2019年11月05日

EIOPAがソルベンシーIIの2020年レビューに関するCPを公表(2)-CPの内容及び提案等の概要-

文字サイズ

4|協議された助言の主な内容
協議された助言の主な内容の要約は、以下の通りである。

1.長期保証措置と株式リスク措置
EIOPAは、ユーロのリスクフリー金利を補外する際には、より遅い開始点を選択するか、又は開始点を超えた市場情報を考慮するために補外法を変更することを検討している。技術的準備金の過小評価や誤ったリスク管理インセンティブを回避する目的で、変更が検討される。ソルベンシー・ポジションの安定性と金融の安定性への影響が考慮される。

このペーパーでは、リスクフリー金利に対するボラティリティ調整を計算するための2つのアプローチが示されている。どちらのアプローチにも、ボラティリティ調整のオーバーシュート効果を緩和するための適用比率と、調整が適用される保険負債の非流動性特性を考慮するための適用比率が含まれる。また、1つのアプローチは、調整の恒久的な要素と、スプレッドが大きい時にのみ存在するマクロ経済的要素との間の明確な分離を確立する。もう1つのアプローチは、会社固有の投資配分を考慮に入れて、オーバーシュート効果にさらに対処するものである。

リスクフリー金利へのマッチング調整に関しては、マッチング調整ポートフォリオに関してソルベンシー資本要件標準式の分散効果の中で、認識されるよう提案する。

勧告には、長期保証措置及びこれらの措置に対するリスク管理規定に関する公衆開示を強化するための提案が含まれている。

助言には、株式リスクに係る資本要件の見直し、戦略的株式投資の基準及び長期株式投資の計算に関する提案が含まれる。EIOPAは、長期株式投資に関する資本要件が導入されたことから、期間ベースの株式リスク・サブモジュールを段階的に廃止することを勧告する予定である。

2.技術的準備金
EIOPAは、技術的準備金の最良推定値の計算において、会社間又は監督当局間で異なる実務が存在する、より多くの側面を特定した。EIOPAのコンバージェンス・ツールでは一貫した実務が保証されないこれらの問題のいくつかについて、助言では、主に契約の境界、将来の保険料の期待利益の定義、及び1つの商品タイプ又は保険事業全体を廃止した保険会社の費用前提に関する法的枠組みを明確にするための提案が示されている。

保険負債の技術的準備金移転価格のリスクマージンについて、金利変動に対するリスクマージンの感応度、マッチング調整やボラティリティ調整を適用する会社のリスクマージンの算出方法を分析した。分析の結果、リスクマージンの計算方法を変更する提案は得られなかった。

3.自己資本
EIOPAは、定量的・定性的評価を活用して、保険・銀行の枠組みにおける階層化アプローチと制限アプローチの違いを検討した。EIOPAは、両部門のビジネスの違いを考慮すると、それらは正当であると判断した。

4.ソルベンシー資本要件標準式
EIOPAは、金利リスク・サブモジュールの較正を拡大するために2018年に提供された助言を確認する。現在の較正はリスクを過小評価しており、過去数年間に経験したような急激な金利低下の可能性やマイナスの金利の存在を考慮していない。

スプレッド・リスク・サブモジュール、市場リスクの相関行列、非比例再保険の扱い、外部格付の利用の見直しは、変更提案には至らなかった。

5.最低資本要件
最低資本要件の算出については、ソルベンシー資本要件標準式におけるリスク・ファクターに対する最近の変更に合わせて、損害保険リスクのリスク・ファクターを更新することを提案する。また、最低資本要件の不遵守に関する法規定の明確化を提言する。

6.報告・開示
この勧告は、報告が適切に行われ、リスクベースの監督を支援することを確保するために、定期監督報告の頻度の変更を監督当局に提案している。保険会社が報告義務を履行するための支援を行い、異なる報告要件間の重複を回避し、公平な競争条件を確保することを目的として、定期監督報告書の期待される内容を簡素化し、明確化することを提言する。情報は他の情報源からも入手できるため、一部の報告項目は削除することが提案されている。

勧告には、保険グループの報告テンプレートの見直しが含まれている。これは、単独会社とグループの特殊性に関する以前のEIOPA提案を考慮に入れたものである。

EIOPAは、開示された情報の信頼性と比較可能性を向上させるために、グループレベルでの貸借対照表の監査要件を提案している。また、その報告書の要約を翻訳するための要件を削除することを勧告している。

7.比例
EIOPAは、ソルベンシーII指令から保険会社を除外するための規則、特に保険会社の規模に関する基準を見直した。その結果、EIOPAは、免除に対する一般的なアプローチを維持する一方で、ソルベンシーII指令の3つの柱の間で比例性を強化することを提案している。臨界値に関して、EIOPAは技術的準備金に関する臨界値を倍増し、加盟国が保険料収入の現在の臨界値を現在の500万ユーロから2500万ユーロまで増やすことを提案している。

EIOPAは、2018年に標準式の簡素化された計算を見直し、改善案を提案した。また、カウンターパーティ・デフォルト・リスク・モジュールの算定の簡素化や、重要性の低いリスクへのアプローチの簡素化についても提言している。

保険及び再保険会社のガバナンス要件の比例性を改善するための提案が、特に主要な機能、リスク及びソルベンシーの自己評価、引受保険契約及び行政・経営・監督機関に関して行われる。

