2019年10月24日

「健康状態がよい」と思うのは、どのようなとき?~判断の理由に関する自由記述回答のテキスト分析

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子

文字サイズ

1――日本人の主観的健康感はどの程度か

1|主観的健康感は、死亡率をも左右する重要な要素である
公衆衛生の発達や医療技術の進歩によって、疾病構造が変化し、慢性疾患が増え、病気を抱えたまま日常生活を送る人が増えている。慢性疾患においては、必ずしも医療機関で治療を必要しないこともあり、個人が自分の健康状態をどのように評価するか、という主観的健康感が重要となる。

さらに、三徳(2006)3や中田(2013)4によるレビューでは、主観的健康感は死亡率に対し独立した寄与因子であり、その後の生存や日常生活動作の予後予測に関連していることが複数の研究から明らかとなっていることを報告している。
 
3 三徳和子 他(2006年)「主観的健康感と死亡率の関連に関するレビュー」川崎医療福祉学会誌Vol.16 No.1
4 中田光紀(2013年)「主観的健康感と免疫系との関連についての系統的論文レビュー」行動医学研究 Vol.19 No.2
図表1 性・年齢群団別 主観的健康感 2|日本人の主観的健康感はとても高いわけではない
(1) 国民生活基礎調査
厚生労働省による「国民生活基礎調査」によると、「あなたの健康状態は次のうちどれに近いですか(以下「主観的健康感」とする。)」の問に対して、「よい」と回答した割合は、6歳以上の全体で20.8%、「まあよい」は17.8%、「ふつう」は47.0%だった(図表略)。

「よい」と「まあよい」の割合は、男女とも、年齢が高いほど低く、男女を比較すると、10歳以上で男性が女性と比べて高い(図表1)。

20歳以上では、男女とも各年齢群団で「ふつう」がもっとも高く、全体で見ても「ふつう」が圧倒的に高い。
(2) OECD諸国との比較(65歳以上)
OECD による"Health at a Glance 2017"では、OECD諸国の65歳以上の主観的健康感を比較している。国ごとに質問の仕方や選択肢が異なるため、結果を単純には比較できないが、日本の場合、主観的な健康感が「よい」「まあよい」を合わせて25.4%、「ふつう」を入れてようやく74.3%となる5。したがって、寿命や乳幼児死亡率はトップクラスの水準にあり、病院へのアクセスの良さの点で恵まれているものの、OECD諸国の中では主観的健康感はあまり高くはない。
図表2 65歳以上の主観的健康感がよいと回答した割合
 
5 厚生労働省「国民生活基礎調査(2013年)」のデータが使用されているので、図表1とは数字が異なる。
 

2――何を基準に自分の健康状態を評価するのか

2――何を基準に自分の健康状態を評価するのか

人々はどういう時に、自分の健康状態を「よい」と評価するのだろうか。図表1では、「ふつう」と回答している割合が圧倒的に高いが、「ふつう」と「まあよい」の間には、どういった違いがあるのだろうか。さらに、「まあよい」が「よい」となるのはどういう時なのだろうか。
図表3 使用した人が多かった単語(使用した人の割合) (1) 評価理由(自由回答)における単語の出現状況
対象3,000サンプルのうち、「なぜ、そう思うのですか」の問に対して、「特にない」等の回答をした147サンプルは除外し、2,853サンプルを分析対象とした。

まず、自由回答の内容について、明らかな誤字・脱字の修正、送り仮名や省略単語の調整を行い、さらに同じ意味を示していると思われる単語を1つの表現に統一した上で、使用した人が多かった単語をみた(図表3)。

もっとも使用した人の割合が高かったのが「体調」という単語で、全体の16.4%が使用していた。次いで、「特に(15.8%)」「悪い(9.7%)」「病院(9.6%)」「病気(8.7%)」「健康診断等(8.0%)」「日常生活(7.9%)」と続いた。

単語のうち、名詞に着目すると、自分の体調を評価する際には、自分が感じる体調のほか、病院に行っているか、健康診断の結果がどうだったか、日常生活への影響などを考慮していることがわかる。
(2) 各単語の出現パターンによる分類
使用された単語について、回答者ごとに同時に使用されることが多い単語を線で結んだ共起ネットワークを図表4に示す。例えば、もっとも使用した人が多かった「体調  」は、良い/悪いなどとともに使われていることが多いこと、「病院  」は、薬とともに使われていることが多い。

これによると、人々は、自分自身の体調の良し悪しといった感覚、病院や薬を使っているか、健康診断の基準値との比較や、生活習慣病に関連の深い高血糖・高血圧・高コレステロールかどうか、食欲や睡眠の状態などによって評価していることがわかる。
図表4 出現単語の共起ネットワーク
(3) 主観的健康感の違いによる単語の出現状況
続いて、主観的健康感の違いによって、どういった単語を使っているかを図表5に示す。

