2019年10月25日

低金利が住宅市場の追い風に-住宅ローン金利の低下が住宅需要を押上げ。ただし、住宅供給制約が回復の重石に

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

このレポートの関連カテゴリ

文字サイズ

1.はじめに

米国経済は、09年6月以降景気拡大局面が持続しており、景気拡大期間は10年を超えて戦後最長を更新している。しかしながら、GDPにおける住宅投資は19年4-6月期が前期比年率▲3.0%と18年1-3月期から6期連続でマイナス成長となっており、堅調な米国経済にあって住宅市場の回復はもたついている(前掲図表1)。

住宅市場の回復がもたついている要因としては、労働市場の回復に伴う雇用不安の後退を背景に住宅需要は強いものの、住宅価格の上昇に加え、昨年秋口までの住宅ローン金利の上昇に伴い、住宅ローン返済額の増加スピードが所得を上回る状況があった。

もっとも、昨年秋口以降に新築住宅販売価格が頭打ちとなり住宅価格の伸びが鈍化したことや、住宅ローン金利が低下に転じたこともあって住宅市場には追い風が吹いており、足元で漸く住宅市場に回復の兆しがみられている。実際に9月の住宅着工件数(季節調整済)の伸び(3ヵ月移動平均、3ヵ月前比)は9月が+8.6%と6月の+5.5%から伸びが加速しているほか、先行指標である住宅着工許可件数では同+36.4%と6月の▲7.0%から大幅に加速し、15年7月(同+58.4%)以来の高い伸びとなっており、7-9月期の住宅投資は7期ぶりにプラス成長に転じる可能性が高くなっている。

本稿では、住宅市場の現状を確認するとともに、今後の見通しについて論じている。結論から言えば、住宅ローン金利の低下を追い風に住宅市場は足元回復に転じているとみられるものの、引き続き住宅供給制約が回復の重石になる可能性が高いというものだ。
 

2.米国住宅市場の動向

2.米国住宅市場の動向

(住宅着工・許可件数):着工件数は19年1月、許可件数は19年7月以降、増加基調が持続
住宅着工件数(季節調整済み年率、3ヵ月移動平均)は18年12月の118.5万件を底に増加基調に転じており、19年9月は128.2万件と12月から+8.2%の増加となった(図表2)。また、戸建て、集合住宅の寄与度をみると戸建てが+6.2%ポイント、集合住宅が+2.0%ポイントと、戸建ての回復が顕著となっていることが分かる。

一方、住宅着工許可件数(季節調整済み年率、3ヵ月移動平均)も19年6月の127.4万件を底に反発に転じ、9月は137.6万件と6月から+8.1%の増加となった(図表3)。戸建て、集合住宅の寄与度はそれぞれ+4.4%ポイント、+3.7%ポイントと、戸建て、集合住宅で同程度の寄与度となっている。このような許可件数の大幅な増加は、住宅着工件数の回復が持続することを示唆している。
(図表2)住宅着工件数/(図表3)住宅着工許可件数
(住宅販売):新築、中古ともに19年以降、増加基調が持続
新築住宅販売(季節調整済み年率、3ヵ月移動平均)は、19年9月が69.1万件と前月の70.0万件からは低下したものの、18年12月の57.9万件を底に19年に入ってからは増加基調が持続している(図表4)。9月の販売件数は07年10月(70.4万件)以来の水準である。住宅販売の回復に伴い、在庫月数は18年12月の7.0ヵ月から9月は5.6ヵ月と適正水準とされる6ヵ月を下回った。

