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EIOPAがソルベンシーIIの2020年レビューに関するCPを公表(4)-マッチング調整及び移行措置等について-
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1―はじめに
前回のレポートから、今回のCPの具体的内容について報告しており、前回のレポートでは、「リスクフリー金利の補外」に関する内容を報告した。今回のレポートでは、「マッチング調整(MA)」及び「リスクフリー金利及び技術的準備金に関する移行措置(TRFR及びTTP)」に加えて、「LTG(長期保証)措置3のリスク管理規定や開示」に関する内容について報告する。
1 https://eiopa.europa.eu/Publications/Requests%20for%20advice/RH_SRAnnex%20-%20CfA%202020%20SII%20review.pdf
2 EIOPAによる公表
https://eiopa.europa.eu/Pages/News/EIOPA-consults-on-technical-advice-for-the-2020-review-of-Solvency-II.aspx
協議ペーパー
https://eiopa.europa.eu/Publications/Consultations/EIOPA-BoS-19-465_CP_Opinion_2020_review.pdf
3 LTG措置の内容については、以前のレポート「EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(1)
-EIOPA の報告書の概要報告-」(2017.1.10)等を参照していただきたい。
2―「マッチング調整(MA)」のポートフォリオの分散化効果
1|欧州委員会からの助言要請の内容
この項目に関する欧州委員会からの助言要請の内容は、以下の通りである。
3.2.マッチング調整(第77b条、第77c条)とボラティリティ調整(第77条d)
b) マッチング調整
EIOPAは、マッチング調整の計算/適用に関する以下のアプローチについて、最良推定値の計算及び保険会社のソルベンシーの状況に及ぼす定量的な影響を評価するよう求められている。
・アプローチ1:現在の分散化効果ゼロの前提(完全分散化を含む)の変更:EIOPAは、部分的分散化の前提を評価する場合、適切な分散化レベルを決定するための基準と方法を提示すべきである。
ソルベンシーII指令の第77b条はMAポートフォリオを規定しているが、この規制は、指令2014/51/EU(オムニバスII)のリサイタル36で明らかにされているように、MAポートフォリオがリングフェンス・ファンドであることを要求していない。即ち、分離されたポートフォリオは経済的な意味で理解されるべきであり、法的なリングフェンス・ファンドは必要ないことを明確にしている。それにもかかわらず、委任規制第217条によれば、MAポートフォリオとリングフェンス・ファンドは、SCR(ソルベンシー資本要件)標準式の計算において同じように扱われている。特に、MAポートフォリオを有する会社のSCRは、それらのポートフォリオ及び他のビジネスについて計算されたSCRsの合計となる。
3|問題の特定
このように、MAポートフォリオにおいては、他の資産との分散化効果が認められていない。一方で、以下のような類似のケースでは制限は存在していない。
(1) 内部モデルが承認された会社
(2) 単一ラインの会社はこの制限を受けない。
(3) 生損保兼営会社においては、生命保険と損害保険を分離して管理することが義務付けられているが、単一のSCRにおいて生命保険と損害保険の間の分散化効果が認められている(ソルベンシーII指令第73条及び第74条)。グループSCRを計算するために、生命保険会社と損害保険会社の間の分散化効果が考慮される。
4|分析
分析の結果、EIOPAは、以下に述べる理由から、分散化効果に関する制限は正当化されないと考えられる、としている。
(1) MAポートフォリオに割り当てられた資産は、ポートフォリオに含まれる負債の最良推定値をカバーしなければならない(第77条の二第一項第一号イ)。
(2) 最良推定値をカバーするこれらの資産は、会社の他の活動から生じる損失をカバーするために使用することはできない(第77条b第一項ロ)。
