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- 2つのラグビー~ラグビー・ユニオンとラグビー・リーグ~
コラム
2019年11月15日
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はじめに
ラグビーワールドカップによって、ラグビー人気が高まってきているようだ。これから、日本におけるラグビーシーズンが本格化していく中で、大学ラグビーや社会人ラグビーの観客数が増加していくことが想定されている。このことは大変喜ばしいことで、是非ともこのラグビー人気が定着していくことを期待したい。
ところで、今回のラグビーワールドカップの開催期間中に、私自身は、日本に滞在しているオーストラリア人と話す機会が何回かあったのだが、彼らの全てが必ずしも今回のラグビーワールドカップに強い興味関心を有していたというわけでもなかった(もちろん、ラグビーワールドカップのために日本にきているオーストラリア人の熱狂振りは、私自身も以前の研究員の眼で述べたように、東京スタジアムでのウェールズとの対戦の観戦で直に感じてきたところである)。
一方で、ニュージーランドの方々と話をすると、殆ど全ての方々がラグビーワールドカップに強い関心を有していた。ニュージーランドにおけるラグビーや代表チームの「オールブラックス(All Blacks)」は、極めて特殊な位置付けを有しているものだと強く感じさせられる。
では、ニュージーランドの隣国であり、過去のラグビーワールドカップで2回も優勝している強豪国であるオーストラリアの人々が、必ずしも今回のラグビーワールドカップに思ったほど熱狂していなかったようにみえたのはなぜだろうか。
ところで、今回のラグビーワールドカップの開催期間中に、私自身は、日本に滞在しているオーストラリア人と話す機会が何回かあったのだが、彼らの全てが必ずしも今回のラグビーワールドカップに強い興味関心を有していたというわけでもなかった(もちろん、ラグビーワールドカップのために日本にきているオーストラリア人の熱狂振りは、私自身も以前の研究員の眼で述べたように、東京スタジアムでのウェールズとの対戦の観戦で直に感じてきたところである)。
一方で、ニュージーランドの方々と話をすると、殆ど全ての方々がラグビーワールドカップに強い関心を有していた。ニュージーランドにおけるラグビーや代表チームの「オールブラックス(All Blacks)」は、極めて特殊な位置付けを有しているものだと強く感じさせられる。
では、ニュージーランドの隣国であり、過去のラグビーワールドカップで2回も優勝している強豪国であるオーストラリアの人々が、必ずしも今回のラグビーワールドカップに思ったほど熱狂していなかったようにみえたのはなぜだろうか。
オーストラリアン・フットボール及び「もう一つのラグビー」の存在
実は、オーストラリアでは、「サッカーやラグビーとは異なるフットボール」あるいは「同じくラグビーと称される別の競技」があり、それらがより人気が高いことにその要因がある。前者が「オーストラリアン・フットボール(Australian Football)」と呼ばれるものであり、後者が「ラグビー・リーグ(rugby league)」と呼ばれるものである1。前者の「オーストラリアン・フットボール」については、基本的にはオーストラリア固有のもので、現時点ではオーストラリア以外では幅広くプレーされているというわけではないので、ここでは後者のもう一つのラグビーである「ラグビー・リーグ」について紹介する。
1 因みに、オーストラリアにおけるこれらの3つのスポーツの人気度は、圧倒的な1位がオーストラリアン・フットボール、2位がラグビー・リーグ、3位がラグビー・ユニオンとなっている。オーストラリアン・フットボールは、全国的に人気があるが、ラグビー・リーグは特にクイーンズランド州やニューサウスウェールズ州で人気がある。
1 因みに、オーストラリアにおけるこれらの3つのスポーツの人気度は、圧倒的な1位がオーストラリアン・フットボール、2位がラグビー・リーグ、3位がラグビー・ユニオンとなっている。オーストラリアン・フットボールは、全国的に人気があるが、ラグビー・リーグは特にクイーンズランド州やニューサウスウェールズ州で人気がある。
