2019年12月03日

EIOPAがソルベンシーIIの2020年レビューに関するCPを公表(4)-マッチング調整及び移行措置等について-

文字サイズ

5|助言内容

EIOPAは、再構築された資産の適格性を明確にするため、委任規則に追加要件を導入するよう勧告する。

キャッシュフローが他の原金融資産のパフォーマンスに依存する資産については、会社は、他のMA適格基準を満たすことに加えて、以下のことを実証することができなければならない。

1.原資産は十分に一定の収入をもたらす。
2.再構築された資産のキャッシュフローは、そのキャッシュフローが期間中に十分に固定され、運営条件が変化しても維持されるような損失吸収性の特徴によって支えられている。
3.裏付資産に金融保証が含まれている場合には、それらの保証は追加的なMAをもたらすものではない。
4.会社は、根底にあるリスクを適切に特定し、測定し、監視し、監督し、管理し、報告することができる。

 

4―「リスクフリー金利及び技術的準備金に関する移行措置(TRFR及びTTP)」について

4―「リスクフリー金利及び技術的準備金に関する移行措置(TRFR及びTTP)」について

ここでは、「リスクフリー金利及び技術的準備金に関する移行措置(TRFR及びTTP)」について、報告する。

1|欧州委員会からの助言要請の内容
この項目に関する欧州委員会からの助言要請の内容は、以下の通りである。
 

3.3.移行措置
ソルベンシーII指令第VI章は、いくつかの移行規定を定めている。EIOPAは、保険契約者保護及び公平な競争条件の観点から、移行規定の現在の妥当性を評価するよう求められている。この評価は、該当する場合には、会社が新たに移行措置を申請する可能性が継続すべきかどうかについても評価すべきである。EIOPAは、勧告にその理由が記載されていれば、異なる移行措置についての作業を優先することができる。しかし、EIOPAの評価は、少なくともソルベンシーII指令の第308b条(12)及び(13)、第308c条並びに第308d条に規定する移行措置を対象とすべきである。

2|以前の助言
2013年の長期保証評価に関する技術的知見では、ソルベンシーIIにリスクフリー金利及び技術的準備金に関する移行措置を含めることが支持された。

3|関連法規
移行措置は、ソルベンシーII指令第308c条、第308d条及び第308e条に規定されている。さらに関連するのは、移行措置に関する資本アドオン(資本要件の追加)に関する指令の第38条 (1)(d) と、リスクとソルベンシーの自己評価における措置の取扱いに関する指令の第45条(2a)である。委任規則の第278条は、移行に関連する資本アドオンに関するさらなる具体的内容を規定している。

4|課題の特定
EIOPAによれば、以下の課題が挙げられている。

(1) 資本ギャップのない会社による移行措置の支配的な適用
2017年末に168社が移行措置を適用したが、そのうちの大多数の138社は移行措置無しでもSCRを満たしている。これらの会社は移行措置無しでも70億ユーロのSCRを満たすための適格資本ギャップを有している。また、技術的準備金に関する移行措置を適用する会社のうちの53社は、移行措置無しで200%を超えるSCR比率となっている。また、技術的準備金の移行措置の適用で、平均してSCR比率が76%ポイント上昇している。

移行措置の不適切な適用は、以下の悪影響がある。

・技術的準備金がソルベンシーIIの原則に従って評価されていない。これらは移転価格よりも低いため、通常はランオフや保険負債の移転には不十分である。会社の実際の経済状況を反映していない。

・移行措置の無い会社よりも高いリスクをとるインセンティブを会社に与え、会社の効率的な監督を損なう可能性がある。

·  移行措置を適用する会社と適用しない会社との間には、公平でない競争条件を生み、会社間の競争を歪曲する。

(2) 2016年1月1日以降の移行措置の承認
8つのNSAsが2016年1月1日以降に移行措置の使用を開始することを認めるとし、4つのNSAsは認めていない。殆どのNSAsが2032年以前に移行措置からの撤退を認めるとし、いくつかのNSAsは撤退後の移行措置の再申請を認めると回答した。

