2019年09月06日

英国の合意なき離脱:対策と影響-「終わりの始まり」ですらない

経済研究部 研究理事   伊藤 さゆり

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■要旨

英国議会で離脱延期法案の成立の見通しとなったが、「合意なき離脱」のリスクは消滅した訳ではない。
 
「合意なき離脱」の場合、激変緩和のための「移行期間」がなく、離脱日をもってEU法の英国への適用が停止、EU法上の地位は「加盟国」から「第3国」となる。その影響は広範な分野に及ぶ。
英国とEUは「合意なき離脱」に、それぞれが一方的に行う対策を準備し、個人や企業への対応を促している。英国の対策は、混乱回避のため継続性を重視しているが、持続可能ではない。EUの対策は、単一市場の一体性を確保し、英国の「合意あり離脱」とEU圏内へのビジネス移管を促す狙いもあり、期間も分野も限定している。
 
「合意なき離脱」の混乱は経済への下押し圧力となる。英国経済への離脱直後の影響は、離脱期限の延期で対策のための時間的猶予が設けられたことで、当初想定されたよりは穏当と見られるようになっている。それでも、ある程度の混乱は避けられない。影響は数年にわたり続くとの見方が多くの専門家に共通する。
EU加盟国ではアイルランドが最も影響を受けやすく、開放度の高い中小国が続く。自動車産業への影響が大きいため、ドイツも影響を受けやすい。
「合意なき離脱」は、スコットランドの独立、アイルランド統一の機運を高め、連合王国の分裂の危機を引き起こすおそれもある。
また、「合意なき離脱」で生じた問題は、EUと協議して解決せざるを得ないが、「合意なき離脱」が英国のEUとの交渉上の立場を有利にすることはない。
「合意なき離脱」後は、米国からの通商交渉の圧力は強まる。米国とのFTAは、「グローバル・ブリテン」戦略の象徴的な成果となり得るが、米国のペースで交渉が進むことへの警戒も強い。
 
「合意なき離脱」のリスクを踏まえれば、議会が「合意なき離脱阻止」に動くのは当然だ。離脱のコストへの警鐘を「恐怖プロジェクト」と揶揄してきたジョンソン首相は、「合意なき離脱阻止」を「離脱の決定を覆そうとする動き」と位置づけ、自らの支持につなげようとしている。その戦略は成功を収めるかもしれない。
離脱期限を過ぎればEU離脱のプロセスが終わる訳ではない。「合意なき離脱」は「ブレグジットの終わり」ではなく、「終わりの始まり」ですらない。

■目次

1――はじめに
2――「合意なき離脱」とは何か
  1|「合意」とは何か
  2|「合意なき離脱」とは何か
3――「合意なき離脱」への英国とEUの対策
  1|英国の「合意なき離脱」対策
  2|EUの「合意なき離脱」対策
4――「合意なき離脱」の影響
  1|経済への下押し圧力
  2|連合王国の危機
  3|不利な立場でのEUとの協議
  4|米国からの通商交渉圧力
5――おわりに
<参考文献>
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経済研究部   研究理事

伊藤 さゆり (いとう さゆり)

研究・専門分野
欧州経済

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