ラグビー・ユニオンとラグビー・リーグ
実は、今回のラグビーワールドカップで行われていた競技は「ラグビー・ユニオン(rugby union)」と呼ばれているものである。「ラグビー」あるいは正式には「ラグビー・フットボール」と呼ばれるものには、これとは別に「ラグビー・リーグ」と呼ばれるものがあり、オーストラリアだけでなく、今回のラグビーワールドカップに参加していた強豪国の間で、「ラグビー・ユニオン」同様に広くプレーされている。
なぜ、このように2つのラグビーが存在し、両者はどのように異なっているのだろうか。
なぜ、このように2つのラグビーが存在し、両者はどのように異なっているのだろうか。
ラグビー・ユニオンとラグビー・リーグの由来と両者の関係
ラグビーは英国(イングランド)が発祥の地であることは既に前回の研究員の眼で報告した。イングランドでは、1863年にフットボール協会(FA)が設立されたが、ボールを手に持って走ること等を認めないとすることに対抗する形で、1871年にラグビー協会(RFU)が設立され、サッカーとは異なるラグビーが生まれていった。
ところが、1895年に、仕事を休んで試合に出場する選手の休業補償問題を契機として、ラグビー協会の分裂が起き、補償を認めない南部のアマチュア主義に対抗する形で、報酬支払いを容認する北部で新たな協会が結成された。これにより、ラグビーは、アマチュア主義をうたう南部中心の「ラグビー・ユニオン」と、プロをも容認する北部中心の「ラグビー・リーグ」に2分されていくことになった。
その後、ラグビー・ユニオンの選手のラグビー・リーグへ転向が相次いだこと等から、ラグビー・ユニオンとラグビー・リーグは長らく対立状態にあったが、ラグビー・ユニオンも、ラグビーワールドカップ等を契機として1995年以降にプロを認めたこと等から、対立が緩和していって、今日に至っているとのことである。
ところが、1895年に、仕事を休んで試合に出場する選手の休業補償問題を契機として、ラグビー協会の分裂が起き、補償を認めない南部のアマチュア主義に対抗する形で、報酬支払いを容認する北部で新たな協会が結成された。これにより、ラグビーは、アマチュア主義をうたう南部中心の「ラグビー・ユニオン」と、プロをも容認する北部中心の「ラグビー・リーグ」に2分されていくことになった。
その後、ラグビー・ユニオンの選手のラグビー・リーグへ転向が相次いだこと等から、ラグビー・ユニオンとラグビー・リーグは長らく対立状態にあったが、ラグビー・ユニオンも、ラグビーワールドカップ等を契機として1995年以降にプロを認めたこと等から、対立が緩和していって、今日に至っているとのことである。
ラグビー・ユニオンとラグビー・リーグの違い
このように、ラグビー・リーグは、スクラム、ラック、モール、ラインアウトといった密集戦におけるハードコンタクトのあるルールが実質的に廃止された形になっている。
ラグビー・ユニオンのルールに慣れ親しんでいる日本人にとっては、スクラム、ラック、モール等がなく、反則が有った場合にも直ぐにその地点からボールを回すというラグビー・リーグのルールについては、何となく物足りなさを感じてしまうかもしれない。
ただし、逆に、ラグビー・リーグは、ラグビー・ユニオンに比べて、プレーヤーの負傷が回避されやすいといったメリットに加えて、攻守が明確で、ボールがフィールド全体に展開されて、ランニングプレーが多くなることから、観客にとっても面白いゲームになっていると考えられている。
実際に、今回のラグビーワールドカップにおいては、危険なタックルに対する判定で退場になった選手もいて、試合の流れや結果に大きな影響を与えたケースも見られたようだ。ラグビー・ユニオンの国際競技連盟であるワールドラグビー(WR)は、危険なタックル撲滅に向けて、真剣に取り組んでいる。ラグビー・ユニオンがゲームの面白さを保ちつつ、選手や観客の共感の得られるルールを厳正に適用していくことは、その人気度を維持していくために、極めて重要なことだと考えられている。
