2019年12月23日

EIOPAがソルベンシーIIの2020年レビューに関するCPを公表(6)-ボラティリティ調整について(その2)-

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4―「ボラティリティ調整(VA)」-VA使用の承認-

ここでは、「ボラティリティ調整(VA)」の「使用の承認」の検討内容及びその助言内容について、報告する。

1|課題の特定
ソルベンシーII指令には、VAの使用に監督上の承認を必要とする加盟国オプションが含まれている (第77d条1項)。これに基づき、現在10カ国はVAの使用承認を必要としているが、このうちの4カ国では、会社はVAを使用していない。会社がVAを使用している17カ国では、承認は必要とされない。

さらに、VA使用の承認のため、一部の国では費用負担が求められ、他の国では求められない。

このため、第77d条1項は、公平な競争条件を提示していない。

また、VAの使用で監督当局の承認を受けていない会社であっても、VAの承認を必要としない国で事業許可を受けていれば、VAを使用することができるかもしれない。これらの差異は、VAの承認を得ていない国における監督上の審査プロセスで会社がVAを使用することが不適当であると認められる場合には、その使用を承認しないことができるので、緩和されるかもしれない。

2|分析
EIOPAは、以下の2つのオプションを検討している。

・全ての加盟国でVAを使用するために監督上の承認を必要とする。
・全ての加盟国でVAを使用するために監督上の承認を必要としない。

監督上の承認を要求することは、NSAs(各国監督当局)がその市場におけるVAの使用に関する最新の情報を有することを確保する。NSAsは、VAの使用に以下のような条件を課すことができる。

(1) VAが会社固有の適用比率を含む場合又は会社固有の資産配分に基づく場合には、VAの会社固有の構成要素を計算するためのプロセス、データ及び前提が適切である。

(2) 会社は、少なくともリスクフリー金利にVAを加えた資産利回りを得ることができる。

(3) VAが代表ポートフォリオに基づいている場合には、会社の資産がVAの計算に使用された代表ポートフォリオから不当に逸脱していない。

これにより、適切な割引率を使用し、したがって適切な技術的準備金を設定することを確保するのに役立つことになる。

一方で、監督上の承認が要求されない場合、NSAs及び会社は承認プロセスのコストを負担しないことになる。

何の変更もしないことは国を越えての公平な競争条件を提供しないため、好まれない。

3|助言内容

EIOPAの見解では、VAの使用に監督当局の承認を必要とするかどうかという問題は、全ての加盟国について同様な取扱が行われるべきである。

VAが監督上の承認を受けるべきか否かは、VAの設計に依存する。EIOPAは協議の後、その設計についての選好の決定を行う。

 

5―「ボラティリティ調整(VA)」-内部モデルにおける動的VA-

5―「ボラティリティ調整(VA)」-内部モデルにおける動的VA-

ここでは、「ボラティリティ調整(VA)」における「内部モデルにおける動的VA」の検討内容及びその助言内容について、報告する。

1|欧州委員会からの助言要請
欧州委員会からの助言要請は、以下の通りである。

3.6.ボラティリティ調整の動的モデリング

EIOPAは、内部モデル利用者による動的VA調整(DVA)のモデル化が、保険及び再保険会社の投資及びリスク管理戦略を阻害する要因となっているかどうか、また、この点に関する多様な慣行の存在が公平な競争の場に有害であるかどうかを評価するよう求められている。この関連で、EIOPAは、ボラティリティ調整の基礎となる前提に照らして、内部モデルにおけるこの動的モデル化の適切性を評価することが求められる。EIOPAが内部モデルにおいてこの動的モデル化を維持するよう勧告する場合には、モデル化の調和を改善するための判断基準についても勧告すべきである。

2|以前の助言内容
EIOPAは、これまでのところこの問題に関する助言は提供していないが、動的VA調整(DVA)を含む内部モデルの監督評価に関する意見を公表している。

3|関連法規等
内部モデルのDVAは、特に内部モデルの規制要件によって規定されている。これらは特に、単独会社に対してのソルベンシーⅡ指令第112条から第127条まで、並びに委任規則第222条から第246条まで及びグループに対するそれぞれの条項である。さらに、リスク管理を含むガバナンスや監督当局及び一般公衆への開示に関するより一般的な要件が関連している。

特に重要なのは、ソルベンシーII指令第121条の「統計的質基準」であり、これには技術的準備金を計算するために使用される方法との整合性だけでなく、委任規則第232条にいうリスクをランク付けする能力も含まれる。より一般的に重要なのは、全ての重大なリスクを網羅することである(委任規則第233条)。

4|課題の特定
一部の内部モデル利用者は、技術的準備金の算出方法と整合的にSCRを算出するために、基本自己資本の変動を決定する確率分布予測を生成する必要があることから、基本自己資本の1年間の予測期間中に、モデル化された信用スプレッドに沿ってVAが動くことを許容することにより、SCRにおいてVAを考慮する、いわゆる動的VAアプローチ(DVA)を採用している。なお、内部モデル利用者の中には、標準式と同様にVAを一定にするアプローチ(CVA)を採用している会社もある。

