コラム
2019年09月02日

数学記号の由来について(1)-四則演算の記号(+、-、×、÷)-

保険研究部 取締役 研究理事   中村 亮一

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はじめに

これから何回かに分けて、数学で使用されている記号の由来について、報告してみたい。

我々が、学校で数学を学ぶ場合、四則演算の記号(+、-、×、÷)に始まって、多くの数学記号を学ぶことになる。殆どの人が、それらの数学記号を漠然と受け入れており、なぜその記号が使用されるようになったのかについてまで、気にすることはないと思われる。そこで、たまには、これまで慣れ親しんできた数学記号の由来を知っておくことも、より数学に親しみを感じてもらうために良いことなのではないかと思って、これらについて調べてみることにした。

第1回目の今回は、四則演算の記号(+、-、×、÷)の由来について、報告する(なお、実際のより詳しい記号の歴史や経緯等については、脚注に掲げた米国の数学者、数学史家のフロリアン・カジョリ(Florian Cajori)の文献1等を参考にしていただくことにして、ここでは筆者の判断に基づいて、ポイントのみを報告している(次回以降の報告でも同様である))。
 
1 主として、以下の文献を参考にした。
Florian Cajori「A History of Mathematical Notations」(1928、1929)の冊子の再発行版(2012)(Dover Publications Inc.)

「+」(足し算)(プラス)及び「-」(引き算)(マイナス)の記号の使用

「+」や「-」の記号が最初に使用されたのは、1489年にドイツの数学者ヨハネス・ウィッドマン(Johanness Widmann)がその商業用算術教科書である著作「Mercantile Arithmetic or Behende und hüpsche Rechenung auff allen Kauffmanschafft」で用いた時である、と言われている。ただし、この本では、「+」は超過(ラテン語でmehr)、「-」は不足(ラテン語でminus)を意味すると定義付けられており、あくまでも「増減を表す記号」としての意味合いであったようである。

その後、1514年に、オランダの数学者のファンデル・フッケ(Giel Vander Hoecke)が、その著書において、「加算・減算のための記号」として初めて「+」と「-」を使用したと言われている。

それが、ドイツの数学者のハインリヒ・シュライバー(Heinrich Schreiber又はHenricus Grammateus)の1518年の著書やその弟子であるクリストフ・ルドルフ(Christoph Rudolff)の1525年の代数学に関する著書で使用され、さらには、ウェールズの数学者であるロバート・レコード(Robert Recorde)の1557年の著書「知恵の砥石(The Whetstone of Witte)」で使用されることで、英国においても一般的に使用されるようになっていった、とのことである。

なお、もちろん、足し算という概念は、以前から存在していた。ただし、昔は「+」の記号等は使用されておらず、ただ単に数値を並べていたようである。これは、足し算が最も基本的な演算であったことによる。さらに、引き算を表現するためには、例えばインド人は数字の上に「・」を打って、負の数字であることを示すことが行われていたようである。

「+」と「-」の記号の由来

「+」や「-」の由来については、いくつかの説があり、どれが正しいのかは明らかではないようだ。以下で、それらのうちの代表的な2つの例を紹介する。

(その1)プラスやマイナスを表す言語からの変形
最もよく知られているのは、14世紀にラテン語の「and(及び、かつ)」を意味する「et」の走り書きが変形して、「+」になったというものである。なお、この説によれば、14世紀のフランスの哲学者であり、数学や天文学に関する多くの著書があるニコル・オレーム(Nicole Oresme)が、最初の「+」記号の使用者であると言われているようである。

同じような意味合いで「-」はminusの「m」が変形して、「-」になったと言われている2
 
2 実は、ラテン語のplus、minusは「より多い」、「より少ない」を意味しており、etに対しては、demptus(取り除く)を意味するdeが使用されていたとのことである。

(その2)船乗りたちによる水槽の中の水の量の管理に関係
船乗りたちは、水の量を管理する際に、水面に当たる箇所に「-」を書き入れて、水が減って水面が下がるたびに、再び水面に当たる箇所に「-」と追記していた。また、水槽に水を足した際には、それまでに記した「-」と区別するために、「-」に縦棒を一本加えて「+」と記していた。

「+」と「-」に関係するその他の話題

算木(さんぎ)
中国や日本において、昔使用されていた「算木(さんぎ)」には、赤と黒の2色があり、「赤はプラス」、「黒はマイナス」を意味していた。現代においては、「赤がマイナス」、「黒がプラス」を意味しているのとは逆になっていたというのは興味深い。

ローマ数字
ローマ数字は、以下のように、足し算と引き算を反映した数字の表現方法となっている。

「II」 =「I」+「I」
「III」=「I」+「I」+「I」
「VI」 =「V」+「I」
「VII」=「V」+「I」+「I」
「XI」 =「X」+「I」
「IV」 =「V」-「I」(マイナスは左側で表現)

というような具合である。

「×」(掛け算)(かける)記号の使用と由来

「×」の記号が最初に使用されたのは、英国の数学者ウイリアム・オートレッド(William Oughtred)の1631年の「Clavis mathematicae(数学の鍵)」という本においてであったようである。なお、それ以前の1618年に、英国のエドワード・ライト(Edward Wright)がネイピアの数表に注釈をつけたときに、掛け算記号として「×」を用いたとも言われている。

