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- 米国保険業界の資産運用アウトソーシング その2-米国保険監督官協会(NAIC)のデータから-
2019年09月10日
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はじめに
2019年07月23日付けの当フォーカスでは「米国保険業界の資産運用アウトソーシング」と題し、米国の保険会社の半分弱がグループ外の資産運用会社に自らが保有する資産の一部または大部分の運用をアウトソーシングしている状況を見た。
今回は、そのパート2として、米国の保険業界で資産運用アウトソーシングが進んできた経緯、目的等について、前回と同じく、米国各州保険監督官の協会である米国保険監督官協会(NAIC)の資料を情報源に見ていく。
主に使用する資料は、NAIC資本市場局の特別報告書「保険会社の資産運用:内部、外部、またはその両方?(Insurance Asset Management: Internal, External or Both?)2011年8月」、「米国保険業界の第三者機関を通じた資産運用(U.S. Insurance Industry Third-Party Investment Management)2015年5月」、「米国保険業界のグループ外資産運用会社を通じた運用、2016年末(U.S. Insurance Industry Unaffiliated Investment Management Update, Year-End 2016)2018年2月」である。いずれもパート1の準拠資料より古く、特に前2つは発表からかなりの時間が経過し統計数値も古くなっている。しかし金額的なトレンドを見ることができる資料はこれらしかなく、また定性的な情報も充実しているので、ここで紹介する。
なお前回同様、NAICのこれらレポートは生保会社だけではなく、損保会社、医療保険会社、権限保険会社(土地登記に関係する保険会社)、フラターナル組合(わが国の共済に相当)を含む全保険業態から成る米国保険業界全体を対象にしている。生保会社だけに限った情報ではないことにご留意いただきたい。
今回は、そのパート2として、米国の保険業界で資産運用アウトソーシングが進んできた経緯、目的等について、前回と同じく、米国各州保険監督官の協会である米国保険監督官協会(NAIC)の資料を情報源に見ていく。
主に使用する資料は、NAIC資本市場局の特別報告書「保険会社の資産運用:内部、外部、またはその両方?(Insurance Asset Management: Internal, External or Both?)2011年8月」、「米国保険業界の第三者機関を通じた資産運用(U.S. Insurance Industry Third-Party Investment Management)2015年5月」、「米国保険業界のグループ外資産運用会社を通じた運用、2016年末(U.S. Insurance Industry Unaffiliated Investment Management Update, Year-End 2016)2018年2月」である。いずれもパート1の準拠資料より古く、特に前2つは発表からかなりの時間が経過し統計数値も古くなっている。しかし金額的なトレンドを見ることができる資料はこれらしかなく、また定性的な情報も充実しているので、ここで紹介する。
なお前回同様、NAICのこれらレポートは生保会社だけではなく、損保会社、医療保険会社、権限保険会社(土地登記に関係する保険会社)、フラターナル組合(わが国の共済に相当)を含む全保険業態から成る米国保険業界全体を対象にしている。生保会社だけに限った情報ではないことにご留意いただきたい。
1――資産運用アウトソーシングの進展
図表1は、米国の保険会社が、グループ外の資産運用会社に対して一般勘定資産(変額年金等、契約者に運用リスクが帰属する商品が管理されている「分離勘定」以外の、保険会社が運用リスクを負担する一般的な商品の資産を管理運用する勘定の資産)の運用アウトソーシングを実施している金額の推移である。グラフは2つの機関の調査結果を2本の折れ線で表している。いずれも統計対象期間は古いが、それぞれ、アウトソーシング額が増えてきている様子が見える。
