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ドイツの生命保険監督を巡る動向(1)-BaFinの2018年Annual Reportより(スポットライト)-
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1―はじめに
3年前には、ドイツの保険監督官庁であるBaFin(Bundesanstalt für Finanzdienstleistungsaufsicht:連邦金融監督庁)の2015年のAnnual Report(年次報告書)及び、IMF(国際通貨基金)がドイツの金融監督に対して行った FSAP(Financial Sector Assessment Program:金融セクター評価プログラム)の結果を公表した報告書に基づいて、ドイツの生命保険会社の財務状況等に対して、BaFinやIMFがどのような見解を示しているのか、について4回に分けて報告2した。
2年前及び1年前には、BaFinの2016年及び2017年のAnnual Report等に基づいて、ドイツの生命保険会社の状況や業界が抱える課題及びこれらの課題に対するBaFinの考え方等について、それぞれ3回に分けて報告3,4した。
今回は、BaFinの2018年のAnnual Report等に基づいて、ドイツの生命保険業界の監督に関するデジタル化やBrexitといったトピックやソルベンシーIIがスタートしての3年間を踏まえての、ソルベンシーIIを巡るドイツの現状等について、複数回に分けて報告する。
まずは、今回は、2018年のAnnual Reportの「スポットライト(Spotlights)」の章に記載されている項目の中から、主として生命保険の監督に関するトピックについて報告する。
1 ドイツにおける低金利環境下でのBaFinの対応等については、基礎研レポート「金利低下に保険監督当局はどう対応してきたのか -ドイツ BaFin の例-」(2015.6.15)を参照していただきたい。
2 保険年金フォーカス「ドイツの生命保険会社の状況(1)-BaFinの2015年Annual Reportより(低金利環境下における状況、内部モデルの適用等)-」(2016.9.20)、「ドイツの生命保険会社の状況(2)-BaFinの公表資料より(ソルベンシーII比率の状況)-」(2016.9.26)、「ドイツの生命保険会社の状況(3)-IMFによるFSAPの報告書「保険部門の監督」-」(2016.10.3)、「ドイツの生命保険会社の状況(4)-IMFによるFSAPの報告書「ストレステスト」-」(2016.10.4)
3 保険年金フォーカス「ドイツの生命保険会社の状況(1)-BaFinの2016年Annual Reportより(ソルベンシーIIスタート後の1年間)-」(2017.10.10)、「ドイツの生命保険会社の状況(2)-BaFinの2016年Annual Report等より(ソルベンシーII制度下での報告(含むORSA))-」(2017.10.17)、「ドイツの生命保険会社の状況(3)-BaFinの2016年Annual Report等より(低金利環境下での生命保険会社の状況)-」(2017.10.24)
4 保険年金フォーカス「ドイツの生命保険会社の状況(1)-BaFinの2017年Annual Reportより(ドイツの生命保険監督のトピック(その1)-」(2018.9.10)、「ドイツの生命保険会社の状況(2)-BaFinの2017年Annual Report等より(ドイツの生命保険監督のトピック(その2)-」(2018.9.18)、「ドイツの生命保険会社の状況(3)-BaFinの2017年Annual Report等より(資本規制を巡る状況への対応及び2017年の生命保険会社の状況)-」(2018.9.25)
2―2018年のスポットライト
Brexitを巡る不確実性は、英国だけでなく、EU各国にも大きな影響を与えることになる。
EU各国の監督当局と政策立案者は、不確実性を考慮して、ノーディールのシナリオに対する準備もしなければならなかった。BaFinも消費者を保護することを目的として、Brexitが金融市場の機能と安定性に及ぼす可能性のある悪影響を最小限に抑えるために必要な立法を行っている。
「EUパスポートの権利」に関しては、金融市場の機能又は安定性に対する不利益を防ぐために必要な場合、設立の自由又はサービスを提供する自由の下でこれまでドイツで事業を行っていた英国に拠点を置く会社が、移行期間中、ドイツでEUパスポートの権利を引き続き使用できるようにした。
これに基づいて、会社は2020年末までに、既存の契約を整然と終わらせるか、法的に実行可能な将来の新しい構造に移転する、ことができることになる。
なお、Brexitに備えて、BaFinは数百の一対一の議論を行い、規制の観点から何を期待するか、BaFinが監督者として設定した要件について、ドイツへの移転を検討している金融サービス事業者に説明するいくつかのワークショップを開催した、としている。また、BaFinは、このプロセスにおいて、適用される基準を希釈せず、無視できないことを繰り返し強調し、免許はその名前にふさわしいものでなければならず、レターボックス会社の受け入れの拒否を明らかにした、と述べている。
1.英国のEU離脱(Brexit)
英国(UK)が欧州連合(EU)から離脱する可能性のある日付と条件に関する明確性の欠如は、規制当局及び監督当局にとっても大きな課題を提示した。不確実性を考慮して、監督当局と政策立案者は、ノーディールのシナリオの準備もしなければならなかった。この法律は、Brexitが金融市場の機能と安定性に及ぼす可能性のある悪影響を最小限に抑えることを目的としており、このようにして消費者を保護することも目的としている。BaFinは最初からこの法律の起草に関与していた。