(3) 対応するポートフォリオに割り当てられた資産は、そのポートフォリオに含まれる事業から期待される支払(最良推定値)をカバーするだけでよい。したがって、MAポートフォリオに含まれる事業のリスク・マージン又はSCRをカバーする資産を持つ必要はない。
(4) 現在の法律では、MAポートフォリオがさらされる予期せぬリスクに対して特定のSCRを要求しているわけではないが、より多くのSCRを要求していると解釈できる分散化効果を制限している。
(5) 分散化効果の存在は、最良推定値をカバーする資産に影響を与えたり、削減したりすることはできない。分散化効果の制限は、MAを使用している会社のより高いSCRを意味し、ソルベンシーII指令第101条 (3) と矛盾する可能性がある。
(6) SCR標準式計算における現在の分散化効果の制限の除去は、内部モデルにおけるSCRの計算からの知見と一致する。
(7) 全体として、EIOPAは、分散化効果の制限を撤廃することは、十分に調和された規則、透明性の向上及び比較可能性の向上を通じて、公平な競争条件を確保するものと考える。同時に、以下のために、正当化されていない制限を回避できる。
·(保険契約者と消費者のために)保険、再保険、特に長期保証付保険商品の利用可能性
·(欧州経済の利益のために)保険及び再保険会社による長期投資の保有
EIOPAは、以下の2つの政策オプションを検討している。
オプション1:変更無し(MAポートフォリオの分散化効果に対する制限をSCR標準式で維持)
オプション2:SCR標準式におけるMAポートフォリオの分散化効果に対する制限を撤廃
英国の18社、スペインの14社が対象になる影響分析の結果は、以下の通りである。
(1) 英国の18社のうち、5社は完全内部モデル、9社は部分内部モデル(うち4社が内部モデルでMAポートフォリオの分散化を考慮)、4社が標準式を採用
SCRへの影響は、0%~6.15%(加重平均0.29%)
SCR比率への影響(標準式適用4社)は、+0.6%ポイント~+12.0%ポイント
(2) スペインの14社は全て標準式を採用
SCRへの影響は、0.3%~19.6%(加重平均8.5%)
SCR比率への影響は、+0.0%ポイント~+53.8%ポイント
6|助言内容
MAポートフォリオに含まれる資産は、そのポートフォリオに含まれる負債の最良推定値をカバーするためだけに使用される。MAポートフォリオに含まれる資産と負債の進展の結果、これらの資産から利益が得られる場合、その利益はMAポートフォリオ外の損失をカバーするために使用することはできない。最良推定値とは異なり、MAポートフォリオ以外にも異なる資産が存在する、予想外の損失をカバーするために使用されるSCRがある。予想外の損失はキャッシュフロー・マッチングには適しておらず、この種の損失をカバーする資産は、会社における独自のSCRを支えている。MA利用者のSCRに対する分散化効果のための制限を維持することは、規制でもより大きなリスクの証拠でも支持されていない99.5%の VaR(バリューアットリスク)よりも高いSCRの必要性を意味する(実際、MAポートフォリオの方が市場リスクが低い)。この制限を排除しても、最良推定値の支払に追加のリスクが生じることはない。内部モデルはこの結論を支持している。
以上より、以下の助言を提案している。
EIOPAは、オプション2の分散化効果の制限の撤廃を勧告している。この変更を実施するために、第70条、第81条、第216条、第217条及び第234条のMAポートフォリオへの参照を削除すべきである。
3―「マッチング調整(MA)」の資産適格基準
1|欧州委員会からの助言要請の内容
この項目に関する欧州委員会からの助言要請の内容は、以下の通りである。
3.2.マッチング調整(第77b条、第77c条)とボラティリティ調整(第77条d)
b) マッチング調整
EIOPAは、マッチング調整の計算/適用に関する以下のアプローチについて、最良推計値の計算及び保険会社のソルベンシーの状況に及ぼす定量的な影響を評価するよう求められている。
・アプローチ2:マッチング調整の対象となる適格資産の基準 (キャッシュフローの特性や信用の質を含む) の見直し。
MA資産適格基準のトピックに関する関連法規は、オムニバスII指令のリサイタル31、ソルベンシーII指令第77b条及び第132条、欧州委員会実施規則(EU)2015/500第2条、である。
3|課題の特定
MAの根拠は、満期までに債券又は類似の資産を保有する会社は、それらの資産のスプレッドが変化するリスクにさらされないことに拠っている。これにより、会社が資産価値の短期的な変動リスクにさらされていないことを反映するために、自己資本の調整を正当化する。この考え方の根底にあるのは、次のような前提である。
