2019年10月29日

EIOPAがソルベンシーIIの2020年レビューに関するCPを公表(1)-2020年レビューに向けてのEC及び監督当局の動向-

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2|フランス保険監督当局 ACPR
フランスの保険監督当局であるACPR(健全性規制当局)は、ソルベンシーIIの2020年の見直しに関して、「長期投資」、「簡素化」、「比例性」の3つの優先事項を強調している。

ACPRのBernard Delas副会長によれば、ソルベンシーIIの導入以来、殆どの保険会社はリスク管理を改善してきたが、規制はまだ改善される可能性がある、としている。

7月のACPR年次総会のスピーチで、Delas氏は2018年のレビューによる委任法の修正を歓迎するとともに、指令の次の再評価から、さらに多くを期待すると述べた。

長期投資」について、2018年のレビューにおいて、欧州委員会は保険会社の長期株式及びプライベートエクイティ投資に関連する資本費用を削減したが、Delas氏は、ソルベンシーIIは依然として株式投資にペナルティを科している、とし、「これらの投資に関連するリスクの現実をよりよく反映するために、全ての主要資産クラスの資本費用の較正を見直すことを望んでいる。」と述べた。

さらに、「保険会社の役割を十分に果たすためには、保険会社は十分に分散した資産に投資できなければならず、これは、規制を遵守しつつ、その投資を彼らの負債の性質と期間に適応させることを意味している。」と述べた。

「この状況下では、株式投資のための資本費用の減少はプラスになる。保険会社がこの資産クラスにより多く投資することを可能にし、これはより良い保証を得る保険会社の顧客にとっても有益であるが、活発な機関投資家を必要とする経済にとっても有利になるだろう。」と述べた。

簡素化」については、Delas氏は、より強力で信頼性の高いものにするために、規制をより理解しやすいものにする必要があると述べた。

比例性」については、「比例性は指令の中で書かれており、それをより体系的に使用することを促進することは有益である。」とし、「報告はより軽くすべきであり、そして低リスクのための引受けの一部の報告は簡素化されるべきである。」と述べた。
 

4―ソルベンシーIIレビューに向けた保険業界団体の反応

4―ソルベンシーIIレビューに向けた保険業界団体の反応

ソルベンシーIIの2020年のレビューに向けて、保険業界団体は各種の意見表明を行ってきている。特に、ここでは、オランダとアイルランドの保険業界団体及びInsurance Europe(保険ヨーロッパ)とAMICE(欧州相互保険会社・協同組合協会)による「比例原則」の適用に関連する意見について報告する。

1|オランダ及びアイルランドの業界団体
オランダの保険業界団体であるVerbond van Verzekeraarsとアイルランドの保険業界団体であるInsurance Irelandは、7月11日に、共同で「A PROPORTIONALITY TOOLBOX FOR SOLVENCY II(ソルベンシーIIのための比例ツールボックス)」とのタイトルのDP(ディスカッション・ペーパー)6を公表した。その中で、中小規模の会社のソルベンシーII適用基準を引き上げること、及びソルベンシーIIのための比例ツールボックスを導入すること、を提案した。

これによると、ソルベンシーIIは現在、年間の収入保険料が500万ユーロ以上の保険会社に適用されているが、これは中小会社に不必要な規制上の負担をかけていることから、これを年間の収入保険料が1,000万ユーロ以上に引き上げることを提案した。

さらに、ソルベンシーIIの下で一貫して適用されるEU全体の比例ツールボックスを導入することを提案した。このツールボックスは、1000万ユーロから最大5000万ユーロの保険料収入、その他必要な条件を満たす保険会社のためのソルベンシーIIの事前設定比例適用である。なお、この上限は、欧州委員会の「中型の」会社の定義に沿ったものとなっている。

適格な中小保険会社に対してデフォルトで比例性を適用する比例ツールボックスは、同一の資本要件(第1の柱)を有するが、完全なソルベンシーIIよりも少ない第2の柱及び第3の柱の要件を有する。

これは、例えば、保険数理機能は一定の条件下では義務的ではないが、比例した年次のリスクとソルベンシーの自己評価(ORSA)が必要であり、限定的なソルベンシー財務状況報告書(SFCR)が必要であることを意味する。報告義務はまた、ソルベンシーII定量報告テンプレート(QRT)に関しても限定されている。しかし、資本要件(第1の柱)は完全に適用されることになる。

なお、これらの変更には、次の利点があるとしている。

(1) 保険契約者保護を維持しつつ、比例原則に則り、健全性を失わずにコンプライアンスの負担を軽減する。

(2) 例外ではなくデフォルトとしての比例簡素化アプローチ

(3) ソルベンシーIIの比例性が主に国内措置に依存している現状とは対照的に、欧州レベルでの比例原則の一貫した適用

(4) 中小保険会社及びInsurTechの手助け

なお、この提案は、かなりの数の中小保険会社に影響を与えるが、国の市場構造によっては、市場の規模の中であまり重要でない部分(オランダ市場で1%未満、アイルランド市場で2%未満)にしか影響を与えない、と述べている。

これらの提案によると、現行と提案に基づくソルベンシーIIの枠組みは、以下の通りとなる。
現行と提案に基づくソルベンシーIIの枠組み
2|Insurance Europe(保険ヨーロッパ)とAMICE(欧州相互保険会社・協同組合協会)
Insurance EuropeとAMICEも、9月30日に、保険会社が規制の枠組みによって不均衡に負担にならないように、ソルベンシーII比例原則を改善するためにECに共同要請7を行った。