これによると、全体で「体調」「健康診断等」「病気」「病院」「良い/悪い」等の使用回数が多かった単語は、主観的健康感が「よい」から「よくない」までの複数と関連していた。ただし、「体調」「良い/悪い」「健康診断等」は、主観的健康感が「よくない」では使われておらず、健康診断や体調の良し悪しを気にするのは、「あまりよくない」以上の人だと考えられる。また、「病院」は主観的健康感が「よい」では使われておらず、病院と縁遠い様子が推測できる。

主観的健康感が「よい」から「よくない」それぞれに特徴的な単語をみると、「よい」は「まあよい」と比べて、「運動」「食事」「おいしい」といった積極的な単語が並んでいた。また、「ふつう」と「まあよい」は、「ふつう」が「可もなく不可もなく」と関連が深いのに対し、「まあよい」は「悪いところがない」との関連が深いものの、いずれも消極的な表現であることから、「まあよい」の方がやや「良いところ」を認識していることが想像できる。「よくない」では「仕事」「心身」「精神疾患」があり、「あまりよくない」の頭痛、腰痛、疲れ、糖尿病、血圧等と比べると、精神的な疲労をともなうことが推測できる。
図表5 主観的健康感別共起ネットワーク
次に、「よい」から「よくない」までの5つのうち、2つで共通して関連がある単語に着目すると、「よい」と「まあよい」は、「元気」「基準値」「健康」「風邪」を、「まあよい」と「ふつう」は、「普通」「日常生活」を、「ふつう」と「あまりよくない」は、「身体」を、「あまりよくない」と「よくない」は「持病」「多い」を共有していた。このことから、主観的健康感が隣あうものは、似た判断基準を使っていると考えられる。

「睡眠」「痛み」は、「よい」「あまりよくない」「よくない」と関連が強いが、自由回答の元の文章に戻ってみると、睡眠については、「よい」では「睡眠がしっかりとれている」等が多いのに対し、「あまりよくない」「よくない」では「睡眠不足」があがっていた。また、痛みについては、「よい」では「どこにも痛みがない」等が多いのに対し、「あまりよくない」「よくない」では「胃痛」「腰痛」「頭痛」など具体的な症状が記載されているのが特徴的だった。

ただし、「ふつう」と「あまりよくない」は、共通して関連がある単語は確認できず、これらの間には隔たりがあるように思われた。また、「特に」は、「よい」「まあよい」「ふつう」と関係が深かったが、いずれも「特に悪いところ/問題/異常がない」等と使われており、主観的健康感による違いは見られなかった。
 

3――主観的健康感の評価に使用する単語には少しずつ違い

3――主観的健康感の評価に使用する単語には少しずつ違い

以上のとおり、人々は、主観的健康感の評価において、体調の良し悪しという主観的な感覚のほか、病院や薬を使っているか、健康診断の基準値との比較や生活習慣病に関連の深い高血糖・高血圧・高コレステロールかどうかという客観的な指標、食欲や睡眠といった客観的かつ主観的な状態等を考慮していた。

主観的健康感の各評価に特徴的な単語をみると、「よい」は「まあよい」と比べて、「運動」「食事」「おいしい」といった積極的な単語が並んでいた。また、「ふつう」と「まあよい」は、「ふつう」が「可もなく不可もなく」と関連しているのに対し、「まあよい」は「悪いところがない」と関連しており、「まあよい」では「良いところ」もあることを認識しているようだった。「よくない」では「仕事」「心身」「精神疾患」があり、「あまりよくない」の頭痛、腰痛、疲れ、糖尿病、血圧等と比べると、精神的な疲労をともなっていることが推測できた。

主観的健康感の評価に使用する単語には少しずつ違いが見られた。たとえば、「体調」「良い/悪い」「健康診断等」は、主観的健康感が「よい」から「あまりよくない」で使われており、健康診断や体調の良し悪しを気にするのは、「あまりよくない」以上の人だと考えられた。また、「病院」は主観的健康感が「よい」では使われておらず、病院と縁遠い様子が推測できた。主観的健康感の評価によって、評価に使用する単語には少しずつ違いがあったが、「よい」と「まあよい」、「まあよい」と「ふつう」等、主観的健康感が隣あう評価においては、似た単語を判断材料に使っていた。ただし、「ふつう」と「あまりよくない」は、共通して関連がある単語は確認できず、これらの間には隔たりがあるように思われた。

この結果から、主観的健康感が「ふつう」と「あまりよくない」にはやや隔たりがあるようであるが、「ふつう」から「まあよい」、「まあよい」から「よい」は、健康であることを認識できる機会を増やすことで改善する可能性があると考えられる。

(2019年10月24日「基礎研レポート」)

Xでシェアする Facebookでシェアする

保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

村松 容子 (むらまつ ようこ)

研究・専門分野
健康・医療、生保市場調査

経歴
  • 【職歴】
     2003年 ニッセイ基礎研究所入社

週間アクセスランキング

ピックアップ

レポート紹介

【「健康状態がよい」と思うのは、どのようなとき?~判断の理由に関する自由記述回答のテキスト分析】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

「健康状態がよい」と思うのは、どのようなとき?~判断の理由に関する自由記述回答のテキスト分析のレポート Topへ