このように、2016年1月1日以降の新規申請の承認には一貫したアプローチがない。また、2016年1月1日以降の移行措置の申請が承認されることは、そのアプローチが、新たな要件の円滑な導入への暫定的な措置との考え方に沿っているかどうかという疑問を生じさせる。

(3) 資本アドオンの適用
NSAsは、移行期間の終了時に会社がSCRに適合することが非現実的であると判断した場合、移行措置の承認を取り消すことが求められる。一方で、移行措置の基礎となる前提条件からリスク・プロファイルが著しく逸脱する場合には、NSAsが資本アドオンを設定することを認めている。しかし、これら2つの規定の相互作用は、どのような場合が資本アドオンが取消しよりも適切であるのかについて、更に明確化することのメリットがあると考えられる。
5|分析
各課題に対する政策オプションとそれらのオプションの比較は以下の通りとなっている。

(1) 資本ギャップのない会社による移行措置の支配的な適用
1) オプション
1.1 一時的な使用を制限する。
1.2 資本ギャップのない会社に対する移行措置の影響を制限する。
1.3 移行措置に関する情報開示の強化
1.4 段階的導入計画の使用を、移行状況に応じて全ての会社に拡大する。

2) オプションの比較
この政策課題の好ましい選択肢は、保険契約者、監督当局、保険及び再保険会社の財政状態を評価する必要のある利害関係者(投資家、アナリスト、格付け機関、ジャーナリストなど)の利益となる移行状況に関する透明性を向上させるため、移行状況に関する開示を強化(オプション1.3)することである。同時に、このオプションはオプション1.1、1.2及び1.4と比較され、暫定的な現行フレームワークへの影響が最も少ない変更となる。

(2) 2016年1月1日以降の移行措置の承認
1) オプション
2.1 移行措置の新しい承認を許可する。
2.2 移行措置の新しい承認を許可しない。
2.3 移行措置の新しい承認の許可は、次のような特定の場合にのみ許可する。
・ソルベンシーII指令第4条の臨界値を超えたため、新たに会社がソルベンシーII下に分類される。
・会社が、別の会社へ移行措置の対象となるポートフォリオを移転する。

2) オプションの比較
この政策課題の望ましい選択肢は、他の選択肢と比較して、移行的準備金と市場整合的な技術的準備金の整合的な適用に最も効果的かつ効率的に寄与するため、移行措置の新しい承認の許可を特定の場合のみに許可することである。

(3) 資本アドオンの適用
この政策課題の優先されるオプションは、他のオプションと比較して、移行的準備金の効果的かつ効率的な適用に最も貢献するため、移行措置に対する資本アドオンの適用を明確にすることである。
6|助言内容

移行措置の使用に関する開示は、次のように強化することができる。

・SFCRが、移行措置を使用する理由を明らかにすべきである。会社が移行措置無しにSCRを遵守しない場合は、この事実が十分な理由となる。会社が移行措置無しでもSCRを遵守する場合には、他の理由が提供されるべきである。

・SFCRは、会社の移行措置への依存性の評価を含むべきである。依存する場合には、会社は、移行期間の終了までに依存を除去するために取られる措置を記述すべきである。
・SFCRの保険契約者宛の部分には、以下の情報を含めるべきである。
 ・-移行が会社のソルベンシーに与える影響
 ・移行措置を適用する理由
 ・移行期間の終了までに、移行措置への依存を減らす見込み

保険及び再保険会社は、次の場合にのみ、リスクフリー金利及び技術的準備金に関する移行措置の適用を開始することが認められるべきである。

・会社がソルベンシーII指令第4条の臨界値を超えたため、新たにソルベンシーIIに該当する。

・会社が、移行措置の対象となるポートフォリオを他の会社に譲渡する。

資本アドオンの一貫した適用を確保するために、EIOPAはソルベンシーII指令第37条 (2) に以下のような明確化を加えることを提案する。

「これには、監督当局が第308条 (e) で求められている現実的な段階的導入計画をまだ受領していない状況や、その現実的な更新が含まれる。」

 

5―LTG措置に関するリスク管理規定

5―LTG措置に関するリスク管理規定

1|欧州委員会からの助言要請の内容
リスク管理については、特に助言を求められているわけではないが、LTG措置に関する第二の柱の規定は、LTG全体の見直しの対象となり、第一の柱の措置の設計に対する変更の可能性の影響を受けることから、今回のCPでも取り上げられている。

