFRS第17号は現在レビュー中であり、フレームワークの改訂が確定するまで、整合性を十分に評価することはできない。

また、EIOPAは、IFRS第17号の保険料配分アプローチ(PAA)に沿ってソルベンシーIIの枠組みを簡素化する可能性についても検討した。ただし、次の理由により断念されている。

・このような単純化を含めると、例えばSCRとの相互作用のために重大な複雑さをもたらす可能性があり、また、上述の制限のために完全な連携が不可能であるので、このような連携の利点も制限される。

・保険料配分アプローチは、1年以内の契約に対するIFRS第17号の(ビルディング・ブロック・アプローチとして知られる)一般アプローチの良い近似と考えられる。しかし、IFRS第17号の一般アプローチには契約上のサービスマージンが含まれているため、この要素が存在しないソルベンシーIIの技術的準備金については、近似がそれほど正確ではない可能性がある。

4|経済シナリオジェネレーター(ESG
(1)関連法規等
委任規則のRecital(15)は、オプションと保証の評価にシミュレーションを用いる原則を明確にしている。また、委任規則第22条第3項は、ソルベンシーIIにおける技術的準備金の評価にシミュレーション手法を用いる場合に会社が満たすべき3つの要件を定めている。さらに、技術的準備金に関するEIOPAガイドライン(ガイドライン55~60)の規定もある。

(2)課題の特定
経済シナリオジェネレータープログラムに関しては、多様な慣行が存在している。
5|契約の境界
(1)関連法規等
委任規則第18条は、ソルベンシーIIにおける契約の境界を定める規則を定めている。委任規則第1条第46項は、EPIFP(将来保険料の予想利益)の定義を含む。 委任規則第70条第2項は、EPIFPと調整準備金との関係を定める。委任規則第260条第2項、第3項及び第4項は、EPIFPの計算に関する規則を定める。委任規則第295条5項及び第309条第6項は、流動性リスク及びEPIFPに関するいくつかの要件を定めている。

(2)課題の特定
EIOPAは加盟国間でいくつかの異なる慣行を確認した。これらの不一致の大部分は、現行の監督規制枠組みの解釈の違いによるものであり、場合によっては規制の細分性の欠如によるものである。

将来の予想利益(EPIFP)の現行の定義に関するいくつかの懸念も確認されている。契約の境界とEPIFPの間には密接な関係があるため、その定義に関する課題は契約の境界の項で扱われる。

課題1:払込済保険料
委任規則第18条第3項は、「保険又は再保険に係る債務」に適用される。この規定は、会社と加盟国の間で契約の境界を評価する様々な慣行につながっている。

i.一部のケースでは、払込済保険料に関連する債務については、第18条第3項は適用されないと解釈されている。これは、会社が一方的に契約を解除する権利を有する日の後に提供されるカバーを契約の境界に含めることができることを意味する。

ii.その他の場合には、第18条第3項は払込済保険料に係る債務に適用されると解釈されている。これは会社が保険契約者に支払うよう強制することができる保険料からの義務と払込済保険料からの義務は、異なる扱いを受けることを意味する。

課題2:アンバンドリング:契約の異なる部分
委任規則第18条第4項及び第6項は、契約の境界を定めるに当たり、契約の各部分について、それぞれ第3項及び第5項の規定を適用する義務を定める。しかし、契約の異なる「部分」とみなされるものと、それがいつ別々に考慮されるかについては、異なる解釈が存在する。

第18条第6項は、契約を分離することができる場合には、契約の異なる部分に第5項を適用することを明確に規定している。ただし、第4項は第3項が契約の異なる部分に適用されるものとし、契約を分離することを要求しない。したがって、

i.場合によっては、第18条第3項は、それが分離可能な場合にのみ、契約の異なる部分に適用されると解釈されている。

ii.その他の場合では、会社が契約の各部分に関して、第18条第3項に記載されているように、それぞれ一方的権利を有する場合、契約を切り離すことができるかどうかにかかわらず、第18条第3項は契約の異なる部分に適用されると解釈されている。

課題3:18条第3項の特例
委任規則第18条第3項第3段落は、契約の開始時に個別のリスク評価が実施されている場合、会社はそれを繰り返すことができず、会社は、保険料がポートフォリオ・レベルのリスクを完全に反映するように、契約に基づいて支払われる保険料又は給付金を修正する一方的な権利のみを有する契約について、契約の境界の延長を認める例外規定を設けている。しかし、この段落がそのような例外として解釈されず、しかし会社が「保険料がリスクを完全に反映しているかどうかを契約のレベルで評価する」義務として解釈されてこなかった。

この段落が例外を導入していると解釈されている場合であっても、異なる手法が特定されている。

i.場合によっては、「評価を繰り返すことはできない」は、法的/契約上の制限として解釈されることもある。すなわち、企業は、個別のリスク評価を繰り返す権利を有していない。

ii.その他の場合には、「評価を繰り返すことはできない」は、あらゆる種類の制限、例えば、分析のために関連データを収集することを許可しない技術的制限として解釈されると考えられてきた。

一部の加盟国はまた例外の本質に疑問を提起する。契約期間の長期延長が認められ、それによって自己資本の大幅な増加がもたらされるが、会社は、契約がリスクを完全に反映するように保険料を修正する完全な権利を依然として有している。

