2018年12月27日

ノー・ブレグジット(離脱撤回)という選択肢-経済合理性はあるが、分断は解消しないおそれ-

経済研究部 常務理事 伊藤 さゆり

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■要旨

英国のEU離脱まで残すところ90日余りとなったが、どのような経路で離脱するのかも、EUとどのような関係を築くのかも決まらないまま2018年は終わろうとしている。

メイ首相の協定案は、期限通りに秩序立った離脱を確実に実現する唯一の選択肢だが、離脱派と残留派の主張の折衷案であり、EUに対する妥協案でもあるために支持が低い。根本の原因は、英国議会が分裂し、折衷案に歩み寄ろうという機運がないからだ。強硬離脱派はアイルランドの国境管理のバックストップ(安全策)恒久化を懸念し、残留派や穏健離脱派は将来関係の曖昧さに不安を抱く。

メイ首相の協定案に基づく離脱の可否は保守党の強硬離脱派とメイ政権に閣外協力している北アイルランドの地域政党・DUPの翻意に掛かっている。

仮に、1月14日の週に議会がメイ首相の協定案を否定した場合は、ノー・ディール(合意なき離脱)、ノルウェー・プラス(単一市場残留、関税同盟残留)、ノー・ブレグジット(離脱撤回)といった選択肢が浮上する。

ノー・ディールは偶発的に起こり得る。特別立法などで混乱をある程度コントロールすることが可能だとしても、人々の暮らしや企業の活動の先行きの不透明感を長期化するおそれがあり、好ましい選択肢ではない。

ノルウェー・プラスの場合、EU離脱による激変を回避でき、EUにとっても受け入れる余地がある。しかし、主権の奪還というEU離脱の目的の殆どが失われてしまう問題がある。

ノー・ブレグジットは、議会の分断が深刻なこと、欧州司法裁判所(ECJ)が、英国が一方的に離脱通知を取り消すことができるとの判断を示したことで可能性が浮上してきた。

経済合理性では最善の選択肢であり、世界経済とEUの変化も後押しをする。しかし、改めて民意を問うことについて、多くの有権者が納得し、結果を受け入れる土壌がなければ、16年の国民投票が浮き彫りにした国内の分断を深めるおそれもある。

2019年の英国は、ノー・ディールというさらに不安定な環境に突き進むのか、メイ首相の協定に歩み寄るのか、それとも若い世代の声を尊重し、ノー・ブレグジットに向かうのか。

有力なシナリオがないことが、この問題の悩ましさだ。

■目次

1――はじめに−未だ不透明な離脱の道筋、将来の関係-
2――メイ首相の協定案−期限通り秩序立った離脱を実現する唯一の選択肢が
 なぜ支持されないか−
  1|背景としての議会の分裂
  2|アイルランドのバックストップへの懸念
  3|将来の関係の曖昧さへの不安
3――英国議会が協定案を否決した場合の選択肢
  1|ノー・ディール(合意なき離脱)
  2|ノルウェー・プラス(単一市場、関税同盟残留)
  3|ノー・ブレグジット(離脱撤回)
4――おわりに-世論調査が示す深い分断
<参考文献>
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伊藤 さゆり (いとう さゆり)

研究・専門分野
欧州の政策、国際経済・金融

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