2019年10月29日

EIOPAがソルベンシーIIの2020年レビューに関するCPを公表(1)-2020年レビューに向けてのEC及び監督当局の動向-

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1―はじめに

ソルベンシーIIに関しては、2016年からスタートしているが、ソルベンシーII指令の立法文書に従う正式なプロセスとして、そのレビューを行うことになっている。

具体的には、ソルベンシーII委任規則のリサイタル150は、ソルベンシー資本要件の標準式の見直しのためのタイムラインを定義しており、レビューの第1段階は、2018年12月までに欧州委員会(European Commission)によって最終決定され、ソルベンシーIIの枠組みは2021年までに見直される予定となっている。

これを受けて、レビューの第1段階については、2016年7月に、欧州委員会がEIOPA(欧州保険年金監督局)に対して、具体的にいくつかの項目に関する技術的助言を提供するように依頼し、これを受けて、EIOPAは検討を行い、2017年から2018年にかけて、2つの助言セットを欧州委員会に提出した。これを踏まえて、欧州委員会が検討を行い、2018年11月にソルベンシーIIに関する委任規則(Delegated Regulation (EU) 2015/35)を改正する案を協議にかけ、その後、欧州議会で議論が行われ、各種の意見等も提出されたようだが、最終的には通過して、2019年6月に改正案が交付された1。これにより、ソルベンシーIIの標準式に対する多くの重要な変更が、2019年7月8日に発効した。なお、必要自己資本に重大な影響を与えると予想される変更は、2020年1月1日以降にのみ実施されることとなった。これらの動向については、これまでのレポートで報告してきた。

今後は、レビューの第2段階として、ソルベンシーIIの枠組みの見直しが2021年までに行われる予定となっており、その検討が既にスタートしている。欧州委員会は、EIOPAに対して、2019年2月11日にソルベンシーII指令2009/138 / EC2のレビューに関する助言要請2を行った。これを受けて、EIOPAが検討を進めていたが、2019年10月15日に、ソルベンシーIIの2020年レビューにおける技術的助言に関するコンサルテーション・ペーパー(以下、「今回のCP」という)を公表3した。

今後複数回のレポートで、ソルベンシーIIの2020年レビューを巡る動き及びEIOPAの今回のCPの概要について報告する。まずは、今回のレポートでは、ソルベンシーIIの2020年のレビューに関する欧州委員会の助言要請の内容及びこれまでの監督当局や業界団体の動きについて報告する。  

2―欧州委員会によるEIOPAへの助言要請

2―欧州委員会によるEIOPAへの助言要請

1|欧州委員会の技術的助言要請の概要
欧州委員会は、EIOPAに対して、2019 年2 月11 日に、ソルベンシーII指令2009/138 / EC2のレビューに関する助言要請4を行っている。これによれば、EIOPAは、2020年6月30日までに回答することが求められている。これを受けて、EIOPAが検討を進めている。

この章では、欧州委員会による助言要請について、既に公表後8ヶ月以上経過しているが、今後のEIOPAにおける検討のベースとなることから、その技術的助言要請項目の内容を報告する。

EIOPAが技術的助言を求められるものとして、以下の項目が挙げられている。

・長期保証(LTG)措置及び株式リスクに関する措置(ソルベンシーII指令第77f条(以下、同様))

・ソルベンシー資本要件の標準式を計算するときに使用される特定の方法、前提、及び標準パラメータ(第111条(3))

・ソルベンシーII指令第129条(最低資本要件の計算)の適用に関する規則及び監督当局の慣行

・グループ内の保険及び再保険会社の監督(第242条(2))

・保険及び再保険会社の監督に関連するその他の項目

長期保証(LTG)措置のレビューは、レビューの中心的な役割を果たしており、これは人為的ボラティリティの削減に特に重点が置かれているが、これに加えて、2020年のレビューは、標準式、リスク軽減手法及び最低資本要件(MCR)の要素を対象としている。欧州委員会はまた、マクロ・プルーデンス文書、再建・破綻処理計画、グループ監督、自己資本、報告制度、比例関係などのトピックに関する特定の質問に対するEIOPAからの回答を求めている。
2|欧州委員会の技術的助言要請項目の具体的内容
それぞれの項目の具体的な内容は、以下の通りである。

1.リスクフリー金利の期間構造の補外(第77a条)
ソルベンシーIIのリスクフリー金利期間構造の最終流動性点に適用されるルールが、市場危機の状況や金利上昇期を含む様々な市場状況における安定性を確保することを確実にするために、EIOPAは、EUの全ての通貨について、最終流動性点を決定する基準に基づく証拠を提供するよう求められている。最低限、次の基準に従って、最終流動性点に関する証拠を提示すべきである。