このDVAについて、確認されている課題としては以下が挙げられている。

1.リスク及び投資管理に対する潜在的なディスインセンティブ
2.特に、異なるモデル化アプローチの存在による、公平な競争条件への影響
3.VA調整の基礎となる前提条件との関連における適切性
4.監督当局及び一般公衆への報告
5|分析
2018年末現在において、62社がDVAを含む単独目的のための内部モデルを使用しており、ソルベンシーII該当会社のうちの、会社数では2%、資産では15%に相当している。

これらの会社は、同種のDVAを有する8つのグループに分けられる。そのうち38社をカバーしている4つのアプローチは、EIOPA VA手法を再現するという野心を持つ「直接的アプローチ」に分類される。24社がカバーしている他の4つのアプローチは、望ましくないリスク管理インセンティブを解決することを目的としてEIOPA VA手法を厳密にモデル化することから逸脱する「包括的(ホリスティック)アプローチ」 に分類される。これらは、独自の評価に基づいて信用リスク又は信用リスクの影響の代替的な措置を実施し、アプローチ及び技術的仕様において概念的に異なるといえる。VAの基礎となる前提がある程度不明確であるという欠陥は、再びDVAに翻訳されるが、これは包括的アプローチの文脈においてのみ関連するものではない。

なお、モデルは、選択したアプローチにかかわらず、ソブリン・リスクを含む全ての信用リスクがモデル化された場合にのみ承認されている。

(1) リスク及び投資管理に対する潜在的なディスインセンティブ
EIOPAは、以下のように結論付けている。

1.DVAはVAの欠陥を増幅するが、新しいドライバを追加しない。

2.欠陥の関連性は具体的なリスクプロファイルに依存する。

3.VA 「オーバーシュート」 及びSCRの問題の主な原因は次の通りである。
・資産の信用スプレッド感応度と負債の信用スプレッド/VA感応度のミスマッチ(デュレーションとボリュームのミスマッチを含む)

・参照ポートフォリオ への配分ミスマッチ(セクターと信用品質ステップ(「CQS」)を含む)

・30年以上の長期平均としての定義に従った現在のVAリスク修正は本質的に静的であり、特に極端なストレスシナリオや極端な経済環境では、DVA/SCRを目的としたシミュレーションに含まれている一定の資産に対して、予想外の信用リスク(例えば、移行、デフォルト)又は他の資産リスクを過小評価する可能性がある。

また、適切な解決策を設計するには、以下の原則を使用する必要がある。

1.リスク管理と投資管理のディスインセンティブがないこと、特に「オーバーシュート」(又は「アンダーシュート」)がないこと

2.DVAの便益は、対象となる資産及び負債に存在するリスクを反映して、リスク感応的であるべきである。特に、信用スプレッドSCRを完全に排除すべきではなく、DVA便益は予期せぬリスク(特に、移行とデフォールト)を反映すべきである。

(2) 公平な競争条件への影響
DVA使用の47社に対するアンケート結果によれば、SCRへの加重平均ベースでの影響は、VA非適用、ソブリン・リスク考慮の場合のSCRを100とした場合、以下の通りとなっている。

1) VA非適用、ソブリン非考慮      85.1(▲14.9)
2) VA非適用、ソブリン考慮       100
3) VA適用(CVA)、ソブリン考慮  94.6(▲5.4)
4) VA適用(DVA)、ソブリン考慮  76.4(▲23.6)

これらの数値に基づいて、DVAの影響は、VAを含まないSCRとの比較では▲3.3%、VAのスイッチオフの影響は▲23.1%であるとしている。

(3) VAの基礎となる前提条件との関連におけるDVAの適切性
VAは、保険会社の負債特性とは潜在的に独立した、債券スプレッドの誇張に対する補償と考えることができる。あるいは、負債を複製する資産に対する追加的な非流動性プレミアムを表すと考えることもできる。別の言い方をすれば、(それぞれの負債を有する)長期投資家として機能する保険会社が得ることのできる追加的な保険料である。VAの基礎となる前提は選択された解釈に基づいており、解釈なしに、これらの基礎となる前提は現時点では完全に明確ではない。したがって、基礎となるVAの前提条件の文脈におけるDVAの妥当性の評価は、信用スプレッドに対するストレスの緩和、すなわち、この緩和が「オーバーシュート」であるかどうかという観点におけるSCRへの影響に焦点が当てられた。

(4)結論
上記の分析から、EIOPAは、例えば以下の結論を導いている。

DVAはディスインセンティブ自体を導入するのではなく、潜在的なディスインセンティブをVAからSCRに輸送し、それを増幅する。これは、DVAに対する直接的なモデル化アプローチが健全なリスク管理を歪める可能性がある「オーバーシュート」に苦しむ会社に特に当てはまる。