一方、戸建て新築住宅販売に対する建設業者のセンチメントを示す住宅市場指数は、18年12月に56まで急落した後、19年9月は71と18年2月(71)以来の水準まで回復した(図表5)。同指数の内訳をみると、販売現況が78と18年1月(79)以来、今後6ヵ月の販売見込みが76と18年5月(77)以来、客足状況が54と18年2月(54)以来の水準となった。とくに、販売見込みは前月からの改善幅が+6ポイントと16年12月(+9ポイント)以来の水準となっており、足元で建設業者が販売見込みに自信を深めていることが分かる。
(図表4)新築住宅販売および在庫/(図表5)住宅市場指数(項目別)
(図表6)中古住宅販売および在庫 次に、中古住宅販売(季節調整済み年率、3ヵ月移動平均)は9月が543.3万件と、こちらも19年1月(同504.7万件)を底に増加基調が持続している(図表6)。一方、中古住宅でも販売在庫水準の低い状況が続いている。中古住宅の在庫月数は9月が4.1ヵ月と統計開始以来の最低水準となった18年2月(3.3ヵ月)は上回っているものの、19年7月(4.3ヵ月)から低下しており、適正水準と言われる6ヵ月を大幅に下回る状況が続いている。

中古住宅販売件数を集計している全米不動産協会(NAR)のチーフエコノミストは「在庫不足が住宅販売の伸びを阻害している」と述べており、販売在庫の不足が中古住宅販売回復の重石となっていることを示唆している。
(住宅価格):住宅価格の伸びは鈍化。中古住宅価格が新築に比べて割高な状況が持続
住宅価格(前年同月比)は、米国連邦住宅金融局(FHFA)の住宅価格指数、ケース・シラー住宅価格指数ともに住宅価格の上昇は持続しているものの、上昇ペースが鈍化していることを示している(図表7)。FHFA指数は19年8月が+4.6%と18年1月の+7.5%から低下し、14年10月(同+4.5%)以来の水準に低下したほか、ケース・シラー指数も19年7月が+3.2%と18年3月の+6.5%から低下し、こちらは12年9月(同+3.0%)以来の水準となった。

一方、新築および中古住宅の販売価格(中央値)の比較では、需給逼迫を背景に中古住宅価格の上昇が続いている一方、新築住宅は18年10月の32.7万ドルをピークに頭打ちがみられる(図表8)。この結果、販売価格比(新築/中古住宅)は15年につけた1.37倍から足元では1.19倍へ大幅な低下がみられており、新築に比べて中古住宅価格の割高感が強まっていることが分かる(図表8)。
(図表7)住宅価格(前年同月比)/(図表8)新築、中古住宅販売価格比較
(住宅ローン):住宅ローン金利の低下に伴い、住宅ローン需要が増加
住宅ローン金利(30年)は、昨年秋口に5%台前半まで上昇した後、足元では4%を割れる水準まで低下している(図表9)。また、米抵当銀行協会(MBA)が公表している借換えも含めた住宅ローン申請件数(90年3月を100とする指数)は、昨年12月の300割れから一時600台前半をつけた後、足元は590弱まで増加している。これは住宅ローン金利が3%台後半であった16年7月以来の水準であり、住宅ローン金利の低下が住宅ローンの需要を押上げていると判断できる。

次に、家計部門の住宅ローン残高の推移をみると、残高の増加基調が持続しており19年6月末時点で9.4兆ドルと史上最高となった(図表10)。もっとも、家計部門の負債残高合計(13.9兆ドル)に占める住宅ローンのシェアは67.8%と、08年3月末の73.7%に比べて低くなっているため、負債全体の伸びに比べて住宅ローンの伸びは抑制されていると言える。

一方、住宅ローンの長期延滞率(90日以上)は19年6月末が0.9%となるなど、09年12月末の8.8%から改善基調が持続しており、住宅ローンのクレジットにも悪化はみられない。
(図表9)住宅ローン金利および住宅ローン申請件数/(図表10)家計部門負債残高および延滞率(90日以上)
Xでシェアする Facebookでシェアする

このレポートの関連カテゴリ

経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【低金利が住宅市場の追い風に-住宅ローン金利の低下が住宅需要を押上げ。ただし、住宅供給制約が回復の重石に】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

低金利が住宅市場の追い風に-住宅ローン金利の低下が住宅需要を押上げ。ただし、住宅供給制約が回復の重石にのレポート Topへ