コラム
2019年08月01日

ラグビーボールはなぜ楕円の形をしているのか?

中村 亮一

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はじめに

約1年前に、2018年6月14日から、サッカーの2018FIFAワールドカップロシア大会がスタートすることに因んで、研究員の眼「サッカーボールは球形なのか-馴染み深い白黒のサッカーボールは、切頂二十面体と呼ばれるものがベースだってこと知っていましたか-」(2018.6.11)を報告した。

今回は、ラグビーワールドカップが9月から開催されるので、ラグビーボールに関する話題を取り上げることにした。ご承知のように、ラグビーボールは球形ではなくて、いわゆる楕円形である。なぜ、球形ではないのか、ということについても、既にご存知の方もおられると思うが、この点及びその他のラグビーに関係する話題について調べてみた。

ラグビーボールは長球あるいは扁長楕円体と呼ばれる

長球(あるいは、長楕円体又は偏長楕円体)(prolate又はprolate spheroid)」と呼ばれるものは、楕円をその長いほうの軸を回転軸として回転させたときに得られる回転体である。なお、これに対して、楕円をその短いほうの軸を回転軸として回転させたときに得られる回転体は「扁球(あるいは、偏楕円体又は扁平楕円体)(oblate, oblate spheroid)」と呼ばれている。なお、両方の軸の長さが等しい場合が「」ということになる。

長球の代表的なものが、ラグビーボールであり、さらにはアメリカンフットボール用のボールや潜水艦等もこれに該当することになる。一方で、扁球の代表的なものは、碁石であり、実は地球も完全な球形ではなく、縦の軸よりも横の軸が若干長い扁球となっている。

球と長球と扁球を合わせて、「回転楕円体(spheroid)」と呼んでいる。

なお、より一般的な「楕円体(ellipsoid)」と呼ばれるものは、必ずしも一定の軸を回転させることによって得られるような対称的なものとはなっていない。具体的には、楕円体とよばれるものは、以下の算式で表される。
楕円体の算式
ここで a, b, c はそれぞれx軸、y軸、z軸方向の径の半分の長さに相当する。なお a = b = c である楕円体が球であり、a, b, c のうちいずれか2つが等しい楕円体が回転楕円体ということになる。

従って、aが縦軸の半径、bが横軸の半径を表すこととすると、回転楕円体は、以下の算式で表されることになる。
回転楕円体の算式
a < b の場合が長球で、a >b  の場合が扁球ということになる。

因みに、楕円体の局面を極座標で示すと、以下の通りとなる。

 x=a sinθcosφ
 y=b sinθsinφ 
 z=c cosθ
 0≦θ≦π  0≦φ≦2π

さらに、楕円体の体積Vは、以下の通りとなる。

 V=4/3・πabc

ラグビーの由来

さて、ラグビーボールが楕円形になった理由について述べる前に、まずは、ラグビーの由来から説明しておく必要がある。このラグビーの由来については、いくつかの説があるようである。

これまで、よく語られてきて、そうだと信じている人も多いと思われるのは、「1823年にラグビー校で行われたサッカーの試合が起源」だというものである。これは、「サッカーの試合中に、ウィリアム・ウェッブ・エリス(William Webb Ellis)という少年が、ボールを抱えて走り出した」というものである。

ただし、この説については、必ずしも正確ではないようだ。ウィリアム・ウェッブ・エリスという少年は実在の人物であったが、そもそも、サッカーではなくて、フットボールの試合中に起こったことであり、当時の「フットボール」は、現在のサッカーとは異なり、「原始的なフットボール」的なものであった、ということのようである。

この「原始的なフットボール」は、中世イングランドに起源を有し、大人数が手と足を使って町と町の対抗戦として行われていたものである。当時、フットボールは、パブリックスクールでプレーされていたが、そのルールは学校によって異なっており、これがエリス少年の行動につながったようである。ただし、こうした出来事を契機にして、フットボールの定義を統一しようという話になって、現在のサッカーにあたるフットボールは手を使わないルールになり、一方で、ボールを手に持ってプレーすることに拘ったグループが、現在のラグビーのルールに基づくフットボールを構築していったようである。

このように、「原始的なフットボール」がサッカーとラグビーに分化したというのが、どうも事実のようである。

なお、先のウィリアム・ウェッブ・エリス氏は、ラグビーの発明者として扱われており、ラグビーワールドカップの優勝記念カップは、彼の名に因んで、「ウェッブ・エリス・カップ(Webb Ellis Cup)」と名付けられている。

また、前回のイングランドで開催されたワールドカップ2015においては、「1823年のラグビー校での出来事」がショートフィルムで紹介されていた。

ラグビーボールが楕円形(長球)になった理由

さて、前置きが長くなってしまったが、いよいよラグビーボールが楕円形(長球)になった理由について述べる。

これにも諸説あるようだが、最も有力な説と言われているのが、「昔は豚の膀胱を膨らませて、それに牛皮を張り合わせてボールを作っていたから」というものである。そもそもは、上に述べたような理由から、ラグビーのボールはサッカーと同じフットボール用の球形であったようである。