ラグビー・ユニオンのルールに慣れ親しんでいる日本人にとっては、スクラム、ラック、モール等がなく、反則が有った場合にも直ぐにその地点からボールを回すというラグビー・リーグのルールについては、何となく物足りなさを感じてしまうかもしれない。
ただし、逆に、ラグビー・リーグは、ラグビー・ユニオンに比べて、プレーヤーの負傷が回避されやすいといったメリットに加えて、攻守が明確で、ボールがフィールド全体に展開されて、ランニングプレーが多くなることから、観客にとっても面白いゲームになっていると考えられている。
実際に、今回のラグビーワールドカップにおいては、危険なタックルに対する判定で退場になった選手もいて、試合の流れや結果に大きな影響を与えたケースも見られたようだ。ラグビー・ユニオンの国際競技連盟であるワールドラグビー(WR)は、危険なタックル撲滅に向けて、真剣に取り組んでいる。ラグビー・ユニオンがゲームの面白さを保ちつつ、選手や観客の共感の得られるルールを厳正に適用していくことは、その人気度を維持していくために、極めて重要なことだと考えられている。
ラグビー・ユニオンとラグビー・リーグの普及度
世界的にみると、今回のラグビーワールドカップの開催に見てとれるように、ラグビー・ユニオンがより人気のあるラグビーになっている。ニュージーランドだけでなく、南アフリカ、ウェールズ、フィジー、サモア、トンガ等の国々では、ラグビー・ユニオンが実質的に国技となっている。ラグビー・ユニオンはプロ及びアマチュア競技として、イングランド、フランス、アイルランド、スコットランド等でも極めて人気が高い。ラグビー・ユニオンは世界の100を超える国でプレーされている。
一方で、日本においては、今ひとつ普及していないように思われるラグビー・リーグであるが、ラグビー・リーグもプロ及びアマチュア競技として、オーストラリア、ニュージーランド、イングランド等の世界の30カ国以上でプレーされている。オーストラリアとニュージーランドにおけるナショナルラグビーリーグ(National Rugby League)、イングランドを中心とした欧州におけるスーパーリーグ(Super League)といったプロリーグが有名である。さらには、ラグビー・ユニオンと同様にワールドカップも一定年数毎に開催されており、直近では2017年にオーストラリアが優勝している。第1回大会は1954年に開催されており、ラグビー・ユニオンのワールドカップが1987年に第1回が開催されたのに比べて、歴史がある、これまでに開催された15回のうちオーストラリアが11回優勝しており、圧倒的な強さを示してきている。
因みに、日本のラグビー・ユニオンの代表チームの愛称が「ブレイブブロッサムズ(Brave Blossoms)」であることは以前の研究員の眼で述べた通りであるが、日本のラグビー・リーグの代表チームは「サムライズ(Samurais)」と呼ばれている。
一方で、日本においては、今ひとつ普及していないように思われるラグビー・リーグであるが、ラグビー・リーグもプロ及びアマチュア競技として、オーストラリア、ニュージーランド、イングランド等の世界の30カ国以上でプレーされている。オーストラリアとニュージーランドにおけるナショナルラグビーリーグ(National Rugby League)、イングランドを中心とした欧州におけるスーパーリーグ(Super League)といったプロリーグが有名である。さらには、ラグビー・ユニオンと同様にワールドカップも一定年数毎に開催されており、直近では2017年にオーストラリアが優勝している。第1回大会は1954年に開催されており、ラグビー・ユニオンのワールドカップが1987年に第1回が開催されたのに比べて、歴史がある、これまでに開催された15回のうちオーストラリアが11回優勝しており、圧倒的な強さを示してきている。
因みに、日本のラグビー・ユニオンの代表チームの愛称が「ブレイブブロッサムズ(Brave Blossoms)」であることは以前の研究員の眼で述べた通りであるが、日本のラグビー・リーグの代表チームは「サムライズ(Samurais)」と呼ばれている。
再び、オーストラリアのラグビー事情について
