2020年01月10日

2020年度の社会保障予算を分析する-自然増を5,000億円以下に抑えたが、「帳尻合わせ」の側面も

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任   三原 岳

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1――はじめに~2020年度の社会保障関係予算案を分析する~

2020年度政府予算案が2019年12月20日に閣議決定された。社会保障関係費の増加や消費税引き上げの影響を緩和する経済対策で歳出が膨らんだ結果、実質的な一般会計の規模(消費増税対策の「臨時・特別の措置」を含む)は対前年度当初比1.2%増の102兆6,580億円となり、2年連続で100兆円を超えた。さらに、赤字国債(特例公債)の発行額は同1.0%減の25兆4,462億円となったが、赤字国債に多くを依存する予算編成は続いた。

一方、歳出の約3分の1を占める社会保障関係費は同5.1%増の35兆8,608億円となった。高齢化などに伴う自然増は5,300億円前後と想定される中、歳出改革の「目安」とされる5,000億円以下に抑制できたが、消費税引き上げの増収を幼児教育・保育の無償化などに振り向けた上、診療報酬改定もプラス決着となり、予算規模は膨らんだ。さらに、歳出改革についても「帳尻合わせ」の側面は否めなかった。本レポートでは、2020年度予算案の概要を把握するとともに、焦点となった消費増税による充実など、社会保障関係予算の内容を分析する。
 

2――2020年度予算案の状況

2――2020年度予算案の状況

1|歳出と歳入の状況
2020年度政府予算案に関する財務省の説明資料は2019年度と同様、「通常分」に加えて、消費増税対策を別に計上した「臨時・特別の措置」に分かれている。具体的には、2020年度までの臨時・特別措置として、公共事業やキャッシュレス・ポイント還元事業など1兆7,788億円が計上されている。ここでは、原則として通常分と臨時・特別の措置を合算した数字を論じることとする。
図1:2020年度予算案の歳出内訳 まず、一般会計総額は対前年度当初比1.2%増の102兆6,580億円に膨らみ、2年連続で100兆円を突破した。歳出の内訳は図1の通りである。既述した通り、消費税引き上げの影響を緩和する「臨時・特別の措置」として1兆7,788億円が計上されたことで、予算規模が膨らんだ形だ。
図2:2020年度予算案の歳入内訳 なお、図1は通常分と「臨時・特別の措置」の合計であり、「臨時・特別の措置」に計上される経費は各区分に含まれている。さらに、経済対策の関係では、2020年度予算案は2019年度補正予算案とセットで「15カ月予算」として編成されており、2019年度補正予算案の規模は国費ベースで3兆1,946億円に上る(税収や地方交付税の減額措置などを含む)。

一方、歳入は図2の通りであり、税収は63兆5,130億円、公債金収入、つまり借金は32兆5,562億円となった。公債金収入のうち、赤字国債(特例公債)は25兆4,462億円であり、対前年度当初比で1.0%減らしたが、赤字国債に多くを頼っている状況は変わっておらず、主に社会保障費のファイナンスに際して、将来世代に負担をツケ回しする財政運営は2020年度も続くこととなった。
2社会保障関係予算の概況
本レポートの本題である社会保障関係費は5.1%増の35兆8,608億円と増加した。後述する通り、高齢化などに伴う自然増を5,000億円以下に抑制できたが、消費税引き上げに伴う増収を幼児教育・保育の無償化などに振り向けた結果、トータルで約1兆7,000億円の大幅増となった。全体のイメージは図3の通りである。つまり、約5,300億円と見られていた自然増を4,100億円程度に抑制したが、最終的に消費増税分による社会保障の拡充が加味され、大幅増となった形だ。

以下、(1)2019年10月に引き上げられた消費税の増収分を活用した社会保障関係費の充実、(2)プラス決着となった診療報酬の改定による影響、(3)薬価と帳尻合わせ頼みの歳出抑制策――の3点について順次、考察する。併せて、2019年度に続き、未婚のひとり親世帯向け経済支援が税制改正で焦点となったため、その点を4つ目の論点として取り上げる。さらに、病床再編などを目指す「地域医療構想」に関連し、医療提供体制改革に関連する予算が多く計上されているため、5番目の論点として考察する1
図3:2020年度社会保障関係予算案の全体像
 
