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- 英国及びその構成国の国名や国旗の由来を知っていますか?-(その2)国旗の由来-
コラム
2019年11月12日
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はじめに
前回の研究員の眼では、英国及びその構成国の国名の由来について報告した。
今回は、英国及びその構成国の国旗1の由来について報告する。
英国の国旗であるいわゆるユニオンジャック(Union Jack)は、英国の構成国の国旗2で構成されていることから、まずは各構成国の由来から報告する。
1 前回の研究員の眼でも述べたように、4カ国を表す表現としては、スポーツイベント等におけるホーム・ネーションズ(Home Nations)といった表現も用いられるが、ここでは「構成国(constituent country)」と呼んでいる。
2 以下に述べるように。北アイルランドの場合、いわゆる「国旗」ではないが、ここでは国旗という表現の中で含める形にしている。
今回は、英国及びその構成国の国旗1の由来について報告する。
英国の国旗であるいわゆるユニオンジャック(Union Jack)は、英国の構成国の国旗2で構成されていることから、まずは各構成国の由来から報告する。
1 前回の研究員の眼でも述べたように、4カ国を表す表現としては、スポーツイベント等におけるホーム・ネーションズ(Home Nations)といった表現も用いられるが、ここでは「構成国(constituent country)」と呼んでいる。
2 以下に述べるように。北アイルランドの場合、いわゆる「国旗」ではないが、ここでは国旗という表現の中で含める形にしている。
イングランド の国旗の由来
スコットランドの国旗の由来
ウェールズの国旗の由来

なぜ「赤い竜(Red Dragon)」なのか、ということになるが、以前の研究員の眼で述べたように、これは古代の英国がブリタニアと呼ばれていた時代にローマ帝国の支配下にあり、当時のローマ軍が使用していた軍旗に描かれていたトビトカゲが由来であると言われているようである。この軍旗をウェールズの君主の多くが使用してきたことから、ウェールズの国旗にも描かれることになったようである。ただし、これには、大地ができた頃、地中には地震を起こし災厄を招く黒い竜がおり、それを水の神である赤い竜が倒してこの地に平和をもたらしたという、ケルト人の建国伝承に由来している、との説もあり、必ずしも明確でないようだ。
一方で、白と緑の水平のストライプについては、1485年から1603年までイングランドの君主となったウェールズ系のテューダー家が付け加えたものだとされている。イングランドとの争いの末、ビルスの戦で1282年に戦死した最後のネイティヴ・プリンス・オヴ・ウェールズ Llewellyn ap Gryffyth が用いた色と言われており、テューダー家はその傍系である。なお、緑と白は、ウェールズのもう一つの象徴であるリーキ(Leek:西洋ねぎ)の色ともなっている。
北アイルランドを表す旗の由来

聖パトリックはアイルランドにキリスト教を広めた司教で、「アイルランドの使徒」と呼ばれている。その命日である3月17日は、「聖パトリックの日(St. Patrick's Day)」としてアイルランドやアイルランド移民の多い米国等では盛大に祝われている。また、聖パトリックが(三つ葉のクローバーに似た)シャムロックを手に「三位一体」を説いたとの伝承があることから、シャムロックは聖パトリックのシンボルとなっており、アイルランドの国花になっている。
ただし、聖パトリッククロス旗については、北アイルランドを表すために使用されるが、過去に「国旗」として使用されたことはないとのことである。そもそも1801年にグレートブリテン王国とアイルランド王国との合同でグレートブリテン及びアイルランド連合王国(United Kingdom of Great Britain and Ireland)3が成立した際に、アイルランドの国旗4と称して当時のアイルランドの有力諸侯の旗を使用したとされている。従って、アイルランドとの統一を支持するナショナリストからは受け入れられていない。

北アイルランドは、1973年以降は政府が認定した独自の旗を有しておらず、聖パトリッククロス旗もアルスター・バナーも北アイルランドの政府庁舎では掲げられていないとのことである。
なお、ラグビーのアイルランド代表は、北アイルランドとアイルランド共和国との合同チームで、この場合、合同の「国旗」は存在しないことから、古くからあるアイルランドの伝統的な数々の紋章を組み合わせたアイルランドラグビー協会の旗が使われている。
