コラム
2019年11月07日

英国及びその構成国の国名や国旗の由来を知っていますか?-(その1)国名の由来-

中村 亮一

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はじめに

ラグビーワールドカップも、先週末に決勝戦が行われて、南アフリカがイングランドを破って、ニュージーランドと並ぶ3回目の優勝を果たして終了した。今回のラグビーワールドカップについては、当初はその盛り上がりに不安もあったようだが、結果的には日本代表チームがTier1のアイルランドとスコットランドという2チームを倒して、ベスト8に初めて進出したこともあり、大成功をおさめている。関係者のご努力に敬意を表したい。私自身も今回の大会を契機に、ラグビー人気がさらに高まっていくことを切に願っている。

さて、今回のラグビーワールドカップでは、イングランドとウェールズがベスト4に進出し、アイルランドとスコットランドが日本と同じ予選プールに属して、対戦があったことから、多くの日本人にとっては、英国を構成する4カ国1の存在が、これまで以上に身近なものになったのではないかと思われる。英国はBrexit(英国のEU離脱)問題においても、注目を浴びていることから、今回は英国にまつわるトピックを取り上げてみた。
 
1 4カ国を表す表現としては、スポーツイベント等におけるホーム・ネーションズ(Home Nations)といった表現も用いられるが、ここでは「構成国(constituent country)」と呼んでいる。

英国での語学学校で学んだこと

実は、私は今から28年前の1991年に、英国の会社に9か月ほどトレーニーとして派遣されていたことがあった(なお、その時に丁度第2回のワールドカップラグビーが英国において開催されており、当時の英国における盛り上がりを直に肌で感じることができた)。

それまでは英語に縁がなく、学生時代も英語は全くの不得意科目であったが、急遽派遣が決まったことから、英国赴任後2か月ほど、郊外の英国人の家庭にホームステイして、日本人の方が経営する英会話学校に通わせてもらうことになった。そこで、まずは英国についての基礎知識をいろいろと教えてもらい、それまで殆ど知らなかった多くのことを学ばせていただいた。当時はまだ北アイルランド問題も落ち着いておらず、IRA(アイルランド共和軍)の活動についても大きく懸念されている状況にあったが、こうした問題を初めて詳しく勉強する機会を得ることができた。

このコラムをお読みの多くの方々は既にご存知だと思われるが、(1)英国の英語名称は「United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland(グレートブリテン及び北アイルランド連合王国)」であり、通称「United Kingdom 」あるいは「UK」と呼ばれていること、(2)英国がイングランドとウェールズとスコットランドと北アイルランドの4カ国で構成されていること、さらには(3)その国旗であるユニオンジャックが、これらの構成国の国旗で構成されていること、等について、その経緯や意味合い等を含めて勉強させていただいた。

今回と次回の研究員の眼で、英国やその構成国の国名や国旗にまつわる話題について触れてみたい。今回は、国名、特に英語での国名の表現の由来を中心に、報告する。

UKが「英国」あるいは「イギリス」と呼ばれる理由

「UK」の英語名については、特段の説明はいらないと思われるので、ここでは日本語での国名の由来について報告する。

私自身もそうだが、「UK」を表すのに、日本語では「英国」という表現を用いている。外務省のWebページでも「英国」となっており、新聞記事等でも「英国」と表現されているように、公用文では「英国」が使用されている。一方で、「イギリス」という表現も口語を中心に幅広く使用されている。両者は、ともに「UK」を表していることで何ら差異はない。

それでは、なぜ「英国」と表記されるのか、またなぜ「イギリス」と呼ばれるのだろうか。

まずは、英国が日本において「イギリス」と呼ばれるのは、16世紀以降日本と関係があったポルトガルの言葉でイングランドを指す「Inglez (イングレス)」が語源だとされている。さらに、江戸時代にはオランダ語の「Engelsch(エングルス)」を語源とする「エゲレス」という呼称も広く使用されていた。その意味では、その語源からすれば、「イギリス」は、本来的には英国ではなく、その構成国であるイングランドを指しているともいえることになる。

さて、これらの表現を漢字で標記する場合に、幕末から明治・大正期に「英吉利」(えいぎりす)という表現が用いられた。このため、「英国」という略称が用いられるようになったとのことである。

GBも「英国」を表している

また、英国のことを「Great Britain」ということもある。厳密にはこれだと、グレートブリテン島にあるイングランド、スコットランド、ウェールズの3カ国のことを指すことで、北アイルランドが含まれないことになるので、正確ではないことになる。

ただし、その略称である「GB」については、英国を表す国名コードとして、「UK」とともに使用されている。また、オリンピック等のスポーツの国際競技では、英国選手団は「Great Britain」と言う名称で出場している。これは、第1回オリンピックで使用された名称がその後も使用されてきたことに由来しているようである。因みに、IOC(国際オリンピック委員会)による英国の国名コードは「GBR」である。

さらには、「Britain」ということもある。この場合にはアイルランド島も含めてBritish Isles(ブリテン諸島)にあることから、北アイルランドも含められることになる。「Brexit」は 「British」 と「exit」の混成語であり、これで「英国のEU離脱」を意味していることから、「Britain」が英国全体を指していることは広く認められていることになる。