平均して、ソブリン向けエクスポージャーのモデル化を強制しない場合、内部モデルへのDVAの導入は、標準式又は内部モデルへの固定VAと比較して、影響は限定的である。また、実施した分析では、アプローチ間の相対的な影響も、直接的又は包括的アプローチのグループ間の影響も、DVAによる公平な競争条件への違反を直ちに示唆するような体系的な差異は示されなかった。

ただし、EIOPAの見解は、多様化するDVAアプローチがEIOPA VAの直接モデル化よりも大きな利益を達成し、公平な競争条件を損なう可能性を制限することに対する最初の保護手段となる。しかし、本意見書は、オーバーシュートのために直接モデリングが実行できない場合、どのような修正を行うべきかについての指針を提供していない。このことは、公平な競争条件の欠如をもたらし、そのような場合には、特に承認において、またそれらの内部モデルの適切性についての継続的な監督において、監督者と会社に対する高い努力を要求することになる可能性がある。

結果的に、監督当局は、VAによって導入され、DVAによって増幅される既知の潜在的なディスインセンティブが「出所において解決される」こと、すなわちVAにおいて対処されることを望む。

基礎となるVAの前提に照らしたDVAの妥当性の評価は、信用スプレッドへのストレスの緩和、すなわち、この緩和が「オーバーシュート」であるかどうかという観点からのSCRへの影響に焦点を当てられた。

オーバーシューティングの問題とリスク修正のダイナミクスが欠如していることから、一部の保険会社がVAを直接モデル化している場合がそうであるように、リスクと投資の管理に対するディスインセンティブは存在してはならない。これらの欠点がVAにおいて解決され、複雑さが実質的に増大しないならば、DVAを維持することができる。VA解決策を導入しない又は部分的にしか導入しない場合は、(規制において)措置が必要になる。

内部モデルのDVAは、モデル化の要件と使用の適切さを組み合わせた総合的な観点から評価されなければならない。直接モデル化からの逸脱には、通常、目標、基礎となる前提及びパラメータ化に対する十分な洞察が必要であり、直接モデル化が不可能な場合は、これらの要素を明確にする必要がある。逸脱が予想されるのは、非常に特殊なケースに限られる。

欠陥が発生源で解決されない場合には、使用テストによって要求される一貫性とリスク指向の平準化を確保することで、規制措置が考慮されなければならない。
6|助言内容
EIOPAは、以下の内容を勧告している。
 

DVAを維持すべきか否かについて、EIOPAは次のように勧告する。
1.もし、ディスインセンティブがVAの源で解消されれば、DVAは維持されるかもしれない。これにより、より多くの保険会社がEIOPA VA手法を直接モデル化して許容可能な結果を得ることが可能となり、意図しないリスク管理のインセンティブを回避することができるため、より調和を図る道が開かれる。VAの具体的な将来の設計に依存して、内部モデルに対するこのアプローチは、潜在的に、規制において支持される必要があるかもしれない。

2.VA解決策が導入されないか又は部分的しか導入されない場合は、(規制において)措置が必要となる。そのような措置は、ディスインセンティブを回避し、DVAがリスク感応的であり、公平な競争条件を保護することを確実にするという野望を持つであろう。これは、「包括的アプローチ」 の設計と同様に、「直接的アプローチ」 の使用に影響を与える可能性がある。

適切な解決策を設計するには、以下の原則を用いるべきである。
3.リスク管理と投資管理、特に「オーバーシュート」(又は「アンダーシュート」)に対するディスインセンティブがない。

4.DVAの便益は、対象となる資産及び負債に存在するリスクを反映して、リスク感応的であるべきである。特に、信用スプレッドのSCRを完全に排除するべきではなく、DVAの便益は予想損失、予想外の信用リスク(特に、移行及びデフォルト)及びその他の資産のリスクを反映すべきである。

この助言は、観察されたVAの欠陥を解決する適切性が現在協議中であるため、VAに対する提案された変更について決定的でない意図によるものであることに留意されたい。

 

6―まとめ

6―まとめ

以上、今回のレポートでは、ソルベンシーIIの2020年のレビューに関するCPのうちの、「ボラティリティ調整(MA)」に関する内容のうちの「一般適用比率」、「標準式における動的VA」、「VA使用の承認」及び「内部モデルにおける動的VA」について報告した。

次回のレポートでは、「長期及び戦略的な株式投資」、「株式リスク費用の対称調整」及び「株式等リスクに関する移行措置」及び「回復期間の延長」について報告する。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2019年12月23日「保険・年金フォーカス」)

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【EIOPAがソルベンシーIIの2020年レビューに関するCPを公表(6)-ボラティリティ調整について(その2)-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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