北アイルランドを巡る状況は、旗の取扱い1つをとってみても、なかなか複雑なことがわかる。
3 1922年にアイルランド島の南部26州がイギリスの自治領アイルランド自由国として分離したことにより、1927年に英国は現在の、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国(United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland)に改称された。
4 現在の緑、白、橙の三色から成るアイルランドの国旗は、1937年に制定されている。
英国の国旗の由来
因みに、英国の国旗が「ユニオンジャック」と呼ばれているのは、「ユニオン」が連合王国という意味であり、「ジャック」が船首に掲げて国旗を示す旗の事を示しており、海洋国家で世界中に植民地を持っていた英国らしい由来となっているようである。
英国の国旗にはなぜウェールズの国旗が含まれていないのか
このように、英国の国旗にウェールズの国旗は含まれていない。それは何故か。答えは、英国国旗が定められた時に、ウェールズは、既にイングランドの一部になっていたからである。
1282年にウェールズはイングランドに占領され、その支配下に置かれる事になってしまう。
1603年に、イングランドとスコットランドの国旗から、初代のユニオンフラッグが作られ、その後、1801年に、アイルランドとの合同でグレートブリテン及びアイルランド連合王国が成立し、現在のユニオンフラッグが誕生することになる。
なお、1999年には議会が成立し、ウェールズの国民意識が高まってきたことや英国の国民統合の観点から、ウェールズのシンボルとなっている「赤い竜」の意匠を取り込むべきとの主張も提起されているようだ。ただし、英国の国旗があまりにも定着していること、他国の国旗(オーストラリア、ニュージーランド等)の意匠に入っており影響が英国のみならず他国に及ぶ可能性もあること、3聖人の十字架を組み合わせた国旗に赤い竜ではデザインがあまりにもかけ離れ過ぎていて馴染まない等の指摘がされており、なかなか実現は難しいようだ。
1282年にウェールズはイングランドに占領され、その支配下に置かれる事になってしまう。
1603年に、イングランドとスコットランドの国旗から、初代のユニオンフラッグが作られ、その後、1801年に、アイルランドとの合同でグレートブリテン及びアイルランド連合王国が成立し、現在のユニオンフラッグが誕生することになる。
なお、1999年には議会が成立し、ウェールズの国民意識が高まってきたことや英国の国民統合の観点から、ウェールズのシンボルとなっている「赤い竜」の意匠を取り込むべきとの主張も提起されているようだ。ただし、英国の国旗があまりにも定着していること、他国の国旗(オーストラリア、ニュージーランド等)の意匠に入っており影響が英国のみならず他国に及ぶ可能性もあること、3聖人の十字架を組み合わせた国旗に赤い竜ではデザインがあまりにもかけ離れ過ぎていて馴染まない等の指摘がされており、なかなか実現は難しいようだ。
ウェールズの位置付け
こうして述べてくると、前回報告した国名にせよ、今回の国旗にせよ、英国におけるウェールズの位置付けだけが特殊なことから、何となくウェールズに対して特別な感情を有する気持ちにならないだろうか。さらに、英国王は「イングランド王、スコットランド王及び北アイルランド王」だが、ウェールズは「プリンス・オブ・ウェールズ」(=ウェールズ公)がトップということで、この点でも他の国々とは異なる取扱いとなっている。実は、こうした背景もあることから、個人的にはウェールズに対して、何となく判官びいきの感情を抱いており、今回のワールドカップラグビーでも応援をしていた。
英国の国旗は左右対称ではない
さて、英国の国旗である「ユニオンフラッグ」については、見慣れたものなので、どなたもご存知だと思われるが、これが左右対称でないってことは知っていただろうか。
よく観察していただければわかるように、アイルランド国旗部分である聖パトリッククロスの位置が左右非対称になっている。聖アンドリュークロスと聖パトリッククロスが重なり合ってしまわないように、ユニオンフラッグでは聖パトリッククロスの斜線が反時計回りに若干ずらしてある。これは、スコットランドとアイルランドは対等ということを表すために、このようになっているとの説があるが真偽のほどは定かではない。いずれにしても、英国の国旗は上下左右で非対称となっており、表裏の区別があるので、取扱いには注意が必要となる。