「×」の記号については、ウイリアム・オートレッドが「キリスト教の十字架を斜めにして作った」と言われているが、なぜ斜めにしたのかという理由についてはわかっていないようである。

掛け算(かける)記号のその他の例

さて、掛け算を表す記号には、「×」以外にも、例えば「・」(ドット)という記号が用いられることもある。むしろ、「・」の方が「×」よりも早くから使用されていたようである。

「・」は、有名なドイツの数学者であるゴットフリート・ライプニッツ(Gottfried Wilhelm Leibniz)によって、掛け算の記号として提唱されたと言われているようである(これにも異論があるようだが、ここでは述べない)。ライプニッツは、1698年7月29日にヨハン・ベルヌーイ(Johann Bernoulli)3に当てた手紙の中で「私は掛け算の記号としての「×」を好まない。なぜならば、それはXと混同されやすいからである、私は単純に2つの数字の間に入れた「・」で掛け算を表す。」と述べていた。

「*」(アスタリスク)も、掛け算の記号として使用されることがある。これは、1659年に、スイスの数学者ヨハン・ハインリッヒ・ラーン(Johann Heinrich Rahn)の代数学の著書「Teutsche Algebra」において使用された。

因みに、Microsoft社のExcelでは、掛け算は「*」の記号が使用されている。 
 
3 著名な数学者を多数輩出しているベルヌーイ家の一人で、「ベルヌーイの定理」で知られるダニエル・ベルヌーイ(Daniel Bernoulli),の父である。また、有名なレオンハルト・オイラー(Leonhard Euler)はヨハンの弟子であった。

「÷」(割り算)(わる)記号の使用と由来

「÷」の記号が除算記号として最初に使用されたのも、「*」の使用とともに、1659年のヨハン・ハインリッヒ・ラーンの著書であるとされている。これに対して、同書の編集者で、ラーンの師であった英国の数学者ジョン・ペル(John Pell)によるとの説もある。

そもそも、「÷」という記号そのものについては、新しいものではなく、ラーン以前においても、多くの書き手によってマイナスの記号として使用されており、さらには15世紀初頭のロンドン金融街では「半分」を意味する記号として使用されていたとのことである。

「÷」という記号は、上下の2つの「・」がそれぞれ分母と分子の数値を表しているとされ、間の横線が分数の横線を表している、と考えられている。

これに対して、「-」と区別するために、上下に「・」を付けたとの説もある。

いずれにしても、「÷」という記号は、英国でアイザック・ニュートン(Sir Issac Newton)らによって使用され、広まっていく。それが米国に伝わり、日本でも幅広く使用されることになったようである。

割り算(わる)記号のその他の例

ところで、割り算を表すには、「÷」以外にも、例えば「:」(コロン)や「/」(スラッシュ)という記号が用いられることもある。

「:」(コロン)は、1633年に「Johnson Arithmetik;In two Bookes」というタイトルの本で使用されたが、ここでは、Johnsonは「:」を分数を表す記号としてのみ使用(例えば、4分の3を「3:4」と表現)し、分数の概念から分離された割り算の記号としては使用していなかった。これに対して、先に述べたライプニッツは、1684年の本の中で比率と割り算の両方に対して「:」を使用した。ライプニッツは、・が1つの「・」を掛け算、・が2つの「:」を割り算として使用していたことになる。「:」は、欧州大陸で多く使用された。

当時は、ニュートンとライプニッツの間で微積分の発見について論争があり、英国と欧州大陸の数学者の間の関係がよくなく、これが英国と欧州大陸における数学記号の採用にも影響を与えていたと言われている。

「/」(スラッシュ)については、日本では分数を表すのに使用されており、分数と割り算で異なる記号が用いられている。ところが、分数と割り算は本来的に同義であることから、ライプニッツがそうであったように、同じ記号を使用することも十分に合理的ということになる。

実際に、「÷」記号は、小学校の時に学ぶが、その後高等教育になっていくと、次第にその使用頻度が減り、「/」に置き換わっていくものと思われる。

因みに、Microsoft社のExcelでは、割り算は「/」の記号が使用されている。

最後に

我々が日常何気なく使用している四則演算の記号(+、-、×、÷)であるが、その由来についてはそれなりの説明はなされてはいるものの、確実にこれだというものが確認されているというわけでもないようだ。厳密な公理や定理をベースに構築されてきている数学の記号の由来が、実は必ずしも十分に明確な形で合理的に説明されているわけではないともいえることになる。

また、割り算の記号については、英国と欧州大陸では、必ずしもその使われ方が同一ではなく、これは過去の偉大な数学者の対立関係にその由来があるということになっている。似たような事例は、現在の社会一般における各種のルールや制度における各国間(あるいは英国と欧州大陸)の差異発生の由来においても観測されているものと思われる。その意味では、数学の世界も決してその例外ではないということだろう。

ともに、何とも興味深い話と思われるが、いかがなものだろうか。
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研究・専門分野
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(2019年09月02日「研究員の眼」)

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