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認知症と損害賠償-認知症の人の家族の損害賠償責任の考え方
保険研究部 常務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登
自己の行為の責任を理解できない認知症の人が事故を起こした場合の家族の責任について、JR東海判決を参考にして解説を行う。
まず自己の行為の責任を理解できない人が損害を与えた場合は、民法第714条によって法定の監督義務者が責任を負うこととされるが、この法定の監督義務者に誰が該当するのかが問題となる。
また、介護を行う人が事故発生の結果を具体的に予見できたのに、回避義務を怠ったときは、民法第709条により介護を行う人の結果回避義務違反として責任を負う。この場合は、介護を行う人が具体的に予見できたかどうかが問題となる。
本件の最高裁判決では、配偶者や成年後見人であるからといって直ちに法定の監督義務者に該当するのではなく、「現に監督を引き受けたとみるべき特段の事情があるとき」に限って、民法第714条の責任を負うとし、本件では特段の事情が無いため、配偶者等は責任を負わないとした。また、具体的な予見可能性もなかったとして民法第709条の責任も認めなかった。
今後は、個人対個人の場合も同じ最高裁の基準で判断されることになるので、損失の社会的な分担の観点から損害保険の活用が望ましい。この点、認知症の人の行為に起因する賠償責任を担保する制度を設けている自治体が出てきていることが注目される。
■目次
1――はじめに
2――事実の概要と若干の前提
1|事実の概要
2|民法の考え方と原告の主張
3――裁判所の判断
1|地裁の判断
2|高裁の判断
3|最高裁の判断
4――検討
1|保護者制度・後見人制度と法定の監督義務者
2|法定の監督義務者・準監督義務者
3|私見
5――おわりに
03-3512-1866
- 【職歴】
1985年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
2018年4月 取締役保険研究部研究理事
2021年4月より現職
【加入団体等】
東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等
【著書】
『はじめて学ぶ少額短期保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2024年02月
『Q&Aで読み解く保険業法』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2022年07月
『はじめて学ぶ生命保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2021年05月
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