·通貨のスワップ・債券市場の厚み、流動性、透明性

·通貨の補外されない金利で割り引かれるキャッシュフローを債券とマッチさせる保険・再保険会社の能力

·全ての関連する満期について、市場における債券の数量との関係で当該満期以上の満期がある債券の累積価値

この証拠は、少なくとも2016~2018年の期間、理想的には過去数年において、可能な限り市場のストレスや金利上昇の期間を含めて提供されるべきであり、通貨当たりの最終流動性点を決定するためのパラメータの変動分析を伴うべきである。

EIOPAの分析が、現在実施されている最終流動性点が不適切であることを示唆している場合には、EIOPAは、これら最終流動性点の変更が、保険会社の自己資本のボラティリティやソルベンシーカバレッジ比率だけでなく、金融の安定性に及ぼす影響を包括的に評価することを要望する。この影響評価は、少なくとも国レベルで、十分な詳細レベルで提供されるべきである。
2.マッチング調整(第77b条、第77c条)とボラティリティ調整(第77条d
EIOPAは、EUにおける公平な競争条件と保険契約者保護の観点から、金融市場における景気循環促進行動を防止し、債券スプレッドの拡大の影響を緩和するメカニズムとして、ボラティリティ調整とマッチング調整が効率的に機能しているかを評価することが求められる。

欧州委員会のサービスは、単一の調整メカニズムの可能性を排除することなく、調整の設計、較正及び機能をレビューするための可能なアプローチを評価することを想定している。

a)ボラティリティ調整
EIOPAは、ボラティリティ調整額の計算/適用のための以下のアプローチについて、最良推計値の計算及び保険会社のソルベンシー・ポジションに及ぼす定量的影響を評価することが求められている。

・アプローチ1:現在の代表的ポートフォリオの概念を維持しつつ、保険会社の負債の非流動性の特徴及び/又はデュレーションを考慮した調整の適用。この調整は、異なる「適用率」に依存する可能性がある。

・アプローチ2:各保険会社の保有する自己資産のウェイトを考慮した調整の適用、その調整は、保険負債ポートフォリオのキャッシュ・フロー・マッチングのレベルに応じて異なる「適用率」に依存する可能性がある。このアプローチを適用する場合、EIOPAはソルベンシー資本要件の計算において、分散効果に関する前提を特定すべきである。

また、EIOPAは、その目的に照らして、各国ごとに増加したボラティリティ調整の機能を見直し、必要に応じて、措置の修正を提案することが求められる。

b) マッチング調整
EIOPAは、マッチング調整の計算/適用に関する以下のアプローチについて、最良推計値の計算及び保険会社のソルベンシー・ポジションに及ぼす定量的な影響を評価するよう求められる。

・アプローチ1:分散効果(完全分散化を含む)ゼロの現在の前提の変更;EIOPAは、部分分散化の前提を評価する場合、適切な分散化レベルを決定するための基準と方法を提示すべきである。

・アプローチ2:キャッシュフローの特性や信用の質を含む、マッチング調整の利用に適格な資産の基準の見直し
3.経過措置
ソルベンシーII指令第VI編第1章は、いくつかの経過規定を定めている。EIOPAは、保険契約者保護及び公平な競争条件の観点から、経過規定の現在の妥当性を評価するよう求められている。この評価は、該当する場合には、新たに会社が経過措置を申請する可能性が継続すべきかどうかについても評価すべきである。EIOPAは、勧告にその理由が記載されていれば、異なる経過措置についての作業を優先することができる。しかし、EIOPAの評価は、少なくともソルベンシーII指令の第308b条(12)及び(13)、第308c条並びに第308d条に規定する経過措置を対象とすべきである。

4.リスクマージン
EIOPAは、資本コストに基づくアプローチに異議を唱えることなく、リスクマージンの設計の妥当性を評価するよう求められる。特に、EIOPAは以下の項目の現在の妥当性を評価すべきである。

・欧州委員会の情報要請に関して、EIOPAが現在行っている負債の移転価格に関する作業に照らしたリスクマージンの設計;

・受入会社の資産構成、特にリスクフリー投資の前提に関する仮定。この評価では、市場リスクの認識と、ボラティリティ調整の使用及びリスクマージン計算におけるマッチング調整との間の潜在的な相互作用を考慮すべきである。

