2019年09月06日

公的年金だけで期待できる生活水準を考えるーパートナーってありがたい

基礎研REPORT(冊子版)9月号

金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任   高岡 和佳子

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【公的年金だけで期待できる生活水準】

公的年金だけで生活できるか否かを知るよりも、公的年金だけで期待できる生活水準を把握する方が重要ではないだろうか。そこで、平成28年国民生活基礎調査の概要と、平成26年財政検証を基に、公的年金だけで期待できる生活水準を客観的に俯瞰したい。
 
貧困には、必要最低限の生活水準が満たされていない状態の「絶対的貧困」、これに対して、ある地域社会の大多数よりも貧しい状態の「相対的貧困」という見方がある。平成28年国民生活基礎調査の概要によると、相対的貧困状態にある人の割合(以下、相対的貧困率)は15.7%に及ぶ。世帯の可処分所得と世帯人員数を用いて算出する生活水準を表す金額(以下、等価可処分所得)で、中央値の半分の水準を下回ると相対的貧困状態と判断される。なお、等価可処分所得の中央値は年額244万円なので、年額122万円(以下、貧困線)を下回ると相対的貧困状態となる。
 
これに対し、平成26年財政検証におけるモデル世帯の等価可処分所得を計算すると年額185万円で貧困線を大きく上回るが、日本の中間層の等価可処分所得、年額244万円をはるかに下回る。現役世代とは異なり貯蓄に回す必要性が低下するとはいえ、年金だけで日本の中間層と同程度の生活水準を維持することは難しい。退職後も日本の中間層と同程度の生活水準を維持したければ、やはり老後に2~3千万円の資産を各世帯で用意する必要がある。しかしながら、これを理由に、貧困線を大きく上回る生活水準を維持できるモデル世帯が「公的年金だけでは生活できない」と公的年金制度に不平を言ったら、相対的貧困状態にある15.7%の人たちはどう思うだろう。

【恵まれているのはモデル世帯だけ?】

「モデル世帯は恵まれており、モデル世帯と同程度の年金を受給できる世帯は少ない」という意見がある。確かに夫の厚生年金加入期間における平均収入が、厚生年金(男子)の平均収入と同額であるという設定は恵まれている。平成29年度厚生年金保険・国民年金事業年報によると、平成29年度末時点の標準報酬月額(男子)の平均は約35万円であるものの、標準報酬月額が34万円以下の人がおよそ56%を占める。これは、一部の高所得者によって平均が引き上げられているからである[図表]
しかし、仮に夫の厚生年金加入期間における平均収入が9.8万円と低くても、加入期間が40年あれば、等価可処分所得は年額130万円で貧困線を上回る*。

【中長期的にはどうだろう?】

2014年におけるモデル世帯の公的年金受給額の所得代替率は62.7%だが、2050年には50%程度になる見通しである。2050年における貧困線は分からないので、物価水準や世帯構成の変化など貧困線に影響する要素は変わらず、公的年金のみが一律80%(50%÷62.7%)に減額された場合を考える。一律80%に減額されても、モデル世帯の等価可処分所得は年額148万円で、やはり現時点での貧困線を上回る。加えて、老齢厚生年金を受給可能な世帯の大多数(87.5%)の世帯は等価可処分所得が貧困線を上回る計算だ。
 

【夫婦世帯もいずれは単身世帯に】

夫婦が同時に死亡することは稀で、多くの場合、最後はいずれか一方の単身世帯になる。夫婦の一方がなくなった後は、公的年金だけで貧困線を上回る等価可処分所得を期待できる人の割合が低下する。将来、公的年金の所得代替率が50%程度になった例では、妻に先立たれた男性のうち、貧困線を上回る等価可処分所得を期待できる割合は87.5%から75%に低下する。夫に先立たれた妻(専業主婦)に至っては、50%に低下する計算である。これは、世帯人員低下により生活コストが割高になるので、公的年金受給額が減少するほどには生活にかかる費用が減少しないからだ。夫婦である必要はなく友達でもよいのだが、共に生き助け合えるパートナーの存在は、少なくとも経済的にはとても大切ということになる。
 
* 老齢厚生年金は標準報酬月額だけでなく標準賞与額の影響も受けるが、ここでは標準賞与額は標準報酬月額と概ね比例関係にあることを前提に計算している。
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金融研究部   主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任

高岡 和佳子 (たかおか わかこ)

研究・専門分野
リスク管理・ALM、価格評価、企業分析

(2019年09月06日「基礎研マンスリー」)

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