2019年11月05日

EIOPAがソルベンシーIIの2020年レビューに関するCPを公表(2)-CPの内容及び提案等の概要-

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1―はじめに

ソルベンシーIIに関しては、レビューの第2段階として、ソルベンシーIIの枠組みの見直しが2021年までに行われる予定となっており、その検討が既にスタートしている。欧州委員会は、EIOPAに対して、2019年2月11日に指令2009/138 / EC2(ソルベンシーII)のレビューに関する助言要請1を行った。これを受けて、EIOPAが検討を進めていたが、2019年10月15日に、ソルベンシーIIの2020年レビューにおける技術的助言に関するコンサルテーション・ペーパー(以下、「今回のCP」という)を公表2した。

前回のレポートでは、今回のCPにいたるまでの、ソルベンシーIIの2020年のレビューに関する欧州委員会の助言要請の内容及びこれまでの監督当局や業界団体の動きについて報告した。今後複数回のレポートで、EIOPAの今回のCPの概要について報告する。まずは、今回のレポートでは、CPの全体的な概要及び提案の要約等を報告する。  

2―今回のCPの全体的な概要

2―今回のCPの全体的な概要

今回のCPの全体的な概要について、CPの「1.はじめに(Introduction)」に基づいて、報告する。

1|今回のCPに至る背景
ソルベンシーIIは、2016年1月1日にスタートしたが、ソルベンシーII指令(2009/138/EC2)は、遅くとも2021年1月1日までに、その枠組みの以下に挙げる一定の分野について、欧州委員会が検討することを規定している。

・長期保証措置と株式リスクに関する措置
・ソルベンシー資本要件標準式の計算に使用される手法、前提条件及び標準パラメータ
・最低資本要件の算定に関する加盟国の規則及び監督当局の実務
・保険又は再保険会社のグループ内でのグループ監督と資本管理

このような背景の下、欧州委員会は2019年2月、ソルベンシーII指令の見直しに関する技術的助言をEIOPAに求めた。この助言要請は19のトピックをカバーしているが、前述の4つの領域に該当するトピックに加えて、次のトピックが含まれている。

・移行措置
・リスクマージン
・Capital Markets Unionの側面
・マクロ・プルーデンス問題
・再建と破綻処理
・保険保証制度
・サービスの提供の自由及び設定の自由
・報告・開示
・比例と臨界値
・最良推定値
・自己資本

EIOPAは2020年6月30日までに技術的助言を行うように要請されている。EIOPAは、意見形式で技術的助言を提供することになる。
2|今回のCPのカバー範囲
今回のCPでは、より早い時期に助言を行った以下の2つの事項を除き、全ての事項について助言を行っている。

・一般的な問題、個別の定量的報告テンプレート、ソルベンシー財務状況報告書、ナラティブ方式による監督報告及び金融安定性報告に関する報告及び開示
・保険保証制度

上記の2つのテーマに関するCPは2019年7月12日に公表3され、協議は2019年10月18日に終了している。

なお、このように今回のCPは、これまでにないほど多くのトピックについての助言が求められていることや、EIOPAが、様々な政策オプションのかなりの量の分析を含むことによって、提案された意見の基礎に関して透明性を確保したいと考えていることを反映して、878ページという極めて長い文書となっている。
3|今回のCPにおけるレビューの基本的考え方
ソルベンシーIIのレビューは幅広いが、ソルベンシーIIの基本は変わらない。欧州委員会は、助言要請に添付された書簡で次のように述べている。

「[....]ソルベンシーII指令の基本原則は、レビュー(資本要件の構成の基礎となる信頼水準及び市場整合的な評価を含む)[....]において、疑問視されるべきではない。」

このアプローチは、ソルベンシーIIの導入が概ね成功したというEIOPAの認識に沿ったものである。特に、リスクを評価・軽減するためのリスクベースのアプローチが適用され、保険業界では、自己資本とリスクとの整合性が改善され、ガバナンスモデルとそのリスク管理能力が大幅に強化され、欧州全域の保険会社では、監督当局への報告に、各国のテンプレートをばらばらに使うのではなく、統一されたテンプレートを使用している。
4|今回のCPにおけるレビューの参考資料
EIOPAのレビューは、特に以下の点に関する以前の研究に基づいている。

