2019年12月27日

EIOPAがソルベンシーIIの2020年レビューに関するCPを公表(7)-株式リスクに関する措置-

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4-3.戦略的株式リスク取扱の設計
(1)課題の特定
利害関係者により、以下の課題が特定されている。

課題I:より低いボラティリティの基準に基づいて戦略的参加を評価するアプローチは適切ではない。
第171条 (a) の基準によれば、戦略的株式に適格となるためには、保険会社が今後12ヶ月以内に他の株式投資よりも相当に低いボラティリティを有することを実証することが求められるが、戦略的参加の性質に関連する長期的な見通しと矛盾するように思われるため、実際に適用することは非常に困難であると考えられる。

課題II:戦略的参加として適格とされる投資の最低保有比率と支配水準を20%とするのは高すぎる。
この要件は、特に、保有戦略や長期保有能力といった他の第171条の基準と併せて考慮される場合には、必要以上に限定的であると考えられる。

(2)分析
(2-1)課題Ⅰ:より低いボラティリティの基準
以下のオプションを検討している。

・オプション1:変更なし
・オプション2:基準の削除
・オプション3:要件を明確にし、オプションとしてベータ法を追加する。
・オプション4:必須メソッドとしてベータ法を指定して、要件を明確にする。

オプション3は、より低いボラティリティを証明するための追加的な方法を提供することにより要件を強化し、オプション4は、より低いボラティリティの要件を証明するための必須的な方法を提供することにより要件を強化する。オプション1又は3と組み合わせて、必要なボラティリティ評価をどのように実施するかについての更なる明確化は、直接規制に含めることも、追加ガイダンスに含めることもできる。この明確化は、これまでに行われた監督上の経験に基づいて行うことができる。例えば、会社は、財務諸表又はヒストリカル・リターンを競合他社のものと比較することによって、あるいは上場株式がベンチマーク・インデックスを有する場合に、より低いボラティリティを実証した。さらに,このようなベータ法を提案した。オプション3では、この方法は、投資のより低いボラティリティを評価するための1つのオプションの方法として指定され、オプション4では、これが適用される必須の方法となる。

望ましいオプションは、ボラティリティ基準を評価する必要のある保険契約者、監督当局及び利害関係者の利益となる要件を改善することから、この目的に使用できるオプションの手法(オプション1又は3)を提案することにより、ボラティリティ基準を強化することである。

(2-2)課題II:20%の支配基準値
以下のオプションが検討されている。

・オプション1:変更なし
・オプション2:変更なし、適用範囲の明確化を追加
・オプション3:削除
・オプション4:5又は10%に削減

オプション2は、変更するものではなく、適用範囲を明確にするものであり、特に、参加会社及び関連する会社に適用される。このオプションは、現在の所要自己資本の水準を維持するため、他のオプションと比較して、保険契約者保護の水準を維持するために最も貢献する。実際、オプション3と4は、SCR標準式のリスク感応度を危うくし、保険契約者保護に悪影響を及ぼす可能性がある。したがって、この政策課題に対する望ましいオプションは、その要件を維持しながら、適用範囲を明確にするオプション2である。

(2-3)課題III:リスクの相関
この課題に関しては、戦略的参加の評価が保険会社の実績及び保険会社の自己資本の変化に著しく依存せず、また、それに著しく相関しないことを会社が証明することを求める法的根拠をNSAsに提供することである、としている。
4-4.長期株式投資リスク取扱の設計
(1)課題の特定
以下の課題が特定されている。

課題I:LTEと他のリスクとの分散効果
明示的な分散効果制限が反映されているMAとは対照的に、規制はLTEのための分散に関するさらなる仕様を提供していない。

課題II:分散化するLTEポートフォリオ
現在のLTEに関する規制では、LTEポートフォリオが十分に分散されている必要はない。課題は、単一の株式、少数の株式又は類似の株式に対して22%の資本チャージが正当化されるかどうかである。十分に分散化された株式ポートフォリオのリスクは、一般に、単一又は非分散化株式ポートフォリオのリスクよりも低い。