さらに、聖アンドリュークロスの青地は、スコットランド国旗ではブルー(アジュールと呼ばれている色)だが、ユニオンフラッグではダークブルーになっている。初代のユニオンフラッグの時は、スコットランド国旗と同じブルーであったが、その後数世紀をかけて徐々に暗くなっていったとのことである。因みに、現在の国旗のブルーの色について、英国の「Flag Institute」の記載によれば、聖アンドリュークロスはPantone®3005、ユニオンフラッグはPantone 280となっているとのことである6。
5 Pantoneは、世界で使用されている色見本帳のひとつ
6 https://www.flaginstitute.org/wp/british-flags
よく観察していただければわかるように、アイルランド国旗部分である聖パトリッククロスの位置が左右非対称になっている。聖アンドリュークロスと聖パトリッククロスが重なり合ってしまわないように、ユニオンフラッグでは聖パトリッククロスの斜線が反時計回りに若干ずらしてある。これは、スコットランドとアイルランドは対等ということを表すために、このようになっているとの説があるが真偽のほどは定かではない。いずれにしても、英国の国旗は上下左右で非対称となっており、表裏の区別があるので、取扱いには注意が必要となる。
さらに、聖アンドリュークロスの青地は、スコットランド国旗ではブルー(アジュールと呼ばれている色)だが、ユニオンフラッグではダークブルーになっている。初代のユニオンフラッグの時は、スコットランド国旗と同じブルーであったが、その後数世紀をかけて徐々に暗くなっていったとのことである。因みに、現在の国旗のブルーの色について、英国の「Flag Institute」の記載によれば、聖アンドリュークロスはPantone®3005、ユニオンフラッグはPantone 280となっているとのことである6。
5 Pantoneは、世界で使用されている色見本帳のひとつ
6 https://www.flaginstitute.org/wp/british-flags
最後に
今回は英国及びその構成国の国旗の由来等に関わる話題について報告してきた。
英国は、米国とならんで、日本人にとっては極めて馴染みが深い国であると思われる。ところが、その英国についてもあまり知らないことが多い。私自身も28年前に今回報告したようなことを学んで、本当に認識を新たにした記憶がある。こうしたこともあり、英国滞在中には、スコットランドやウェールズにも訪問し、イングランドとの文化等の差異を感じる経験もした。当時はまだIRA(アイルランド共和軍)の活動が大きく懸念されていたので、北アイルランドに訪問することはできなかったが、その後ベルファスト合意によって和平が実現した後に、北アイルランドを含めたアイルランドを訪問した。英国という1つの国ではあるが、話される英語も私の拙い英語力でも十分に理解できる違いを感じることができた。
英国は今やBrexit(英国のEU離脱)問題で、どちらかといえばマイナスのイメージで捉えられるケースが多くなってきているように思われるが、英国の文化は日本だけでなく世界中に幅広く浸透しており、引き続きその偉大さを感じる機会が多い。
今回のワールドカップラグビーを契機に、英国及びこれらの構成国の話題にスポットが当たる機会が増えて、これらの国々への理解や関心がさらに高まっていくことを期待している。
英国は、米国とならんで、日本人にとっては極めて馴染みが深い国であると思われる。ところが、その英国についてもあまり知らないことが多い。私自身も28年前に今回報告したようなことを学んで、本当に認識を新たにした記憶がある。こうしたこともあり、英国滞在中には、スコットランドやウェールズにも訪問し、イングランドとの文化等の差異を感じる経験もした。当時はまだIRA(アイルランド共和軍)の活動が大きく懸念されていたので、北アイルランドに訪問することはできなかったが、その後ベルファスト合意によって和平が実現した後に、北アイルランドを含めたアイルランドを訪問した。英国という1つの国ではあるが、話される英語も私の拙い英語力でも十分に理解できる違いを感じることができた。
英国は今やBrexit(英国のEU離脱)問題で、どちらかといえばマイナスのイメージで捉えられるケースが多くなってきているように思われるが、英国の文化は日本だけでなく世界中に幅広く浸透しており、引き続きその偉大さを感じる機会が多い。
今回のワールドカップラグビーを契機に、英国及びこれらの構成国の話題にスポットが当たる機会が増えて、これらの国々への理解や関心がさらに高まっていくことを期待している。
(2019年11月12日「研究員の眼」)
中村 亮一のレポート
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