EUパスポートの権利
この法律により、BaFinは、金融市場の機能又は安定性に対する不利益を防ぐために必要な場合、設立の自由又はサービスを提供する自由の下でこれまでドイツで事業を行っていた英国に拠点を置く会社が、移行期間中、ドイツでEUパスポートの権利を引き続き使用できるようにすることができる。
これに基づいて、BaFinは、適切な場合、会社は2020年末までに、既存の契約を整然と終わらせるか、法的に実行可能な将来の新しい構造に移転することができることを認める。言うまでもなく、BaFinは、影響を受ける全ての企業がこのプロセスを支援するために全てのリソースを自由に展開することを期待している。
何百もの議論
Brexitに備えて、BaFinは数百の一対一の議論を行い、規制の観点からここに何を期待するか、BaFinが監督者として設定した要件についてドイツへの移転を検討している金融サービス事業者に説明するいくつかのワークショップを開催した。BaFinは、このプロセスにおいて、適用される基準を希釈せず、無視できないことを繰り返し強調した。免許はその名前にふさわしいものでなければならず、BaFinはレターボックス会社の受け入れを拒否することを明らかにした。
欧州レベルでの改革のうち、欧州監督当局(European Supervisory Authorities:ESAs)により計画された改革についてのスタンスが明確に示されている。
ESAsは、EUの既存の監督アーキテクチャの広範囲にわたる集中化、したがって根本的な変更、とりわけESAsの内部ガバナンスと資金調達の変更や直接監督権限のESAsへの移転等に焦点を当てた改革を計画していた。
ただし、BaFinはこれらの計画に批判的で、例えば「ESAsを国の管轄当局の監督者に変更することに対して警告し、そのような動きには事実上の正当性はない、と指摘した」と述べている。
2.欧州レベルでの改革
2.1欧州監督当局(ESAs)
欧州監督当局(ESAs)の計画された改革は、2018年にBaFinが詳細に注意を払ったトピックのリストの上位に位置していた。2017年9月、欧州委員会は、EUの既存の監督アーキテクチャの広範囲にわたる集中化、したがって根本的な変更を想定した、ESA規制の修正案を提出した。この修正は、とりわけ、ESAの内部ガバナンスと資金調達の変更に焦点を当てた。別の目的は、これまで国家の責任であった直接監督権限のESAへの移転だった。その意図は、ESAが国家監督戦略と監督プロセスに介入できるようにすることだった。
計画に批判的なBaFin
BaFinは、欧州委員会の計画を最初から批判的に見た。例えば、BaFinのFelix Hufeld長官は、2018年5月3日に開催されたBaFinの年次記者会見で、「本質的に機能している何かをなぜ改定するのか」という質問を投げかけた。ESAsは、ほんのわずかな新しい権力を必要とした、と彼は説明した。それらを強化したい人々は、「とりわけ、彼らが既に持っている広範な力をより有効に活用できるようにすべきだ。」と続けた。
ESAの一部である欧州金融監督制度は、2010年に、特に国家及び欧州の監督当局のネットワークとして設立された。Hufeld氏は、ESAsを国の管轄当局の監督者に変更することに対して警告し、そのような動きには事実上の正当性はない、と指摘した。ESAsのメンバー主導の性格が成功することが証明されてきた、と彼は主張した。
欧州保険監督の大事業であるソルベンシーIIについては、計画通りにレビューが行われ、現在も継続されており、BaFinは、「2016年初頭に発効してから3年後、ソルベンシーIIによる進歩は、その限定的な影響を上回ると考えている」と述べている。
ソルベンシーIIに対しては、「報告義務を果たすには多大な労力が必要であるとか、小規模の保険会社は不利な立場に置かれている」との批判もあるが、保険年金基金監督CED(Chief Executive Director)のFrank Grund博士は「ソルベンシー財務状況報告書(SFCR)、定期的監督報告(RSR)及びリスクとソルベンシーの自己評価(ORSA)から発生する報告義務の全体は、保険会社に、活動の重要な要素である顧客、ガバナンスシステム及びリスクプロファイルを詳しく調べることを強制している」というポジティブな評価を与えている。
また、「規則が比例的でないという非難はあまりにも一般的で、ソルベンシーIIによって会社が有する課題を分析するには、差別化されたアプローチが必要だった」と述べている。
Grund氏は、ソルベンシーIIによって、「保険会社のリスク管理システムが強化され、そのようなシステムの要件が欧州全体で標準化された」としている。ただし、全てが完璧ではないことも認めており、「例えば、一部の報告要件では、規模を簡素化及び縮小することでメリットが得られる」と述べた。
Grund氏はまた、マイナス金利へ対応として、「金利リスクを再評価すべきである」とのEIOPAの勧告を支持すると述べた。さらに、「立法者が、ソルベンシーIIレビューを、持続可能性プロジェクトを促進するためのインセンティブとして長期契約の資本救済を導入する機会として使用する場合、適切なリスク管理が究極のベンチマークであり続けることを、監督の観点から確保する必要がある」と警告した。
(2019年09月09日「保険・年金フォーカス」)
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