課題III:既存の規定との重複の可能性
DBERとの重複の可能性については、既に述べた通りであるが、加えて、NSAsは、株式が戦略的株式と長期的な株式投資の両方に適格である場合があるかもしれないと考えている。いずれのカテゴリーにおいても資本チャージを引き下げる動機と株式投資のリスクの性質は異なっている(短期ボラティリティの軽減と長期株式リスクの考慮)。

(2)分析
(2-1)課題I:LTEと他のリスクとの分散効果
以下のオプションが検討された。

・オプション1:変更なし
・オプション2:LTEと他の株式リスクとの分散を考慮しない。
・オプション3:LTEと他のリスクとの分散なし

CEIOPSの前回のDBERに関する勧告では、長期的な見通しの相関関係については異なる取扱を認めるよう推奨している。DBERは、タイプ1とタイプ2の分散化の結果を加味した長期的なサブモジュールに分離されるべきである。DBERの結論は、短期と長期の株式リスク間の分散が短期リスク間の分散と異なるため、LTEに適用可能である。これはオプション2である。このため、オプション1のような他の株式リスクを伴うLTEの現在の分散化は疑問視される可能性がある。

オプション3は、1年の短期リスクで分散しないことである(オペレーショナル・リスクと同様)。これにより、短期リスクと長期リスクを透明かつ分離して取り扱うことにより、SCRの明確な解釈が可能となる。しかし、過度に慎重であり、インフラ・スプレッド・リスクの取扱と矛盾するかもしれない。

(2-2)課題II:分散化するLTEポートフォリオ
以下のオプションが検討された。

・オプション1:変更なし
・オプション2:分散されたポートフォリオのみが対象

オプション2では、十分に分散化された株式ポートフォリオのみが、LTEポートフォリオのより低い資本要件に適格となる。LTE株式ポートフォリオの十分な分散化を実証するのは会社による。

この政策課題の好ましい政策オプションは、一般的にリスクの低いLTEポートフォリオを分散することを要求することである。これはLTEの資本チャージを較正するために用いられる分析の基礎と整合的である。

(2-3)課題III:グループ内投資の抑制
以下のオプションが検討された。

・オプション1:変更なし
・オプション2:コントロールされたグループ内投資をLTEから除外する。

オプション2の下では、第171a条の下部に「(4) 支配されている株式へのグループ内投資は、株式投資のサブセットから除外されるものとする。」というテキストが追加される。

この課題の望ましい政策オプションは、より慎重であると考えられるLTEの範囲からグループ内のコントロール投資を除外することである。実際、グループ内の長期投資をコントロールすることで、LTEポートフォリオの残りの部分のトレーディング戦略を相殺できると考えることができる。
5|助言内容

EIOPAは、株式リスク・サブモジュールの包括的な見直しを行い、特に、デュレーションベースの株式リスク・サブモジュール、戦略的株式投資、長期株式投資及び対称調整の設計及び調整の適切性を評価することを求められている。対称調整は、セクション2.1で別個に扱われる。

「標準」タイプ1及びタイプ2株式
2010年1月、EIOPAの前身であるCEIOPSは、「標準」タイプ1及びタイプ2株式について助言を行った。EIOPAの勧告は前例と同じである。

デュレーションベースの株式リスクのサブモジュール
2010年1月、CEIOPSはデュレーションベースの株式リスクに22%のリスクチャージを課すことを勧告した。現在まで、標準式のストレスは22%に設定されている。

2019年3月、欧州委員会は、長期株式投資の取扱に関する委任規則第171a条を含む改正を採択した。DBERと同様に、LTEはより長い時間軸で株式のリスクに対処することを目的としている。

二つの別々の取扱を維持することの妥当性は、誘発される複雑さの観点から、不必要であると考えられる。したがって、DBERの承認された使用は段階的に廃止されるべきである。DBERを使用する新たな承認は、これ以上付与されるべきではない。