ところが、ボールを手に持って走るということになると、ボールが重くてプレーがしにくい。そこで、より軽いボールの開発を目指していく中で、靴職人のウイリアム・ギルバート(William Gilbert)氏が豚の膀胱を使用するということを思い付いたようである。ウイリアム・ギルバート氏は、ラグビー校のために、ハンドステッチされた、4つのパネルの、皮のケーシングと豚の膀胱から、ボールを作成した。当初は楕円形と言うよりも、プラム型に近かったようである。

それでは、なぜ「豚の膀胱」なのかということについては、試行錯誤を重ねた結果ということで、豚の膀胱が適度の弾力性と軽量性を兼ね備えていたということのようである。そもそも豚の膀胱自体はそれ以前から、医学や伝統的な慣習等において、幅広く使用されていたようであり、フットボールの機密膜にも使用されていたとのことである。

いずれにしても、このボールを実際に使用してみると、軽くて脇に抱えて持ちやすいということから、この楕円形のボールが受け入れられていったとのことである。その後、より持ちやすく投げやすいように少しずつ改良が行われていって、現在の形になったようである。

なお、こうした説に対して、中世時代に行われていた「陣取り合戦のお祭り」で使用されていたバトンやフラッグのようなスティックのものから変化したという説もあるようである。

因みに、Gilbertは、ラグビーボールを代表するブランドとなっている。

(参考)ラグビーという町

さて、ラグビー校があるラグビーという町は、イングランド中央部のウォリックシャー(Warwickshire)にある町で、ラグビー発祥の地として有名である。この町には、まさにラグビー校の前にエリス少年がボールを持って走っている銅像があり、さらにラグビー校のほぼ正面には Webb Ellis Rugby Football Museum がある。この博物館は、ウイリアム・ギルバートの甥の靴職人のジェームズ・ギルバート(James Gilbert)氏が1842年に最初のラグビーボールを作った場所にあり、以前はJames Gilbert Rugby Football Museumと呼ばれていた。

ラグビーボールが楕円形(長球)であることのメリット・デメリットは

いずれにしても、ラグビーボールが楕円形になったことで、ラグビーはかなり面白いゲームになっている。

試合の中でもたびたび見かけるように、ボールが地面に当たって跳ねるときに、その行き先の方向の予測がつきにくくなっている。バックスの選手にとっては、自陣に蹴り込まれたボールの処理に非常に苦労することにもなる。

また、スクラムでのスクラムハーフやフッカーのプレー、ラインアウトでのスローインのプレー等は難しいテクニックが求められてくることになる。

キッカーもスローワーも、日々の練習を通じて、一定程度は、この楕円形のボールの軌道や跳ね返り方をコントロールすることができるようになるとのことであるが、それでも実際の試合を見ていると、偶然に支配されていると思われるケースもたびたび見かけることになる。

ボールが楕円形であることによるメリットとしては、キックされたボールの回転が(球形の場合に比べて)見やすいということが挙げられる。これは、観客席からも確認できるので、ラグビーにある意味での面白さを提供するものになっている。

さらに、楕円形のボールは、長軸が回転軸となるように飛ばすことで、球形のボールである場合に比べて、安定的にまっすぐ遠くまで飛ばすことができるというメリットもあるようである。

(参考)ラグビーのトライやコンバージョンキックとは

ラグビーで「トライ」と言えば、ボールを相手チームのゴールに接地させることを言うが、なぜ「トライ」というのだろうか。トライとはそもそも「挑戦する」という意味合いを有している。ところが、トライの時点でも得点が入ることになる。

実は、昔のラグビーにおいては、現在とはルールが異なり、トライをした後でキックを決めないと得点にはならなかった、即ち、トライそのものが得点ではなくて、あくまでも得点を得るための「挑戦」権を得るものだったので、このような名前が名付けられたとのことである。

さらに、トライを決めた後に行われる「コンバージョンキック」について、なぜコンバージョンという名前が付けられているのだろうか。これについても、もともとはまさにコンバージョン(転換)の意味する通り、コンバージョンキックが決まればトライの点数はなくなり、コンバージョンキックの点数に「転換」されるという考え方を採用していた。それが、現在のルールは、トライの5点にコンバージョンキックが決まれば2点が追加されて7点が入る、というものになっている。

最後に

サッカーに比べると、ラグビーの人気は若干落ちるのかもしれないが、ラグビーは大変面白いスポーツである。私も学生時代から、大変興味関心を持って見ている。実は、今回のワールドカップについても、是非見に行きたいと思ってチケットの申込みをしているのだが、人気のある東京近辺のゲームの希望する価格帯のチケットはなかなか手に入らない状況である。

日本チームは、前回のワールドカップで南アフリカに勝利する等して、大活躍した。今回のワールドカップは地元開催なだけに、是非より一層活躍してもらいたいと思っている。

楕円の形をしたラグビーボールの不透明な跳ね返りが、日本チームに有利に働かないか等と期待しながら、観戦したいと思っている。
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中村 亮一

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(2019年08月01日「研究員の眼」)

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