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- コワーキングスペース「WeWork」の事業収益性を考える
2019年12月24日
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「WeWork」の座席の開設時期を見ると、2017年以前が21%、2018年が51%、2019年が28%となっている (図表9)。これに対して、「IWG」の開設時期は、2017年以前が79%、2018年が14%、2019年が7%である (図表10)。「WeWork」は「IWG」と比較して、開設から間もない座席が多くを占めている。また、図表11は「IWG」の開設時期別の稼働率及び損益状況を示している。2017年以前に開設された座席の稼働率は75.2%、2018年は50.3%、2019年は26.5%である。通常、開設から間もない座席の稼働率は低く、会員の募集には相応の年月が必要であることが分かる。損益をみても開設から間もない座席は赤字となっている。これは、開設から間もない座席が多くを占める「WeWork」にとって、今後の稼働率上昇に伴い収益が改善に向かう可能性はあると言える。
7 コワーキングスペースが提供する座席は、専用型の座席と共有型の座席に大きく分けることができる。専用型の座席は特定の会員が占有し、利用する。一方で、共有型の座席は一つの座席を多数の会員が共有して利用する。このため、コワーキングスペースでは、会員数が席数を上回るのが一般的であり、大きく上回っているのは好調な状況とみられる。
4――会員当たり売上高を比較する
5――事業黒字化に向けて必要な会員数を試算する
「WeWork」は事業黒字化に向けて、新規会員の獲得に注力する一方で、新規拠点開設の凍結や人員削減など運営費用の削減計画を発表している。それでは、事業が黒字化、もしくは「IWG」と同水準の利益を確保するには、どれほどの会員が必要であろうか。以下に示す4つのケースについて、一定の前提条件8のもと、試算したい(図表17)。
(1) 現状の費用が変わらないケース(図中黒線)
(2) 「新規スペースの拡大費用」をゼロとしたケース(図中赤線)
(3) 「新規スペースの拡大費用」をゼロ、「既存スペースの運営費用」を20%削減したケース(図中紫線)
(4) 「新規スペースの拡大費用」をゼロ、「既存スペースの運営費用」を40%削減したケース(図中青線)
(1) のケースでは、黒字化には会員数が約160万人(現状比+201%)、「IWG」と同等の1.9億米ドル(203億円)の営業利益には175万人(現状比+230%)の会員が必要である。現状、黒字化には大幅な会員の増加が必要なことが分かる。
(2) のケース(新規開設を凍結)では、黒字化には会員数が約86万人(現状比+62%)、「IWG」の利益水準には101万人(現状比+90%)が必要となる。新規開設を凍結し事業拡大を停止したとしても、大幅な会員数の増加が必要である。従って現実的には「既存スペースの運営費用」の削減が必要となる。
(3) のケースでは、黒字化には会員数が約68万人(現状比+23%)、「IWG」の水準には約80万人(現状比+51%))が必要となる。「WeWork」では、従業員の約20%に相当する人員削減計画を発表した。仮に、人件費に加えて他の運営費用を20%削減できたとしても、会員数を現状の1.3倍~1.5倍に増加する取り組みが求められる。
(4) のケースでは、黒字化には会員数が約56万人(現状比+5%)、「IWG」の水準には66万人(現状比+24%)が必要となる。運営費用を40%削減できれば、早期の黒字化が達成できると言えそうだ。ただこの場合、「WeWork」の魅力、つまりブランド価値を失うリスクがある。
(1) 現状の費用が変わらないケース(図中黒線)
(2) 「新規スペースの拡大費用」をゼロとしたケース(図中赤線)
(3) 「新規スペースの拡大費用」をゼロ、「既存スペースの運営費用」を20%削減したケース(図中紫線)
(4) 「新規スペースの拡大費用」をゼロ、「既存スペースの運営費用」を40%削減したケース(図中青線)
(1) のケースでは、黒字化には会員数が約160万人(現状比+201%)、「IWG」と同等の1.9億米ドル(203億円)の営業利益には175万人(現状比+230%)の会員が必要である。現状、黒字化には大幅な会員の増加が必要なことが分かる。
(2) のケース(新規開設を凍結)では、黒字化には会員数が約86万人(現状比+62%)、「IWG」の利益水準には101万人(現状比+90%)が必要となる。新規開設を凍結し事業拡大を停止したとしても、大幅な会員数の増加が必要である。従って現実的には「既存スペースの運営費用」の削減が必要となる。
(3) のケースでは、黒字化には会員数が約68万人(現状比+23%)、「IWG」の水準には約80万人(現状比+51%))が必要となる。「WeWork」では、従業員の約20%に相当する人員削減計画を発表した。仮に、人件費に加えて他の運営費用を20%削減できたとしても、会員数を現状の1.3倍~1.5倍に増加する取り組みが求められる。
(4) のケースでは、黒字化には会員数が約56万人(現状比+5%)、「IWG」の水準には66万人(現状比+24%)が必要となる。運営費用を40%削減できれば、早期の黒字化が達成できると言えそうだ。ただこの場合、「WeWork」の魅力、つまりブランド価値を失うリスクがある。
8 試算にあたり、便宜上、「オフィススペースの確保に係る費用」を固定費、「既存スペースの運営費用」を変動費、会員当たり売上高は現行水準とした。
6――さいごに
本稿では、「WeWork」の事業収益性についてみてきた。「既存スペースの運営費用」と「新規スペースの拡大費用」が高額であること、「開設から間もない拠点が多く、収益化に時間が必要であること」が、「WeWork」の赤字の要因であることを確認した。
事業収支の改善には会員数の増加とともに大幅な費用削減が必要となる。もっとも、費用削減により、「WeWork」の提供するコミュニティ・プラットフォーム機能や快適で生産性を高めるオフィス空間の提供が困難となれば、他社との差別化が難しくなるだけでなく、「WeWork」のコーポレートアイデンティティやテック企業としての企業価値も失われてしまう。「WeWork」は収支の改善、会員への付加価値の提供、ブランド価値の維持など、難しいかじ取りが求められている。
事業収支の改善には会員数の増加とともに大幅な費用削減が必要となる。もっとも、費用削減により、「WeWork」の提供するコミュニティ・プラットフォーム機能や快適で生産性を高めるオフィス空間の提供が困難となれば、他社との差別化が難しくなるだけでなく、「WeWork」のコーポレートアイデンティティやテック企業としての企業価値も失われてしまう。「WeWork」は収支の改善、会員への付加価値の提供、ブランド価値の維持など、難しいかじ取りが求められている。
(ご注意)本稿記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本稿は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものでもありません。
(2019年12月24日「不動産投資レポート」)
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03-3512-1860
経歴
- 【職歴】
2008年 大和証券SMBC(現大和証券)入社
大和証券投資信託委託株式会社、株式会社大和ファンド・コンサルティングを経て
2019年 ニッセイ基礎研究所(現職)
【加入団体等】
・公益社団法人 日本証券アナリスト協会 検定会員
・修士(工学)
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