2019年10月29日

EIOPAがソルベンシーIIの2020年レビューに関するCPを公表(1)-2020年レビューに向けてのEC及び監督当局の動向-

文字サイズ

8.ソルベンシー資本要件を削減するためのリスク削減手法及びその他の手法
EIOPAは、ソルベンシー資本要件標準式における損害保険引受リスクのための最も一般的な非比例再保険適用範囲の認識方法について、また、不利な進展カバーと有限再保険カバーについて、助言を求められる。

この関連で、EIOPAが「損害保険引受リスク・サブモジュールへの出再保険契約の適用に関するガイドライン」に規定された方法が引き続き適切であると考える場合、EIOPAは、これらの方法をソルベンシー資本要件標準式に組み込むために、立法上の枠組みに対する修正がどの程度必要かを評価することが求められる。

また、標準式と内部モデルとの整合性を確保する観点から、金融リスク削減手法やソルベンシー資本要件の削減に使用される可能性のある金融商品の定義を明確にすることが求められる。EIOPAはまた、そのような項目について認識されるリスク軽減又はリスク移転の量を決定するための基準及び方法を示すべきである。

EIOPAはまた、ベーシス・リスクの評価に関する規定が十分に明確であるかどうかを分析し、必要に応じて改善について助言を求める。

 9.MCR
EIOPAは、ソルベンシーII指令第129条1項から4項の採用により採択された加盟国の規則及び監督慣行について報告するよう求められている。特に、EIOPAは以下の項目について報告するよう求められる。

・第128条第3項に規定するキャップとフロアー並びに第1 項(d) に規定する絶対的なフロアーの使用及び水準に関する量的及び質的情報

・最低資本要件の算定に関して監督当局が直面する潜在的な問題と、可能な場合には、その対処方法に関する勧告

・最低資本要件の計算を支配する規則が、1年間の信頼水準が85%であることを条件として、保険又は再保険会社の基本自己資本のVaRと整合的であり続けるかどうかの評価

・最低資本要件を遵守していない場合の監督実務上の乖離の可能性。これには、承認の撤回時期、承認の撤回後の監督権限、資産の自由な処分の制限又は禁止が含まれる。

・ソルベンシーII指令第73条 (3) に従って、生損保兼営会社のための適格な自己資本項目の特定に関する潜在的な問題と、適用可能な場合には、それらにどのように対処することができるかについての勧告

10. マクロ・プルーデンス問題
EIOPAは、ソルベンシーIIの既存の規定が適切なマクロ・プルーデンス監督を許容しているかどうかを評価するよう求められている。EIOPAがそうでないと判断した場合、EIOPAは以下のクローズドリストを改善する方法について助言を求められる。

・リスクとソルベンシーの自己評価
・システミック・リスク管理計画の策定
・流動性リスク管理計画と流動性報告
・プルーデント・パーソン原則

この評価は、強力な裏付け証拠に基づくべきであり、保険会社の行動に関するこのような追加的な仕様の影響の可能性や、他のソルベンシーIIの手法との相互作用の可能性も評価すべきである。

11.再建及び破綻処理
EIOPAは、ストレス状態にある会社の再建に関するソルベンシーII規則が、調和された早期介入権限と予防的再建計画を含めて、さらに発展すべきかどうかを評価するよう求められる。EIOPAはさらに、どの要素と規則を追加すべきかについて助言を求められる。

同様に、EIOPAは、保険会社又は再保険会社の破綻処理に関して、破綻処理計画を含む最低限の調和された規則の必要性があるかどうかについて助言を求められる。加えて、EIOPAは、保険会社又は再保険会社の破綻又は破綻のリスクに対処するためにどのようなツールを作成すべきか、また、破綻処理計画の範囲をどのようにすべきかについて助言を求められる。

さらに、EIOPAは、ソルベンシー資本要件及び最低資本要件を遵守しなかった場合の監督権限の経験を踏まえ、早期介入、再建局面への移行及び破綻状態への移行の適切な誘因は何かについて助言を求められる。