その中で、まずは、ソルベンシーIIの枠組みの適用における比例性が強化されるかどうかを評価するため、欧州委員会がEIOPAに対して、ソルベンシーII2020レビューに関する助言を求める要請を行ったことを歓迎する旨を述べた。そして、ソルベンシーII比例原則は、過度の負担を回避するためのキーだが、実際には機能していない、と述べた。

ソルベンシーIIと、特にそのリスクベースのアプローチは、EUの保険業界によってサポートされているが、現在、会社に課せられている膨大な量のルールが不均衡であり、会社の活動やリスクに比べて不必要に負担が大きいため、比例原則に関するルールの変更が必要だと述べた。

比例原則は、各国監督当局(NSAs)が保険会社に課される規制要件を、保険会社の活動の規模、性質及び複雑さに関して比例的に適用できるようにするために含まれたソルベンシーIIの重要な要素である。全ての保険会社が不必要なコストを回避し、小規模な保険会社が活動に関連する規制要件のために廃業することを回避するのに役立つ、としている。

EUの保険会社は、ソルベンシーIIでは比例原則が実際に適用されることは殆どないと警告しており、欧州委員会に共同で変更を要請している。業界が提案する改善は、比例原則が全ての加盟国及びソルベンシーIIの3つの柱全てに効果的かつ一貫して適用されることを保証するのに役立つ、としている。

Insurance EuropeとAMICEは、比例性が実際に本来意図されたとおりに機能することを確保するのに役立つ変更のための具体的な提案を行っている。その内容は、以下の通りである。

1.指令において、次のことを明確にするために追加の文章が必要である。
・NSAsは法的に可能であるだけでなく、会社が比例性を適用するために、指令、委任法、及び/又は実施文書に規定された特定の要件から逸脱したり、又は一部の要件を適用しないことを許可する義務を負っている。例えば、指令の第29条「監督の一般原則」を改正する。

・比例は、小会社だけでなく、グループや大会社にも適用できる。性質、規模及び複雑性への言及は、会社/グループの全体的な規模ではなく、関連するリスク、活動又は商品に明確に言及すべきである。現在、一部の子会社は、グループに属しているため、比例的な措置の適用から除外されている。会社がグループに属しているかどうかにかかわらず、同等の待遇が適用されるべきである。そのためには、単体レベルでの比例性はグループレベルで直接反映されなければならない。

2.委任法において、事前定義された特定の比例措置の網羅的でないリストである比例「ツールボックス」を作成する。この簡素化と免除のリストは、リスクに比べていくつかの要件が過度に負担となる全ての会社が、比例性救済を利用できるようにするために必要である。

3.以下の措置を講じることにより、比例措置(定義済みのツールの1つであるか、又は他の簡素化/免除であるか)を適用しようとする会社の負担を軽減し、比例原則の適用の一貫性を向上させる。

・既存の要件(ソルベンシーII指令第56条、第88条)を調整し、ツールボックスの措置を自動的に適用するための明確なリスクベースの特定基準を導入する。これにより、これらの基準を満たす会社は、さらなる文書化やNSAの明確な承認なしにツールを自動的に適用できるようになる。

・EIOPAに対し、リスクの性質、規模及び複雑性に関するNSAsの評価を支援し、原則の適用プロセスの透明性を高めることを目的とした、リスクベースの明確な基準を策定するよう求める。

・監督当局との対話の中で、ツールボックスの個々の措置が、その正当性を適切に文書化することを条件に、自動適用の所定の基準を満たしていない場合であっても、全ての保険者がその措置を適用することができることを規定する。

4.EIOPAは、その有効性と一貫性をどのように改善するかについての提案を含む比例性に関する年次報告書を公表すべきである。報告書は、加盟国ごとに比例原則の適用を評価し、その有効性と一貫性をどのように改善するかについて提案を行う(報告の制限と免除に関するEIOPAによる報告書と同様)。この報告書及びその後のフォローアップは、ESA(欧州監督機関)のレビューによって設置が義務付けられている新しい比例性委員会によって監督されるべきである。

これらの変更により、全ての保険者が、適用可能な比例的措置への現実的かつ効率的なアクセスを有することを確保し、あらゆる規模の会社が、申請に過大なコストや負担をかけないようにすることができる、と述べている。  

5―まとめ

5―まとめ

以上、今回のレポートでは、ソルベンシーIIの2020年のレビューに関するこれまでの動きについて報告してきた。

ソルベンシーIIの2020年のレビューについては、形式的には2019年2月の欧州委員会からEIOPAへの技術的助言要請でスタートした形になっている。ただし、実質的にはそれ以前から、利害関係者による問題提起が行われ、またEIOPAも各社のデータ収集や分析報告書の発行を通じて、準備を進めてきていた。

そうした中で、「報告と開示」及び「保険保証制度」に関しては、すでにCPが公表されており、このうちの「報告と開示」については既に、保険年金フォーカス「EIOPAが監督上の報告と公衆開示の比例性向上に関するCPを公表-2020年のソルベンシーII改革に向けた動き-」(2019.8.26)で報告している。今回、EIOPAから、その他の包括的な項目をカバーするCPが公表されたことで、具体的な議論がさらに進んでいくことになる。

次回以降のレポートで、EIOPAによる今回のCPの概要を報告する。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2019年10月29日「基礎研レポート」)

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