・2016年から2018年までの長期保証措置及び株式リスク措置に関する年次報告書
・2017年及び2018年のソルベンシーII委任規則の特定項目の見直し(SCRレビュー)に関する技術的助言
・2017年から2018年までの保険分野におけるマクロ・プルーデンス政策に関する三つのペーパー
・2017年の再建・破綻処理に関する意見書
・保証スキームに関するディスカッション・ペーパー2018
・グループの監督と資本管理に関する報告書2018
・保険のシステミック・リスクとマクロ・プルーデンス政策に関するディスカッション・ペーパー2019
5|今回のCPにおけるレビューに伴う影響評価
なお、EIOPAは技術的助言に、個々の提案及び全ての提案の組み合わせの両方について、定性的及び定量的な全ての関連する影響の影響評価(総合的影響評価)を含めることにコミットしている。しかし、レビューのこの段階では、全体的な影響は主に定性的にしか評価できない。EIOPAは、各国の監督当局(NSA)及び保険業界に対して情報要請を行っている。これと並行して、2020年には、影響評価のために必要なデータを収集することとしている。

この協議への対応は、利害関係者がレビューに関与する唯一の方法ではない。具体的には、2019年12月に利害関係者との意見交換会を開催する予定である。

影響評価に対するEIOPAのアプローチとレビューへの利害関係者の関与に関する詳細は、このCPとともに公表された影響評価に関する背景資料に記載されている。
6|今後のスケジュール
今回のCPに対する利害関係者からのフィードバックの期限は、2020年1月15日となっている。

これらのフィードバックを踏まえて、EIOPAは2020年6月までに、欧州委員会に最終的な技術的助言を提出することになる。

欧州委員会は、2020年末までに勧告を行うことになっている。
 

3―今回のCPにおける提案等の概要

3―今回のCPにおける提案等の概要

CPのエグゼクティブ・サマリー(要約)に基づくと、今回のCPにおける提案等の概要は以下の通りである。
1|技術的助言要請項目の分類
勧告の要請は19の別々のテーマで構成されているが、これらは大きく3つの部分に分けることができる。
1.長期保証措置の見直し
これらの措置は、Omnibus II指令で規定されているように、2020年に見直されると予想されてきた。特に補外やボラティリティ調整に関しては、多くの異なる選択肢が検討されている。

2.ソルベンシーII指令における新たな規制手段
特にマクロ・プルーデンス問題、再建と破綻処理、保険保証スキームの導入の可能性。これらの新しい規制手段は、協議において徹底的に考慮される。

3.サービス及び設立の自由、報告・開示、ソルベンシー資本要件との関連を含む既存のソルベンシーIIの枠組みの改訂
EIOPAの見解は、ソルベンシーIIの全体的な枠組みがうまく機能しているというものであるが、ここでのアプローチは一般的に改革というよりは進化のアプローチである。主な例外は、例えばクロスボーダー業務に関する監督経験の結果として、あるいは、より広い経済状況、特に金利リスクに関連して、生じている。
2|主な具体的検討事項及び提案
コンサルテーションペーパーの主な具体的検討事項及び提案は以下の通りである。

・ユーロのリスクフリー金利を補外する際に、より遅い開始点を選択するか、又は開始点を超えた市場情報を考慮するために補外法を変更する検討
・特にオーバーシュート効果に対応し、保険負債の非流動性を反映させるために、リスクフリー金利に対するボラティリティ調整額の算出方法を変更することを検討
・金利リスク・サブモジュールの較正を経験的証拠に沿って増加させる提案。この提案は、2018年にソルベンシー資本要件の標準式に関してEIOPAが提供した技術的助言と整合的である。
・ソルベンシーII指令にマクロ・プルーデンス手法を含める提案
・保険のための最低限の調和された包括的な再建・破綻処理の枠組みを設定する提案
3|変更提案の影響
CPの背景資料には、全ての提案された変更の複合的影響の定性的評価が含まれる。EIOPAは、定量的な複合的影響を評価し、勧告に含まれる提案の決定において、それを考慮するために、データを収集する。金利リスクの変化を超えて、EIOPAは一般的に提案のバランスのとれた影響を目指している。
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中村 亮一

研究・専門分野

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