1 以下の内容については、首相官邸、内閣府、総務省、財務省、厚生労働省、文部科学省、自民党、全国健康保険協会のウエブサイトに加えて、『朝日新聞』『産経新聞』『日本経済新聞』『読売新聞』『m3.com』配信記事などを参照した。なお、煩雑さを避けるため、引用は最小限にとどめる。
 

3――社会保障関係予算の概要(1)

3――社会保障関係予算の概要(1)~消費税収を活用した充実~

1社会保障の充実は計1.2兆円規模に
2019年10月に消費税が8%から10%に引き上げられた分の税収は赤字国債の発行減に回さず、全て社会保障関係予算に振り向けられた、これは安倍晋三首相が2017年9月、解散総選挙に打って出た際、「消費税の使い道を私は思い切って変えたい」として、高齢者に偏った社会保障費の分配を見直す「全世代型社会保障」を標榜したことに伴う措置であり、2020年度予算は消費増税分が平年度化した関係で、約1兆2,000億円の増収分が社会保障の充実に回った。

その主な内容は表1の通りであり、①幼児教育・保育の無償化、②高等教育の無償化、③待機児童の解消、④年金生活者支援給付金の支給、⑤低所得高齢者の介護保険料軽減、⑥予防・健康づくりの取組の抜本的強化、⑦医師の働き方改革の推進、⑧医療情報化支援基金の拡充――に分かれる。
表1:2020年度予算案のうち、8%から10%への消費増税分を活用した社会保障の充実
まず、①については、全ての3~5歳児と住民税非課税世帯の0~2歳児を対象に、幼稚園、保育所、両者を相乗りさせた「認定こども園」に関する費用を2019年10月から無償化していた。スタート時は半年分の費用として消費税の増収分から計3,882億円を充当するとともに、国が「子ども・子育て支援臨時交付金」(2,349億円)という形で費用の全額を負担したが、2020年度は平年度ベースとなったことで、国費ベースで3,410億円(地方負担を加味したトータルで8,858億円)が盛り込まれた。

②の高等教育無償化は2020年4月に施行され、住民税非課税世帯の学生を対象にした大学、短期大学などの授業料を軽減する。国費ベースで4,882億円(地方負担を加味すると、5,274億円)が盛り込まれた。

さらに、③の待機児童の解消に繋がる予算として、保育の受け皿拡大や保育士の処遇改善に振り向ける予算が国費ベースで358億円(地方負担を加味すると722億円)が計上された。具体的には、2017年6月の「子育て安心プラン」を前倒しし、32万人分の受け皿整備などに取り組むとしている。

④の年金生活者支援給付金は2019年10月から開始した施策の継承であり、低所得高齢者を対象に、年6万円(基準額)を支給する。全額を国費で賄っており、2020年度予算案では全額国費として4,908億円を計上している。

⑤は介護保険の保険料について、低所得高齢者の負担を軽減する内容。元々、消費税引き上げに伴う増収分を活用して、国・地方合計で約1,400億円を投入する予定だったが、最終的に計1,600億円にまで拡大することが決まっており、充実分は国費ベースで663億円(地方負担を加味すると、1,316億円)。 

⑥は医療・介護分野における予防・健康づくりを自治体に取り組ませるための交付金であり、増額分の700億円は「国民健康保険の保険者努力支援制度の増額」「介護保険版の保険者努力支援制度の創設」の2つに分かれる。この点については、「2|目立った交付金の増額」で触れる。

⑦に関しては、診療報酬改定と密接に絡んでおり、改定率を巡る攻防を含めて、「4――社会保障関係費の概要(2)」で述べる。

⑧の「医療情報化支援基金」は2019年度予算で創設された制度であり、300億円が計上されていた。2020年度予算案では2倍以上に拡充し、医療機関におけるマイナンバーカードの健康保険証としての利用促進などに充当するとしている。

ここまでの内容を見ると、②の2020年4月開始の高等教育無償化と、新たな予算制度の創設を含む⑥の予防・健康づくりの交付金を除けば、既存施策の継続が多い様子を見て取れる。ここでは、⑥の「予防・健康づくりの取り組みの抜本強化」を詳しく見ることとする。
2目立った交付金の増額
先に触れた通り、⑥の増額分700億円は「国民健康保険の保険者努力支援制度の増額」「介護保険版の保険者努力支援制度の創設」の2つに分かれている。このうち、前者は2018年度、国民健康保険の運営を都道府県化した際に創設された制度で、▽特定健診・特定保健指導(通称メタボ健診)、▽後発医薬品の使用、▽損失分を穴埋めする法定外繰入の圧縮、▽保険料収納率の向上――といった都道府県、市町村の取り組みについて、国が採点・評価した上で、補助金の分配額を増減させる仕組みである。2019年度時点では912億円だったが、2020年度予算案では増額分700億円のうちの500億円が積み増された結果、1,412億円に拡充されることになった。