・全ての保険と再保険会社のための固定資本コスト率の使用

・レバレッジがないことや株式リスク・プレミアムの算出など、資本コスト率の算出に使用される前提

5.Capital Markets Unionの側面
EIOPAはソルベンシーIIにおける長期投資の取扱に関する分析を継続すること、特に、標準式による市場リスク・モジュールの計算の基礎となる方法、前提条件及び標準的パラメータが、保険業の長期的性質、特に株式リスク及びスプレッド・リスクを適切に反映しているかどうかを評価することを求められる。この目的のために、EIOPAは次のことを求められる。

・保険会社が長期的に投資を維持することを可能にする保険業と負債の特徴を特定する。

・適切な場合には、保険会社の長期投資家としての行動を反映し、市場リスク・モジュールを計算するための修正された方法、前提条件及び標準的なパラメータについて助言する。

株式に関しては、EIOPAは株式リスク・サブモジュールの包括的な見直しを行い、特に、デュレーションに基づく株式リスク・サブモジュール、戦略的株式投資、長期株式投資及び対称調整の設計と調整の適切性を評価することが求められる。

相関行列に関しては、EIOPAは、(サブ)モジュールの構造の適切性とソルベンシー資本標準式で用いられる相関パラメータの較正を評価するよう求められている。較正を変更するためのあらゆる助言は、定量的モデルと証拠に基づくべきである。特に、市場リスク内の相関関係、解約リスクと異なる市場リスク間の相関関係は、市場リスクの再較正に関する潜在的な助言を考慮に入れるべきである。

6.ボラティリティ調整の動的モデリング
EIOPAは、内部モデル利用者による動的ボラティリティ調整のモデル化が、保険・再保険会社の投資戦略やリスク管理戦略を阻害する要因となっているかどうか、また、この点に関する多様な慣行の存在が公平な競争条件を損なう可能性があるかどうかを評価するよう求められる。この関連で、EIOPAは、ボラティリティ調整の基礎となる前提に照らして、内部モデルにおけるこの動的モデリングの適切性を評価することが求められる。EIOPAが内部モデルにおいてこの動的モデリングを維持するよう勧告する場合には、モデル化の調和を改善するための判断基準についても勧告すべきである。
7.ソルベンシー資本要件標準式
a)金利リスク
EIOPAは、低金利環境を考慮した上で、標準式による金利リスク・サブモジュールの較正が、保険会社が直面するリスクを適切に反映しているかどうかを評価するよう求められる。

この分析が欠陥を指摘している場合、それらをどのように修正できるかを勧告する。EIOPAは、勧告を行う際には、EEA内の全ての通貨に対して新しい較正が適切であることを確認し、リスクフリー金利期間構造のパラメータとの潜在的な相互作用を考慮すべきである。

b)ソルベンシー資本要件標準式のカウンターパーティ・デフォルト・リスク・モジュール
EIOPAは、全体的な構造とカウンターパーティ・デフォルト・リスク・モジュールの比例性を評価し、必要に応じて、より簡素なアプローチのための方法と評価に関する助言を提供するよう求められている。このアプローチにより、市場リスク又はカウンターパーティ・リスク・モジュールに対する資産クラスの配分の見直しが必要となる場合には、市場リスク・モジュールの見直しと整合的に行うべきである。

c)ソルベンシー資本要件標準式の簡素化計算
EIOPAは、保険と再保険会社の適用の相違を特定して、生命保険とSLT保険の保険引受リスク・モジュールの適用と、損害保険の解約リスク・サブモジュールについて報告するよう求められる。特に、監督上の経験からソルベンシーII指令第109条及び第111条 (1)(l) に規定する追加的な簡易計算の必要性が指摘されている分野について報告をし、必要に応じて関連する方法を提案することが求められる。

d)引受リスクの較正
利害関係者が十分な品質の重要データを提供する場合には、EIOPAは、それが現在のファクターが基づいている較正よりも、引受ストレスの較正のより代表的な基準を形成するかどうかを評価するよう求められる。

e)標準式におけるCATリスク
ソルベンシーII委任規則(EIOPA-BoS-18/075 (航空機))の特定項目に関する第2の助言セットで、EIOPAは、標準式の自然災害の計算における国内市場の平均状況から著しく逸脱する特定の保険契約条件(特に契約上の制限又はサブ制限)を捕捉する方法を勧告した。このアプローチの適用を容易にするために、EIOPAは自然災害リスク・サブモジュールの較正の基礎となる国内市場の平均状況を提供することが求められる。
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中村 亮一

研究・専門分野

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