・会社はバイ・アンド・ホールド戦略によって、リスクのないリターンを得ることができる。
・キャッシュフローがマッチングしていれば、スプレッドが高い場合には売却を避けることができる。
・基本スプレッドがデフォルトのコストを考慮し、ポートフォリオを満期まで管理する限り、会社はMAを獲得する。
具体的には、MAポートフォリオに含まれる資産は、以下の2つの要件を満たす必要がある。
(1) 「債券や類似のキャッシュフロー特性を持つその他の資産」である。
(2) 第77b条(1a)で定義される「固定キャッシュフロー」を持たなければならない。
しかしながら、資産適格要件の適用には、境界線上の問題があり、要件が改善される可能性があることを示している。
ルックスルー(look-through)及びイールドツーワースト(yield to worst)アプローチが検討されている。それらは、指令のPrudent Person Principle(PPP)とリスク管理規定を満たす資産に対して、及び会社が残りのMA適格基準を満たしている場合にのみ適用される。特に第132条は、「当該会社が適切に特定、測定、監視、監督、管理及び報告することができるリスクを有する資産及び商品にのみ投資すること」を会社に求めている。さらに「技術的準備金をカバーするために保有されている資産は、負債の性質及びデュレーションに適切な方法で運用されなければならない。」
(1) ルックスルー(look-through)原則
EIOPAの提案は、ルックスルーの原則を明確にし、特に期間が十分に固定されていないために、基礎となる資産がMA負債と整合するのに適していない資産構造を特定することを支援することであるとして、基礎となる(再構築されていない)資産に関連するいくつかの考察と、再構築の性質に関連するその他の考察で、以下の4つの基準に照らして資産を評価できるようにすべきである、としている。
1) 原資産は、十分に固定されたレベルの収入を提供する。
2) 再構築された資産のキャッシュフローは、そのキャッシュフローが期間中に十分に固定され、運営条件が変化しても維持されるような損失吸収性の特徴によって支えられている。
3) 金融保証はMAを生じない。
4) 会社は、根底にあるリスクを適切に特定し、測定し、監視し、監督し、管理し、報告することができる。
(2) イールドツーワースト(yield to worst)アプローチ
EIOPAは、最低のMA便益を生み出すためにMAの計算において最も負担の大きいコール日を会社が想定するという「イールドツーワースト」の取扱に基づいて、一定の資産について、MAポートフォリオに組み入れてもよいかどうかを検討した。しかし、固定キャッシュフロー負債と固定キャッシュフロー資産のマッチングを求めるMAの基本原則との整合性を維持しつつ、このような取扱いを認めることには、会社を予想された時点でキャッシュフローが発生しないリスクにさらすことになる等、かなりの困難があった。
EIOPAは、負債キャッシュフローを満たすことを確保し、早期の資産キャッシュフローのタイミングの変更リスクを軽減するために、MAポートフォリオ内で十分な流動性を示す(即ち、現金を保有する)ことを会社に求めるなどの緩和策を検討したが、これらの緩和策は、(MAポートフォリオに含まれているよりも他のより適格でない資産を認めるという点で) 不適切であると考えた。
また、現在のフォワード・リスク・フリー・レートで再投資の前提を認めるなど、他の選択肢を検討したが、同様の欠陥があることが判明した。その結果、EIOPAはこの段階ではアプローチの変更を提案しないことを決定した。
(3) 提示されたアプローチの効率性と有効性
ルックスルー原則の意図は、会社が満期まで保有する場合に追加的なリスクフリー収益を得ることができるMAポートフォリオ資産のみを含めることを確実にすることにある。これにより、MAポートフォリオに含まれる不適切な資産のリスクが軽減され、また、原則の適用(及び原資産と再構築された資産の両方がMAポートフォリオに含めるのに適切であるという保証を得ること)を通じて、NSAs(各国監督当局)が資産が直面するリスクをより良く理解することができる。また、監督プロセスの効率化につながるとしている。
(2019年12月03日「保険・年金フォーカス」)
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