なお、この他、アセット・アウトソーシング・エクスチェンジ(Asset Outsourcing Exchange)による見積もりでは、2016年末の北米(米国、カナダ等)の保険会社のアウトソーシング額は約1兆9200億ドルに達しているとされている。
なお、この他、アセット・アウトソーシング・エクスチェンジ(Asset Outsourcing Exchange)による見積もりでは、2016年末の北米(米国、カナダ等)の保険会社のアウトソーシング額は約1兆9200億ドルに達しているとされている。
2――保険会社の資産運用アウトソーシングを可能にした外部マネージャーの展開
1|内部の資産運用マネージャーオンリーからグループ外の資産運用会社活用への転換
(1)内部マネージャーの活用
規模の大きな保険会社は自社で資産運用を実施する体力と相当の能力を有しており、自社内部に資産運用マネージャーを有していることが多い。 内部の資産運用マネージャーは、保険会社社内の直接的な一部署であることもあるし、グループの資産運用に責任を持つ資産運用グループ会社であることもある。
しかし保険会社に十分な規模がなければ、会社内部に資産運用チームを編成することが非効率で業績にマイナスの影響を与えてしまう可能性がある。さまざまな資産クラスに経験を持たない未熟な投資チームは、資産とその運用のイロハを学ぶための時間を必要とする。またたとえ規模の大きな保険会社であっても、昨今のように次から次へと新たな投資対象が登場し、それぞれが独自のリスク、リターン体系を持っている場合には、万全な対応を行うことは困難である。
(2)グループ外の資産運用会社の発達とその活用
その結果、多くの保険会社にとって、資産運用のアウトソーシングが望ましい代替策の1つとなり得るようになってきた。適切に選択され管理されたグループ外の資産運用会社へのアウトソーシングが、規模の小さな保険会社に、妥当なコストで相当の投資能力と専門知識を与える可能性がある。また大手保険会社に最新の投資ノウハウを与える可能性がある。
こうした保険会社サイドのニーズに応えて、資産運用会社は、保険会社資産の運用という市場をターゲットとした専担部署を立ち上げた。また保険会社資産の運用に資源を集中する保険会社資産運用特化型の会社も登場してきた。
こうした保険会社資産運用の専担部署や特化型の資産運用会社は、顧客である保険会社に特有の運用ニーズやその他のニーズに精通している。顧客である保険会社は適度のコストで、保険会社の専門的なニーズを満たすことに専念している投資専門家部隊から恩恵を受けることができる。
なおNAICによれば資産規模5億ドル以下の小規模保険会社の場合、ポートフォリオ全体を包括的にグループ外の単一資産運用会社にアウトソーシングする可能性が高くなるという。小規模であるため、ポートフォリオを複数のマネージャーに分割して委託することはほとんど意味を持たない。
一方、それ以上の中規模保険会社であれば、会社の資産ポートフォリオの管理をセグメント化することを選択でき、特定の資産種類の運用を任せるために、専門の資産運用会社を雇うことができる。実際、この規模の保険会社では、社債などのコア資産のポートフォリオについては内部で運用し、専門的な知識を必要とする特定の資産種類の運用を行うために、専門の資産運用会社を雇うことが増えてくる。
一方、大手保険会社、特に生命保険会社は、内部資産運用マネージャーに重きを置く傾向があるが、自社内で活用不可能な特定の機能については、最大規模クラスの保険会社の一部でさえ、グループ外の資産運用会社が提供する専門知識を活用するようになってきているとのことである。
(1)内部マネージャーの活用
規模の大きな保険会社は自社で資産運用を実施する体力と相当の能力を有しており、自社内部に資産運用マネージャーを有していることが多い。 内部の資産運用マネージャーは、保険会社社内の直接的な一部署であることもあるし、グループの資産運用に責任を持つ資産運用グループ会社であることもある。
しかし保険会社に十分な規模がなければ、会社内部に資産運用チームを編成することが非効率で業績にマイナスの影響を与えてしまう可能性がある。さまざまな資産クラスに経験を持たない未熟な投資チームは、資産とその運用のイロハを学ぶための時間を必要とする。またたとえ規模の大きな保険会社であっても、昨今のように次から次へと新たな投資対象が登場し、それぞれが独自のリスク、リターン体系を持っている場合には、万全な対応を行うことは困難である。
(2)グループ外の資産運用会社の発達とその活用