課題4:将来保険料の予想利益(EPIFP
課題4.1.EPIFPの計算
EPIFPは、将来保険料に組み込まれた利益を反映しており、それは、将来の保険料が自己資本に与える影響と見られている(第70条第2項)。しかし、現在のEPIFPの定義は、以下の3つの理由から、将来保険料の自己資本への実際の影響を反映していない。

1.EPIFPは赤字契約を十分に考慮せずに計算される。第260条第4項は、不採算契約は、同一の同種リスクグループ内の利益創出契約に対してのみ相殺することができると規定している。しかし、異なる同種のリスクグループ間の補償は認められていない。

2.リスクマージンのない技術的準備金は再保険及び特別目的会社のグロスとして算出するので、EPIFPは再保険及び特別目的会社(SPV)の影響を考慮せずに算出する。

3.EPIFPは税引き前に計算される。しかし、将来保険料が自己資本に与える最終的な影響については、将来の利益に対する課税を考慮に入れるべきである。すなわち、技術的準備金が低ければ、ソルベンシーIIのバランスシートにおける繰延税金資産の減少/繰延税金負債の増加につながる。

さらに、同種リスクグループの特定に関して、第260条第3項は以下のように述べている。

「将来の保険料に含まれる期待利益の計算は、保険料及び再保険の義務も将来の保険料に含まれる期待利益に関して同質であるという条件で、技術的準備金の計算に使用される同種のリスクグループに対して個別に実行されるものとする。」

一部の事例で強調されている要件は、均質なリスクグループは損失創出・利益創出契約を含むことができないと解釈されてきたが、他の事例では、たとえ損失創出・利益創出契約が含まれていても、均質なリスクグループはなお均質であり得ると考えられてきた。

課題4.2.その他の期待利益
EIOPAの一部の加盟国は、将来の資金流入に関連して、自己資本の相当な額に相当するその他の将来の利益源を特定している。主な例は、会社がユニットリンク商品の保険契約者に請求する将来のファンドのサービスと管理の手数料に含まれる利益である。これらの利益は、保険契約者への将来のキャッシュ・フロー及び/又は手数料が組み込まれているため、EPIFPと非常に類似している。しかしながら、これらの将来の費用及び手数料の自己資本への寄与は、一般的には未調査のままである。

(3)分析とその結果
それぞれの課題に対する分析とその結果は、以下の通りとなっている。

課題1:払込済保険料
以下の2つのオプションが検討されている。

・オプション1:変更なし、つまり現在の表現を維持する。払込済保険料に係る債務は、会社が一方的に契約を解除することができる日以降は契約に属しないものとみなされる。

・オプション2:第18条第3項が、払込済保険料ではなく、将来の保険料に関連する債務にのみ適用されることを明確にする。払込済保険料に係る債務は、会社が一方的に契約を解除することができる日以降は、契約に属するものとみなされる。 

これについて、IFRS第17号では、払込済保険料に係る債務は契約に属している。

EIOPAは、払込済保険料に関連する債務は、第18条第3項の対象外とすべき、すなわちオプション2であると考える。

課題2:アンバンドリング:契約の異なる部分
以下の2つのオプションが検討されている。

・オプション1:第18条第4項による契約の異なる部分の特定は、アンバンドリング要件ではなく、第18条第3項の権利に基づくべきである。変更は必要ない。

・オプション2:第18条第3項が契約の異なる部分に適用されるのは、契約を切り離すことができる場合に限られると述べている第18条第4項を修正する。

EIOPAは、第18条第4項及び第6項の文言の相違は、保険及び再保険契約の一部、すなわちオプション1についての異なる取扱を反映していると考える。第18条第5項は分離可能な場合(すなわち相互依存性がない)に限り、契約の各部分に個別に適用されるべきであるが、第18条第3項は、第18条第3項(a)、(b) 又は (c) に規定する一方的権利が契約の一部にのみ影響を及ぼす全ての場合に、契約の各部分に適用される。

課題3:18条第3項の特例
課題3-1:18条第3項のドラフト
殆どの加盟国は第18条第3項の正しい解釈について疑いを持っていないが、一部の法域では、契約レベルで評価を実施する義務があると解釈されている。したがって、EIOPAは、段落の誤解を避けるために委任規則を改正することが有益であると考える。

課題3-2:18条第3項の削除
以下の3つのオプションが検討されている。

・オプション1:変更なし、つまり現在の表現を維持する。

・オプション2:第18条第3項第3段落に定められた例外が、会社が個別リスク評価を再度実施する権利を有していない場合にのみ適用されることを明確にする。

・オプション3:第18条第3項第3段落の削除

一部の法域では例外の影響が大きいため、公平な競争条件を保証するためには例外の一貫した適用が必要である。「評価を繰り返すことはできない」の異なる解釈、すなわち、技術的制約が十分であるか、法的/契約上の制約のみが例外の使用を正当化するかどうかが特定されている。EIOPAは、公平な競争条件を保証するために、この例外を適用するための明確な基準を設定すべきであると考える。

したがって、例外は契約上/法的制約が存在する状況、すなわちオプション2に限定されるべきである。
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中村 亮一

研究・専門分野

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【EIOPAがソルベンシーIIの2020年レビューに関するCPを公表(8)-技術的準備金-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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