12.保険保証制度(IGS
EIOPAは、国内保険保証制度の最低調和規則の必要性について助言を求められる。特に、EIOPAは、IGSの役割と機能、地理的範囲、国境を越えた調整メカニズム、適格な政策、適格な請求者、資金、保険契約者情報の各分野における規則を調和させる必要があるかどうかについて助言を求められる。

自由な移動又はサービス又は支店を通じて販売される保険契約に関連して、EIOPAは、特に、国内保険保証制度のための調和された可能性のある規則が、会社が事業を展開している他の加盟国の保険契約者を保護するために自国の加盟国のIGSへの付託を可能にするかどうかを検討するよう求められている。

EIOPAは、規則を調和させる必要があると判断した場合、どの原則を適用すべきかを助言するよう求められる。

13.サービス提供の自由及び設立の自由
EIOPAは、現在の国家監督当局及びEIOPAの監督権限が、サービス提供の自由と設立の自由を通じて国境を越えて活動する保険会社の破綻を防止し、フィット&プロパー要件を適切に評価するために十分であるかどうかを評価するよう求められる。

14.グループ監督
EIOPAは、2018年12月19日に公表された再保険会社のグループ監督及び資本管理に関する報告書で特定された主要な問題点がどのように是正されるかについて助言を求められる。特に、EIOPAは以下の項目に焦点を当てるよう求められる。

・グループ監督の適用範囲及び親会社が非同等の第三国に本社を置く場合の監督権限を含めたグループ内取引の監督

・グループソルベンシーの計算を支配する規則であって、方法1、方法2又は方法の組合せが使用される場合には、自己資本の要件及び指令2002/87/EC(以下「FICOD(金融コングロマリット指令)」)との相互作用を含むもの

・グループ内で許容される分散効果の水準への影響を含む、最小連結グループソルベンシー資本要件の計算を管理する規則の適切性;

・グループレベルでのガバナンス要件の適用に関する不確実性やギャップ

15.報告・開示
EIOPAは、監督上の報告に関する適合性チェックに関する欧州委員会の公開協議に対する利害関係者のフィードバックを考慮に入れて、以下を評価するよう求められる。

・監督当局及びその他の利害関係者の経験に照らして、報告及び開示に係る要件が継続的に適切であること

・監督上の報告及び公表の量、頻度及び期限が適切かつ均衡しているかどうか、また、既存の免除要件が小規模事業者への均衡した適用を確保するのに十分であるかどうか。

16.比例と臨界値
EIOPAは、ソルベンシーIIの枠組みの適用における比例性が強化されるかどうか、特に以下の分野について評価するよう求められる。

・指令2009/138/ECの第4条に定義されているソルベンシーIIの適用範囲から除外するための臨界値の妥当性

・規模の限界値、事業の性質又はそのリスクに基づき、枠組みの3つの柱のいずれかに関する一定の要件を免除する可能性

・個々の保険又は再保険会社のソルベンシー資本要件の重要な部分を形成するサブモジュールの簡素化された計算に関する規則

17.最良推計値
EIOPAは、最良推計値の算出に関して異なる監督実務について報告するとともに、その影響、特に以下の項目に関して定量的な情報を提供するよう求められる。

・生命保険債務の最良推定値を計算するための経済的シナリオ生成プログラムの使用
・契約境界の定義の適用
・収益性の高いシナリオや「失効/解約」に連動した将来の経営施策の展開
・費用、投資費用及びオプションと保証の評価の処理と評価

この分析が欠陥又は監督上の重大な相違の特定を指し示す場合には、EIOPAはこれらをどのように是正できるかについて助言を求められる。

18.単体レベルの自己資本
ソルベンシーIIの枠組みにおける自己資本の階層構造は、指令2013/36/EU及び規則(EU)No 575/2013で適用されるものとは大きく異なる。

したがって、EIOPAは以下の事項について報告を求められ、必要に応じて助言を求められる。

・保険フレームワークと銀行フレームワークの間の階層化アプローチの違いが、両セクターのビジネスモデルの違いによって正当化されるか否か5

・ソルベンシーIIの枠組みにおける自己資本の階層化構造が、自己資本の過度のボラティリティを発生させる度合い

・自己資本の調達可能性の基準が十分に明確かつ適切であるか。

加えて、EIOPAは、現在ソルベンシーIIの自己資本に含まれている項目が、永久的な利用可能性と従属性の特性に応じた階層に適切に帰属されているかどうかを評価するように求められる。
 