その結果、多くの保険会社にとって、資産運用のアウトソーシングが望ましい代替策の1つとなり得るようになってきた。適切に選択され管理されたグループ外の資産運用会社へのアウトソーシングが、規模の小さな保険会社に、妥当なコストで相当の投資能力と専門知識を与える可能性がある。また大手保険会社に最新の投資ノウハウを与える可能性がある。
こうした保険会社サイドのニーズに応えて、資産運用会社は、保険会社資産の運用という市場をターゲットとした専担部署を立ち上げた。また保険会社資産の運用に資源を集中する保険会社資産運用特化型の会社も登場してきた。
こうした保険会社資産運用の専担部署や特化型の資産運用会社は、顧客である保険会社に特有の運用ニーズやその他のニーズに精通している。顧客である保険会社は適度のコストで、保険会社の専門的なニーズを満たすことに専念している投資専門家部隊から恩恵を受けることができる。
なおNAICによれば資産規模5億ドル以下の小規模保険会社の場合、ポートフォリオ全体を包括的にグループ外の単一資産運用会社にアウトソーシングする可能性が高くなるという。小規模であるため、ポートフォリオを複数のマネージャーに分割して委託することはほとんど意味を持たない。
一方、それ以上の中規模保険会社であれば、会社の資産ポートフォリオの管理をセグメント化することを選択でき、特定の資産種類の運用を任せるために、専門の資産運用会社を雇うことができる。実際、この規模の保険会社では、社債などのコア資産のポートフォリオについては内部で運用し、専門的な知識を必要とする特定の資産種類の運用を行うために、専門の資産運用会社を雇うことが増えてくる。
一方、大手保険会社、特に生命保険会社は、内部資産運用マネージャーに重きを置く傾向があるが、自社内で活用不可能な特定の機能については、最大規模クラスの保険会社の一部でさえ、グループ外の資産運用会社が提供する専門知識を活用するようになってきているとのことである。
2|グループ外の資産運用会社のタイプ
図表2は、2010年にIFIインシュアランスアセットマネージャーが実施した調査により、2009年にグループ外の保険会社の一般勘定資産の運用アウトソーシングを受けていた北米の投資運用会社として特定された64社のうち、アウトソーシング受託額上位30社の一覧である。10年近くも古い資料であるが、保険会社の資産運用アウトソーシングを受ける資産運用会社を分類する材料として使用したい。
図表2は、2010年にIFIインシュアランスアセットマネージャーが実施した調査により、2009年にグループ外の保険会社の一般勘定資産の運用アウトソーシングを受けていた北米の投資運用会社として特定された64社のうち、アウトソーシング受託額上位30社の一覧である。10年近くも古い資料であるが、保険会社の資産運用アウトソーシングを受ける資産運用会社を分類する材料として使用したい。
- ブラックロック、ウェリントンマネジメント、ウェスタンアセットマネジメント等は、大手のジェネラリスト的な資産運用会社として、広範なマルチプロダクト機能を持ち、米国、ロンドン、東京、およびカリブ海にオフィスを持って地理的に分散した事業を展開している。保険会社からの資産運用アウトソーシングについても、それに力点を置いた組織を設けている。
- ドイツアセットマネジメント、ゴールドマンサックスアセットマネジメント、ステートストリートグローバルアドバイザー、ノーザントラストグローバルインベストメンツなどは、主に銀行、投資銀行グループに所属する資産運用会社である。彼らと、関連会社である銀行や証券ディーラとの間の取引はすべてアームズレングスベース(arm’s-length basis:優遇条件によることなく、完全に独立した企業の間の取引で適用される条件で取引すべきとするルール)で行われている。
- GR-NEAM、PIMCO、アライアンスバーンスタイン、INGインベストメントマネジメント、アビバインベスターズなどは、グループ内に有力保険会社を持ち、グループ内の保険会社の資産運用アウトソーシングを受けるだけでなく、グループ外の保険会社からも資産運用のアウトソーシングを受けようと努力している資産運用会社である。
- コニングアセットマネジメント、デラウェアインベストメンツ、パインブリッジインベストメンツ、AAMインベストメントマネジメントなどは、独立した、保険会社の資産運用アウトソーシング受託に特化した資産運用会社である。
(2019年09月10日「保険・年金フォーカス」)
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