ソルベンシーIIの枠組みの報告と開示の比例性を改善するための提案は、2019年7月にEIOPAの別の協議で行われた。

8.グループ監督
EIOPAは、ソルベンシーIIの下での保険グループの監督に関する現在の法的不確実性に対処するため、多くの規制変更を提案している。グループに対する規制の枠組みは、多くの場合、あまり具体的なものではなかったが、他の場合には、あまり明確化されていない単独の規則の準用に依存しているため、これは歓迎すべき機会である。

特に、第三国との問題を含めて、グループに適用される定義、グループ監督の適用範囲及びグループ内取引の監督を確実にするための政策提言がある。他の提案は、グループソルベンシーの計算を管理する規則に焦点を当てており、これには、自己資本の要件や金融コングロマリット指令との相互作用が含まれる。助言の最後のセクションでは、グループレベルでのガバナンス要件の適用に関連する不確実性に焦点を当てている。

9.サービス提供の自由及び設立の自由
EIOPAはさらに、国境を越えたビジネスに関する提言を行っている。特に、保険会社の認可プロセスにおいて、また国境を越えた活動に重大な変化が生じた場合に、各国の監督当局間の効率的な情報交換を支援するためである。国境を越えたビジネスの監督を支援する協力プラットフォームにおけるEIOPAの役割を強化することがさらに推奨される。

10.マクロ・プルーデンス政策
EIOPAはソルベンシーII指令にマクロ・プルーデンスの視点を含めることを提案している。これまでの研究に基づき、この助言では、保険におけるシステミック・リスクに対する概念的アプローチを開発した後、ソルベンシーIIの枠組みにおける現行のツールを、特定されたシステミック・リスクの発生源に対して分析し、現行の枠組みにおける更なる改善の必要性があると結論付けている。

このような背景の下、EIOPAは欧州委員会が最初に検討したツール (システミック・リスク及び流動性リスク管理計画の策定とリスクとソルベンシーの自己評価の改善、プルーデントパーソン原則) 及び保険におけるシステミック・リスクの発生源に対処するための十分な権限を各国の監督当局に付与するためにEIOPAが必要と考えるその他のツールを含む包括的な枠組みを提案している。後者のうち、EIOPAは、システミック・リスクに資本サーチャージを要求する権限、ソフトな集中度の臨界値を定義する権限、予防的な再建・破綻処理計画を要求する権限、及び例外的な状況下で償還権を一時的に凍結する権限を各国の監督当局に付与することを提案している。

11.再建と破綻処理
EIOPAは、(再)保険会社がEUにおいて保険契約者の保護と金融の安定性を向上させるために、最低限の調和が図られた包括的な再建・破綻処理の枠組みを要求している。既存の枠組みを調和させ、再建と破綻処理の基本的要素に対する共通のアプローチを定義することにより、現在の分断された状況を回避し、国境を越えた協力を促進する。

その助言の中で、EIOPAは予防的再建計画と早期介入措置の要求を含む再建措置に焦点を当てている。その後、勧告は、破綻処理機関の指定、破綻処理の目的、破綻処理の計画立案の必要性、比例的な方法で実施される幅広い破綻処理権限など、破綻処理プロセスに関連する全ての側面を網羅する。助言の最後の部分は、早期介入、再建への入り口、そして破綻処理へのトリガーに当てられている。

12.レビューの他のトピック
ソルベンシーII指令に含まれる経過規定の現在の妥当性の見直しは、変更の提案には至らなかった。

ソルベンシーII指令のフィット&プロパー要件に関して、EIOPAは、取締役の妥当性の継続的な監督に関する国の監督当局の立場を明確にし、適格株主が適切でない場合に有効な権限を有するべきであることを提案している。監督当局が共通の見解に達することができない場合には、EIOPAの権限を共同で評価し利用する可能性を提供することにより、複雑な国境を越えたケースにおける妥当性評価の効率性と強度を高めるため、更なる助言が提供される。

なお、多くの分野で、さらなる作業が進行中であり、特にリスクマージン、株式リスク及び不動産リスクに関して、利害関係者が貢献することが期待されている。
5|背景資料-影響評価等-
今回のCPには、CPの各セクションで検討された主要オプションの費用と便益の分析を示した背景資料が添付されている。

このような分析には、保険契約者、業界、監督当局を含む利害関係者の費用と便益の質的評価が含まれる。

特定のトピックに関する技術オプションについては、コストの定量的評価も含まれる。

加えて、ソルベンシーII指令の2020年の見直しの目的への影響及び業界の予想コストを含む関連する全ての分野における立法上の変更案の複合的影響の包括的な概観を提供するために、総合的な影響評価が開発されている。

質的分析は、公開協議と平行して、各国監督当局及び保険・再保険会社への情報要請を通じて収集されたデータの分析によって補足される。

また、2020年には、EIOPAは提案されている変更の複合的影響に関するデータも収集する。
 

4―まとめ

4―まとめ

以上、今回のレポートでは、ソルベンシーIIの2020年のレビューに関するCPについて、その要約等に基づいて、全体的な概要及び提案の要約等を報告してきた。

次回以降のレポートで、EIOPAによる今回のCPの中から、主な提案内容について、その具体的内容等を報告する。
Xでシェアする Facebookでシェアする

中村 亮一

研究・専門分野

(2019年11月05日「基礎研レポート」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【EIOPAがソルベンシーIIの2020年レビューに関するCPを公表(2)-CPの内容及び提案等の概要-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

EIOPAがソルベンシーIIの2020年レビューに関するCPを公表(2)-CPの内容及び提案等の概要-のレポート Topへ