 
5 例えば、銀行規制はTier3の自己資本を含まず、Tier2の自己資本項目に上限を設けていない。
19.外部格付への依存度の低減
欧州委員会は、規制目的のために外部信用格付への参照を削減することに取り組んでいる。保険セクターの具体的な文脈では、ソルベンシーII委任法の見直しにより、保険会社は格付けされていない債務の信用リスクを評価する新たな方法論的アプローチを既に提供している(「内部評価アプローチ」と「内部モデルアプローチ」)。

したがって、委任法の見直しに関連して提案された修正の範囲を超えて、EIOPAはこれらの代替的な信用評価のより広範な利用を可能にする追加的な方法について助言を求められる。このようなアプローチは、信用格付機関によっても格付けされる会社向けエクスポージャーを対象とする場合があり、また、会社がさらされているリスクの性質、規模及び複雑さに見合ったものでなければならない。
 

3―ソルベンシーIIレビューに向けた各国監督当局の動き

3―ソルベンシーIIレビューに向けた各国監督当局の動き

ソルベンシーIIの今後の見直しに向けて、各国の監督当局が優先すべき見直し項目等についての情報発信等を行っているが、ここではドイツとフランスの監督当局の動きについて報告する。

1|ドイツの保険監督当局 BaFin
BaFinの保険年金基金監督CEDのFrank Grund博士は、2019年5月7日のBaFinの2019年次記者会見において、これまでのソルベンシーIIに対する評価を述べるとともに、今後のソルベンシーIIレビューに関してコメントを述べている。

これによると、ソルベンシーIIに対しては、「肥大化した、数に取りつかれた、官僚主義」といったラベル付けによる批判はあるが、ソルベンシーIIは、市場で一貫した評価に基づいたシステムとしての価値を証明し、リスク管理を改善した、と述べた。また、2020年のレビューに向けては、(1)標準式、(2)長期的なビジネス、(3)報告、の3つを重要なポイントとして挙げた。

標準式」については、BaFinの2018年のAnnual Reportにおいても触れられていたように、「マイナス金利」の問題について、ソルベンシーIIの標準式をマイナス金利のモデリングを可能にするように変更すること、そして既に行っている「内部モデルに従う」ことを求めた。

長期的なビジネス」については、生命保険会社の非常に非流動的な債務にとって適切な資本要件であるべきだとし、さらに経済危機が発生した場合に、生命保険会社を一時的に市場の不連続から守るクッションとして機能する危機管理ツールが必要だとしている。

報告」に関しては、現在、四半期毎のデータの報告書と3つの説明報告書で構成されており、業界からの批判があるが、報告書には「ギャップ、繰り返し、あいまいな又は一般的な記述」が多いとし、「会社が必要な情報を正確に提供できるように、(報告の)与えられた構造を学び、適応させるべきだ」と語った。さらに、強化が必要な側面として「比例性の改善」を掲げて、報告される大量の量的データに関して、「低リスクの保険会社が中間報告義務の免除を得ることをさらに容易にすること」が目標だと述べた。

なお、2018年のAnnual Reportの中で、2020年のソルベンシーIIレビューに関して、「BaFinは、定性的及び定量的な報告義務に関しても、比例原則の包括的な改善を主張しており、さらに関連するリスクをより正確に反映する方法で商品に長期保証を提供するために、フレームワークをさらに開発することを目指している。」と述べた。

加えて、「BaFinの目的は、とりわけ、一般的な報告の文脈において比例原則を強化することであり、これは、例えば、説明報告書の新しいデザインや報告書様式の数を減らすことで実現できる。」としていた。
Xでシェアする Facebookでシェアする

中村 亮一

研究・専門分野

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【EIOPAがソルベンシーIIの2020年レビューに関するCPを公表(1)-2020年レビューに向けてのEC及び監督当局の動向-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

EIOPAがソルベンシーIIの2020年レビューに関するCPを公表(1)-2020年レビューに向けてのEC及び監督当局の動向-のレポート Topへ