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- 数学記号の由来について(3)-集合論で使用される記号(⊃、⊂、∩、∪等)-
はじめに
「⊂」及び「⊃」(含む、含まれる)部分集合、包含関係を表す記号の使用及び由来
この記号について、脚注に掲げたフロリアン・カジョーリ(Florian Cajori)の著書によれば、1890年のエルンスト・シュレーダー(Ernst Schröder)による「Vorlesungen über die Algebra der Logik(論理代数に関する講義)」において導入された、となっている。それ以前は、「<」や「>」の記号が使用されていたとのことである。
一方で、ポール・テーラー(Paul Taylor)のWeb Page2によれば、「(フランスの数学者、論理学者である)ジョセフ・ゲルゴンヌ(Joseph Gergonne)が、1817年に「contient(フランス語で「含まれている」)」の意味での「C」及びその逆として「⊃」を使用したとし、これらの記号がペアノやバートランド・ラッセル(Bertrand Russell)やアルフレッド・ノース・ホワイトヘッド (Alfred North Whitehead)によっても使用されていった」とのことである。
このように、「⊂」の記号は、「含む」という表現言語の頭文字や不等号との関係で自然と考え出されてきたようである。
なお、その他の記号としては、「⊆」、「⊇」、「⊊」、「⊋」等がある。
「A⊆B」は、「AはBに含まれる」(ただし、A=Bの場合も含まれる)ことを表す。A=Bの場合を排除したい場合には、「A⊊B」と表されることになる。この場合、「AはBの真部分集合である」と呼ばれる。
なお、これらの記号を否定する場合として、「⊄」、「⊅」、「⊈」。「⊉」のような記号も存在している。
「∩」、「∪」記号の使用及び由来
「∪」はunionの頭文字からきており、「∩」は「∪」との対比で使用されたと考えられている。
なお、「∪」はカップ(cup)、「∩」は「キャップ(cap)(帽子)」とも呼ばれており、実際に文字変換ソフト等では、こうした名称の入力によって、該当の記号を呼び出すことができる。
「∋」(要素(元)として含む)、「∈」(属する)記号の使用及び由来
同じ内容を意味している場合でも、「A∋x」とすると、「Aはxを含む」又は「Aはxを要素(元)として含む」と呼ばれ、英語では「A contains x as an element」と呼ばれることになる。
先に書かれるものが主語になる形で呼ばれるが、実質的な意味合いの差はない。
ペアノは、1889年の「Arithmetices prinicipia nova methodo exposita(新しい方法の算術原理の説明)」の中で、要素を表すために「ε」を使用した。彼はそれを「est」の略語であると述べたとのことである。ただし、ペアノの記号はアンシャル体(uncial script)3のエプシロン(あるいはイプシロン)であり、現在使用されている定型化されたエプシロンではなかったようだ。
現在の定型化されたエプシロンは、イギリスの哲学者、論理学者、数学者であり、社会批評家、政治活動家でもあったバートランド・ラッセル(Bertrand Russell)が1903年に「Principles of Mathematicsin(数学の原理)」の中で使用したようだ。ただし、ラッセルによれば彼はペアノの記号を使用したと述べており、実際にそのように見え、現代的なエプシロンの使用を意図してはいなかったようだ。ペアノは、1889年の「I Principii di geometria logicamente esposti(論理的に公開された幾何原則)」の中でより一般的なエプシロンを使用していた。
また、これらの記号を否定する場合として、「∌」、「∉」という記号も存在しているが、これらについては、1939年にニコラ・ブルバキ(Nicolas Bourbaki)4の「Theorie des ensembles(集合論)」の中で、初めて使用されたようだ。
3 西暦4世紀から8世紀にかけてラテン語とギリシャ語の写本に使われた大文字の書体
4 ニコラ・ブルバキ(Nicolas Bourbaki)は架空の数学者であり、主にフランスの若手の数学者集団のペンネームである..
空集合「∅」(これは、φ(ファイ)じゃない)記号の使用及び由来
「∅」は、ニコラ・ブルバキの1939年の「Éléments de mathématique Fasc.1: Les structures fondamentales de l'analyse; Liv.1: Theorie de ensembles. (Fascicule de resultants) (数学の要素Fasc.1:分析の基本構造 Liv.1:集合論 (結果の束))」の中で、初めて使用された。フランスの数学者であるアンドレ・ヴェイユ(André Weil)は、その自伝の中で、「∅」の使用は自分に責任があり、これはノルウェー語等で用いられるアルファベット Ø に由来している、と述べている。
なお、空集合は、{ } で表されることもある。
また、空集合は数字の「0」と類似の概念であることから、数字の「0」に「/(スラッシュ)」を加えて、タイプライターによる重ね打ちで表現できる「」(slashed zero)も使用されてきた。これらの「」や「φ」を「∅」の代わりに、代替的に使用することについては、(本来的なものではないが)実質的には認められてきているようである。
その他の集合関係の記号について
「A\B」又は「A-B」は、A に含まれているが Bには含まれていない要素(元)の集合を表しており、「差集合」と呼ばれる。A∩Bcとも表現できる。
|A| は、集合 Aの濃度(Aが有限集合の場合,要素の個数)を表している。
最後に
今回の「集合」で使用される記号については、結構その意味するところの表現言語の頭文字に由来しているものが多いことがわかる。こうした傾向は、今後報告するその他の数学記号の由来においてもかなり見られる傾向となっており、ある意味で自然なものとなっている。
中村 亮一
研究・専門分野
(2020年01月07日「研究員の眼」)
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