2|関連法規
ソルベンシーII指令の第44条及び第45条は、LTG措置に関するリスク管理について、以下を含む明確な要件を含んでいる。

・MA又はVA(ボラティリティ調整)を適用する会社のための流動性計画を有する(第44条第2項)。

・補外、VA及びMAの基礎となる前提に関する技術的準備金の感応度の評価を行う(第44条(2a)イ、ロ及びハ)。

・MA又はVAを0に減らすとSCRに適合しなくなる可能性のある場合に、遵守性を回復するための潜在的な措置を特定し報告する(第44条(2a))。

・VAの適用基準に関する方針をリスク管理方針書に記載する(第44条(2a))。

・リスクとソルベンシーの自己評価において、LTG措置の有無の場合の資本要件への遵守を評価する(第45条(2a))。

3|課題の特定
EIOPAによれば、以下の課題が挙げられている。

(1) VAの流動性計画の役割
ソルベンシーII指令は、VAを使用する会社に対し、VAの対象となる資産及び負債に関連して、流入・流出するキャッシュフローを予測する流動性計画を設定することを要求している。適切な流動性計画を策定することには明らかな利点があるが、この具体的な流動性計画から何が特に期待されるのか、流動性計画がどのような追加的な見識を与えるべきか、VAの適用に関してどのような役割を果たすべきかは、法律の規定からは明らかではない。さらに、NSAsとの分析の共有を容易にするために、流動性計画の分析を文書化すべきか否か、また、どのように文書化すべきかについても明確にしていない。

したがって、VA利用者のための流動性計画に関する特定の要件は、VAの適用が企業にとって適切であるという追加的な証拠を提供していない。

(2) VAの感応度分析
ソルベンシーII指令は、VAを使用する会社に対し、VAの計算の基礎となる前提条件に対する自らの技術的準備金及び適格自己資本の感応度を定期的に評価し、この評価を規制監督報告の一部として監督当局に毎年提出することを要求している。しかし、実際には、これらの評価を報告した企業はごくわずかである。

これは、措置の前提が十分明確でない、感応度分析の役割と追加的な利点がこの分析を実行するには十分に明確ではないこと等が理由として挙げられている。

(3) MAとVAの資産の強制売却
ソルベンシーII指令は、VAを使用する企業に対し、適格自己資本に対する資産の強制売却の潜在的影響及びVAをゼロに引き下げることの影響を定期的に評価し、この評価結果を規制監督当局への報告の一部として毎年提出することを要求している。しかし、実際には、VA利用者の大多数は資産の強制売却の分析について報告していない。

これは、この要件が理解されておらず、特に、どのような状況が分析されるべきか、これらがVAの決定又は機能とどのように関連しているか、また、評価がALM要件とどのように関連しているかが明確でないこと等の理由による。

(4) VAのリスク管理に関する方針
ソルベンシーII指令は、VAを使用する会社に対し、そのリスク管理に関する文書化された方針に、VAの適用基準に関する方針を含めることを要求しているが、この要求に関連して何が正確に期待されるのかが明確ではない。

(5) MA及びVAへの遵守を回復するための措置の分析
MA又はVAのゼロへの引き下げがSCRの不遵守につながる場合、ソルベンシーII指令は、SCRをカバーする適格自己資本の水準を再設定するため、又はSCRの遵守回復のためにリスク・プロファイルを削減するために、そのような状況において適用可能な措置の分析を提出することを会社に要求している。

このMAとVAの規定については、即時の通知が必要なのか、あるいは定期監督報告の状況を参照することで十分なのかは不明である。措置の影響及び結果として生じる監督上の対応を評価するためのより一貫性のある包括的なアプローチが必要となっている。
Xでシェアする Facebookでシェアする

中村 亮一

研究・専門分野

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【EIOPAがソルベンシーIIの2020年レビューに関するCPを公表(4)-マッチング調整及び移行措置等について-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

EIOPAがソルベンシーIIの2020年レビューに関するCPを公表(4)-マッチング調整及び移行措置等について-のレポート Topへ