戦略的株式投資
現在まで、戦略的株式に関する助言は提供されていない。2019年2月、EIOPAは委任規則の基準の適用に関する情報を提供した。

利害関係者が、フレームワークの重要な要素を特定した。具体的には、より低いボラティリティと20%の最小保有・管理臨界値に基づいて戦略的参加を評価するアプローチである。

NSAsの大半は、特に非上場株式について、より低いボラティリティに関する基準を満たすことを実証することは困難であると述べている。

より低いボラティリティ
EIOPAは、20%の最低支配基準値(委任規則第171条 (a))について、その要件を維持するように勧告する。支配基準値を維持する理由は次のとおりである

より低いボラティリティに関する基準(委任規則第171条 (a))については、EIOPAはその要件を維持するよう助言し、その評価をどのように行うかについて法律でさらに明確にすることを提案する。そのためのオプションとしてベータ法を導入すべきである。

管理臨界値20%
EIOPAは、最低管理臨界値を20%(委任規則第171条 (a))とする基準について、その要件を満たすよう勧告する。臨界値を維持する理由は次のとおりである。

・参加会社が関連会社に及ぼす影響は、関連会社の自己資本のボラティリティに重大な影響を及ぼす可能性がある。
・戦略的株式投資は、戦略的性格を有する投資であるという基本的な考え方

さらに、この要件が関連会社への投資に適用されることをより明確にすることが有益である。したがって、委任規則第171条の表題と第1文は、出資ではなく参加に言及するために変更される可能性がある。

リスクの相関
参加会社の価値が会社の業績に依存している、又は会社の業績と著しく相関している場合には、より低い資本要件は正当化されないことがある。

債務ごとに自己資本の訂正があった場合でも、22%が適切である。しかし、第68条3項は、通常はそうではないと述べている。

したがって、EIOPAは、戦略的参加の取扱は、その評価が保険会社自体のパフォーマンスに大きく依存していない、あるいはその評価が保険会社の自己資本の変化と有意に相関していないという前提に基づいていることを明らかにする。

インフラストラクチャへの投資
2015年9月及び2016年6月に、EIOPAはインフラ投資及びその他のインフラ投資、すなわちインフラ事業体の特定及び評価について助言を行った。EIOPAの勧告は、これまでの2つの勧告と変わらない。

非上場株式
2018年2月、EIOPAは非上場株式について助言を行った。特に、EIOPAは、上場株式と同じリスクファクターから利益を得る可能性のあるものを特定するため、EEAの非上場株式ポートフォリオに適用可能な基準を提供した。EIOPAの勧告は前例と同じである。

長期株式投資
ソルベンシーII指令第101条 (3) 及び第104条 (4) は、1年の時間軸に基づく較正を要求している。ある条件の下では、より長い期間の選択が技術的に正当化される場合がある。他方、株式を取引し、その他のリスク尺度を用いる会社は、自己資本の水準の変化が完全には把握されていないことを意味する可能性がある。

現在まで、長期株式投資に関する助言は行われていない。2019年3月、第171a条は、特定の条件を満たす株式投資について22%のリスク負担軽減を定めた。より低い資本チャージは、いくつかの正当化に基づくものであり、1つはCEIOPSの、デュレーションベースの株式リスクのサブモジュールに関する2010年の助言である。

EIOPAは、CEIOPSの2010年の勧告を補完するものとして、過去のデータ・シリーズに基づく長期的な株式リスクの分析を行った。方法論におけるいくつかの変更が考慮された。すなわち、超過リターンは10年間のリスクフリーレートから控除して計算され、株式分析には株式投資の損失だけでなく、その期間の割引率の巻き戻しも含まれていることが確認され、それが技術的準備金に反映される。また、超過収益は、会社が特定の年の間に投資を処分しなければならない可能性のあるリスクを考慮して、最低のインデックス値で計算される。

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中村 亮一

研究・専門分野

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