いずれにしても、英国においては、「Great Britain」と「Britain」いった表現で、実際には英国全体を指している場合が多い。

(参考)英国の人をどう呼んだらよいのか

それでは、英国やその構成国からの人をどう呼んだらよいのだろうか。

英国人のことは一般的に「British」と呼んでいる。イングランド人は「English」であるが、例えば、スコットランド人(Scottish)やウェールズ人(Welsh)に対して、「English」と呼ぶと、不快な気持ちを与えることになるので、注意する必要がある。それでは、北アイルランドの人はというと「Northern Irish」ということになるが、一方で北アイルランドの人に「Are you British?」と聞くと、「No, I ‘m Irish.」などと回答されることもあるから、中々難しい(まあ普通は、こんな聞き方はせずに「Where are you from?」と質問すれば、「I ‘m from Northern Ireland.」と答えてもらえる)。

イングランドの国名の由来

「イングランド(England)」というのは、アングル人(Angles)の土地(Land)という意味で、ゲルマン民族大移動の頃、ドイツに住んでいたアングル人がブリテン島に渡ってきて、国を作ったことに由来している。いわゆる、アングロサクソン(Anglo-Saxon)のAnglo-と同じ語源である。

因みに、英国というと、時々「ブリタニア (Britannia)」という国名を耳にすることが多いと思うが、これは、英国、特に古代ローマの属州「ブリタンニア」があったグレートブリテン島南部のラテン語による古称である。

スコットランドの国名の由来

「スコットランド(Scotland)」というのは、スコット人(Scots)の土地(Land)と言う意味で、スコット(Scots)はラテン語でゲール人を指した「スコティ(Scoti)」に由来している。

因みに、スコットランドはラテン語では「カレドニア(Caledonia)」と呼ばれ、古代に有力だったクラン(氏族)の名に由来している。従って、「ニューカレドニア」は「新スコットランド」ということになる。また、スコットランドはスコットランド・ゲール語では「アルバ(Alba)」と呼ばれるが、これはスコットランド王国成立の母体となった王国の名前である。

アイルランドの国名の由来

「アイルランド(Ireland)」も、「Irish」の土地(Land)ということになるが、そもそも「Irish」という言葉は、「肥沃な(fertile)」という意味を有するインド・ヨーロッパ祖語(PIE)のpi-wer- から、古ケルト語(Old Celtic)のIveriu、古アイルランド語(Old Irish)の Eriu、古ノルド語(Old Norse)のirar、古英語のIrasへとの変遷に由来しているようだ2

アイルランドの正式名称はアイルランド語で「エァル(Éire)」と呼ばれる。その語源についても、例えば、「Éire」の古い形である「Eriu」が、アイルランドの神話に登場する3人の女神の一人の名前であったといわれている等諸説あるようだ。

ウェールズの国名の由来

「ウェールズ(Wales)」は、古英語(アングロ・サクソン語)でアングロ・サクソン人以外〈異邦人あるいは外国人〉を指す言葉である「ウェラス(Welas)」に由来している。ウェールズ人のルーツは、ノルマン人やサクソン人が侵略してくる前からブリテン島に住んでいたケルト系のブリトン人である。

このようにウェールズだけは、他の国々とは異なって「○○ランド」という国名になっておらず、自らの民族の土地という意味合いの名称が付けられていない。

なお、ウェールズは、ウェールズ語では、この地方に住んでいた部族の名称から、「キムル(Cymru)」と呼ばれる。「キムル」はラテン語では「カンブリア(Cambria)」となり、あの「カンブリア紀(Cambrian period)」の名前は、この時代の岩石が発見及び研究された最初の地がウェールズのカンブリアが住んでいた地域であったことに由来しているとのことである。

このように、思わぬ言葉が英国の構成国の国名等に由来していることが分かったが、これは大変興味深いと思われるが、いかがなものだろうか。

最後に

我々が日常何気なく使用している国名であるが、その由来は中々奥深いものがあるようだ。まさに、それぞれの国の歴史を反映する形で、国名が決定されてきている。

英国の場合、「UK」の名前の由来は、「連合王国」そのものになっているので、ある意味で味気ないとの印象も与えるかもしれない。これに対して、各構成国の名前は、(ウェールズを除けば)まさにそれぞれの国を代表する民族の国であることを明確に表現している形になっているので、おそらくそれぞれの国に昔から住んでいる人々にとっては、より親しみの湧く意味深いものとなっているのだと思われる。一方で、ウェールズの人にとっては、その英語名はその由来からは必ずしも歓迎されるものではないものと思われるが、これを受け入れる(?)とともに、ウェールズ語による自国の名前を使用することで、その民族としてのアイデンティティを主張してきているようである。ウェールズでは、英語と並んでウェールズ語も公用語とされ、標識等は英語とウェールズ語の2ヶ国語で表記されている。28年前に初めてウェールズを訪れたときに、独特な印象を覚えたことが今も記憶に鮮明に残っている。

その意味で、(特に、イングランド以外の)英国の人々が、自分たちが「British(英国人)」ではなく、むしろそれぞれの構成国の人であるということにより誇りを持ち、その呼称にも固執しているのも十分に理解できるのではないだろうか。
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(2019年11月07日「研究員の眼」)

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