これも以前の研究員の眼で述べたように、ラグビーワールドカップに参加していたラグビー・ユニオンのオーストラリアの代表チームは「ワラビーズ(Wallaby’s)」であるが、一方で、ラグビー・リーグの代表チームは「カンガルーズ(Kangaroo’s)」と呼ばれている。
オーストラリアでは、高校の授業の一環としてラグビーをする場合、パブリック(公立)ではラグビー・リーグを、プライベート(私立)ではラグビー・ユニオンをするケースが多いようである。さらにラグビー・リーグはローカルクラブや地元のクラブ単位でプレーされるのに対して、ラグビー・ユニオンは大学で行われる場合が多いようである。
このように、オーストラリアでは、歴史的な経緯等も引き継ぐ形で、両方のラグビーの性格付けや国民一般の意識付けが一定程度なされているようである。
オーストラリアでは、高校の授業の一環としてラグビーをする場合、パブリック(公立)ではラグビー・リーグを、プライベート(私立)ではラグビー・ユニオンをするケースが多いようである。さらにラグビー・リーグはローカルクラブや地元のクラブ単位でプレーされるのに対して、ラグビー・ユニオンは大学で行われる場合が多いようである。
このように、オーストラリアでは、歴史的な経緯等も引き継ぐ形で、両方のラグビーの性格付けや国民一般の意識付けが一定程度なされているようである。
最後に
我々は、ついこれまでの自らの経験やバックボーン等に基づいて物事の判断を行ってしまう。これは当然のことで、批判されるべきことでもない。その意味で、日本において「ラグビー」といえば、15人制の「ラグビー・ユニオン」によるものをイメージするのは止むを得ないだろう。
ところが、今回報告したように、「ラグビー」には、「ラグビー・ユニオン」以外に「ラグビー・リーグ」と呼ばれるものがあり2、例えばオーストラリアでは同じラグビーの中でも、ラグビー・リーグがより人気の高いものとなっている。その意味では、オーストラリア人とラグビーの話をするときには、先方のイメージするものが必ずしもこちらのイメージしているものとは一致していない場合があることには注意が必要となる。もちろん、こうしたオーストラリアの人々もラグビーと言えば、世界の多くの人々が「ラグビー・ユニオン」のラグビーをイメージしているということは十分に承知していると思われるので、問題になることはないだろう。
ただし、外国の方々との会話においては、例えばスポーツの話題においても、先方のスポーツ文化に敬意を表して、それらについて一定程度の知識を有していることも大切なことだと思われる。
2 なお、2016年のリオデジャネイロ・オリンピックから正式種目に採用された「7人制ラグビー(いわゆるセブンズ(Sevens))」は、ラグビー・ユニオンの国際競技連盟であるワールドラグビー(WR)によって管轄されている競技であり、ルール等は15人制とは若干異なるものとなっている。
ところが、今回報告したように、「ラグビー」には、「ラグビー・ユニオン」以外に「ラグビー・リーグ」と呼ばれるものがあり2、例えばオーストラリアでは同じラグビーの中でも、ラグビー・リーグがより人気の高いものとなっている。その意味では、オーストラリア人とラグビーの話をするときには、先方のイメージするものが必ずしもこちらのイメージしているものとは一致していない場合があることには注意が必要となる。もちろん、こうしたオーストラリアの人々もラグビーと言えば、世界の多くの人々が「ラグビー・ユニオン」のラグビーをイメージしているということは十分に承知していると思われるので、問題になることはないだろう。
ただし、外国の方々との会話においては、例えばスポーツの話題においても、先方のスポーツ文化に敬意を表して、それらについて一定程度の知識を有していることも大切なことだと思われる。
2 なお、2016年のリオデジャネイロ・オリンピックから正式種目に採用された「7人制ラグビー(いわゆるセブンズ(Sevens))」は、ラグビー・ユニオンの国際競技連盟であるワールドラグビー(WR)によって管轄されている競技であり、ルール等は15人制とは若干異なるものとなっている。
(2019年11月15日「研究員の眼」)
中村 亮一のレポート
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