増額分700億円の残りの200億円については、介護保険で同様の仕組みを作るのが目的。介護予防などを目的に、2018年度から200億円規模でスタートしている「保険者機能評価推進交付金」と合わせると、計400億円に倍増することになる。

しかし、こうした交付金はいくつかの問題を内包していると考えている。第1に、地域の実情に関わらず、自治体の行動を国の基準に従わせる危険性である。国が重視する課題と地域が直面する課題は必ずしも一致しないにもかかわらず、財政的なインセンティブを通じて、自治体の施策を全国一律の評価基準に従わせる方法が適当なのかどうか再考の余地がある。

第2に、国民健康保険の保険者努力支援制度と介護保険の保険者機能強化推進交付金については、配分基準や配点数が全て通知に委任されており、厚生労働省の裁量性が大きい。その分だけ自治体にとって予見可能性、住民にとっての透明性が極めて低い。第3に、現在の保険者機能強化交付金については、「見える化」を目的としているにもかかわらず、市町村ごとの配分額が国民に明らかにされておらず、インセンティブとしてどこまで機能しているか不明である。

こうした中で、国民健康保険の保険者努力支援制度が大幅増となり、介護保険でも既存の制度に手を付けないまま、新しい制度を創設することで、どこまで実効性が確保されるのだろうか。特に、介護保険で新設される保険者努力支援制度については、既存の保険者機能強化推進交付金とどこが違うのか分かりにくい。例えば、財務省の発表資料を見ても「従来の保険者機能強化推進交付金200億円と合わせて、介護における保険者の予防・健康インセンティブの強化を図る観点から、地方自治体における予防・健康づくり事業を後押しするため、200億円を措置」と小さく注記して書いているだけで、現時点で既存施策との違いは判然としない。
 

4――社会保障関係費の概要(2)

4――社会保障関係費の概要(2)~診療報酬改定による影響~

2020年度は2年に一回の診療報酬改定の年に当たり、例年と同様に改定率が争点となった。財務省は2019年11月の財政制度等審議会(財務相の諮問機関)で、マイナス1%改定の場合、国民医療費トータルで4,600億円のマイナス、内訳にすると国の税金で約1,200億円、地方の税金で約600億円、保険料負担で約2,300億円、患者負担で約600億円の節約効果を得られるとして、「国民医療費の抑制を図るためには、診療報酬のマイナス改定は不可欠」と主張した。

しかし、日本医師会の横倉義武会長は「本体の引き下げは『(筆者注:医師など医療職の)給与費を下げなさい』ということ。社会は今、給与を上げる風潮にある。それに反することになれば、それはとんでもない話」と反対した(2019年11月1日の緊急記者会見における発言)。

最終的に、改定率は医療機関向け診療報酬が0.55%となった一方、薬価などは計1.0%減となった(薬価改定率▲0.98%、材料価格改定率が▲0.02%)。さらに、増加分の0.55%のうち、0.08%は「医師の働き方改革」を意識した救急病院における勤務医への特例的な対応として、消費税財源を活用することになった。厚生労働省は現在、医師の「働き方改革」として残業時間に上限を設けるなどの対応策を進めており、こうした分野に予算を振り向けることにしたのである。

これが表1の⑦に該当する部分である。つまり、0.47%は通常の診療報酬として医療機関に支払われるが、0.08%については「医師の働き方改革を意識した特例的な対応」として、消費税財源を活用した別枠で取り扱われる形になった。今後、特例的な対応の詳細については、中央社会保険医療協議会(厚生労働相の諮問機関、中医協)を中心に議論される見通しだ。
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

三原 岳 (みはら たかし)

研究・専門分野
医療・介護・福祉、政策過程論

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【2020年度の社会保障予算を分析する-自然増を5,000億円以下に抑えたが、「帳尻合わせ」の側面も】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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